本記事は以下の記事に刺激されて、エンジニアの自発的なアウトプットを促すための環境づくりに関する考察をしたものです。
Qiitaは自発的なアウトプットを促す環境づくりに命を賭けている
上の記事では「エンジニアが自身のアウトプットに関して、毎日見たくなるような画面」について考察されています。しかし、私は「画面」という手段だけに囚われず、もう少し広く「エンジニアがアウトプットした後に起こる体験」として捉えたほうが良いのではないかと思いました。
そして、結論から言うと、Qiitaに記事を投稿した後に起こる体験(UX)を参考にするのがよいのではないでしょうか。
Qiitaでは、多くのエンジニアが自発的に質の高い記事を投稿し続けることが、サービスの成否を握っています。このため、きっとアウトプットを促進するような体験を起こすことに命を賭けているはずです。
Qiitaに記事を投稿した後に起こる体験を、具体的に列挙してみましょう。
- viewsが記録され、読者からいいねやストックがされる
- プロフィールページの投稿した記事一覧に追加され、ピックアップ記事に設定できる
- QiitaマイルストーンやQiita 人気の投稿で紹介される
- Twitterやはてなブックマークでコメントがもらえる
- 週間トレンド記事一覧に載る
- 週次で実績(いいね数、フォロワー数、ストック数の増加)を知らせるメールが届く
- 社内におけるBest Qiita賞およびランダム賞へのノミネートおよび受賞のチャンスがある
- Qiita運営から記事の紹介の打診や登壇のお誘いが来る?
これらの複数の体験が、エンジニアを次のアウトプットへと駆り立てています。これを参考にすれば、自発的にアウトプットする環境への応用ができるのではないでしょうか。
ここからは、これらの体験に含まれている心理的な要素について考察してみます。
自発的な行動に必要なのは、有能感と自己決定感である
さて、私たちは何のためにQiitaで記事を書いているのでしょうか。記事を書かないと誰かから怒られるからでしょうか?または、誰かから具体的に褒められたり、報酬がもらえるからでしょうか?
それらは完全にゼロというわけではありません。しかし、それよりも自身の好奇心や興味がきっかけになっていると思います。
つまり、外発的動機づけよりも内発的動機づけによって行動していると言えます。そして、内発的動機づけには、有能感と自己決定感が強く影響しているそうです。
Qiitaでの体験は、有能感と自己決定感を刺激するものではないでしょうか。アウトプットの内容や扱いを自由に決定し、その結果としてさまざまなフィードバックがもらえる体験というのは、外発的な動機づけがなくとも強力なモチベーションにつながる可能性があります。
有能感を刺激するような体験とは?
有能感を感じるためには他者からのフィードバックがあるに越したことはないですが、必須ではありません。
ここからは、私の個人的なエピソード(n=1)に基づいた話です。このため、必ずしも全員に当てはまるわけではありません。
私は、過去の自分のアウトプットを眺めて、ニヤニヤするのが好きです。それは、Qiitaの過去の記事一覧だったり、お気に入りのPull Requestだったり、自身で設計したクラスやコード、自身で企画した製品の機能改善だったり。
これを眺めたり、ちょっと手直ししたりしているだけでも、有能感が刺激されたりもします。
自己決定感を刺激するような体験とは?
自己決定感とは「自身が自由に決めることができる」という感覚のことです。誰かにガチガチに決められたものを作っても、あまりおもしろくありません。内容や形式を自己決定できるから、アウトプットしたくなるのです。
言い換えると、裁量が広い課題を自身が発見できれば、そこから自己決定感を見出すことができるのではないでしょうか。
裁量が広い課題とは?
具体例として、私の過去のエピソードを一つ紹介しておきます。
私は10年ほど前に「製品の速度改善」という漠然とした課題への取り組みを提案されました。ただ、速度改善が必要そうな箇所は多数にわたっていたため、単に速度改善をひたすら繰り返すだけでは時間と労力ばかりがかかり、おもしろくなさそうでした。このため、私が熱心に取り組んだものは、速度改善そのものよりも「画面の応答速度やボトルネックをデバッグ情報として可視化するツール」の製作でした。それは効果を上げ、単に一人で速度改善に取り組み続けるよりも多くの成果を上げることができました。
ふりかえってみると、これは裁量が広く、とても自己決定感が刺激された課題でした。やり方の詳細を指示されなかったおかげで、高いモチベーションで取り組むことができました。
共同体感覚をもてる環境をつくりたい
さて、Qiitaには、ほかにも自発的なアウトプットにつながる仕掛けがあります。
それはQiita OrganizationやQiita Advent Calendarです。
アドラー心理学のキーワードとして「共同体感覚」というものがあります。共同体感覚とは、一緒に取り組む仲間の一員であり、自分に居場所があるという感覚のことです。共同体感覚は幸福感につながり、自発的な行動を引き出すことができるそうです。
これらのQiitaの機能やイベントは、共同体感覚を構成する要素である「所属感」や「他者に貢献しようという感覚」を自然に促している仕掛けだと言えるでしょう。
おわりに
エンジニアの自発的なアウトプットのためには「有能感」「自己決定感」「所属感」「他者貢献」といった感覚に響く体験を実現できる環境が必要です。
また、自発的なアウトプットの効果は、自身の力がつくことだと思います。
ITエンジニアが取り組む課題に、全く同じものは二つとしてありません。ほかの人が同じ課題で同じように苦労しないようにするのがエンジニアの仕事ですから、お手本と全く同じ作業をするだけの課題というものは存在しません。このため、誰かから詳細を指示された作業だけをこなしていても、なかなかエンジニアとしての力は育ちません。
そのような世界の中で力をつけていくために大事なことは、自発的に課題を見つけて自由に取り組み、アウトプットし続けることです。
ただ、何よりも大切にしたいのは、自身の気持ちです。自身が「本当にしたいことをしている」と感じられることです。たしかな自分から発した行動で、偽りのない自身を表現できるのは、とても気持ちがいいものだと思います。
その結果、それが周囲や社会への貢献になるような、そんな環境をつくっていきたいですね。