会議を止めるのは資料不足ではなく、メッセージの核が見えないこと
会議室で資料が投影される。ページ数は十分にある。グラフもある。背景説明もある。けれど、聞いている側は途中でこう思う。
「結局、何を決めればいいのだろう」
これは珍しい場面ではありません。社内提案、企画レビュー、プロジェクト報告、役員説明。多くのビジネスコミュニケーションでは、話し手は確かに言いたいことを持っています。しかし、それを説明や資料にした瞬間、課題・根拠・結論・求める判断のつながりが弱くなり、メッセージの核がぼやけてしまうことがあります。
聞き手もまた、資料ごとに異なる資料構成、異なるアピール方法の中から、結論や根拠を探しながら理解しています。判断する前に、まず資料の構造を読み解かなければならない。この解釈コストは、会議のたびに案外積み上がります。
今回作ったのは、資料を自動生成するだけのアプリではありません。ユーザーが自分の言葉を見直し、相手に何を届けるのか徹底的に磨き込めるようにする Agent アプリです。磨かれたメッセージは、話し手と聞き手が同じ型で受け渡せる共通の伝達形式へ変換されます。
つまり、このアプリの目的は「きれいなスライドを作ること」ではありません。資料になる前のメッセージを鍛え、聞き手が迷わず受け取れる形にすることです。
社外向けのプレゼンテーション資料向けではありません。人と人の情報伝達や意思決定をサポートする為のコミュニケーションツールに比重を置いたアイデアです。
AIが資料を整える時代でも、言い切るべきメッセージは話し手が磨く
生成AIに「提案資料を作って」と丸投げすれば、それらしいアウトラインやスライド案はすぐに出てきます。これはすでに多くの人が体験していることです。
しかし、スライドの枚数や見た目だけが十分なスライドは使い物になりません。むしろ、見た目は素晴らしいスライドが完成したとしても、自身が次のような問いに明確に答えられないなんてこともよくあります。
- 何を課題としているのか。
- その課題は、どの根拠から言えるのか。
- 結論として、何を言い切るのか。
- 聞き手に、何を判断してほしいのか。
この 4 つのつながりが弱いまま資料だけ作っても、例え見た目が素晴らしくても伝わりません。話し手は説明したつもりでも、聞き手は結論を探し、根拠を探し、判断事項を探します。
ここに、今回のアプリの出発点があります。AIに資料を単に代筆させるのではなく、AIとの対話を通じて、ユーザー自身が自分のメッセージを磨けるようにする。これが最初に決めた設計思想でした。かっこいいスライドを作ることに注力するのではなく、スライドの中身を徹底的に磨いてから構造的なストーリーのスライドを作成できるようにします。
では、その「磨く」とは具体的に何をすることなのでしょうか。
判断を促すために、伝達の型をプロトコルとして固定する
ここで作ろうとしたのは、「よいプレゼンテーション」の唯一解ではありません。
プレゼンテーションには、人によってさまざまな流儀があります。ストーリーで引き込む人もいれば、データで押し切る人もいます。問いから始める人もいれば、結論から始める人もいます。
なので、ここで「強いメッセージとはこういうものです」と断定したいわけではありません。
今回のアプリで扱いたかったのは、もう少し範囲を絞ったものです。特に、人に何かを判断してもらうための伝達です。
判断を促す場面では、少なくとも次の4つが見えている必要があります。
1. 何を課題としているのか
2. どの根拠からそう言えるのか
3. 結論として何を主張するのか
4. 聞き手に何を判断してほしいのか
これは文章術のルールというより、判断のためのプロトコルです。
もちろん、この4つを並べただけで、よい提案になるわけではありません。ただ、ここが曖昧なままでは、聞き手は「何を決めればいいのか」を探し続けることになります。
Agent は、この4つをユーザーの代わりに勝手に決めるものではありません。ユーザーが自分の言葉を見直しながら、「この課題設定でよいのか」「この根拠で言い切れるのか」「聞き手に何を決めてほしいのか」を確認できるようにします。
つまり、このアプリが提供するのは、答えそのものではありません。判断に耐えるメッセージへ近づくための問いと型です。
この体験を、単なるチャットで終わらせないために、画面設計もチャット中心にはしませんでした。
中心に置くべきはチャットではなく、見直されるメッセージそのもの
AI アプリを作ると、ついチャット画面を中心にしたくなります。ただ、今回見せたいのは AI の返答文ではありません。見せたいのは、ユーザーのメッセージがどう見直され、どこが弱く、どこまで言い切れるのかです。
そのため、画面は大きく3つに分けました。
左: ユーザーの発話と対話の流れ
右: 課題・根拠・結論・求める判断
ChatGPT でいう Canvas/Artifact に近いと思いますが、AI と対話しながらアウトプットを更新していきます。
チャットでは、どうしても AI の返答が主役になります。しかし今回のアプリでは、主役はユーザーのメッセージです。Agent は、そのメッセージを見直すための問いを投げ、必要な構造を提示する役割に寄せています。
では、この作業台で見直したメッセージを、聞き手にはどのように渡すべきでしょうか。
5枚の資料は、共通プロトコルを展開するための最小単位
最終的に、このアプリは5枚の Message-First Deck を生成します。常にスライドが 5 枚に固定されます。
M1: 結論
M2: 戦略・制約
M3: 求める判断・行動
E1: 根拠
E2: 実現性・反論への備え
5枚にしているのは、見た目のテンプレートを作るためではありません。
判断に必要な意味の置き場所を固定するためです。
聞き手は、毎回「結論はどこか」「根拠はどこか」「何を決めればよいのか」を探さなくてよくなります。M1 には結論がある。M3 には求める判断がある。E1 と E2 には、その主張を支える根拠や実現性がある。
一方で、話し手にとっても、この型は制約になります。
結論が弱ければ M1 が弱くなります。判断事項が曖昧なら M3 が弱くなります。根拠が足りなければ E1 が空洞になります。
つまり、この5枚は出力形式であると同時に、メッセージを検査する型でもあります。
スライドは最終成果物に見えます。しかし実際には、対話の中で見直したメッセージを、聞き手が迷わず受け取れるように配置したものです。
この考え方を実装するために、Agent と MCP サーバーの役割も分けました。
対話で見直す役割と、共通形式へ変換する役割の分担
今回のアーキテクチャでは、Azure AI Foundry Agent と MCP サーバーを分けています。
※ 実際に使うときは gpt-5.4 等 LLM 最低でも gpt-5.4-mini にしたいです。今回は予算がなかったので nano です(笑)
Agent の仕事は、ユーザーとの対話を通じてメッセージを見直すことです。候補を出し、問いを返し、弱い部分を示します。
MCP サーバーの仕事は、確定したメッセージを安定した形式へ展開することです。MCP サーバーは、ユーザーに代わって結論を決めません。対話の結果として固まったメッセージを、5枚の共通形式へ変換します。MCP の出力は URL です。Agent を介してユーザーはその URL にアクセスすると即座にプレゼンテーション可能なスライドにアクセスできます。
この分離によって、Agent は対話と判断に集中できます。一方で MCP サーバーは、決まった形式で再現性のある出力を担えます。
今回は、AI が何でも自動で作ることよりも、どこで人が考え、どこで Agent が支援し、どこでツールが出力するのかを明確にすることを重視しました。また、昨今はモデルの価格も高騰しつつあり、コストもシビアです。高価な LLM Token でかっこいいスライドを作るよりも高効率でスライドを作成します。
すぐに資料化しないことが、判断に耐えるメッセージを作る
このアプリで最も避けたかったのは、ユーザーが話した内容をすぐに資料化することです。それでは、メッセージの核が曖昧なまま、見た目だけ整った資料ができてしまいます。折角のトークンも無駄になってしまいます。
そこで Agent には、最初に資料を作らせません。まず、ユーザーが本当に言いたいことの候補を出します。そのうえで、課題・根拠・結論・求める判断のつながりを確認します。
根拠が弱い部分は弱いと示します。反論されそうな点も出します。まだ言い切れないことも明示します。
最後に何を言い切るかを選ぶのは、ユーザー自身です。
ビジネスメッセージの強さは、話し手自身の納得から生まれます。だから、このアプリでは「AI に作ってもらう」ではなく、「AI との対話で自分のメッセージを見直す」体験を中心に置いています。
ここまでの流れを、デモでは具体的に見せます。
デモ
Agent に対しては口頭で考えていることをまず話します。以下のような流れで最終的なスライドが完成します。
1. ユーザーが考えていることを話す
2. Agent が言いたいことの候補を出す
3. ユーザーが近いものを選ぶ
4. 課題・根拠・結論・求める判断を確認する
5. 根拠不足や反論を確認する
6. メッセージを見直す
7. 5枚の Message-First Deck に展開する
価値があるのは、スライドが出ることではありません。資料になる前のメッセージが、判断に耐えられる形へ変わることです。
次に重要になるのは、言い切れることと言い切れないことを分ける力
今後強化したいのは、社内情報との接続です。ただし、社内データから勝手に主張を作ることが目的ではありません。主張は、あくまでユーザーの中にあります。
社内データは、その主張を支える根拠を探したり、言い切ってはいけない部分を確認したりするために使います。
たとえば、会議録、過去の提案資料、SharePoint や OneDrive 上の文書と接続できれば、次のような支援ができます。
- この主張を支える過去の議論を探す
- 根拠が足りない部分を示す
- 反論されそうな論点を出す
- 言い切ってよいことと、まだ言い切れないことを分ける
ChatGPT などに単にデータを接続しても活用するためにはある程度 AI にユーザーが慣れ使いこなす必要がありますが、資料を作成する過程で AI の方から使えそうなデータ、根拠となりそうなデータの候補を示してくれればよりメッセージを磨いていく際に自然に活用できると考えています。
資料の量ではなく、受け渡すメッセージの質を変えたい
会議室で資料が投影される。ページ数は十分にある。グラフもある。背景説明もある。それでも、聞き手が「結局、何を決めればいいのだろう」と思ってしまうなら、足りないのは資料の量ではありません。
足りないのは、話し手自身が見直したメッセージと、それを聞き手が迷わず受け取れる伝達形式です。今回作ったアプリは、AI が資料を作るためのものではありません。話し手が自分の言葉を見直し、課題・根拠・結論・求める判断のつながりを確認する。そのメッセージを、聞き手が同じ型で受け取れるようにする。
資料を作る前に、言いたいことをちゃんと磨いてから伝えること、受け手がそれを迷わずに受け取れることが、このアプリで実現したかったことです。







