社内コミュニティで陥りがちな「10のバッドサイクル」とその対策
企業内でクラウドやDXのようなテーマを推進する際、しばしば立ち上がるのが「社内コミュニティ」。
しかし、どれだけ熱意を持って始めたとしても、運営していく中で思わぬ“悪循環”に陥ることがあります。
本記事では、私の経験をもとに、「社内コミュニティにありがちな10のバッドサイクル」とその対策をストーリー形式で紹介します。
① 固定化サイクル:メンバーが固定化し、新陳代謝が止まる
あるある
- 参加者が毎回同じ顔ぶれ
- 新しい人が入りづらくなる
- 内容がマンネリ化する
ミニストーリー
コミュニティのTeamsでは、いつも同じ3人しか反応がない。新規イベントを開催しても初参加者はゼロ。気づけば "内輪ノリ" の場になってしまっていた。
対策・予防
- 初参加者向けの回を定期開催
- メンバーに「誰か一人連れてきて」を促す
- 運営ローテーションで流動性を確保
② 外部依存サイクル:著名人で盛り上がるが、内発性が育たない
あるある
- 有名ゲスト回だけ大盛況
- 通常会は閑古鳥
- 「次も誰か有名な人呼ばないの?」となる
ミニストーリー
業界で著名な技術者を招いた講演会には300人以上が参加。しかし、翌週の社内LT会には5人しか集まらなかった。「またすごい人呼ばないの?」の声ばかりが残った。
対策・予防
- 外部講演と社内施策を連動させる(できれば講演内容に社内のテーマも絡めてもらう)
- アフターで「実践共有会」など内向きの活動も設計
- 外部の知見で“気づき”を得て、社内で“動き”に変える
③ あいまい化サイクル:テーマが拡大しすぎて軸がブレる
あるある
- 話題が拡散し、もはや何の会か分からない
- 目的が不明瞭で参加者が離脱
- 共通言語がなくなる
ミニストーリー
「AIもやろう」「セキュリティもいいね」と話題を広げた結果、会の目的がぼやけてしまい、参加者が混乱。「今回は何の話なの?」という声が増えた。
対策・予防
- ミッションの明文化と共有(常に目の届くところにミッションを掲示)
- 新テーマ導入前に参加者と対話
- 分科会として切り出す設計も検討
④ 強制加入サイクル:上司指示で加入者が増え、主体性が低下
あるある
- 半強制的な参加で熱量が伴わない
- 幽霊部員が増加
- 本気で関わる人が萎縮する
ミニストーリー
部長の「うちの若手も参加させます」で瞬間風速的に20人追加されたが、誰一人リアクションせず。数字は増えたが、実質的な熱量は下がっていった。
対策・予防
- 任意参加・見学歓迎を原則に
- 自発的な参加動機を言語化
- 脱退自由を明記してストレスを減らす
⑤ 統合分散サイクル:他コミュニティと統合して摩擦、再分裂
あるある
- 統合後の違和感や文化摩擦
- コミュニティのカラーが失われる
- 結局、再び分裂する
ミニストーリー
似たテーマのインフラ系とクラウド系コミュニティが統合。しかし文化が合わず、Teams上のコミュニケーションがギクシャク。数ヶ月後、また別々の活動になった。
対策・予防
- 統合時は価値観と進め方の合意形成を丁寧に
- 無理に統合せずネットワーク型連携も選択肢
- 相互理解を深める自己紹介LTなどを実施
⑥ ヒエラルキー化サイクル:肩書が持ち込まれ発言しづらくなる
あるある
- 上司がいると若手が黙る
- 部署ごとのパワーバランスが現れる
- 発言の質より肩書で通る空気感
ミニストーリー
LT会で若手が意見を出そうとしたが、部長の存在に気づいて口をつぐんだ。その後、若手の参加率が下がりはじめた。
対策・予防
- 匿名での意見収集や感想共有
- 上位者には“聞き役”のスタンスを依頼
- 「誰が言ったかではなく、何を言ったか」を重視する文化
【補足】
企業内の会議やコミュニティの場では、ときに以下のような力学が働きがちです:
・発言者の役職や立場が強調されすぎてしまう
・年次・所属部署・キャリア年数によって意見の重みが変わってしまう
・「〇〇部長が言ったからそうしよう」という空気になってしまう
これらは、心理的安全性の低下や若手・現場メンバーの沈黙につながります。「誰が言ったかではなく、何を言ったか」を重視する文化とは、発言者の肩書ではなく、内容そのものの価値で判断することです。誰が出しても、良いアイデアはフラットに扱われる状況です。
若手・非エンジニア・他部署など、これまで声を上げづらかった層にも“発言の居場所”がある状態のことです。
具体的には、以下のような対策が有効です。
・発言者の肩書に頼らない進行スタイル(例:匿名アイデア投稿、順不同で意見を拾う)
・ファシリテーターが繰り返し口に出して定着させる(例:「それ面白いですね、まさに“アイデアが主役”な視点ですね!」)
⑦ 知識断絶サイクル:知識レベルのギャップが埋まらない
あるある
- コミュニティに長く関わっているベテランは物足りず、初心者はついていけない
- どちらも参加満足度が低い
- 共通の話題が成立しない
ミニストーリー
新卒のAさんが入門的な学びを期待して参加したが、内容はマニアックな最適化トーク。「私にはまだ早い…」と感じ、それきり来なくなった。
対策・予防
- 対象者レベルを明記したイベント設計
- 初級・中級・上級の回を用意
- 入門者向けガイド資料を整備(アーカイブ資料なども有効)
⑧ イベント疲れサイクル:やりすぎて運営メンバーが燃え尽きる
あるある
- 毎週イベントで準備が追いつかない
- 運営が疲弊してしまう
- 「やること」が目的化
ミニストーリー
週1のLT、月1のワークショップ、外部登壇準備…。メンバーは「楽しい」を忘れ、スケジュールをこなすだけに。次第に誰も手を挙げなくなった。
対策・予防
- 年間スケジュールに緩急をつける(そもそも"定期感"をなくす)
- 空白週を「充電期間(コミュニティパワーチャージ中)」として明示
- 「今やりたいこと」を投票で決める設計
⑨ 過去依存サイクル:成功体験を繰り返し、時代に取り残される
あるある
- 同じイベントばかり開催
- 新しいチャレンジが敬遠される
- マンネリ化する
ミニストーリー
数年前に大好評だったLTイベントを毎年開催。だが今年は参加者が少なく、「またこのパターンか」と言われるように。
対策・予防
- 過去の成功要因を内省・記録する
- 定期的に「今、必要なこと」を対話
- 小さな新企画を試せる“実験枠”をつくる
⑩ 数値主義サイクル:参加者数だけを追い求めて本質を見失う
あるある
- 数字(PV、参加者数)だけがKPI化
- 参加者の関与度が見えない
- 内容が“ウケ狙い”に偏る
ミニストーリー
月次報告には「参加者250人!」と記載。でも実際には発言したのは3人だけで、残りは“聞いてただけ”。正直、聞いているのかすら怪しい。数字だけが独り歩きしていた。
対策・予防
- 満足度や再参加率など“質の指標”を評価軸に加える。参加組織の数など、横の繋がりの指標も重要。
- 少人数の深い対話の価値も評価する文化を育てる(アンケートの自由回答のメッセージも重要視)
- 成果を「行動変容」や「学びの共有」にフォーカス
おわりに
社内コミュニティは、“良かれと思ってやったこと”が思わぬ形で逆効果になることもあります。
だからこそ、短期的な反応に一喜一憂せず、中長期的な視点と構造的な設計が必要です。何より、継続することがとても大事です。
本記事の10のバッドサイクルとその対策が、みなさんのコミュニティ活動の振り返りや設計の参考になれば幸いです。