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OFAC制裁リストをTableauに突っ込んで、経済安全保障ダッシュボードを作る話

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Last updated at Posted at 2026-04-29

【無料】OFAC制裁リストをTableauに突っ込んで、経済安全保障ダッシュボードを作る話 — Excel卒業生のためのデータ分析入門

はじめに

「DX だ」「データドリブン経営だ」と言われ続けて数年、現場の多くはまだ Excel です。

でも 2026 年、経済安全保障・地政学リスク・サイバーセキュリティの領域では、手作業の Excel スクリーニングが追いつかない現実が来ています。

  • 米国 OFAC の制裁対象(SDN リスト)は 12,000 件超、毎月数百件の更新
  • 米国商務省の Entity List も 数千件規模
  • ロシア・ウクライナ、半導体、AI 規制… 取引先の与信判断が毎週変わる

pic0.jpg

この記事では、Excel ユーザーが Tableau を使って、無料の公開データだけで「経済安全保障モニタリングダッシュボード」を組み立てる最短ルートを紹介します。

筆者が、仮に企業向けに新米Tableauデータ解析人材の養成講座を行うと想定した場合、全 12 回くらいのボリュームで、こんな教材があったらわかりやすいな、というイメージトレーニングとしてセロから作成した「教材の想定ひな形」から、Qiita 読者がすぐ手を動かせる 4 回ぶんを抜き出してダイジェストにしています。

image.png

この記事の対象

  • Excel は使えるけど、Tableau は触ったことがない
  • 経済安全保障・サプライチェーンリスク・サイバー脅威に業務で触れる
  • 「制裁リストを毎月チェック」が今は手作業
  • Python は書けないが、ドラッグ&ドロップでなら何とかなりそう

この記事で出てこないもの

  • Python・SQL・統計理論の深い議論
  • Tableau Desktop の有償ライセンス前提(無料の Tableau Public で完結

TL;DR

やること 使うデータ 使うツール 所要時間
① 米国 SDN リストを地図にプロット OFAC SDN.CSV Tableau Public 30 分
② カントリーリスクを Box Plot で可視化 OECD Country Risk Tableau Public 30 分
③ 対露輸出の制裁前後を時系列比較 財務省貿易統計 Tableau Public 45 分
④ 4 つを統合してダッシュボード化 上記すべて Tableau Public 60 分

合計 3 時間程度で、それっぽい経済安全保障ダッシュボードができます。
全部、無料で教育利用できるオープンデータです。

データの利用について

本記事で扱うデータは、すべてインターネット上で無料公開されているオープンデータです。本記事は 教育目的 で各データソースを参照する方法を示すもので、データ自体を再配布するものではありません。各データソースは、演習の指示に従って公式サイトから直接ダウンロードしてください。

代表的なデータソースのライセンスは以下の通りです。

  • 米国政府公開データ (OFAC SDN, Entity List, CISA KEV, NVD CVE): 米国政府著作物として自由に利用可能
  • World Bank WGI: Creative Commons Attribution 4.0
  • OECD Country Risk: 教育目的での参考使用が可能(OECD は他の目的での使用を推奨しないため、データの再配布は行わない)
  • 財務省貿易統計: 公開統計として一般利用可能

業務で実際に活用される際は、各データソースの最新の利用規約を必ずご確認ください。商用ツール・サービスへの組み込みには、別途ライセンス契約が必要な場合があります。


なぜ Tableau なのか(Excel との比較)

正直に言うと、Excel で頑張れる範囲は限られています

観点 Excel Tableau
12,000 行の制裁リスト 重い・落ちる サクサク動く
世界地図にプロット 別のアドインが必要 標準機能
複数データを結合 VLOOKUP 地獄 ドラッグで JOIN
ダッシュボード 静的 クリックで連動
月次更新 毎回コピペ データ接続で自動
無料で使える Tableau Public は無料

「Excel ですべて済ませたい」気持ちはわかりますが、12,000 件の制裁リストを毎月手動で照合するなら、Tableau に乗り換えた方が早いです。

注意: Tableau Public は無料ですが、作成したダッシュボードはインターネット上に公開されます。社内データを扱う場合は Tableau Desktop(有償)または Tableau Cloud を使ってください。本記事の演習はすべて公開データを使うので、Tableau Public で問題ありません。


演習①:OFAC 制裁リストを世界地図にプロットする

1.1 SDN リストとは何か

OFAC(米国財務省外国資産管理局)が公開している、米国市民・企業が取引してはいけない人物・組織のリストです。これに載っている取引先と取引すると、米国の制裁違反になります。

リストは CSV で毎日更新されています。誰でも無料でダウンロードできます。

ダウンロード先: https://ofac.treasury.gov/specially-designated-nationals-and-blocked-persons-list-sdn-human-readable-lists

1.2 Tableau Public のセットアップ

Step 1: https://public.tableau.com からインストーラをダウンロード
Step 2: インストールして起動
Step 3: 起動画面 > 「ファイルへ接続」> 「テキストファイル」
Step 4: ダウンロードした SDN.CSV を選択

これでデータが Tableau に取り込まれます。

1.3 世界地図に件数を表示

Step 1: 左の「データ」パネルから「Country (国籍)」を「マーク」カードの「詳細」にドラッグ
Step 2: 自動的に世界地図が表示される
Step 3: 「カウント (SDN.csv)」をマークの「色」にドラッグ
Step 4: 「カウント (SDN.csv)」を「サイズ」にもドラッグ

これだけで、国別の制裁対象件数の世界地図ができます。

ロシア・イラン・北朝鮮あたりが赤くなり、円が大きくなっているはずです。

pic2.jpg

1.4 制裁プログラム別にフィルタリング

Step 1: 「Programs」を「フィルター」シェルフにドラッグ
Step 2: フィルター画面で「UKRAINE-EO13662」「RUSSIA-EO14024」などを選択
Step 3: マップが対露制裁関連だけに絞り込まれる

「ウクライナ侵攻関連の制裁って、どの国・地域にどれだけ広がってるんだっけ?」が5 秒で答えられるようになります。


演習②:カントリーリスクを Box Plot で可視化

平均値だけ見てると判断を誤ります。

「カントリーリスクの平均が 60 点」と言われても、50 点台に多くの国が固まっていて少数の国が 90 点超なのか、全体が均等にばらついているのかで意味が全然違います。

これを一発で見抜くのが Box Plot(箱ひげ図) です。

2.1 Box Plot の読み方(30 秒で)

pic3.jpg

       ┃     ← 最大値(外れ値除く)
       ┃
   ┏━━━━━━━┓ ← 第 3 四分位数(上位 25%)
   ┃       ┃
   ┃━━━━━━━┃ ← 中央値(真ん中の値)
   ┃       ┃
   ┗━━━━━━━┛ ← 第 1 四分位数(下位 25%)
       ┃
       ┃     ← 最小値
       ●     ← 外れ値(突出した国)

四角の中に データの真ん中 50% が入っています。
で表示される外れ値が、**「この地域では異常に高リスクな国」**です。

2.2 OECD Country Risk Classification を可視化

データ取得: https://www.oecd.org/ で「Country Risk Classification」を検索

Step 1: ダウンロードした CSV を Tableau に追加接続
Step 2: 「地域 (Region)」を列シェルフへ
Step 3: 「リスクスコア (Country Risk)」を行シェルフへ
Step 4: 「マーク」カードのドロップダウンで「Box Plot(箱ひげ図)」を選択
Step 5: 「分析」メニュー >「参照線」で 50% 信頼区間を追加

これで、地域別のリスク分布の広がりが一目でわかります。

「アジアと中東、どっちがリスク分散が大きいか?」「外れ値の高リスク国はどこか?」みたいな問いに、グラフを指差して答えられます。


演習③:対露輸出の時系列分析

ウクライナ侵攻後、日本の対露輸出はどう変わったか?

財務省貿易統計は、月次データを CSV でダウンロードできます。

ダウンロード先: https://www.customs.go.jp/toukei/info/

3.1 対象国・期間を選んで読み込む

2018 年 1 月〜2024 年 12 月、対ロシア・対ウクライナ・対中国の輸出額をダウンロードします。

Step 1: Tableau に CSV を読み込み
Step 2: 「年月」を列シェルフ、「輸出額」を行シェルフへ
Step 3: 「相手国」を「マーク」の「色」へ
Step 4: 折れ線グラフで 3 か国の比較ができる

3.2 地政学イベントを参照線で重ねる

Step 1: 「分析」メニュー >「参照線」>「線」を選択
Step 2: 値: 2022/02/24 を入力 → ラベル「ウクライナ侵攻開始」
Step 3: 同様に 2022/03 「対露制裁参加」、2022/10「米半導体規制強化」

これで、「制裁参加後にどれだけ対露輸出が落ちたか」 が一目瞭然になります。

pic4.jpg

筆者が試した結果では、対露輸出は 2022 年 3 月以降に約 70% 減しています。一方で対中輸出は半導体関連で 2022 年 10 月直前に駆け込み増加が見られました。

3.3 トレンドラインで定量化

Step 1: 「分析」メニュー >「トレンドライン」>「線形」を選択
Step 2: 各国の傾きが自動計算される
Step 3: トレンドラインにマウスオーバーすると、傾きと p 値が表示される

これで「印象論」ではなく、**「対露輸出は月次で X 億円ペースで減少しており、統計的に有意(p < 0.01)」**と言えるようになります。


演習④:統合ダッシュボードに仕立てる

ここまでで作った 3 つのワークシート(地図・Box Plot・時系列)を、一画面のダッシュボードにまとめます。

4.1 ダッシュボードを新規作成

Step 1: メニューから「ダッシュボード」>「新しいダッシュボード」
Step 2: サイズを「自動」に
Step 3: 左の「シート」一覧から、3 枚のワークシートをドラッグして配置

4.2 連動させる(ここが Tableau の真骨頂)

Step 1: 「ダッシュボード」メニュー >「アクション」
Step 2: 「アクションの追加」>「フィルター」
Step 3: ソース: マップ、ターゲット: Box Plot と時系列
Step 4: アクション: 「選択時に実行」

これで、地図上で「ロシア」をクリックすると、Box Plot と時系列が「ロシア」だけのデータに自動で絞り込まれるダッシュボードが完成します。

経営会議で「ロシアって今どうなってる?」と聞かれたら、マップをクリックするだけで答えが出る状態になります。

pic5.jpg


できあがったダッシュボードでわかること

実務で次のような問いに答えられるようになります:

  • 調達リスク: どの国にサプライヤーが集中していて、その国の制裁件数はどう推移しているか
  • 与信判断: 海外取引先のうち、SDN/Entity List にマッチする企業はないか
  • 規制強化の影響: 米国の規制発効日と、自社輸出の変動に相関はあるか
  • アラート: 直近 30 日で新規追加された制裁対象は何件か

「Excel で毎月手作業」から「ダッシュボードを開けば全部見える」に変わります。


よくある質問

Q. Tableau Public の制限は何?

データは公開されます(個人作品ポートフォリオ用途)。社内機密データは Desktop(有償)または Cloud で。本記事の演習は全部公開データなので OK。

Q. CSV のダウンロードを毎月手動でやるの?

最初は手動でいいです。慣れたら Tableau Desktop の「Web Data Connector」や、Python で requests してから Tableau に渡す方法もあります(応用編)。

Q. SDN リストのファイル名や形式が変わったら?

OFAC の公式ドキュメントに、CSV の列定義が記載されています。年に 1〜2 回確認しておくと安全。

Q. 「会社名の表記ゆれ」はどう対処する?

  • UPPER() 関数で大文字化して比較
  • CONTAINS() 関数で部分一致
  • 本気でやるなら fuzzy matching(応用編)

Q. 取引先データを Tableau に入れて大丈夫?

Tableau Public は不可(公開されてしまう)。Tableau Desktop か社内 Tableau Server を使ってください。

Q. 扱うデータを業務でそのまま使っていい?

それぞれのデータソースのライセンスを確認してください。本記事は 教育目的での参考使用 を前提に書いています。

  • 米国政府公開データ (OFAC, BIS, CISA, NIST): 自由に利用可能
  • World Bank WGI: CC BY 4.0(出典明記で利用可)
  • OECD Country Risk: 教育目的での参照は可。業務利用や再配布は OECD のガイドラインに従ってください
  • OpenSanctions: 非商用は無料、商用は別途ライセンス取得

社内システムに組み込む・有料サービスに統合する場合は、各データ提供機関に問い合わせて利用許諾を確認するのが安全です。


もっと深く学びたい人へ 📚

この記事は、筆者が 全 12 回相当分のTableau演習素材から、Qiita 読者向けに 4 回ぶんを抜き出したダイジェスト版です。

完全版では以下も扱っています:

  • 第 7 回: ネットワーク分析 — 制裁対象企業の子会社・フロント企業を可視化
  • 第 8 回: 時系列予測 — Tableau 標準機能で 12 か月先のリスク予測
  • 第 9 回: 多変量解析 — TabPy 連携で PCA・クラスタリング
  • 第 10 回: CISA KEV — サイバーセキュリティ脆弱性データの可視化
  • 第 11 回: 統合ダッシュボード — 4 ページ構成のフル版モニタリングシステム
  • 付録: 公開データソース完全リスト(制裁・カントリーリスク・貿易・サイバー)

完全版は GitHub で公開しています(CC BY 4.0)。

🔗 GitHub リポジトリ: https://github.com/EtaleCohomology/geometric-intelligence-saga

tools/01_tableau-economic-security/ フォルダに、全 12 回の PDF 教材が入っています。

pic6.jpg


おわりに

経済安全保障・地政学リスクは、もはや「政府や大企業の専門部門の話」ではなくなりました。

中堅企業の調達担当者・営業担当者・コンプライアンス担当者にも、毎月の制裁リストを確認する義務が事実上発生しています。

そんな現場で、Excel でないツールに乗り換える最初の一歩として、Tableau Public は本当によくできています。

そして、Tableau の先には Python による多様体データ分析、その先には GI 理論のような幾何学的なリスク分析フレームワーク という世界が広がっています。

その入口に立つ Excel ユーザーの方が、本記事を踏み台にしていただければ嬉しいです。

質問・コメントお待ちしています 🙋


Tags: #Tableau #データ分析 #経済安全保障 #可視化 #BI

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