この記事はNTTドコモソリューションズ Advent Calendar 2025の23日目の記事です。
1. はじめに
こんにちは!NTTドコモソリューションズ入社1年目の竹内です。社内への超上流工程施策の展開や、事業組織に対する超上流工程のプロジェクト支援を行うチームに所属しています。超上流工程とは、システム開発においてビジネス課題を整理し、IT戦略・業務プロセス・システム構想を描く工程です。開発を行う前に「何を、なぜ作るのか」を決める重要なステップです。
配属前は、「超上流工程」という言葉すら知らず、「新入社員はプログラミングや試験工程をやるのかな」と思っていたため、仕事内容を聞いたときは正直驚きました。配属後、まずはチームで活用している手法を学ぶために、匠Methodと呼ばれる手法を実践しました。テーマは、新入社員として今後のキャリアを考えることも兼ねて「10年後どんな姿になりたいか」です。キャリアを考えるのは就活生の時から何度もやっており、今回も同じようなものができると思っていました。実際、大枠は同じでしたが、細かい部分で新たな発見があり、このテーマでよかったと感じています。この記事で匠Methodを実践した成果物や学んだこと、所感を紹介したいと思います。
この記事で分かること
- 匠Methodの流れとメリット
- 「10年後どんな姿になりたいか」をテーマとした実践例と成果物
- 初学者の視点で得た気づきや学び
2. 匠Methodとは
匠Methodは、ビジネスアナリシス活動の中で使える方法論の1つで、当社では超上流工程で活用しています。その特徴は「プロジェクトの目的や要求をステークホルダーの価値起点で考える」ことです。具体的には、ステークホルダーが「こうなったらうれしい!」と思うことを考えながら、プロジェクトの目的や要求を整理していきます。これによって、「経営目標にとらわれて、現場視点でのうれしさが考慮されておらず、使われないシステムができてしまった」や「顧客が求めていたものと違い、要件定義の手戻りが発生した」ということを防ぐことができます。最終的なアウトプットとして要求分析ツリーと呼ばれるモデルができます。詳細は3.4要求分析ツリーで説明します。
匠Methodはシステム開発だけでなく、キャリアプランや製品企画など様々な場面で活用できます。
匠Methodの基本的な流れ
匠Methodは次のステップで構成されています。
成果とインプットの関係を矢印で表しています。
3. 匠Methodの実践
この章では、匠Methodの各モデルの説明と私が「10年後どんな姿になりたいか」をテーマに匠Methodを実践した内容を紹介します。
各モデルで、
モデルの説明→メリット→成果物紹介→所感
という順番で説明します。「匠Methodの理論だけ知りたい」という方は、各モデルの前半部分だけでもぜひ読んでみてください。
3.1 ステークホルダーモデル
ステークホルダーモデルでは、プロジェクト(今回の場合は私のキャリア)に関わるステークホルダーを洗い出します。ここでは、直接的な関係者だけでなく、将来的に関わる可能性がある人や組織も含めて考えます。この成果物は、後ろの工程である価値デザインモデルや価値分析モデルのインプットになります。幅広いステークホルダーを考えることで、プロジェクトを多様な視点から考えられるようになることがメリットです。また、後の工程でプロジェクトの目的や要求を整理する際、幅広いステークホルダーの価値を起点にすることで納得感があるものを考えることができます。
今回は、ステークホルダーを考えやすくするために「10年後どんな自分になっていたいか」を具体的にイメージすることから始めました。「年収はどれくらい?」「どんな仕事をしている?」「どんな人になりたい?」など、理想の未来像をできるだけ詳細に書き出しました。
これを踏まえて、ステークホルダーを考えた結果、以下のように書き出すことができました。
仕事・プライベート両面から幅広く考えたことで、キャリアを考えるときにあまり意識しない関係者(引っ越し業者や資格認定者など)までリストアップできました。
3.2 価値デザインモデル
価値デザインモデルでは、プロジェクト(今回の場合は私のキャリア)のビジョンやコンセプトなどを、ワクワクする言葉やイメージで表現します。論理的なだけでなく、感性に訴える表現にすることも大切で、関係者が「このプロジェクト面白そう!」「自分も関わりたい!」と思えるようなものを作ります。
具体的には、以下の6つを考えます。
- ビジョン :プロジェクトで達成すべき夢
- コンセプト:ビジョンを実現するための3つの大きな目標
- 言葉 :プロジェクトを表すキャッチフレーズ
- デザイン :プロジェクトを表すイメージ図やロゴ
- 意味 :プロジェクト全体の内容
- ストーリー:ビジョンを達成するまでのストーリー
ビジョンやコンセプトなどを見える化することでプロジェクトの方向性を共有できることが大きなメリットです。また、論理的な思考だけでなく、感性や直感も大切にすることで、より魅力的な製品・システムやキャリアプランを考えることができます。
今回は時間の都合でビジョンとコンセプトのみを考えました。まずはビジョンを書きました。このとき、自分の能力や制約はあまり気にせず、理想を大きく描くことを意識しました。そして、ビジョンを実現するための大きな目標として、コンセプトを3つ設定しました。
ワクワクするような文章を考えるのは苦手でしたが、先輩社員から「聞いた人が興味を持つような表現が大切」というアドバイスを頂き、挑戦しました。なかなかうまくできず、経験を積む必要があると思いました。
プロジェクトを進めるには、様々なステークホルダーの協力が必要不可欠です。そのためには、論理的な説明だけでなく、関係者が「面白そうだ」「自分も参加したい」と感じるような、ワクワクする言葉やイメージを伝えることが重要だと先輩社員から教わりました。このことから、価値デザインモデルは、プロジェクトの魅力を最大限に引き出し、関係者の共感や協力を得る重要な役割を担っていると感じました。
3.3 価値分析モデル
ここでは、3.1ステークホルダーモデルで抽出した各ステークホルダーの視点で、プロジェクトが成功したときに「どんな時に」「どんな手段で」「どのようにうれしいのか」を文章で記述します。これを「価値記述」と呼びます。
次に、プロジェクトの目的を書き出します。このプロジェクトはそもそも何を目的として立ち上げられたのかということです。
最後に、それぞれの価値記述に対して、対応するプロジェクトの目的と結びつけてマッピングしていきます。その際、結びつけられるものがない目的や価値記述が出てきます。それらに対しては以下のようにします。
(i) どの価値記述にも結びつかないプロジェクトの目的がある場合
その目的が誰の価値にも結びついていないと判断すれば、削除します。考えられていなかった価値がある場合は新たに追加して価値記述を目的と結びつけます。
(ii) どのプロジェクトの目的にも結び付かない価値記述がある場合
その価値記述が今回のプロジェクトのスコープ外だと判断すれば、削除します。考えられていなかったプロジェクトの目的がある場合は新たに目的を追加して価値記述と結びつけます。
このようにして、価値記述とプロジェクトの目的をブラッシュアップしていきます。これによって、ステークホルダーにとって本当に価値のあるプロジェクトになっているのか検証できることが大きなメリットです。そして、この作業が「価値を起点にして考える」という匠Methodの特徴でもあります。
まず、3.1で抽出した各ステークホルダーについて価値記述を作成しました。その一例がこちらです。
次にプロジェクトの目的を書き出します。所属組織の目標や新入社員としての目標を書き出しました。そして最後に、価値記述とプロジェクト目的を結びつけます。結びつける中で価値記述とプロジェクトの目的をブラッシュアップしていきます。ブラッシュアップした結果、先ほど書き出した目的は以下のように変化しました。今回は、目的が広すぎる場合は細分化し、似た目的は統合するなど、削除や追加だけでなく目的自体の見直しも行いました。
また、プロジェクトの目的と価値記述の結びつきについても一部紹介します。
価値分析モデルを実践してみて、価値記述とプロジェクトの目的をマッピングする作業は予想以上に難しかったです。目的が抽象的だと多くの価値記述と結びついてしまうことが分かりました。プロジェクトの目的を追加や削除してブラッシュアップを重ねることで、ステークホルダーの価値と結びついたプロジェクトの目的に整理できて、はじめに書き出したものと比較して良くなったことを実感しました。
3.4 要求分析ツリー
今まで書き出したビジョンやプロジェクトの目的をもとに、それを実現するための手段をツリー構造で整理するのが要求分析ツリーです。このツリーは、左から右へと目的/手段の関係を連鎖的につなげていくイメージで、全体像を一目で把握できるのが特徴です。
要求分析ツリーは以下の4つの層で構成されています。
-
戦略要求
プロジェクトの大きな方向性を示します。
ここでは、3.2価値デザインモデルで作成したビジョンとコンセプトや3.3価値分析モデルで書き出したプロジェクト目的を使います。 -
業務要求
戦略要求を実現するために満たさなければならない要求です。
戦略要求を達成するために、どのような業務的な手段が必要かを考えます。 -
IT要求
業務要求を実現するために情報システムとして満たすべき要求です。
ITに関連するものがあればここに整理し、不要な場合は省略します。 -
活動
業務要求やIT要求を実現するための、具体的なアクションです。
ここには、すぐに実行できるレベルまで具体化した行動を書き出します。
ここから作成手順を説明します。まずは戦略要求を明確にします。価値デザインモデルで作成したビジョンを左端に置き、その右にコンセプト3つを書いて線で結びます。さらに、価値分析モデルで作成したプロジェクトの目的をコンセプトの右側に書き出し、手段/目的の関係でつなげていきます。
次に、業務要求を洗い出します。プロジェクトの目的を実現するために必要な業務的な手段を考え、業務要求の層に記載します。抽象度に応じて、業務要求も2~3層に分けて整理します。また、業務要求の中でITに関連したものがあればIT要求の層に書き出します。これにより、IT企業として顧客に提案できることが整理できます。
最後に活動の具体化です。業務要求やIT要求を実現するための具体的なアクションを「活動」として書き出します。最終的には、左から右へと目的と手段の関係でつながったツリー構造の図が完成します。
要求分析ツリーの作成は、ビジョンから実現までの活動を整理して、やるべきことが明確になることがメリットです。また、可視化することでステークホルダーと認識齟齬がないようにすることができます。システム開発においては、IT要求を明確にすることで、提案力や実現性を高められる効果もあります。
実践した結果を一部紹介します。コンセプトの1つ「ニーズを叶えるものを形にする、世の中に届けていく」に続く戦略要求から活動まで書いた図を載せています。
プロジェクトの目的(G)は内容が具体的であり、コンセプトとつなげたときに目的と手段の関係としては飛躍していると感じました。そこで、間に「システム開発力の向上」と「豊富なシステム開発の経験を持つ」を追加して抽象度を調整しました。
適切な粒度で戦略要求や業務要求を考えることが難しく、今回の実践を通して一番苦労しました。先輩社員から「この業務要求が抽象的だから他と同じくらい具体的にしよう」「書いた業務要求をすべて達成すれば戦略要求に書いたことは実現できそう?足りないものはない?」「本当に目的と手段の関係になっている?」など指摘を受けて、修正してを何度も繰り返しました。具体化/抽象化や構造的に考えることが、なかなかうまくできないなと思いながら取り組んでいました。
3.5 ゴール記述モデル
最後に、要求分析ツリーの「活動」をリストアップし、それぞれについて誰が・何を・いつから・いつまでに・どうするのか、できるだけ明確に記述します。また、活動ごとに評価尺度や目標値も設定します。期限や目標値を明確にすることで、実施後の達成状況の評価がしやすくなることがメリットです。また、関係者間で「何をやるのか」を共通認識できるため、チームでの連携や進捗管理がしやすくなります。
次に、私が作成したものを一つを紹介します。
ここでは、目標値や達成条件を書き出すことが苦労しました。特に、定量的な評価ができないものについて、誰が見ても判断できるように設定することに悩みました。例えば、「○○について理解する」と書いても、何をもって「理解している」と評価するのか不明確です。そのため、「この行動ができていれば、理解しているとみなせる」といった、観測可能な行動や成果で達成条件を考える必要がありました。
4. 全体の所感
今回の匠Method実践を通じて、実感したメリットは2つあります。
1つ目はビジョン(中長期的、経営者目線の目標)と価値記述(短期的、現場目線のうれしさ)の両方をうまく組み合わせることができる点です。自分の理想像だけでなくそれによって周囲の人はどんな「うれしさ」があるのかを意識できると思いました。キャリアプランが自分のためだけでなく、周囲の人にも良い影響があると説明できることで説得力が増したと思います。
2つ目は要求分析ツリーによって目的を達成するための手段や、活動がどのようなビジョンや目的に通じているのかを一目で把握できることです。今まではwill-can-mustや自分史を用いた自己分析で「何になりたいのか」を考えていました。一方で、匠Methodでは、「そのために何をするべきか」という具体的な行動まで落とし込める点が大きな違いだと思います。
また、要求分析ツリーを作成したことで、日常業務に対する自分の視点が変化したことを実感しています。目の前のタスクだけでなく、「この仕事に取り組むことで自分のキャリアにどのようにつながっていくのか」「この先の仕事や会社全体にどのような貢献ができるのか」という視点を意識するようになりました。
成果物を振り返ると、要求分析ツリーの業務要求や活動について、もっと良いアイデアが出せたのではないかと感じています。抽象化や具体化、構造的に考える力がまだ十分ではなく、改善の余地があると痛感しました。先輩社員から「どんなことでも考え抜くことと、たくさんの経験を積むことが大切だよ」とアドバイスを頂いたため、それらを意識しながら普段の業務にあたることで能力を身につけていきたいと思います!
5. まとめ
この記事では、新入社員が匠Methodを活用して「10年後どんな姿になりたいか」を描くプロセスと、その成果物・学びについて紹介しました。
匠Methodは、今回紹介したキャリアプランを考えるだけでなく、システム開発における超上流工程や製品の企画など様々な場面で活用できます。興味がある方はぜひ、試してみてください!
匠Methodを実践するにあたり、以下の書籍を参考にしています。
萩本順三. ビジネス価値を創出する「匠Method」活用法. 翔泳社, 2018.
記載されている会社名、製品名、サービス名は、各社の商標または登録商標です。











