今回は「科学的根拠に基づく最高の勉強法」という本を読んで得た知見を、ITエンジニアの技術習得に役立てる方法について詳しくご紹介します。
この本では、さまざまな学習方法の効果を科学的に検証した実験結果が紹介されています。それらのエビデンスに基づいた学習法を取り入れることで、プログラミングスキルをより効率的に身につけられるはずです。
アクティブリコールでプログラミング構文を定着
知識を覚える際に効果的なのが、アクティブリコールと呼ばれる手法です。例えば、IT用語の概念を覚えたい場合、次のようにアクティブリコールを実践してみましょう。
- 教科書やウェブサイトからIT用語概念を読む
- 30秒から1分程度経過したら、その知識をすべて一旦頭から追い出す
- IT用語概念を思い出し、手元のメモ帳に書いてみる
- 書いた内容を教科書と照らし合わせ、間違いがあれば修正する
このように能動的に記憶を引き出す作業を繰り返すことで、IT知識は確実に定着していきます。単に書き写すよりもはるかに効果があるとされています。
フロントエンド技術のインターリービング学習
次に、インターリービングと呼ばれる手法についてです。インターリービングとは、似ているが異なる複数の要素を交互に学習する方法です。
具体例を挙げると、ReactのJSXの構文を学習した後は、次にCSSスタイリングの勉強に移ります。さらにその次はコンポーネント設計の学習に切り替えるといった具合です。HTMLとJSXとCSSを完全に理解してからコンポーネント設計に入るのではなく、関連する要素を交互に学んでいくわけです。
こうすることで、フロントエンド開発の様々な要素を効果的に定着させられるとされています。一つひとつ完全に理解を深めてから次に進むよりも、この手法を用いた方が知識が身につきやすいのだそうです。
イメージ変換やストーリー法の限界
プログラミングの分野では、イメージ変換法やストーリー法といった記憶術があまり役に立たない可能性があります。アルゴリズムの概念や設計のポイントなど、抽象的で論理的なものを覚える際には、この手法は合わないようです。
むしろ、アルゴリズムの基礎から丁寧に理論を追っていく方が、より理解を深められると考えられます。例えばあるデータ構造の長所・短所を暗記するよりも、そのデータ構造があらわれる問題の種類とその問題を解決する方法の理論的根拠を理解する方が重要でしょう。
上級エンジニアに学ぶ
勉強意欲やモチベーションを維持するには、代理体験による自己効力感の獲得が有効です。これは、上級エンジニアがコードレビューでフィードバックを行う様子を間近で見学したり、オンラインで活躍するエンジニアのブログを読んだりすることで、「自分にもできそうだ」と実感できるようになるという効果です。
例えば、社内でレビューを受ける経験を通して、自分のコードがどのように評価されるか、上級者はどのようなコーディングを心がけているかを学べます。あるいは、ブログ記事を読むことで、その分野の第一人者がどのような技術的問題にぶつかり、それをどう解決したのかを知ることができます。
こうした代理体験を通じて、「自分には無理かもしれない」と思っていた技術的課題に対しても、「あの人ならできたのだから、自分も頑張ればきっとできる」と前向きな気持ちになれるはずです。
コーディングと睡眠・運動の関係
プログラミングは長時間の集中力が必要とされるため、睡眠を十分に取ることが大切です。コーディングの合間に軽い運動を行うことも認知機能の維持につながります。
実際に、就寝前にプログラミングの学習を行うと、その夜の睡眠が良質であれば記憶の定着度が高まるという研究結果もあります。逆に不眠に悩まされていると、プログラミングに必要な論理的思考力が低下してしまう可能性があります。
そのため、生活リズムを整え、規則正しい睡眠を心がけることが、プログラミングスキルの向上にもつながるのです。就寝前にコーディングに取り組み、その後しっかり休息を取る。そして翌朝には昨日学んだことが思い出せるかどうか、アクティブリコールで確認するといった流れを作るとよいでしょう。
ヒントを与えて考えさせる指導が重要
最後に、初学者への指導の仕方についても言及しておきます。エキスパートが初心者にプログラミングを教える場合、手取り足取り解説したり、ひな形のコードを見せてそのまま真似させたりするのは適切ではありません。
むしろ、ある程度の負荷をかけながら、ヒントを適度に与えつつ自力で考えさせる指導が効果的だと本書は説いています。つまり、答えを教えるよりも、「ここを見直してみよう」といったアドバイスを与え、試行錯誤をさせることが重要なのです。
これは結果的に学習者にアクティブリコールを強いることになり、知識の定着を助けるためです。理解を深めるには一定の作業負荷が必要で、単に真似をさせるだけでは本当の力は身につかないというわけです。
エキスパートが手取り足取り教えてしまうと、学習者は受動的になり、アクティブリコールが発生しません。その結果、一時的には問題を解けたように見えても、知識の定着が不十分になってしまうリスクがあります。
適切なヒントを与えながら学習者に考えさせる指導スタイルを心がけることで、プログラミングの本質的な理解を促進できるはずです。さらに、そうした学習経験を重ねることで、将来的に自力で問題を解決する力も身につくでしょう。
科学的エビデンスに裏付けられた学習法
以上、「科学的根拠に基づく最高の勉強法」の内容から、ITエンジニアの技術習得に役立つ学習法をいくつか紹介しました。アクティブリコール、インターリービング、代理体験の活用、生活リズムの振り返りなど、科学的根拠があるさまざまな方法論があります。
確かにこれらの手法を実践するには多少の作業負荷がかかりますが、その分確実にスキルは身につきます。プログラミングを本当に理解し、実力を着実に高めていくためには、効率的な学習方法を取り入れることが不可欠なのです。
エンジニアの皆さん、ぜひこの書籍を手がかりに、自分なりの最適な学び方を見つけ出してみてください。科学的エビデンスに基づく学習法の実践を通じて、プログラミングスキルを確実に向上させていきましょう。