📘 Fokker-Planck方程式とLangevin方程式
✅ 1. 背景と目的:なぜ2つあるのか?
- Langevin方程式:粒子の**運動そのもの(力学的な時間発展)**を記述
- Fokker-Planck方程式:粒子の**確率密度の変化(統計的な振る舞い)**を記述
👉 この2つは「ミクロ vs マクロ」「力の法則 vs 確率の法則」のような関係で、互いに対応しています(対応原理)
✅ 2. Langevin方程式:ノイズを含む運動方程式
基本形(1次元):
m * dv/dt = -γv + η(t)
【各記号の意味】
-
m
: 粒子の質量 -
v
: 粒子の速度(時間依存) -
γ
: 粘性係数(摩擦) -
η(t)
: ランダムな外力(ホワイトノイズ)
【ポイント】
-
-γv
: ブレーキのような減速力(摩擦) -
η(t)
: 微視的にランダムな力(熱浴中の分子衝突)
✅ 3. ノイズの性質(ホワイトノイズ)
E[η(t)] = 0
E[η(t)η(t')] = 2γkT δ(t - t')
-
E[...]
: 期待値(平均) -
k
: ボルツマン定数 -
T
: 温度 -
δ
: ディラックのデルタ関数(t ≠ t’ ならゼロ)
👉 短い時間の中で完全にランダムなゆらぎ=ホワイトノイズ
✅ 4. Fokker-Planck方程式:確率密度の時間発展
● 基本形(速度 v の分布 P(v,t)):
∂P/∂t = ∂/∂v [γv P] + γkT ∂²P/∂v²
- 第1項:摩擦による収束(ドリフト項)
- 第2項:ランダム性による拡散(拡散項)
この式は、Langevin方程式から確率のルールで導かれます。
● 座標空間でのバージョン(オーバーダンピング極限):
(慣性が無視できる場合)
∂P/∂t = - ∂/∂x [A(x) P] + D ∂²P/∂x²
【各記号の意味】
-
P(x,t)
: 粒子が位置 x にいる確率密度 -
A(x)
: ドリフト項(例:ポテンシャルの勾配) -
D
: 拡散係数(∝ 温度)
✅ 5. 2つの方程式の対応関係(まとめ)
観点 | Langevin方程式 | Fokker-Planck方程式 |
---|---|---|
表現するもの | 粒子の個別の運動 | 多数の粒子の分布(確率密度) |
数式の型 | 微分方程式(ランダム項あり) | 偏微分方程式 |
ランダム性 | 力(ノイズ項)に入っている | 拡散項に変換されている |
モデルの意味 | シミュレーション向き | 理論解析や分布予測に向いている |
数式例(簡易) | dv/dt = -γv + η(t) | ∂P/∂t = γ ∂/∂v(vP) + D ∂²P/∂v² |
✅ 6. 応用例と物理的意義
- 熱雑音のモデリング(ブラウン運動、ナノスケール物理)
- 金融モデル(株価の変動をLangevin方程式風に表す)
- 量子拡張(量子Langevin、量子マスター方程式)
- 機械学習(確率的最適化、拡散モデル)
✅ 7. 直感イメージ(簡易まとめ)
-
Langevin方程式:
「粒子に“見えない手”がガチャガチャと押してくる」
→ ランダム性のある運動を“1粒子視点”で見る。 -
Fokker-Planck方程式:
「そのガチャガチャの結果、粒子の群れがどう広がるか」
→ 粒子の“群れ全体の分布”を時間とともに見る。