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30年前、まだまだ世界はモノクロだったのですが、

NCSA Mosaicは世界に色を灯した

のです[Calore 2010]

NCSA MosaicというブラウザはMozilla Firefoxの遠い御先祖様にあたります。最初のブラウザではありませんが、Unix, Windows, Macintoshと3つのプラットフォームをサポートした最初のモダンブラウザであることが流行した最大の理由でしょう

NSCA Mosaicの登場

1993/01/23にNCSA Mosaic 0.5、1993/04/21にはNCSA Mosaic 1.0がリリースされました。そういうわけで30年前の今ごろ、アメリカでは NCSA Mosaic を使うスタイルのネットサーフィンが流行し始めていたはずです。ちなみに、ネットサーフィンという用語は、すでに1992年には登場していました[Hobbes 2018]。

1993年の前半にはUnix版Mosaic (いわゆる X Mosaic)しか存在しなかったのですが、1993年9月にはWindows版とMacintosh版がリリースされました[Lee 1997]。1993年のあいだにWWWトラフィックが3,416倍になったらしいです[Hobbes 2018]。9月以降、急激に伸びたのではないかと予想するのですが、この時代の月単位のトラフィックデータが見つからないので、1993年を通じて、どのようにブレイクしていったのか?その詳細は、よくわかりません。

NSCA Mosaic関連のタイムライン

www-talk@nxoc01.cern.chというメーリングリストの記事を追跡すると、次のようになります[www-talk 1995]

  • 1993/01/23: NCSA X Mosaic 0.5 released (initial release)
    • SGI, IBM and Sun4 でコンパイル出来るとされていました
    • これら(SGI, IBM and Sun4)用のバイナリも配布されていました
      • はじめからオンラインでバイナリ配布というあたりが、さすが全米スーパーコンピュータセンター群のひとつNCSAですし、オンラインでダウンロードできるユーザも、それなりにいたということなのでしょう
  • 1993/01/31: NCSA X Mosaic 0.6 released
  • 1993/02/11: X Mosaic 0.7 released
  • 1993/02/14: X Mosaic 0.8 released
  • 1993/03/04: NCSA Mosaic for X 0.9 released
  • 1993/03/14: NCSA Mosaic for X 0.10 released
  • 1993/03/17: NCSA Mosaic for X 0.11 (maintenance release)
  • 1993/04/05: NCSA Mosaic for X 0.12 released.
  • 1993/04/12: NCSA Mosaic 0.13 released.
  • 1993/04/21: NCSA Mosaic 1.0 released
    • バイナリも配布されていて、SUN SGI IBM DEC ALPHA用でした
      • DECはUltrixのことです(0.10からバイナリを配布)
      • ALPHA用バイナリ配布は1.0で唐突に登場しましたが、これはOSF/1を意味しています
  • 1993/11/10: NCSA Mosaic for X 2.0 available
  • 1993/12/11: NCSA Mosaic for X 2.1 available
    • 1993年12月 Marc Andreessen はイリノイ大学を卒業したため、Marc Andreessenがメインで関わっていたバージョンは2.1までのはずです。卒業後Andreessenはカルフォルニアへ行き、3ヶ月ほどEIT (Enterprise Integration Technologies, Palo Alto)という会社にいましたが、1994年の4月にはJames H. Clarkと共にMosaic Communications Corporationを起業します。のちのNetscape Communications Corporationです。
  • 1994/04/04: Mosaic Communications Corporation (番外編)
    • 創業日が4/4です (4月で最初の月曜日だから?)

ソフトウエア名を眺めると、そろそろ1.0リリースが見えてきたころからNCSA Mosaic for X (0.13と1.0ではfor Xなし)という名称になっていることが分かります。NCSAはNSF(Natinal Science Foundation)からの資金援助を受けていたので、そのころにはUnix以外への移植を本格的に考え始めたように見えます。ちなみに、この資金の出どころはHigh-Performance Computing and Communications Initiativeで、Al Gore (アメリカ副大統領 1993/01-2001/01)が上院議員の時に通した議院立法に基づく基金です[NRC 1995, Gore 1996]。

当時のWWWサーバ事情

ちなみに、同時期のWWWサーバの話題には次のようなものがあります。

  • 1992/12/01: NCSA http server
    • 実験段階のNCSA HTTPサーバ
      http://hoohoo.ncsa.uiuc.edu/
      を運用中という話題をMarc Andreessenがメーリングリストに投稿しています
  • 1993/01/27: New release of unix server for WWW "httpd" (これはCern本家)
  • 1993/03/10: libwww 2.0-alpha --- www and httpd available. (これもCern本家)
  • 1993/04/22: NCSA httpd version 0.3
    • のちにApacheとなるNCSA httpdの(おそらく)最初のリリース

当時の日本のISP事情

1992/12/03にはIIJが創業しているのですが、30年前の1993/06、まだ日本の商用インターネットは始まっているような始まっていないような段階でした。

郵政省(現在の総務省)が不明瞭な理由で書類を受理しないため、このころIIJは事実上インターネットサービスが出来ていませんでした。アメリカまでの長距離回線を自社で運用できて、はじめてISP(インターネットサービスプロバイダ)と言えるわけですが、それが許可されていなかったという話です

このあたりの詳細は、われらが社長?(現会長兼CEO 鈴木幸一)の回想録を御覧ください[鈴木 2015]

UNIXマガジン1993年6月号

1993年春先のUNIXマガジンを斜め読みして確認してみましたが、当時、特別、話題にはなっていなかったようです。6月号の連載「インターネットの利用と仕組み(2)」の「おわりに」で、吉村さん(当時はIIJ)が次のように書いているだけのようです

WAIS, WWW, Gopherについては...機会を改めて解説したい

あとがき

我々が使っている道具は、どのようにして今の形になったのでしょうか?

「色づかないWorld Wide Webの昨日から」は、星砂の力でタイムジャンプして、X0(e.g. 30,40,50,60)周年記念の出来事を、ふりかえってみるシリーズです。

大半の人にとって「インターネット == WWW」だろうということを踏まえて、(少しインチキをして)タイトルがWorld Wide Webとなっていますが、WWW以外の話題にも脱線していきます。

あと、あまり長いと読んでもらえなさそうなので、ほどほどの長さで切っていってます。

参考文献

参考画像

Copyright (C) 2023 Ken’ichi Fukamachi, CC BY-NC-SA 4.0

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