はじめに
社内の会議で、別の部署の人にこう言われたことがあります。
「開発って、最近何やってるの?」
悪気のない、ただの質問でした。でも、僕はけっこうショックを受けました。
その数か月、チームはかなり頑張っていたんです。お客さんから要望の多かった機能を作って、細かい不具合もたくさん直して、残業もそれなりにして。
それなのに、社内からは「何やってるか分からない」と見えていた。頑張りが、チームの外にまったく届いていなかったんですよね。
間違ったアプローチ: いいものを作れば、分かってもらえると思っていた
正直に書くと、僕はずっとこう思っていました。
エンジニアは、いいものを作ることに集中すればいい。いいものを作れば、使った人が分かってくれる。宣伝みたいなことは、エンジニアの仕事じゃない。
なので、新しい機能ができたときも、社内に流すのは「○○機能を追加しました」という一行のお知らせだけ。あとは、使えば分かるはず、と。
一度、営業の人に新しい機能を説明する場を作ってもらったこともあります。張り切って、仕様を細かく説明しました。どういう条件で動くか、どんな設定ができるか、どこが技術的に難しかったか。
説明が終わったあと、営業の人に言われたのが、これでした。
「で、これ、お客さんの何が楽になるんですか?」
答えられませんでした。僕が話していたのは「何を作ったか」で、相手が知りたかったのは「誰の何が変わるか」だったんです。
なぜ伝わらなかったのか
振り返ってみると、理由は2つありました。
1つ目は、作った人は、作ったものの良さを「作った側の言葉」でしか知らないということです。技術的に難しかったところほど、作った側は話したくなる。でも、使う側にとって、そこはどうでもいいことが多い。
2つ目は、人は、自分が関わっていないものをわざわざ人に勧めないということです。一行のお知らせを読んだだけの人が、その機能を誰かに熱心に紹介してくれることは、まずありません。
いいものを作るのは、必要です。でも、それだけでは足りなかった。いいものを作って、それを好きになってくれる人がいて、その人が代わりに語ってくれて、はじめて伝わる。 僕はその後半を、まるごと飛ばしていたんですよね。
ファンを作る、ということ
ここで言う「ファン」は、熱狂的な信者のことではありません。
僕の中の定義は、もっと地味です。
ファン = 自分たちの仕事を、自分の言葉で人に話してくれる人
社内なら、営業の人、サポートの人、別のチームの人。社外なら、お客さん。
チームの仕事を、自分の言葉で誰かに話してくれる人が一人いると、伝わる範囲は一気に広がります。しかも、作った本人が話すより、ずっと信じてもらいやすい。
今やっていること
ステップ1: 「何を作ったか」ではなく「誰の何が変わるか」から話す
社内に機能を説明するときは、話す順番を変えました。
最初に話すのは、仕様ではなく、使う人の困りごとです。「毎月この作業に半日かかっていたのが、10分になります」のように、誰の何が変わるのかを先に言う。仕様は、聞かれたら答えるくらいでちょうどいい。
ステップ2: 完成する前に、見せて意見をもらう
これがいちばん効きました。
開発の途中で、営業やサポートの人に画面を見せて、意見をもらうようにしたんです。「これ、お客さんに見せたらどう言われそうですか?」と。
意見をもらって直した機能は、その人にとって「自分も関わった機能」になります。完成したあと、その人が社内の会議で機能を紹介してくれるようになりました。頼んでいないのに、です。
今では、「この機能の説明は、あの人が一番うまい」と言われるくらいになっています。作った僕より、うまいんですよね。
ステップ3: 小さな約束を守り続ける
ファンは、一回の大きな成果ではなく、小さな約束の積み重ねでできるんだと思います。
「来週までに調べて返します」と言ったら、来週までに返す。「この不具合は次の版で直します」と言ったら、本当に直す。地味ですが、これが続くと、「あのチームに頼めば大丈夫」という信頼になる。信頼している相手のことは、人に話したくなるものです。
ステップ4: まず一人から
いきなり社内全体にファンを作ろうとすると、たぶん疲れます。
まずは一人でいい。チームの仕事を、自分の言葉で話してくれる人を一人作る。その一人が、次の一人を連れてきてくれます。
まとめ
- いいものを作るのは必要。でも、それだけでは伝わらない
- 作った側は「何を作ったか」を話したくなるが、相手が知りたいのは「誰の何が変わるか」
- 人は、自分が関わっていないものをわざわざ人に勧めない
- ファンとは、自分たちの仕事を自分の言葉で人に話してくれる人
- 「誰の何が変わるか」から話す。途中を見せて関わってもらう。小さな約束を守る。まず一人から
「開発って最近何やってるの?」と言われたとき、僕は少しムッとしました。こんなに頑張っているのに、と。
でも今思うと、あれは相手が悪いのではなく、こちらが伝える仕組みを持っていなかっただけでした。
いいものを作ることと、それを好きになってくれる人を作ること。エンジニアの仕事は、たぶんその両方なんだと思います。