MAがMarketing Automationの略であることも忘れそうなくらい、いまや当たり前の言葉になりました。
名前だけを見ると、マーケティングがかなり自動で回る印象があります。
でも実際の現場では、「自動と呼ぶにはまだ手が多いな」と感じる場面が少なくありません。
メール配信ツールから運用を始めてきた私にとっても、MAは間違いなく便利な存在でした。
たとえば次のようなことができるようになったのは大きな前進です。
- セグメントを分ける
- 顧客リストを更新しながら配信する
- Webアクセスなどの行動をきっかけに届け分ける
ただ、オートメーションと呼ぶには、まだ人の手がかかる。
そう感じる瞬間も同じくらい増えていきました。
結果として、手作業中心のサイクルが続きます。
- セグメントを作り直す
- 配信条件を調整する
- 結果を見る
- また作り直す
配信は楽になった。
ただ、誰に何をいつ届けるかの判断は、まだ人の判断に寄っている。
この差が、次の改善テーマになっている気がします。
本稿ではBrazeを題材に、従来MAが抱えやすいこの壁をどこまで越えられるのかを整理します。
なおBrazeは自らを「カスタマーエンゲージメントプラットフォーム」と位置づけています。
その前提を尊重しながら、比較しやすくするために本稿ではMA 2.0という言葉を使います。
本記事におけるMA 2.0の位置づけ
MA 2.0は業界の正式な分類ではありません。
本記事では、従来MAとの比較のための補助線として扱います。
ここで言うMA 2.0は、ざっくり言うと次の状態です。
- 行動や状態にあわせて体験がシナリオとして流れる
- 送るタイミングやチャネル、内容の選び方にデータが少しずつ入ってくる
本稿でいう「判断の自動化」は、意思決定をAIに任せきることではありません。
タイミングやチャネル、クリエイティブ選びといった運用判断の一部が、データに支えられて決めやすくなる状態を指します。
自動化の目的は、運用者を減らすことそのものではありません。
運用者が本当に決めるべきことに時間を使える状態をつくることだと考えています。
従来MAが手動に寄りやすかった理由
従来のMAが悪いという話ではありません。
構造上、手動が残りやすかっただけです。
よくある理由は次のようなものです。
- 配信がキャンペーン単位になりやすく、施策が点で増えて線としてつながりにくい
- データが分かれており、行動データや基幹データの断絶で抽出や判断が人に寄りやすい
- 成功指標が配信指標に寄りやすく、開封やクリックの改善で止まって体験の改善に届きにくい
この結果、手作業中心のループが回り続けます。
- セグメントを作る
- 配信する
- 結果を見る
- また作り直す
Brazeが広げた配信の自動化と判断の自動化
AIの進化で、いくつものメーカーがAIを新機能として組み込み始めました。
件名や本文の生成、送信タイミングの最適化、予測スコアリングのような機能は各社で一気に増えています。
ただし、これらは配信や制作の効率を上げる方向に寄りやすく、運用全体の形が大きく変わらないケースも少なくありません。
その観点で見るとBrazeは、AIを単発の便利機能として足すというより、ジャーニーとマルチチャネルの運用を現実的に前へ進める土台として使いやすい点が特徴だと感じます。
本稿で便宜上MA 2.0と呼ぶ領域に近づけるうえで、こうした思想はかなり重要です。
Brazeの強みは、従来手動に寄りやすかった領域を体験とデータの両面から組み直しやすい点にあります。
ジャーニー型で考えやすい
Brazeには、複数チャネルをまたぐ体験をノーコードで設計しやすいジャーニー機能があります。
一般的には「Canvas」として知られ、ウェルカム、育成、休眠、復帰といった流れを前提に設計しやすいのが特徴です。
運用の中心が単発配信からジャーニーの設計へ寄るだけで、日々の手作業はかなり整理しやすくなります。
マルチチャネル前提で設計できる
メールだけで完結させず、Push、アプリ内メッセージ、SMSに加えて、国内のBtoCでは欠かせないLINEまでを前提に体験を組み立てられると、次の判断が仕組み化しやすくなります。
- メールが未反応だったらPushでフォローする
- Pushも未反応だったらLINEで再アプローチする
- ログイン中ならアプリ内で補足する
- 緊急性が高い導線はSMSに寄せる
- 継続利用や会員接点の強化はLINEを軸に設計する
こうした判断を、ジャーニー上の条件と分岐に落とし込みやすい点が強みです。
送信タイミングの考え方を実務に載せやすい
Brazeには、ユーザーごとの反応しやすい時間帯を活用する機能があります。
一般的には「Intelligent Timing」として知られています。
これにより、全体一斉の最適化ではなく、ユーザー単位でのタイミング設計に寄せやすくなります。
クリエイティブ制作の負荷を下げやすい
Brazeには生成AIを活用した支援機能が順次拡充されています。
一般的には「BrazeAI」として、コピー案のたたき台づくりや運用の準備を軽くする方向で活用できます。
ここで大事なのは、AIが正解を決めるというより、運用の立ち上がりを助けてくれる役割を担う点です。
連携前提で価値を伸ばせる
Braze単体で完結させるのではなく、CDPやDWH、基幹、アプリ、Webとの連携を前提に体験の精度を上げていく設計が取りやすい。
この姿勢があるからこそ、配信の自動化だけでなく判断の自動化に踏み込みやすい印象があります。
判断の自動化で起きやすい落とし穴
ここは一度立ち止まっておきたいポイントです。
自動化は作業を減らしてくれます。
でも目的までは決めてくれません。
ありがちなつまずきは次のようなものです。
- セグメントが増えるだけで終わる
- ジャーニーがメルマガの道筋図のままになる
- データ設計が弱く、意図しない分岐がそのまま回ってしまう
ツールの問題に見えて、実は設計の問題であることが多いです。
成果を出すための設計の順序
MA 2.0的な運用に寄せるなら、順番が大事です。
体験ゴールを先に決める
まずは、誰がいつ何を理解し、どんな不安が減れば成功かを短く言語化します。
指標は後で構いません。
イベントと属性を必要最小限で設計する
分岐の材料がないと自動化は回りません。
- どの画面で
- どの行動が
- どの状態を意味するか
この粒度で、過不足なく整えるのがコツです。
ユースケースを絞って始める
いきなり全体最適を狙うより、最初は勝ち筋が見えるところから始めます。
- ウェルカムの初期体験
- 休眠兆候の早期検知
- 既存施策の置き換え
このあたりから着手すると、手触りよく前に進みます。
運用ルールを軽く決める
自動化が進むほど、運用の曖昧さがリスクになります。
誰がどこまで何を変えていいかを最小限でも決めておくと、改善が止まりにくくなります。
BrazeはMAかCRMかCDPか
カテゴリで言い切るのは難しいです。
だからこそ、Braze自身の自己定義を尊重するのが自然だと思います。
その上で、実務的に整理するとこうなります。
- MA的に見える領域として、セグメント、キャンペーン、ジャーニー運用がある
- CRM的に見える領域として、既存顧客との関係性を深めるためのマルチチャネル運用がある
- CDP的に見える領域として、プロファイルとイベントを活用できる基盤がある
ただしCDPのように全社のデータ統合の中核を単体で担うというより、連携前提で価値が伸びるタイプです。
この立ち位置により、Brazeは配信ツールというより顧客体験の実装基盤として理解したほうが誤解が少なくなります。
まとめ
本稿のMA 2.0は、従来MAと比較するための補助線として置いた言葉です。
その前提で結論をまとめると次の通りです。
- Brazeは、ジャーニー設計とマルチチャネルを軸に、配信の自動化だけでなく配信に伴う判断をデータで支える方向へ運用を進めやすい
- 送信タイミング最適化や生成AI支援のような機能を、体験設計の中に無理なく組み込みやすい
- ただし成果の差は、ツールの機能差より体験設計とデータ設計の順序で決まる
自動化は魔法ではありません。
でも、設計が整ったときに初めて、運用を軽くしながら体験を太くできる仕組みになります。
補足
Brazeの価値を実務で最大化するには、体験の設計とデータの設計を同じ机で進めることが重要です。
SORAMICHIでも、ユースケース選定からデータ要件整理、ジャーニー設計、実装と運用改善までを一気通貫で支援する形が現場にフィットしやすいと感じています。
もしどこから着手すべきかで迷ったら、最初のユースケース選定とデータ設計の棚卸しから始めるのがおすすめです。
