前回は、Littlewood多項式の根集合を計算して、その重心を調べました。
https://qiita.com/hachieh/items/6acfc3bdc7d769dfff70
根の重心とは?
多項式
$$𝑃(𝑥)=𝑎_𝑛𝑥_𝑛+𝑎_{𝑛−1}𝑥^{𝑛−1}+⋯+𝑎_0$$
の根を $\zeta_1, \cdots, \zeta_n$ とすると、重心は単純に「平均値」で
$$𝑤=\cfrac{1}{𝑛} \sum_{i=1}^𝑛 \zeta_𝑖$$
と定義されます。
ヴィエタの公式を使うと、実は
$$\sum_{𝑖=1}^𝑛 \zeta_𝑖=−\cfrac{𝑎_{𝑛−1}}{𝑎_𝑛}$$
と表せるので、
$$\omega=−\cfrac{𝑎_{𝑛−1}}{n𝑎_𝑛}$$
となります。Littlewood多項式だと係数が $\pm 1$ しかないので、結局
\omega \in \lbrace \ 1/𝑛,−1/𝑛 \rbrace
の2点にしかなりません。前回はこれを「重心がたった2点に潰れてしまう」と紹介しました。
対称性を壊す工夫
この結果は多項式の対称性のせいです。
では、その対称性を壊したらどうなるでしょうか。
前回は、根 $\zeta_1,\dots,\zeta_n$ のうち1つをランダムに除外してから重心を取る操作:
$$
\tilde{\omega}= \cfrac{1}{n} \sum_{{i=1,i\neq j}}^𝑛 𝜁_𝑖 \quad j \in \lbrace 1,…,n\rbrace
$$
を加えました。ここで $j$ はランダムに選ぶので、$\tilde{w}$ 自体が確率的な値になります。この「ちょっとしたノイズ」で、対称性が壊れ、綺麗で複雑なパターンが現れるわけです。
高次の基本対称式に挑戦
今回はもう一歩進めて、ヴィエタの公式に出てくる「高次の基本対称式」を使ってみます。
$$e_1=\sum_{i=1}^{n} \zeta_{1}+ \cdots +\zeta_{n}$$
$$e_2=\sum_{1 \le i_1 < i_2 \le n} \zeta_{1}\zeta_{2}+ \cdots +\zeta_{n-1}\zeta_{n}$$
$$e_m=\sum_{1 \le i_1 < \cdots i_m \le n} \zeta_{i_1} \cdots \zeta_{i_m}$$
これを使用し、$e_m$のうち$m$個の項をランダムに除外した$\tilde{e_m}$を$m$次の重心と定義します。
$1$次の場合と、はまた違った集合が描けるのではないか?と思ったのです。
(前回はスケーリング $/n$ を施し、$\tilde{\omega}$としたのですが、形には影響を与えないので今回は入れませんでした)
結果
結果が以下です。すべて$19$次多項式を対象としています。
$m=1$
原点を中心とした2.5335779773840015×2.5335779773840015
原点を中心とした2.5335779773840015×2.5335779773840015
原点を中心とした4.015264327043343×4.015264327043343
$m=17$
原点を中心とした2.5335779773840015×2.5335779773840015
$m=18$
原点を中心とした2.5335779773840015×2.5335779773840015
いくつか描画したところ、$m$ が $n/2$ に近づくにつれて形がぼやけていくように見えました。
これは、$e_m$ の項数が $_nC_m$ と増えていき、1つ外すだけでは「ノイズ」の効果が薄れてしまうからだと思います。
実際、$m=18$ の場合は、$m=1$ のときとほとんど同じ形になりました。
まとめ
大きな意味がある結果ではなかったかもしれませんが、「どの項を除外するか」を工夫すれば、まだ新しいパターンが見つかるかもしれません。