1. はじめに(Introduction)
近年、物理システムの統合的モデリングにおいて、Simscape Electricalは電気回路・機械系・熱系を包含したマルチドメインシステムの構築に有効なプラットフォームとして注目を集めている。Simscapeでは、モデル化されたブロック群が連立微分代数方程式(Differential-Algebraic Equations, 以下DAE)として数学的に定式化され、数値的に解かれる。本稿では、SimscapeにおけるDAE構造の定式化および代表的な数値ソルバーの特性と適用領域について論じる。
2. DAEによるモデル定式化(DAE-Based Formulation of Physical Networks)
Simscapeにおける物理ネットワークは、オームの法則やキルヒホッフの法則に基づき、状態変数 $\mathbf{x}(t)$ とその時間微分 $\dot{\mathbf{x}}(t)$ を含むDAEとして記述される。一般に、以下の形式で定式化される:
$$
\begin{cases}
\mathbf{f}(\mathbf{x}, \dot{\mathbf{x}}, t) = \mathbf{0} \
\mathbf{x}(t=0) = \mathbf{x}_0
\end{cases}
$$
ここで、$\mathbf{f}$ はシステム全体の構成方程式を表す非線形ベクトル関数であり、初期条件 $\mathbf{x}_0$ は時刻 $t=0$ における状態である。Simscapeブロックの結合により、これらの関係式は自動的に生成される。
3. RCL回路の例(Example: RCL Circuit)
単純なRCL直列回路における構成式は以下の通りである:
- 抵抗: $V_R = R i(t)$
- インダクタ: $V_L = L \dfrac{di(t)}{dt}$
- コンデンサ: $i_C(t) = C \dfrac{dV_C(t)}{dt}$
これらをキルヒホッフの電圧則(KVL)により統合すると:
$$
R i(t) + L \dfrac{di(t)}{dt} + \dfrac{1}{C} \int i(t) dt = 0
$$
すなわち、代数項と微分項が混在するDAEとしての構成が明確に示される。
4. 数値ソルバーの選択と特性(Numerical Solvers and Their Characteristics)
Simscapeでは複数のソルバーが提供されており、モデルの剛性や規模に応じて適切なソルバーを選択する必要がある。以下に主要ソルバーの比較を示す:
| ソルバー | 特徴 | 適用例 |
|---|---|---|
ode23t |
非剛性DAE向け、Trapezoidalルール | 線形・小規模回路 |
ode15s |
剛性対応、安定性重視 | インバータ・スイッチング系 |
ode23tb |
BDF法ベース、高速解法 | 力学×電気混合系 |
ode1be |
Backward Euler法、高安定 | パワーエレクトロニクス系 |
ode14x |
Simscape専用半陰解法 | 大規模モデルに推奨 |
特にode14xは、Simscapeに最適化されたソルバーであり、自動的なソルバー構成最適化により、高精度かつ高速な収束が可能となっている。
5. 結論(Conclusion)
本稿では、Simscape Electricalにおける物理ネットワークの数値的基盤としてのDAE構造の定式化および代表的なソルバーの特性を概観した。大規模かつ複雑なマルチドメインモデルに対しては、Simscape独自のode14xの利用が推奨される。今後は、実測データとの比較によるソルバー選択最適化に関するさらなる研究が望まれる。