はじめに
こんにちは、ふくちと申します。
先日、AWSからAI BPR (AI-driven Business Process Re-Engineering) という手法についてのブログが公開され、Twitter上では非常に良いものだとして拡散されていました。私もブログを拝読し、AIエージェント時代には必須の考え・取り組みだと感じています。
このAI BPRの体験会をAWS Japanの久保さん(@icoxfog417)に開催いただけることとなったので、その学びを共有します。
本体験会はJAWS-UG(Japan AWS - User Group)の運営メンバー向けに開催したものです。今後、各支部の勉強会として開催される可能性がありますのでその際はぜひご参加ください!
また、本記事では一部その際に共有いただいた資料を転用させていただいております。
AI BPRとは
AI BPRは、ビジネスモデル/業務プロセスをAIエージェント前提に組み替えるためのプログラムです。

これは既存の業務の中にただAIを組み込んでいく活動、というのにとどまりません。
AIエージェントの導入に合わせて、抜本的に業務を変革・改革していくという活動のためのプログラムです。
なぜわざわざAIエージェント前提に業務を組み替えていく必要があるのか。この背景にはいくつかの事情があるのですが、大きく「企業目線」「技術目線」「エンジニア目線」の3つがあります。
1.企業目線
御存知の通り、日本の精算年齢人口は減少しています。2025年10月時点で正社員の不足企業は51.6%、IT業界に絞れば67.7%にも上るとか。
こんな状況だからこそ、AIを使いこなすことができる人材の育成は重要です。AIは人間よりも遥かに高い生産性を叩き出してくれますから、使いこなせる人がいれば組織の人材不足を多少なりと改善できそうです。
しかしそんな人材の育成は重要だが時間がかかります。また転職が当たり前な昨今において、人材育成だけにフルベットするのはリスキーと言えます。
そこで、業務プロセスレベルで変えていく必要がある、ということです。
AIエージェントであれば退職のリスクなどは無いわけですし、場合によっては人間よりも高速かつ高品質です。
効率化と差別化優位を両立するためにも、AIエージェントの活用を促進させていく必要があります。
2.技術目線
それを推し進めるためには、AIエージェントの力量が十分であることも欠かせません。かつてのような、一問一答すらろくにままならないレベルだったら人間の代替は不可能なわけですから。
しかし、今やAIエージェントはやろうと思えばなんだってできるようになってきました。
プログラムを書くだけにとどまらず、ソフトウェア開発サイクル全体を担うようになったり、資料を作成したり、映像を作成したり、カスタマーサポートをこなしたり、人と会話できるようになったり。
これだけの能力を持っているのであれば、AIエージェントは仕事を任せられる知的労働資源になってきています。
現に、今となってはAIエージェントに仕事を任せている方もかなり増えています。
技術の進歩により、AIエージェントは目を見張るほどの性能を得ました。
それに伴い、AIエージェントをただ使うのではなく、仕事のパートナーとして・会社の同僚としてともに事業を推進する。そんな世の中が近づいてきています。
また、このAIエージェントを作る仕組みも非常に整ってきています。多数のフレームワークやAPIが用意されており、組織上でAIエージェントを動かしていくための基盤が整いつつあります。
3.エンジニア目線
最後にエンジニア目線ですが、AIの台頭によって自身のキャリアをどうしようかと悩まれている方も多いのではないでしょうか。私も例に漏れず悩んでいる側の人間です。
そこでよく言われるのが、「ビジネス面と技術面を両方理解できるエンジニアが求められている」といった言説です。これは恐らく間違っていないでしょうし、どんどんエンジニアはビジネス側にも進出していくべきなのでしょう。
しかし具体的にどうやってそんなことができるようになるのか。ただ普段の仕事をしているだけでは限界があるし、かといって起業してビジネスを作るのは更にハードルが高そう。個人開発ならまだいけるか…?というくらいだと思います。
そこでこのAI BPRです。AI BPRをやろうとすると、否が応でも組織の業務プロセスやビジネスのあり方と向き合わなければいけません。その際には色んなビジネス目線での勉強も必要になることでしょう。
これを実施することで、これから求められるスキルセットや経験を少なからず積むことができるようになるでしょう。
また少し別角度から考えると、AI/MLの領域をビジネスの現場に持ち込むためには、技術だけでは難しいです。
今で言うとAIエージェントをどれだけ簡単に構築できるようになったとしても、それを組織に組み込んでいくのは至難の業です。作っても認知されない・使われないというのがザラだと思います。
AI BPRは、そういった悲しきエージェントビルダー・AIモデル作成者たちの味方となってくれそうでもあります。AIエージェントを業務の中核に据えるなら、ここまで培ってきたエージェント構築スキルやMLスキルを存分に活かすことができます。
なので、私はAI BPRに賭けたい。これをやっていかないと生き残れないのではないかと考えているため。会社都合で難しいならできる会社に移ってもいいと思えるレベルで。
ここまで書いていて思いましたが、少しFDEに近いものと言えるかもしれません。
ただ少し違うのは、FDEというのはエンジニアの新しい形、AI BPRは新たな取組です。なので位置づけとしてはFDEがAI BPRを用いてお客様の業務改革をお手伝いする、みたいな形になりそうです。
AI BPRの特徴
AI BPRのBPR部分は、何も新しい単語ではありません。ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)とは、パフォーマンスや効率の改善を実現するために、ビジネスプロセスを根本的に再設計することです。
しかし、AIのPoC倒れよろしく、BPRも失敗の歴史を辿ってきたようです。その課題は大きく4つ。
- 問題から始めてしまう
→問題のあるプロセスを挙げ反射的に修正・改善を急ぐアプローチ(欠損反射)は、70%の組織変革が失敗する主要要因とされている
→言われた側は良い気がしないし、主体的に取り組もうという気持ちにならない - 技術的に可能か否かのみ議論している
→AIを使う際の懸念として45%の担当者が「精度を上げる方法」と言っている一方で、23%が「職の代替への恐怖」を挙げている
→効率化で生まれた余剰をどこに充てるかという議論なくして、心理的安全性は維持できない - 人間への責任委譲
→「この業務は〇〇さんの担当」といった形にしておくことで、余計な飛び火を回避しようとする心理が働く
→AIエージェントへの業務委譲には責任委譲も伴うが、業務停止時の責任がAIエージェントを管轄するITにもこれまで以上に波及するため、それを避けたいと考える - コミュニケーションのオーバーヘッド
→DX部門等が業務担当者にヒアリングしてまとめる、という手順を経ると作成・確認・修正それぞれの時間調整にオーバーヘッドが生じ、現状確認だけで2か月、みたいなことになりかねない
→タイムリーな変革を厳しくしてしまい、推進者の熱量も下がる
AI BPRでは、これらを解消するアプローチを取っています。
- 強み起点
→今の業務の問題点ではなく、強み・価値・リスクに着目する
→どのように強みを強化し、顧客価値をより高めるか?またはどのようなリスク(=脆弱なプロセス)を改善するか?を考える - 心理的安全なロールシフト
→業務をPlan(計画)・Do(実務遂行)・See(評価と改善)という3段階の経営サイクルで捉え直し、これまで人間の強みが投じられていた"Do"の部分をAIエージェントへ委譲する
→人間はその分、"Plan"・"See"といった、より上位の判断・振り返りに強みを発揮する側へシフトする
→単なる業務の効率化ではなく、「エージェントに仕事を奪われて何もすることがない」という状況を作らないことがポイント - 即時的フィードバック
→AIとのインタラクティブな会話で成果物をその場で即時作成
→まずはその場でPoCを作成し動くものベースで議論する
総じて現状のコンサルティングとは少し異なるアプローチと言えるでしょうか。
もう少し具体的に
当日の研修では、例としてラーメン屋の例などがありました。
- 効率化とビジネスインパクト
- 顧客目線、ラーメンを食べに行く際に何人で作っていようが別に気にしない
- 顧客はそれ以外のところでお店を選ぶ
- つまり、ただただAIを使って効率化しました!だけでは足りない
- 競うな、持ち味をイカせッッ
- 強みが食材選びなら、調達先の選定にどうやってAIエージェントを使うのか考える
- 強みがマーケティングなら、チャネルの選定・運用やクリエイティブコンテンツの生成にAIエージェントを使えないか考える
ここで効率化を重視してしまうと、最終的な提供価値から見たときのプロセスの重要性を見落とすケースがあります。過去のBPRはこのケースが多かったのではないでしょうか。例えば、
- 店内オペレーションが悪いので、それを改善して人件費削減!(本当は接客の良さがウリになっているのに)
- 厨房で一番時間がかかっているのはスープの作成だから効率化して店の回転率を上げる!(本当は長く煮込んだスープの美味しさがウリになっているのに)
みたいな方に行くケースがあるのかなと。こうなってしまうと本末転倒なので、効率化にばかり目をやるのではなく、強みをAIエージェントの力でスケールさせていくための目線が重要とのことでした。
(余談ですが、この話の最中に「山岡家は裏でAWSが使われていることをしれば美味しくなる」というコメントがあって、一人でツボってました。
ただそれは一般ではなく逸般の皆様側なご意見な気がするのでここでは考えないということで…)
強みが見えていない場合は?
とはいえ自分たちの強みが何なのか、気づきにくい(あるいは認識しているけど間違っている)パターンもあることでしょう。
その場合はリスクある作業などを洗い出すというのも手です。リスクとは強みであり弱みでもあるプロセスを指します。例えば、
- 人間の手動作業
- 属人化著しい作業
- 頻繁に変更対応などが必要な業務
- 金額的な負担が嵩んでいる業務
これはリスク=問題から始めているのでは?と思われるかもしれません。私も最初は疑問でした。
AI BPRにおいては、リスクに対して「課題という穴を埋める」というスタンスではなく、「価値の流れを最大化するため脆弱なプロセスにアプローチする」 というスタンスで向き合います。
例えば属人化(現状できる人とそうでない人とで差が大きい=リスクがある)に対しては、全員強くするにはどうするか、という向き合い方をするそうです。
とはいえ難しいので、このあたりは実践して勘所を掴んでいきたいところです。
AI BPRのプロセス・具体的な進め方について
プロセスを解説しておくと、Observe→Shift→Simulate→Forecastという流れで進めていきます。
- Observe
- 業務プロセスを描画し、強み・価値・リスクの3点をマッピングする
- Shift
- 業務プロセスを分割し卓越・強化・委譲のパートを決める
- 特に卓越について、顧客体験のShiftと業務のShiftを決定する
- Simulate
- AIエージェントによる移行の検証を行う
- アウトプットに対しフィードバックとデータを与えることで評価値の改善とその度合を計測する
- Forecast
- 評価値の上昇幅を元に、現実的な計画を立案する
- AI BPR初回以後の具体的なToDoを決める
ただ、ここは他の方のブログで詳しく書かれているので、そちらをぜひ読んでみてください。
実際に試した際のスクリーンショットなども掲載されていてわかりやすいです。
実際に進めるにあたって
いくつかの失敗パターンを回避するために、AI BPR実施者に求められる能力は以下のとおりです。
- 役員・役職者・他部署を巻き込む力
- IT部門だけではない、ビジネス部門の役職者をスポンサーとして巻き込むことが重要(でなければ業務プロセス変革など夢のまた夢)
- そもそも業務プロセスを変える取り組みなので、組織の一部だけでやろうとしても無理がある
- 組織の役割を代表する業務のフローをピックアップし、理解しておくこと
- 参加する側には特に、自分たちの業務をきちんと言語化できる能力が求められる
- 環境セットアップを完遂させるため、社内の各部署と調整する力
- 当日になってKiroやClaude Code、Quickがインストールできません、ではお話にならない
- AI活用への理解が進んでいない組織はその時点で土俵にも上がれないことに危機感を抱くべき
- ビジネスアウトカムを叩き出すための取り組みとすること
- 実施後Kiroをメンバーが使い始めました、程度では成功とは言えない
- AIエージェントをプロセスに組み込んだうえで利益をもたらすところまでドライブする力が必要
どれもこれも、エンジニアとしての枠組みはすでに超えているような気がしてきますね。
しかしこれがこれからのエンジニアに求められる新しい力であると実感しているので、ここに力を注いでいきたい気持ちでいっぱいです。
とはいえ調整業務に追われて開発などから遠ざかるのだけは勘弁なので、そこは難しいところになりそうなのですが…
まとめ
ここまででAI BPRの目指す世界線をまとめてきましたが、ただ単に「強みをAIエージェントに置き換えれば良いんでしょ?」という単純な話ではありません。
むしろ、強みの種類によってAIエージェントに何をさせるかが変わります。

| 強みの種類 | AIエージェントの役割 | 分類 |
|---|---|---|
| 組織(会社・ブランド・仕組み) にとっての強み |
AIエージェントの力で拡張し、 顧客価値・競争優位性に繋げる |
卓越 |
| 働き手(暗黙知・判断力) にとっての強み |
人間の強みをそのまま活かし、 AIはアシストに回る |
column |
| AIエージェントの強み (速さ・24/365稼働) |
差別化されない業務をまるごと請け負う | 委譲 |
つまりAIに渡す強みは組織レベルの強みだけで、個人の強みはむしろ人間側に残し、AIは支援役に徹するという、真逆の扱いが混在しています。
なので、各強みに対して適切にAIエージェントを組み合わせることで、より良い活用方法を見出すことができます。
とはいえ自分もまだ実務レベルで試したことはないので、挑戦する機会を作ってみようと思います!
もしAI BPRを実務レベルで試してみたい方は、自組織のAWSアカウントチームまでお問い合わせください。
