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Haskell (その3)Advent Calendar 2017

Day 8

Haskell - $の仕組みを覗いてみよう

Last updated at Posted at 2017-12-07

この記事は、Haskell (その3) Advent Calendar 2017の8日目の記事です。

Haskellのコードでよく登場する$がどのような原理で働くのかを解説します。

#カッコの略記で大活躍の$
Haskellでプログラムを組んでいると、カッコをネストする場面によく出くわします。

例えば、1〜10のうち、偶数のもののみの2乗の和(つまり、$2^2+4^2+6^2+8^2+10^2$ )を求めるプログラムを考えてみます。

main = print ( sum ( map (^2) ( filter even [1..10] ) ) )

おびただしい数のカッコですね…!ちょっとごちゃごちゃして読みにくい感じです。

ここで、我らが$が登場します。
Haskell超入門では、「$から行末までを括弧で囲むのと同じ効果があります」とありますので、その通りに書き換えてみます。

main = print $ sum $ map (^2) $ filter even [1..10]

カッコが減って見やすくなりましたね。

このように、読みやすいコードを書くには欠かせない$です。
ところで、一体どのような仕組みで$がカッコを省略するように働くのか、疑問に思ったことはありませんか?

ここでは、その仕組みを解き明かしてみましょう。

##$の定義を見てみよう
実は、他の多くの演算子と同じく$も関数です。従って、どこかに($)の定義があるはずです。

まずは、($)が定義されているモジュールを調べるために、GHCiを使ってみましょう。

$ ghci
Configuring GHCi with the following packages: 
GHCi, version 8.0.2: http://www.haskell.org/ghc/  :? for help
Prelude> :i ($)
($) ::
  forall (r :: GHC.Types.RuntimeRep) a (b :: TYPE r).
  (a -> b) -> a -> b
  	-- Defined in ‘GHC.Base’
infixr 0 $
Prelude>

GHCiによれば、Defined in ‘GHC.Base’だそうですから、GHC.Baseモジュールを覗いてみます。

ghc/Base.hs at master - ghc/ghc

執筆時点では、1282行目からの部分に定義があります。

Base.hs
($)                     :: (a -> b) -> a -> b
f $ x                   =  f x

まず、型を見ると、「(a -> b)型の関数」と「a型の値」を受取って、「b型の値」を返す関数、となっています。
さらに、定義を見ると、f $ x = f xとなっています。

つまり、関数とその引数を受け取っていますが、引数をそのまま受け取った関数に垂れ流しているように見えます。

こんなに単純でいいのでしょうか?具体例でちょっと考えてみましょう。

main = print $ sum [1..10]

先ほどの定義に従えば、このコードの$演算子を適用すると

main = print sum [1..10]

となる、ということになります。やはり、おかしい感じです。
これでは$があっても無くても何も変わらないような気がしてしまいます。

$の挙動を知るには、定義を見るだけでは不十分のようです。

##決め手は優先順位
先ほどのコードの解釈に足りなかった概念、それはズバリ「優先順位」です。
Haskellの演算子には適用の優先順位が存在します。

以下がHaskellの演算子の優先順位を示す表です。
演算子 - ウォークスルーHaskellの表をお借りしました。

優先順位 演算子
(10) その他のすべての関数適用
9 !! .
8 ^ ^^ **
7 * / `div` `mod` `rem` `quot`
6 + -
5 : ++
4 == /= >= `elem` `notElem`
3 &&
2
1 >> >>=
0 $ $! `seq`

ご覧の通り、$演算子は優先順位が最も低く設定されています。
これが、$の挙動を知る鍵です。

##関数適用を手作業で追ってみよう

では、先ほどのコードをもう一度見てみましょう。

main = print $ sum [1..10]

まずは、優先順位に従ってカッコをつけます。
$の適用」の優先順位はあらゆるものより低いので、

main = (print) $ (sum [1..10])

となります。優先順位の働きによって、暗黙のうちにカッコがつけられていたのですね!

あとは、(print)関数に(sum [1..10])が渡されて、計算結果が出力される、という感じです。

##複数の$がある時の挙動

$が複数あるときも同じようにして挙動を把握できるでしょうか。
最初の例を持ってきてみます。

main = print $ sum $ map (^2) $ filter even [1..10]

$の優先順位が一番低いことを利用して、カッコをつけてみます。

main (print) $ (sum) $ (map (^2)) $ (filter even [1..10] )

少し違和感がありますね。$を使わないコードでは

main = print ( sum ( map (^2) ( filter even [1..10] ) ) )

となっていたはずです。カッコが入れ子になってくれていないようです。
一体どういうことでしょうか。

##$の最後の性質:結合性

実は、ここにはもう一つ欠けている概念があります。
それは、演算子の「結合性」です。

これは、複数の演算子が連なったときの、演算子の適用順を決める概念です。

簡単な例で考えてみましょう。

a = 1 + 2 + 3 + 4

このような式があったとき、どういう順番で計算していくでしょうか?

Haskellでは、このような計算の順番を決定していく方法が2つあります。
一つは「左結合」と呼ばれる方法で、左側の演算子から適用していきます。つまり、

a = 1 + 2 + 3 + 4
a =     3 + 3 + 4
a =         6 + 4
a =            10
--つまり、
a = ((1 + 2) + 3) + 4

とするやり方です。
もう一つは「右結合」で、さっきとは逆に右側から計算していきます。

a = 1 + 2 + 3 + 4
a = 1 + 2 + 7
a = 1 + 9
a = 10
--つまり、
a = 1 + (2 + (3 + 4))

ちなみに、$演算子は右結合となっています。

##結合性を使ってもう一度

さて、結合性を使ってもう一度先ほどの式を解釈してみましょう。

main = print $ sum $ map (^2) $ filter even [1..10]

$の優先順位が一番低いことを利用して、カッコをつけてみます。

main (print) $ (sum) $ (map (^2)) $ (filter even [1..10] )

さらに、$は右結合でしたから、右側の$から適用されるようにカッコを付けてみます。

main (print) $ ( (sum) $ ( (map (^2)) $ (filter even [1..10] ) ) )

ちゃんとカッコがネストされましたね!
あとは$を適用すれば、

main (print) ( (sum) ( (map (^2)) (filter even [1..10] ) ) )

となって、ちゃんと$を使わない式と同じになっていることが分かります。

これで、$の仕組みを完全に解き明かすことができました。


※実は、優先順位と結合性も、先ほどのBase.hsで宣言されています。
執筆時点では145行目にあります。

infixr 0  $, $!

infixrは右結合を意味します。(infixlなら左結合です。)
その横の数字は優先度を表しています。

つまり、$はコンパイラが特別に用意してくれた記号というわけではなく、
Haskellの文法に従って定義された演算子だったのです。
その気になれば自前の$を作ることも可能です。(!)

仕組みとしてとても美しいと思いませんか?

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