【速報】Mistral AIが「コードの正しさを数学的に証明するAI」をオープンソースで公開——Leanstral完全解説&前回記事の検証パイプラインに組み込む方法
3行で分かるこの記事
- Mistral AIがLean 4専用のオープンソース証明エージェント「Leanstral」をリリース。LLM生成コードの正しさを「数学的に証明」する時代が来ました。
- ベンチマークではClaude Sonnet 4.6を上回るスコアを計算コスト1/15で達成。Apache 2.0ライセンスで、APIは現在無料公開中です。
- 前回の記事で紹介した形式検証パイプラインに、Leanstralを組み込む具体的手順を解説します。
(前回の記事)
はじめに——前回記事の「未来予測」が10日で現実になりました
前回の記事「テスト通ったから大丈夫を卒業しよう——LLM生成コードをLean4/Dafnyで形式検証する方法」では、LLM生成コードを形式検証する手順とツールを紹介しました。
その記事の中で、こう書きました。
「バイブコーディング」から「ベリコーディング(vericoding)」へ——LLMが生成したコードをLLMが検証する時代はすぐそこまで来ています。
その「すぐそこ」が、本当にすぐ来ました。
2026年3月16日、Mistral AIがLeanstralをリリースしました。Lean 4専用に設計された、初のオープンソース証明エージェントです。コードを書くだけでなく、そのコードの正しさを数学的に証明してくれるAIです。
参考: 信頼できるAIコーディングを実現するためのオープンソース証明検証基盤「Leanstral」をMistral AIがリリース(GIGAZINE)
第1章 Leanstralとは何か
一言で言うと
「コードを書くAI」ではなく「コードが正しいことを証明するAI」 です。
従来のAIコーディングツール(Copilot、Cursor、Claude Code等)は、コードを生成した後、人間がレビューして正しさを確認する必要がありました。Leanstralは、コードと一緒にLean 4で機械チェック可能な数学的証明を生成します。Lean 4のコンパイラが証明を検証し、通れば正しさが保証されます。テストのように「試したケースでは動いた」ではなく、「すべての入力に対して正しい」ことの証明です。
スペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| パラメータ数 | 119B(総数)/ 6.5B(アクティブ) |
| アーキテクチャ | Sparse Mixture-of-Experts(128エキスパート、トークンあたり4つ起動) |
| ライセンス | Apache 2.0(完全オープンソース) |
| コンテキスト長 | 256k トークン |
| 対象 | Lean 4の証明エンジニアリング |
| 利用方法 | Mistral Vibe / 無料API / セルフホスト |
ポイントはMixture-of-Experts(MoE)アーキテクチャです。119Bパラメータのうち、推論時に実際に動くのは6.5Bだけです。これにより、巨大モデル級の知識容量を持ちながら、推論コストは小型モデル並みに抑えられています。
第2章 ベンチマーク——驚異的なコストパフォーマンス
Mistral AIは、FLTEvalという新しいベンチマークでLeanstralを評価しました。FLTEvalは、フェルマーの最大定理(FLT)のLean 4形式化プロジェクトのPRから出題される、実務的な証明エンジニアリングのタスクです。
オープンソースモデルとの比較
| モデル | パラメータ(アクティブ) | pass@2スコア | pass@4スコア |
|---|---|---|---|
| Leanstral | 119B(6.5B) | 26.3 | 29.3 |
| Qwen3.5 | 397B(17B) | — | 25.4 |
| Kimi-K2.5 | 1T(32B) | — | 20.1 |
| GLM5 | 744B(40B) | — | 16.6 |
Leanstralは、自身の6倍以上のアクティブパラメータを持つモデルを軽々と上回っています。Qwen3.5が4回の試行でようやく到達する25.4というスコアを、Leanstralは2回の試行で超えています。
Claude各モデルとの計算コスト比較
ここが衝撃的です。以下の「計算コスト」は、FLTEvalベンチマーク全問を実行するのに必要なGPU推論コストです(APIの利用料金ではありません。Leanstral APIは現在フィードバック期間中で無料です)。
| モデル | FLTEvalスコア | 計算コスト(ベンチマーク全問) | コスト比(対Leanstral pass@2) |
|---|---|---|---|
| Leanstral pass@2 | 26.3 | $36 | 1x |
| Claude Sonnet 4.6 | 23.7 | $549 | 15x |
| Claude Haiku 4.5 | — | — | — |
| Claude Opus 4.6 | 39.6 | $1,650 | 46x |
| Leanstral pass@16 | 31.9 | $290 | 8x |
Claude Sonnet 4.6を2.6ポイント上回りながら、計算コストは1/15です。
Claude Opus 4.6は品質では最高(39.6)ですが、計算コストはLeanstral pass@2の46倍です。「最高品質が必要」ならOpus、「十分な品質を低コストで大量に」ならLeanstral、という使い分けが見えてきます。
第3章 前回記事のパイプラインにLeanstralを組み込む
前回の記事では、以下のパイプラインを紹介しました。
LLMで仕様記述 → Dafny/Lean 4コード生成 → 検証器で検証 → フィードバックループ
Leanstralの登場により、Lean 4パイプラインの「コード生成」「証明生成」「フィードバック修正」が1つのエージェントで完結します。
セットアップ手順
方法1: Mistral Vibe CLI(最速・推奨)
# Mistral Vibeのインストール/アップデート
uv pip install mistral-vibe --upgrade # v2.5.0以上が必要
# Vibeを起動し、Leanstralエージェントを追加
# Vibe内で以下を実行:
/leanstral
# Tab+Shiftで「lean」モードに切り替え
# あとは自然言語で指示するだけ
方法2: 無料APIエンドポイント(期間限定)
from openai import OpenAI
client = OpenAI(
api_key="YOUR_MISTRAL_API_KEY",
base_url="https://api.mistral.ai/v1"
)
response = client.chat.completions.create(
model="labs-leanstral-2603", # 期間限定で無料
messages=[{
"role": "user",
"content": """以下のPython関数の正しさをLean 4で形式証明してください。
def binary_search(arr: list[int], target: int) -> int:
lo, hi = 0, len(arr) - 1
while lo <= hi:
mid = (lo + hi) // 2
if arr[mid] == target:
return mid
elif arr[mid] < target:
lo = mid + 1
else:
hi = mid - 1
return -1
証明すべき性質:
1. 配列がソート済みなら、戻り値が-1でない場合 arr[戻り値] == target
2. 戻り値が-1の場合、配列にtargetは存在しない
3. 関数は必ず停止する"""
}],
temperature=1.0,
max_tokens=32000,
)
方法3: セルフホスト(vLLM)
# GPU要件: 4x A100 80GB or H100
pip install vllm
vllm serve mistralai/Leanstral-2603 \
--max-model-len 200000 \
--tensor-parallel-size 4 \
--attention-backend FLASH_ATTN_MLA \
--tool-call-parser mistral \
--enable-auto-tool-choice \
--reasoning-parser mistral
LeanstralのMCP連携——ここが革命的
Leanstralの最大の技術的差別化ポイントは、Lean 4の言語サーバープロトコル(LSP)とMCP(Model Context Protocol)で直接連携できることです。
従来のLLMはLeanコードを「テキスト」として生成するだけでしたが、LeanstralはLean 4コンパイラとリアルタイムで対話します。
従来のLLM:
LLM → Leanコードを「テキスト」として出力 → コンパイルエラー → 人間が修正
Leanstral:
Leanstral → Leanコードを生成 → lean-lsp-mcpで即座に検証
→ エラーがあれば証明状態を確認 → 自動で修正 → 再検証
→ 証明完了まで自律的にループ
これは「推測」ではなく「検証器との対話」による証明構築です。
第4章 実例——Leanstralが実際に解いた問題
Mistral AIが公開したデモでは、LeanstralがProof Assistants Stack Exchangeの実際の質問を解決しています。
事例: Lean 4.29.0-rc6の破壊的変更のデバッグ
あるユーザーが「Lean 4.29.0-rc6にアップデートしたらコンパイルが通らなくなった」という質問を投稿しました。
Leanstralは以下のステップで問題を解決しました。
- テストコードを自動生成し、失敗環境を再現
-
rwタクティクが型エイリアスのパターンマッチに失敗する原因を特定 -
defによる定義が「定義的等価性」を阻害していることを診断 -
defをabbrevに変更する修正案を提示
defは厳密な定義で明示的な展開が必要ですが、abbrevは透過的なエイリアスを作り、即座に定義的等価性が成立します。この違いを正確に理解した上で修正を提案しています。
事例: Rocq(旧Coq)からLean 4への翻訳
Leanstralは、Rocq(旧Coq)の定義をLean 4に変換し、証明のセマンティクスを保存しつつカスタムの記法を実装することもできます。異なる証明支援系間の翻訳も可能です。
第5章 前回記事からのアップデート——ツール選定マトリクス改訂版
前回記事のツール選定マトリクスに、Leanstralを追加します。
| ツール | 対象 | 自動化度 | LLM支援 | コスト | 推奨用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| Leanstral | Lean 4(証明) | 最高 | 専用設計 | 無料(API)/ 低(セルフホスト) | アルゴリズム正しさの証明 |
| Dafny | 多言語出力 | 高 | 成功率96% | 中 | 業務コードの検証 |
| Gobra | Go直接 | 高 | 低 | 低 | Go並行処理の検証 |
| Nagini | Python直接 | 高 | 中 | 低 | Pythonコードの直接検証 |
| Lean 4(手動) | 定理証明 | 中 | 多数の研究 | 高 | 厳密な数学的証明 |
推奨パイプライン(2026年3月版)
Pythonエンジニア向け:
仕様(自然言語)
→ Leanstralで正しさの証明を生成(Lean 4)
→ 証明が通った仕様をDafnyに変換
→ Dafny → Python出力
Goエンジニア向け:
仕様(自然言語)
→ Leanstralで核心ロジックの正しさを証明
→ Gobraでゴルーチン/チャネルの安全性を検証
→ デプロイ
コスト最適化戦略(セルフホスト時の計算コスト目安):
重要度「高」のコード → Claude Opus 4.6(最高品質、計算コスト大)
重要度「中」のコード → Leanstral pass@4(十分な品質、計算コスト小)
重要度「低」のコード → Leanstral pass@2(コスト最小)
※ Leanstral APIはフィードバック期間中は無料で利用可能
第6章 なぜこれが重要なのか——「バイブコーディングのセキュリティ負債」問題
ある調査によると、開発者の96%がAI生成コードの正確性を信頼していないにもかかわらず、48%がデプロイ前に検証を行っていません。
バイブコーディングで生成されたコードベースのサンプル調査では、69件の脆弱性が発見されたという報告もあります。AIが生成したコードが本番環境に流れ込む速度に、人間のレビュー能力が追いついていないのが現状です。
Leanstralは、この「バイブコーディングのセキュリティ負債」に対する構造的な解決策です。人間のレビューをAIによる数学的証明で補完——あるいは置き換え——することで、コード品質のボトルネックを解消します。
まとめ——形式検証の民主化が始まりました
| 観点 | 前回記事の時点(2026年3月中旬) | Leanstral登場後 |
|---|---|---|
| Lean 4の証明生成 | 人間の支援が必要 | エージェントが自律的に生成 |
| コスト | Claude API利用で高コスト | APIは現在無料、セルフホストも可能 |
| オープンソース | 主要ツールは非公開 | Apache 2.0で完全公開 |
| MCP連携 | なし | lean-lsp-mcpで検証器と直接対話 |
今日からできるアクション:
-
uv pip install mistral-vibe --upgradeでMistral Vibeをインストール - Vibe内で
/leanstralを実行してエージェントを追加 - Tab+Shiftで「lean」モードに切り替え
- 自分のPython/Goコードの核心ロジックを自然言語で説明し、Lean 4の証明を生成させる
形式検証は「研究者の道具」から「エンジニア全員の武器」に変わりました。 オープンソースかつ無料APIで数学的証明を生成してくれるLeanstralがある時代に、「テスト通ったから大丈夫」で済ませる理由はもうありません。