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NSSOLAdvent Calendar 2021

Day 23

"気の利いた"擬似データを生成したい

Last updated at Posted at 2021-12-22

この記事は

NSSOL advent carendar 12/23担当分です。よろしくお願いします。

昨日は研修を運営してみて思ったことでした。
研修対応すると、その後も割と忙しくて、振り返りの時間がちゃんと取れなかったりします。
まとまった現場知見・感想が読めるのって、ありがたいなと思いました。

さて、今回のテーマは、「疑似データ生成」です。

背景:実データの取得は大変 擬似データが使えるかも

データ分析やシステム開発のために、実データかそれに近いデータが欲しくなることは多々あります。
ただ、顧客情報や営業秘密といった機微な情報が含まれる場合は、データ取得までに高いハードルがあることが多いです。
結果、試してみたいアイディア/製品/分析手法などの適用ができないこともあるかと思います。

スクリーンショット 2021-12-22 20.06.22.png

解決策の1つとして、擬似データの利用、が挙げられそうです。参考
実データを入力して、データの形式や統計量・分析結果など保存してほしい性質を残しつつ、実データとは一定以上異なる安全な擬似データ...を生成することで、

  • 有用性の確保:システム開発・分析のPoCに必要な、実データに近いデータの確保
  • 安全性の確保:実データの提供による情報漏洩事故の回避

ができるかもしれません。1

スクリーンショット 2021-12-22 20.06.29.png

擬似データ生成手法と課題

数多くの擬似データ手法が提案・製品化されています。2

擬似データ生成を行える製品・ソフトウェア (調査中)

  • システムエグゼの テストエース
    • システム開発用のテストデータ生成用のツールです
    • ダミー氏名や、ダミー郵便番号とそれに対応したダミー住所、までやってくれるのは便利そうですね
    • 「数値のランダム変換」などを行うと、統計的な性質は失われそうです。分析用途なら、他の仕組みが適していそうです
  • Mostly AIの Synthetic Data Platform
    • 擬似データ生成のツールです。元データからは一定以上異なり、かつ統計的な性質を上手く保持したデータを生成してくれます
    • データ分析・活用のPoC用のデータ生成、に利用できそうです。
    • 擬似データ生成コンテストPWSCUP2020でも好成績でした。
  • NTTのTasokarena
    • 匿名加工を行うツールです。
    • 最近、擬似データ生成の手法が実装されたみたいです。参考
  • etc..

擬似データ生成手法 (調査中)

GANベースの手法か、確率モデルベースの手法か、で一旦分類してみています。

擬似データ生成の課題

擬似データの品質が気になることがあります。

例えば、「年齢」「職業」という項目を含むデータを擬似生成した時、「1歳、会社役員」というデータは、あまり含んでほしくありません。
(不安に思って調べてみたら、会社役員は10歳からOKらしいです。知りませんでした...)

yakuin.PNG

他にも、ID列に重複があったり、給料がマイナスの値があったりしても困ります。業務ルールや常識を反映したい場面がありそうですが、列ごとに確率分布からサンプリングしたりすると、こういうあり得ないデータが頻繁に生成されてしまいます。

擬似データにも現実味を持たせるために、ある程度の「制約」を反映する方法を探したくなりました。

今回やること:SDVを使って、制約を反映した擬似データを生成する

常識や業務的なルールを反映...しやすそうな仕組みを持つ擬似データ生成の仕組みとして、「SDV」というライブラリを見つけました。

少しだけ触ってみます。

チュートリアルを参考に、実際に動かしてみます。ノートブックをColabで用意してみましたので、もしご興味ありましたら動かしてみてください。

Open In Colab

実験:SDVによる制約付き擬似データ生成

SDVのインストール

pipから導入できます。便利ですね。

! pip install sdv
from sdv.demo import load_tabular_demo
import pandas as pd

デモデータを参照します。

employees = load_tabular_demo()
print(employees.columns)
employees.head()
company department employee_id age age_when_joined years_in_the_company salary annual_bonus prior_years_experience full_time part_time contractor
0 Pear Sales 1 39 36 3 83500.00 21000.00 5 1.0 0.0 0.0
1 Pear Design 5 36 29 7 103581.36 23922.77 4 0.0 0.0 1.0
2 Glasses AI 1 37 34 3 112000.00 19500.00 2 1.0 0.0 0.0
3 Glasses Search Engine 7 35 26 9 82160.76 24167.84 2 0.0 0.0 1.0
4 Cheerper BigData 6 40 38 2 159500.00 14500.00 5 0.0 1.0 0.0

複数社の従業員の給料・雇用形態データです。こちらは当然疑似データです。

データのルールの確認

制約を反映した擬似データを生成してみます。

よく観察してデータの意味を考えると、いくつかルールがありそう。例えば...

  • 一意性の制約
    • $\text{company}$(会社)ごとに一意な$\text{employee_id}$(社員ID)が振られるはずなので、「($\text{company, employee_id}$)は一意」
  • 不等式で表現できる制約
    • $\text{salary}$の値を考えると適当な範囲に収まるので、「$0 \leq \text{salary} \leq 2,000,000$」
    • $\text{age}$(今の年齢)と$\text{age_when_joined}$(入社した時の年齢)の関係を考えると、「$\text{age} \geq \text{age_when_joined}$」
    • $\text{age}$は年齢なので、従業員っぽい年齢(一旦16歳から80歳までとします)なはずなので、「$16\leq\text{age}\leq 80$」
  • 等式で表現できる制約
    • 値の関係を考えると、「$\text{age} - \text{age_when-joined} = \text{years_in_the_company}$」
  • そのほかいろいろ (分類するのが面倒になりました)
    • $\text{full_time}$, $\text{part_time}$, $\text{contractor}$は、どれかが1で他が0になっている(3種類の値が含まれる契約形態列をone-hot-encodingしたもの、という背景があるみたいです)

などがあります。 3

SDVにはさまざまな種類の制約を反映した擬似データを作る...ための仕組みが用意されています。それぞれ実装して疑似データに反映してみます。 4

データ制約の実装・反映

実装例を一部載せておきます。実装の詳細はColabに書くことにします。

一意性制約の反映

sdv.constraints.Uniqueを使います。
一意になる列の組を入力します。今回だと、会社名と従業員idです。

from sdv.constraints import Unique
unique_employee_id_company_constraint = Unique(
    columns = ['company', 'employee_id'],
)

他にも、いろいろ制約を実装してみました。
記事が長くなってしまうので、詳細が気になる方はColabを見てください。
Open In Colab

制約の反映・データ生成

データ生成の手法は、今回はCTGANを使います。SDVに実装されている他のデータ生成手法(TGAN、Copula、etc...)でも、同じように使えます。

試しに、一部制約を反映しない版も準備しておいて、生成されたデータを比較してみます

## 制約の反映
from sdv.tabular import CTGAN

## 実装してみた制約一覧
constraints = [
               unique_employee_id_company_constraint, ## 会社ごとにIDが一意ですよ制約
               age_gt_age_when_joined_constraint, ## ageはage_when_joinedより大きいぞ制約
               reasonable_salary_constraint, ## salaryは適当な範囲(0-2,000,000)だぞ制約
               years_in_the_company_constraint, ## 在籍年数は、年齢-入社年齢だぞ制約
               reasonable_age_constraint, ## 年齢は、適当な範囲(16-80)だぞ制約
               one_hot_constraint, ## 契約形態の3列はone-hot-encodingで作ったよ制約
]

## 一部の制約を外す:在籍年数と、one-hot-encodingの制約を外してみた版
constraints_without_formula = [
               unique_employee_id_company_constraint, ## 会社ごとにIDが一意ですよ制約
               age_gt_age_when_joined_constraint, ## ageはage_when_joinedより大きいぞ制約
               reasonable_salary_constraint, ## salaryは適当な範囲(0-2,000,000)だぞ制約
               # years_in_the_company_constraint, ## 在籍年数は、年齢-入社年齢だぞ制約
               reasonable_age_constraint, ## 年齢は、適当な範囲(16-80)だぞ制約
               # one_hot_constraint, ## 契約形態の3列はone-hot-encodingで作ったよ制約
]


## 学習・データ生成
## 制約なし版
ct = CTGAN()

## 制約を全て反映した版
ct_constraint = CTGAN(constraints=constraints)

## 制約を一部反映していない版
ct_constraint_ = CTGAN(constraints=constraints_without_formula)

## 学習
ct.fit(employees)
ct_constraint.fit(employees)
ct_constraint_.fit(employees)

## データ生成
sampled_ct = ct.sample(100)
sampled_ct_constraint = ct_constraint.sample(100)
sampled_ct_constraint_ = ct_constraint_.sample(100)

さて、データを確認してみましょう。

データの確認

制約なし版

## 内容確認
sampled_ct.head()
company department employee_id age age_when_joined years_in_the_company salary annual_bonus prior_years_experience full_time part_time contractor
0 Glasses Support 80 33 33 1 144000.00 19900.27 2 0.0 0.0 1.0
1 Cheerper BigData 79 45 38 5 144000.00 10640.13 5 0.0 0.0 0.0
2 Pear Sales 1 37 30 9 138608.64 19900.27 1 0.0 1.0 0.0
3 Pear Support 1 40 35 8 58648.49 19900.27 5 1.0 0.0 1.0
4 Cheerper Design 68 33 31 2 86882.62 9930.32 5 0.0 0.0 1.0

2,3行目で、(会社、社員ID)の(Pear, 1)が重複していて、一意になっていません。困ります。

では、ちゃんと制約を反映した版を見てみましょう。

制約を反映した版

## 内容確認
sampled_ct_constraint.head()
company department employee_id age age_when_joined years_in_the_company salary annual_bonus prior_years_experience full_time part_time contractor
0 Pear Support 1 44 30 14 50328.417643 18698.33 2 0.0 1.0 0.0
1 Pear AI 3 39 30 9 27977.662781 12458.97 2 1.0 0.0 0.0
2 Pear Search Engine 43 49 39 10 29318.168727 19900.27 4 1.0 0.0 0.0
3 Glasses Design 21 45 30 15 27384.865234 19900.27 5 0.0 1.0 0.0
4 Cheerper Sales 1 46 30 16 33498.534931 19900.27 4 0.0 1.0 0.0

おお、できていそうです。
IDの制約と、age,age_when_joined,years_in_the_companyの関係と、one-hot-encodingもちゃんと反映されていそう。

では、一部だけ制約を外した版を見てみます。

制約を一部反映していない版

## 内容確認
sampled_ct_constraint_.head()
company department employee_id age age_when_joined years_in_the_company salary annual_bonus prior_years_experience full_time part_time contractor
0 Pear BigData 1 50 34 6 66627.734809 15059.80 4 1.0 0.0 1.0
1 Cheerper Design 1 41 30 5 25734.434223 19900.27 3 1.0 1.0 1.0
2 Cheerper Search Engine 8 38 35 2 71856.151940 19900.27 2 0.0 0.0 0.0
3 Glasses Support 14 40 34 1 48165.690454 19900.27 3 0.0 1.0 1.0
4 Glasses Sales 1 31 30 6 104812.032219 12291.97 3 0.0 1.0 0.0

ふむ...years_in_the_companyがルールにあっていません。

右端3列のone-hot-encodingルールも満たしていませんね。

一旦おしまいです。

感想

制約を実装して反映する...ところまでは、できました。

実務的には、都度実装するのはちょっと大変です。
DBMSでテーブルを定義した際、業務ルールを今回のように制約として実装しておいて、データ生成が必要な時には呼び出すだけ...という運用はあり得るかも。
リレーションを考慮したデータ生成もできたりしますし。

データベース側の外部キー制約やcheck制約を読み取って、SDVでの制約の記述を自動生成できたりすると、楽に擬似データが作れそうです。

次にやること

今後技術的に調査したいこととしては...

  • 実データ vs 制約反映済み擬似データで、
    • 記述統計の比較
    • 目的を絞ったデータ分析・機械学習の結果の比較
    • 安全性の検証
  • 効率的にデータ生成を行えるような制約の書き方
    • 制約が増えてくると、学習・生成に時間を要しそうです
    • reject-sampling:ルールに合わないデータを除外する手法を使いすぎると、サンプリングの回数がネックになる?
  • データ生成の制約と、差分プライバシー等安全性基準の組み合わせ

があります。

差分プライバシー基準での安全性と、業務ルールの反映を両立する...という研究は、既にあるかな?調べてみます。

以上です。

明日は

@kmnky さんの投稿です!楽しみですね!

  1. 今回はfakerのような、ゼロから擬似データを作る、というアプローチは考えません。データを入力とする疑似データ生成を対象にします。

  2. ここで挙げた製品群や手法について、2021年現在当社が販売・導入等のご支援を行えるわけではありません すみません がんばります

  3. 擬似データの用途次第では、無視しても問題ない制約もあると思います。

  4. 前処理や後処理で対応する方が良さそうなもの...もあると思います。ただ、管理の手間の観点で、データのルールを全部擬似データ生成のところに反映しておく、という戦略もありそうです。処理内容が散在していると管理がめんどくさそうなので。

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