Thunderbirdでメール誤送信を100%防ぐ無料アドオンを開発しました
- Thunderbird,
- プライバシー,
- メール,
- WebExtension,
- JavaScript
Last updated at 2025-08-24Posted at 2025-08-23
メール誤送信を防ぐThunderbirdアドオンの開発体験談
最終更新: 2025年8月24日
はじめに
皆さんは、メールを送信した後に「あっ、TO欄に複数の人のメールアドレスを入れてしまった!」と冷や汗をかいた経験はありませんか?
特にビジネスや教育現場では、一斉メールを送る際にTO欄ではなくBCC欄を使うのがマナーです。しかし、人間のミスは避けられません。
今回は、そんな「うっかりミス」を技術的に100%防ぐThunderbirdアドオンを開発した体験をお話しします。
なぜこのアドオンを作ったのか?
実体験から生まれた必要性
実際にビジネス環境で、メール誤送信による個人情報漏洩事故を目撃したことがきっかけです。特に:
- プライバシー保護: GDPR・個人情報保護法への対応
- ビジネスマナー: 複数宛先はBCC欄を使用するのが常識
- 人的ミスの排除: 技術的に100%防げるなら防ぐべき
他のソリューションとの違い
既存のメールクライアントには基本的な送信確認機能はありますが:
- 専門性: プライバシー保護に特化
- 確実性: 100%の防止を目指した設計
- 無料: オープンソースで誰でも使用可能
開発した「Thunderbird 誤送信防止アドオン」とは
このアドオンは、Mozilla Thunderbirdでメール送信時に以下の機能を提供します:
🔍 主要機能
-
TO欄・CC欄の複数アドレス自動検出
- 送信前に自動的にチェック
- 日本語名「田中太郎 email@example.com」形式にも対応
-
確実な送信停止
- 複数アドレスが検出されたら即座に送信を停止
- エラーが発生しても確実に停止
-
分かりやすい警告表示
- システム通知
- アラートダイアログ
- コンソール警告(開発者向け)
🔒 新機能:プライバシー保護強化機能(v1.2.0)
-
BCC送信時の自動保護
- BCC欄のみで送信する際、TO欄が空の場合は送信元アドレスを自動追加
- 受信者間の相互可視性を完全遮断
- ユーザー確認ダイアログによる安全な実行
-
設定機能
- カスタマイズ可能な設定画面
- 各機能の有効/無効を調整可能
- リアルタイム設定反映
⚡ 動作例
従来の警告ダイアログ
🚨 誤送信防止警告
TO欄に複数のメールアドレスが検出されました!
送信が停止されました。
検出されたアドレス:
• yamada@example.com
• tanaka@example.com
BCC欄を使用することを推奨します。
新機能:プライバシー保護強化の確認ダイアログ
🔒 プライバシー保護強化の提案
TO欄が空ですが、BCC欄に2個のアドレスがあります。
送信元アドレス (your-email@example.com) をTO欄に自動追加しますか?
✓ メリット: 受信者間の相互可視性を完全遮断
⚠️ 注意: 一部のメールクライアントで「自分宛て」と表示される場合があります
「OK」で自動追加、「キャンセル」で手動調整
開発で苦労した点
1. メールアドレス解析の複雑さ
日本語名を含むメールアドレス形式への対応が一番苦労した点でした:
// "AKIOOGAWA <testexample@xxxexamplemail.com>" 形式の解析
const match = recipient.match(/<([^>]+)>/);
if (match && EMAIL_REGEX.test(match[1])) {
emailAddress = match[1];
}
2. 警告表示の確実性
ThunderbirdのWebExtension環境では、警告表示の方法が限られていました。複数の方法を組み合わせることで解決:
- システム通知
- アラートダイアログ
- タブタイトル変更
- コンソール警告
3. 環境依存の問題
異なるThunderbirdバージョン(v78.0、v128.9.1、v142.0)での動作確認と、各環境での互換性確保に時間がかかりました。
4. 設定機能の実装(v1.2.0)
- リアルタイム同期: 設定変更の即座反映
- ストレージ管理: browser.storage.local APIの活用
- UI設計: モダンで直感的な設定画面
5. プライバシー保護強化機能(v1.2.0)
- メール内容の変更: browser.compose.setComposeDetails API
- ユーザー確認: セキュリティ制限を考慮したダイアログ表示
- フォールバック機能: エラー時の代替手段
対応環境
- Thunderbird: v78.0 以降(v128.9.1、v142.0で動作確認済み)
- OS: Windows 10/11、macOS、Linux
- 多言語: 日本語名を含むメールアドレスに対応
インストール方法
1. ZIPファイルのダウンロード
- GitHub Releases から
thunderbird_-1.2.0.zip
をダウンロード
2. Thunderbirdでのインストール
- Thunderbirdを開く
-
ツール
→アドオン
を選択 - 歯車アイコン →
ファイルからアドオンをインストール
- ダウンロードしたZIPファイルを選択
3. 動作確認
TO欄に複数のメールアドレスを入力して送信ボタンをクリック → 警告が表示されればOK!
4. 設定のカスタマイズ(v1.2.0)
-
ツール
→アドオン
→ アドオンを選択 →設定
- 各機能の有効/無効を調整
- 設定は即座に反映されます
実際の使用例
ビジネスシーン
- 社内連絡: 複数の部署への一斉連絡
- 顧客対応: 複数顧客への情報提供
- イベント案内: 参加者への一斉案内
教育シーン
- 学生連絡: 複数クラスへの連絡
- 保護者連絡: 複数保護者への案内
- 教職員連絡: 複数教員への情報共有
新機能の活用例(v1.2.0)
- BCC一斉送信: プライバシー保護強化機能で自動的にTO欄に送信元アドレスを追加
- 設定のカスタマイズ: 組織のポリシーに合わせた機能の調整
- 確認ダイアログ: 重要な操作前のユーザー確認
プライバシー保護の重要性
個人情報漏洩のリスク
- メールアドレスの露出: 受信者同士が互いのアドレスを知ってしまう
- プライバシー侵害: 意図しない情報共有
- 法的リスク: GDPR・個人情報保護法違反の可能性
適切なメール運用
- BCC欄の使用: 受信者同士のアドレスを隠す
- 一斉送信の注意: 複数宛先の場合は必ずBCC
- 確認の習慣: 送信前の最終確認
新機能による強化(v1.2.0)
- 自動保護: BCC送信時の自動的なプライバシー保護
- ユーザー教育: 確認ダイアログによる意識向上
- カスタマイズ: 組織に合わせた設定調整
技術的実装の詳細
WebExtension APIs の活用
// 送信前の検知
browser.compose.onBeforeSend.addListener(async (tab, details) => {
// メールアドレスの解析とチェック
});
// メール内容の変更
browser.compose.setComposeDetails(tab.id, {
to: [senderEmail]
});
// 設定の保存・読み込み
browser.storage.local.set({ addonSettings: settings });
設定同期の仕組み
// リアルタイム設定同期
browser.storage.onChanged.addListener((changes, area) => {
if (area === 'local' && changes.addonSettings) {
currentSettings = changes.addonSettings.newValue;
}
});
今後の計画
v1.2.0 完了機能 ✅
- 設定画面: ユーザーカスタマイズ機能
- プライバシー保護強化: BCC送信時の自動保護
- ユーザー確認システム: アラートダイアログによる確認
- 設定同期: リアルタイムでの設定反映
v2.0.0 構想
- AI機能: メール内容の自動チェック
- クラウド連携: 設定の同期機能
- 他プラットフォーム: Outlook、Apple Mail対応
- 統計機能: 誤送信防止回数の記録
- 多言語対応: 英語・中国語・韓国語
オープンソースとしての公開
このアドオンは MITライセンス で公開しています:
- GitHub: https://github.com/doublecracker/thunderbird-misend-prevention-addon
- Issue報告: バグ報告・機能要求を歓迎
- Pull Request: コミュニティからの貢献を歓迎
社会的インパクト
プライバシー保護の普及
- 教育効果: ユーザーの意識向上
- 業界標準: プライバシー保護のベストプラクティス
- 法規制対応: GDPR・個人情報保護法への対応
ビジネス環境での活用
- リスク軽減: 情報漏洩事故の防止
- コンプライアンス: 企業のガバナンス強化
- 教育ツール: 適切なメール運用の啓蒙
新機能による追加価値(v1.2.0)
- 自動化: 手動操作の削減
- カスタマイズ: 組織に合わせた運用
- ユーザビリティ: より使いやすいインターフェース
まとめ
メール誤送信は「うっかりミス」として軽視されがちですが、プライバシー保護の観点から見れば重大な問題です。技術的に100%防げるなら、積極的に防ぐべきです。
v1.2.0では、プライバシー保護強化機能と設定機能を追加し、より安全で使いやすいアドオンになりました。このアドオンが、より安全で適切なメール運用の普及に貢献できれば幸いです。
ご利用・フィードバックお待ちしています!
- ダウンロード: GitHub Releases
- ダウンロード: Thunderbird向けアドオンhttps://addons.thunderbird.net/JA/thunderbird/addon/thunderbird-%E8%AA%A4%E9%80%81%E4%BF%A1%E9%98%B2%E6%AD%A2%E3%82%A2%E3%83%89%E3%82%AA%E3%83%B3/?src=hp-dl-upandcoming
- バグ報告: GitHub Issues
- お問い合わせ: akioogawa2021@gmail.com
AKIO OGAWA
ソフトウェア開発者 | プライバシー保護推進者
関連記事:
- WebExtension開発で実現するセキュリティ機能
- プライバシー保護のためのメール運用ベストプラクティス
- Thunderbirdアドオン開発の実践ガイド