著者 :松村大和 株式会社日立製作所
共著者:小林洋次郎 株式会社日立製作所
はじめに
こんにちは。日立製作所の松村です。筆者は日立製作所の知財部門に所属しています。この度はOSSと特許、そしてOSSと特許に関係の深いOIN(Open Invention Network)について書かせて頂きます。
OSSと特許
皆さん、「OSSと特許」と聞いてどのように感じるでしょうか?OSSと特許の性質上、相容れない関係、と感じる方も多いんじゃないかな?と思います。
実際、OSSは(OSSライセンス等により一定の制約があるものの)みんなで作り、みんなが使えるのに対し、特許は特定の者に独占的かつ排他的な権利を与えますので、相容れない関係と感じるのも納得です。双方ともに技術の発展を目的としているのですが、そのアプローチの仕方が全く異なっているために、相反するような関係となってしまっています。
実際にOSSに対する特許訴訟は頻繁に起こっており、最近では、Rothschild Patent ImagingがGNOME Foundationに対して起こした特許訴訟が、企業相手ではなくFoundation相手の特許訴訟として話題となりました。
・Rothschild Paten Imagin vs. GNOME Foundation(参考:GNOME gets big open-source patent win)
このように仲が悪く思われがちなOSSと特許ですが、実は、そうでもない一面もあるのです。
OSSの敵にも味方にもなり得る特許
下記グラフはOSSを活用したビジネスで有名なRed HatとGoogle(Alphabet)の特許ポートフォリオサイズ(ポートフォリオサイズ:その年に保有するWorldWideでの特許および権利化継続中の特許出願の合計)を示しています(筆者調べ)。実は、Red Hat、Google共に、かなり多くの特許を保有しており、その数も年々増えていっています。
・Red Hatの特許ポートフォリオサイズ
・Google(Alphabet)の特許ポートフォリオサイズ
では何故これだけ多くの特許を保有しているのでしょうか?それは、特許の脅威(特許訴訟リスク)に対しては、特許で対抗することが有効だからです。例えば、第三者から特許訴訟を起こされる事態となった場合、自分が多くの特許を保有していれば、その保有特許を使ってその第三者に特許訴訟を起こし返すことができるかもしれません(やられたらやり返す。倍返しです。)。また、特許訴訟を起こそうとする第三者もそのような事態を嫌がりますので、多くの特許を保有していることが第三者からの特許訴訟に対するけん制効果にもなるわけです。
更に、Red Hat、Googleの両者は各々、Patent promiseやOpen Patent Non-Assertion Pledgeといった特許に関する声明を出しています。声明の概要は、「OSSコミュニティやOSSの利用者を守る目的で特許を保有し、OSSに対して特許を行使しない」といった類のものです。
従って、特許はOSSを脅かす存在にもなりますが、使い方によってはOSSを守ることにもなり、特許を保有することがOSSの発展への貢献にも繋がるわけです。
実は難しいOSSの特許訴訟リスク対策
ということで、特許の脅威に対しては特許で対抗すること(特許を保有すること)が有効になりますが、もっと直接的な対策として特許クリアランスと呼ばれる対策があります。特許クリアランスでは、特許訴訟リスクを踏まえ、必要に応じて第三者の特許を調査し、第三者の特許と自社製品等との関連性を分析した上で、第三者の特許を自社製品等が侵害していないかを調べます。
この特許クリアランス、特許内容の把握と共に、自社製品等で利用されている技術内容の把握が重要になりますが、OSSが対象の場合はなかなか難しい側面があります。
というのも、自社技術による自社製品等であれば、自社の開発者がその技術内容を詳細に把握することが可能です。一方、自社が開発に携わっていないOSSを利用する場合は、そのOSSの詳細な技術内容の把握が難しく、特許内容と自社商品等で利用されるOSSの技術内容の比較が困難となるためです(OSSの特許クリアランスのやりようも勿論ありますが、それはまた別の機会で)。
OIN(Open Invention Network):OSSの特許訴訟リスクを低減するコミュニティ
ということで、OSSの特許訴訟リスク対策はなかなか難しい面があるのですが、OSSはみんなで作ってみんなで使おう!ということなので、特許の脅威に対してもみんなで守ればいいじゃない!というのがOIN(Open Invention Network)です。
OINはOSSに対する特許訴訟リスクを低減することを目的とするコミュニティです。その一番の特徴は、OINに参加している企業等の間でOINが指定するOSS(”Linux System Difiniton”と呼ばれています)に対する特許訴訟が禁じられている点です。これによりOSSに対する特許訴訟リスクの低減を図っています。
ちなみに筆者が所属する日立製作所も2017年にOINに参加していますが、当時のOIN参加企業等の数が約2200であったのに対し、現在では3300以上となっています。
さらにちなみにですが、先ほど紹介したGNOME gets big open-source patent winには、OINによるGNOMEへのサポートなんかも言及されていますので、ご興味ある方は読んで頂ければ、と思います。
このOIN、参加することで他の参加企業等が保有する特許を気にすることなくOIN指定のOSSを利用できるため、多くの特許を保有することが難しいベンチャーや中小企業にとって、より特許訴訟リスク低減の恩恵が大きいように思います。一方で、多くの特許を保有する大企業は、特許訴訟リスク対策としては勿論ですが、もう一つ大きな参加理由があったりします。それは、自社の特許ポートフォリオによるOSSの発展への貢献です。
先ほど、特許の使い方によってはOSSを守ることにもなる、とお伝えしましたが、特許をたくさん持っている企業がこのOINの理念に賛同し、OINに参加することで、より安心してOSSを利活用することができる環境が醸成されていきます。このような形でOSSの発展に貢献することは、大企業にとってもオープンイノベーションを推進するために大変大切であると筆者は考えています。
まとめ
今回はOSSと特許のちょっと複雑な関係について話をさせて頂きましたが、いかがでしたか?
昨今のOSS利活用やオープンイノベーションの推進に伴い、企業の知財部門もOSS利活用の戦略構築に対し、積極的に関与する必要性が出てきています。別の機会にまた、知財の側面からOSSの話題を書きたいな、と思います。