第0章 アナログフィルタ・AD変換・デジタルフィルタ
- アナログフィルタ
基本:
- 電子回路(R, L, C, オペアンプ)で実装される連続時間フィルタ
- 主な役割:
・アンチエイリアスフィルタ(AD変換前に高周波成分を除去)
・スピーカ用クロスオーバー(周波数帯域ごとに分配)
数式:
H(s) = Y(s) / X(s), s = σ + jω
例: 一次ローパスフィルタ
H(s) = 1 / (1 + sRC)
- AD変換 (Analog to Digital Conversion)
プロセス:
(1) サンプリング(時間軸を離散化)
x[n] = x(nTs), Ts = 1/fs
(2) 量子化(振幅を有限ビットに丸める)
Δ = VFS / 2^N
eq ∈ [ -Δ/2 , +Δ/2 ]
(N: ビット数, VFS: フルスケール電圧)
(3) 符号化(デジタル信号に変換)
重要な条件:
ナイキスト定理
fs ≥ 2 fmax
- デジタルフィルタ
基本:
- DSP(デジタル信号処理)で実現する離散時間フィルタ
- ADC後の信号処理で使用
- 高精度・柔軟な設計が可能
数式:
H(z) = Y(z) / X(z), z = e^(jωTs)
FIRフィルタ:
y[n] = Σ b_k x[n-k] (k=0...M)
IIRフィルタ:
y[n] = Σ b_k x[n-k] - Σ a_j y[n-j]
(k=0...M, j=1...N)
- 役割分担
(1) アナログフィルタ
・ADCの前に配置
・不要な高周波をカット(アンチエイリアス)
・電源ノイズやRF干渉の除去
(2) AD変換
・アナログ信号をデジタルに変換
・サンプリング周波数・ビット深度で精度が決まる
(3) デジタルフィルタ
・ソフトウェア処理で自由に特性を設計
・EQ、リバーブ、ノイズ低減、通信信号処理に応用
- 信号処理フロー(例)
[アナログ信号] → [アンチエイリアスLPF] → [ADC] → [デジタルフィルタ処理(EQ, Reverb, etc.)] → [DAC] → [スピーカ]
まとめ:
- アナログフィルタ = 前処理(物理世界の信号整形)
- AD変換 = アナログ世界とデジタル世界の橋渡し
- デジタルフィルタ = 後処理(高度な音響加工・信号処理)
第1章 アンプとチャンネル設定
1.1 アンプゲインの基本式とdB表現
・電圧ゲイン/電力ゲイン/電流ゲインの換算
・dBV, dBu, dBm の規格値と実用差異
・リニア値とデシベル値の双方向変換式
1.2 出力レベルとクリッピングの発生条件
・電源電圧と最大出力振幅の関係
・波形クリップとオーバーロード領域の定義
・対称クリップ/非対称クリップの数学モデル
1.3 歪みの定義(THD, IMD, SINAD)
・全高調波歪率 (THD) のフーリエ級数展開式
・相互変調歪 (IMD) のSMPTE法とCCIF法
・SINAD (Signal-to-Noise and Distortion Ratio) の定義
1.4 チャンネル構成:モノラル/ステレオ/マルチチャンネル
・両耳間時間差 (ITD) と両耳間強度差 (ILD)
・ステレオベース幅と定位角度の近似式
・サラウンド再生のチャンネル配分原理
1.5 パンニング計算と定位の工学的理解
・等電力パンニング式 (cos/sinカーブ)
・音像定位の角度推定モデル
・パンロールオフと実用上の補正係数
第2章 ゲイン調整とダイナミクス
2.1 ダイナミックレンジ(DR)の理論式
・デジタルオーディオの理想DR(ビット深度から算出)
・人間の可聴域に基づくDRの制限
2.2 ヘッドルームと信号対雑音比(SNR)
・ノイズフロアの定義と式
・電源リップル/熱雑音 (kT/C) の影響
2.3 コンプレッサの数式モデル
・入力出力関数:
y = f(x) = { x (x < T), T + (x - T)/R (x ≥ T) }
・アタック/リリースの時間定数近似式 (指数応答)
2.4 リミッターとサチュレーターの比較
・ハードリミッター=矩形関数による波形制限
・ソフトサチュレーション=非線形関数 (tanh, arctan)
第3章 キャビネットと周波数特性
3.1 キャビネット形状と共振周波数式
・箱形共振モード (fx = c/2Lx, fy = c/2Ly, fz = c/2Lz)
・低域共振と定在波の発生条件
3.2 オープンバックとクローズドバック
・背圧の有無と周波数応答の比較
・放射インピーダンスの近似式
3.3 ユニット数・口径と指向性
・指向性関数 D(θ) = sin(kd sinθ) / (kd sinθ)
・口径と波長の関係から見た指向性変化
3.4 バスレフ構造とヘルムホルツ共鳴
・f_res = (c/2π) √(S / (V·L))
・ダクト損失と共鳴ピークの制御法
第4章 トーンコントロールとEQ
4.1 アナログトーン回路(Baxandall型)の数式
・シェルビングフィルタの伝達関数
・ブースト/カット動作の対称性
4.2 フィルタの基本伝達関数
・1次/2次フィルタの一般式
・Butterworth/Chebyshev フィルタ特性
4.3 フラット設定の定義
・H(ω) ≈ 1 の条件
・位相応答の直線性と群遅延
4.4 EQのQ値と帯域幅
・Q = f0 / BW の定義
・高Q(狭帯域)と低Q(広帯域)の差異
第5章 歪みエフェクターの工学解析
5.1 ソフトクリッピングのモデル
・tanh(kx), arctan(kx) モデル
・非線形度と倍音特性の関係
5.2 ハードクリッピングと矩形波近似
・sign関数によるクリッピング式
・高調波分布の特徴
5.3 フーリエ展開による倍音成分解析
・偶数次/奇数次倍音の発生条件
・波形対称性と倍音抑制
5.4 代表的歪み回路のモデル
・オペアンプ+ダイオードの入出力特性式
・トランジスタのgm·Vbe非線形モデル
第6章 ディレイとリバーブ
6.1 ディレイ時間とサンプル数
・N = fs × Td
・整数/非整数サンプルディレイの補間処理
6.2 フィードバックディレイネットワーク(FDN)
・y[n] = Σ a_k x[n - τ_k] + Σ b_k y[n - τ_k]
・行列構造による安定条件
6.3 コムフィルタ効果
・H(ω) = 1 + e^{-jωτ} の周期的ノッチ構造
6.4 リバーブタイム(RT60)のサビン公式
・RT60 = 0.161 V / A
・A = Σ α_i S_i (吸音率 × 面積の総和)
6.5 吸音率と残響特性
・壁材ごとの吸音率データ
・残響時間制御の設計パラメータ
第7章 モジュレーション効果
7.1 LFOの基本式
・sin, tri, square 波の式とスペクトル分布
7.2 トレモロ(振幅変調)
・y(t) = x(t)[1 + m sin(2πf_LFO t)]
7.3 ビブラート(周波数変調)
・y(t) = sin[2π(f + Δf sin 2πf_LFO t) t]
7.4 コーラス(遅延変調+位相差)
・y[n] = x[n] + x[n - (D + ΔD sin(ω_LFO n))]
7.5 フランジャー(短周期遅延)
・コムフィルタ応答式と周波数シフト
7.6 フェイザー(オールパスフィルタ)
・H(s) = (s - a) / (s + a)
・段数を重ねたときの位相シフト特性