📘 数式で理解するブラウン運動と拡散方程式
✅ 1. ランダムウォーク(1次元)の基本モデル
ブラウン運動を数学的に考える最も簡単な方法は「1次元ランダムウォーク」です。
【モデル】
粒子が時刻 t = 0 で位置 x = 0 にいて、1秒ごとに
- +1(右)または -1(左)に移動する確率が同じ(1/2)
【式】
x(t) = s₁ + s₂ + s₃ + ... + sₙ
ただし:
- sᵢ ∈ {+1, -1} (各ステップの移動)
- t = n:ステップ数と時間を同一視(1秒ごと)
✅ 2. 平均と分散の計算
このときの位置 x(t) の統計的性質は次のようになります。
【平均】
E[x(t)] = 0
→ ランダムに左右へ同じ確率で動くので、平均位置は0にとどまる。
【分散】
Var[x(t)] = E[(x(t) - E[x(t)])²] = n
→ ステップ数が増えるほどばらつき(広がり)は大きくなる。
【標準偏差】
σ = √n
✅ 3. √tスケーリング則
上記より、「粒子の拡がり」は次の関係に従います:
拡がり(幅) ∝ √t
これは、ブラウン運動や拡散現象において非常に重要なスケーリング法則であり、時間が経つほどジワジワ広がる様子を表します。
✅ 4. 中心極限定理と正規分布への近似
多数のステップがある場合、確率分布は正規分布(ガウス分布)に近づきます:
【正規分布の形】
P(x, t) = (1 / √(2πσ²)) × exp(-x² / (2σ²))
ここで:
- σ² = t(1ステップの分散が1とした場合)
- exp(x) は e の x 乗、自然対数の底
【言い換え】
長い時間が経つと、粒子の位置分布は「左右対称の山形」になる。
✅ 5. 拡散方程式(偏微分方程式)
多くの粒子の平均的なふるまいを記述するのが拡散方程式です:
∂P(x,t)/∂t = D × ∂²P(x,t)/∂x²
【各記号の意味】
- P(x,t):位置 x に時刻 t で粒子が存在する確率密度(確率 / 単位長さ)
- ∂/∂t:時間に関する変化率(微分)
- ∂²/∂x²:位置 x に関する2階微分(曲がり具合)
- D:拡散係数(定数)
✅ 6. 拡散方程式の解(自由空間)
無限の空間に拡がる場合(境界なし)の解は次の通り:
P(x,t) = (1 / √(4πDt)) × exp(-x² / (4Dt))
【ポイント】
- 時間が経つと、山が低くなり横に広がる
- ∫P(x,t) dx = 1(全体で確率が1になる)
✅ 7. Fickの法則との関係
Fickの第1法則(粒子の流れ):
J(x,t) = -D × ∂P(x,t)/∂x
Fickの第2法則(密度の変化):
∂P(x,t)/∂t = -∂J(x,t)/∂x
【つまり】
Fickの法則(経験則)を数学的に突き詰めたものが拡散方程式。
✅ 8. 境界条件を入れると?
例:x = 0 に壁がある(左に行けない)
【反射境界条件】
∂P/∂x |_(x=0) = 0
【吸収境界条件】
P(x=0,t) = 0
こうした条件により、粒子の分布の形は時間とともに非対称になっていきます。
🎓 総まとめ(数式編)
現象 | 数式 | 意味 |
---|---|---|
ランダムウォーク | x(t) = Σsᵢ | 1回ずつランダムに±1移動 |
分散 | Var[x(t)] = t | 時間に比例して広がる |
√tスケーリング | σ = √t | 標準偏差が√tに比例 |
ガウス分布 | P(x,t) ∝ exp(-x² / (2t)) | ランダム和の極限は正規分布 |
拡散方程式 | ∂P/∂t = D ∂²P/∂x² | 粒子の分布が時間とともに変わる |
解(自由空間) | P(x,t) = (1 / √(4πDt)) × exp(-x² / 4Dt) | 時間とともに滑らかに広がる分布 |
Fickの法則(第1・第2) | J = -D ∂P/∂x、∂P/∂t = -∂J/∂x | 拡散の方向と速さを表す |