はじめに
知っていますか、夢野久作の『ドグラ・マグラ』。私は途中で挫折しました。
記憶を失った主人公が精神病棟で目覚めるところから始まって、話がどこに向かっているのか分からないまま、変な文書が延々と挿入されて、自分が今どこを読んでいるのかすら怪しくなってくる小説です。
挫折したくせに、あの鬱々とした何か崩壊しそうなイメージが頭の片隅にずっと残っています。
で、最近 Claude から Fable 5 が出たので、何か試したいなと思っていたところでこれを思い出し、表現してみることにしました。
個人的にはthree.jsやシェーダーをちょっと書いたことがある程度で、そのレベル感でどこまでいけるのかも含めての実験です。
できたもの
https://dsflon.github.io/webgl2/dogra-magra.html
クリックして「入る」と、暗い液体のような空間で何かが蠢き始めます。音も出ます(低い「ブーン」という音と、だんだん狂っていく時計の音)。
気持ち悪いです、鳥肌立ちました。🤮
どうやって作ったか
実装はFable 5に頼みましたが、いきなり「作って」とは投げていません。
まず自分の中にある「あの小説のどこが気持ち悪かったのか」を振り返りまして、言葉にして、それを画面でどう表現するかをFableと対話しながら詰めていきました。終わったと思ったら冒頭に戻っている円環構造、意識が脳ではなく全身の細胞に宿っているという話、胎児が見る夢。こういう要素を一つずつ「これは映像でどう出せる?」と相談して、プロンプトとして固めていった感じです。
固まったプロンプトを渡して実装してもらい、あとは出てきたものを見ながら会話で調整していきました。
気持ち悪さを作る
終わらない渦
画面全体が、ゆっくり回転しながら中心に吸い込まれ続けています。
一度画面に現れたものは、消えるのではなく、渦に巻かれて引き延ばされながら中心へ落ちていく。映像が決してリセットされないというのがポイントで、『ドグラ・マグラ』の「物語がどこからともなく始まり、終わったと思ったら冒頭に戻っている」円環構造をそのまま画面の構造にしています。
ずっと見ていると、自分の視界が吸い込まれていくような感覚を目指しています🤮
蠢く細胞
ベースのレイヤーでは、画面全体が細胞分裂のような、脳のような模様でずっと蠢いています。
作中に「脳髄は物を考える処に非ず」という論文(作中作)があって、意識は脳ではなく全身の細胞ひとつひとつに宿っている、という話が出てきます。画面の隅々までが細胞として勝手に蠢いている状態は、これを目指したものです。
マウスで触れると、触れた場所が病巣のように増殖します。気持ち悪いです🤮
水底に浮かぶ、丸まった影
画面の中心あたりに、丸くうずくまった人影のような、細胞の塊のようなものがぼんやり浮かんでいます。
ここは唯一の3D表現で、ただし絶対に鮮明には見せないようにしていて、輪郭が心拍に合わせて赤く脈打つだけ。しかも視線(マウス)を向けると、わずかに逃げます。
元になっているのは原作の「胎児の夢」という章のイメージです。はっきり見えてしまうとただの3Dモデルになってしまうので「水の底に何かいる気がするけど、よく見えない」の距離感を意識しています。
溶ける文字
「私ハ誰ダ」「胎児よ胎児よ何故躍る」といった断片が、縦書きでふっと浮かんでは、渦に巻かれて溶けていきます。
文字は表示された瞬間から滲み始めて、読めるか読めないかのうちに崩れていく。記憶の断片が掴めそうで掴めない感じです。
発作
数十秒に一度グリッチノイズが走ります。
普段は静かで、忘れた頃に一瞬だけ来るようにしています。発作のイメージです。
音
低い「ブウウ――ンンン」というドローン音(原作の冒頭、主人公が目覚めるきっかけになる音です)と、時計の秒針、かすかな心拍のような音。
最初は正確に1秒間隔で鳴っているのに、時間が経つにつれて間隔が少しずつ狂っていきます。ドローンの音程もゆっくり迷子になっていくイメージです。
忘却と、目覚め
30秒間なにも触らずに放置すると、「忘却」を始めます。残像が保てなくなり、色が抜け、視界の縁が閉じて、音が遠ざかり、やがて真っ暗になります。
そして完全な闇に達した瞬間——白い閃光とともに「ブウウ――――ンンンン」の文字が浮かび、細胞は最初に戻り、狂っていた時計と音程も正気に戻って、また冒頭から始まります。
触れない限り、これが永遠に繰り返されます。作品の構造が踏襲できているのではないかと思います。
おわりに
挫折した小説の、言葉にできずに頭の中にもやもやと残っていたイメージが、ほぼそのままの形で画面に現れてしまいました。
Fable 5、すごい。でも気持ち悪い、。🤮笑