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freeeを支えるマジ価値開発の極意

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freee のCEOの佐々木大輔です。freee Advent Calendarの13日目、本日は、freeeを支えるマジ価値開発についてのお話。

freeeでは freee が重要と考える価値基準の1つとして「ユーザーにとって本質的な価値があると信じることをする(通称、マジ価値)」というものを持っている。

当然、freeeのプロダクト開発においてはマジ価値を貫かなくてはならないし、それは容易ではないチャレンジだ。

ポイントは、ユーザーにとって本質的な価値があると、「自分が」信じることをするというところにあって、ここまで考え抜くということは容易ではないし、その結果はあまりにも抜本的すぎて、その時点ではすぐには理解されないということもあるだろう。このようなマジ価値開発を実践するためのポイントをまとめてみた。

観察による課題発見がベスト

本質的な価値を提供する上では、まず顧客にとって重要な課題の発見をすることが必要だ。課題を発見する際には、観察で発見できることがベストだと僕は思うが、もちろん観察にとらわれる必要はない。

観察のよいところは、ユーザー自身が気付いていない課題に出会える可能性があるからだ。ある作業を長い期間同じやり方をすることが当たり前になっている場合、その当事者にとってはそれが完全に当たり前になっていて、その作業自体が課題であるということを認識するのはとても難しい。

例えば、会計freeeや給与計算freeeは、経理や人事を経験したことがない僕がスタートアップのCFOを務めていた際に、経理や人事労務の業務を傍から眺める経験をしたことから着想を得た。また、学生時代にたまたまP&Gの会社説明会に行ったとき、洗剤の「ジョイ」の開発ストーリーとして、海外のリサーチャーも含めて日本の家庭の家事を観察したところ、日本の主婦が油で汚れた食器をゴシゴシ洗うのは当然と考えているということを発見した、というところに着想を得たという話を聞いたことも強く覚えているが、これも同様の例だ。まさか後に自分でもこのような例に痛感するようになるとは思ってもいなかった。

「イノベーションのジレンマ」の著者であるクレイトン・クリステンセンは、イノベーションを起こす要素としてもっとも重要ものとして「一見、関係なさそうな事柄を結びつける思考」を挙げているが、そのための素材として観察というのはいい刺激になりやすいということでもあると思う。

観察の限界も理解する

一方で、観察するということも別に万能のツールではない。性質上、そんなに回数がこなせるものではないので特殊事例にあたって大きく判断を誤るみたいなことは起こる可能性もある。また、逆に無理して数をこなしすぎることにより自分も当事者化してしまったり、強い仮説を持ちすぎてしまい都合のいい結果をえるための手段になってしまうことがある。

事後的には、発見した課題はどれほど広い範囲の人々に共通しうる課題なのだろうかも冷静に考えてみる必要がある。優秀な人であればあるほど、目の当たりにした課題を解決したいという気持ちにもなるし、このような気持ちを持てることはプロダクト開発においてとても重要な素養だと思う。ただし、一瞬ドライになって、一歩ひいてみると今見たことはどれほど重要かも考えてみないと、枝葉末節なソリューションに多大な時間をつかってしまうことにもなる。

統計情報も、このような段階では役立てられるときもある。「OO%の人が、このようなソリューションをほしいと思っている」というような意向を問うデータは全く意味がないと思うが、「OO%の人は、事実としてこのような行動をしている」というような事実を定量化するデータは「発見した課題が共通しうる範囲」を推し量る上で役に立つ。

顧客の声はどう捉えるべきか?

「顧客の声を聞きなさい」とは非常によく言われることであるし、全くそのとおりであると思う。そこにはいろいろなヒントが隠されているし、freee もユーザーからいただく声によって成長してきた。ただし、顧客の声を最大限活用するためには理解しておくべきバイアスがある。

  1. 顧客本人が理解している課題に対してのみが声としてあがってくる。例えば観察すれば見出すことができたかもしれない課題は把握できない可能性がある。(なので、大きなブレイクスルーの後に改善するプロセスで特に強力だという傾向はある)
  2. コメントが得られたときと異なる状況では違う反応が得られるかもしれない。例えば、あるプロダクトに対するフィードバックは、「ただのコンセプト段階」、「プロトタイプを前にして」、「実際に世の中で出回り始めている」、「割と周囲にそのプロダクトを使っている人がいると認識している」のそれぞれのフェーズで随分異なってくる。異なるフェーズでどう思うだろうかと聞いて、意味のある答えが得られるかどうかは結構難しいだろう
  3. プロダクト開発に携わるあなたが直接聞く顧客の声には、あなた自身のバイアスがある。例えば、すでに「こうなんじゃないか」と思っているときには、そのバイアスがある
  4. カスタマーサポート、セールスなど他のチーム経由で聞く顧客の声や外部のパートナーなどから聞く顧客の声には、それぞれのバイアスがある。ここにはそれぞれの顧客の声を聞く人の役割によるバイアスや顧客がそれぞれの人と接する際の目的や交渉上のバイアスがあるだろう。例えば、「OOがないから、このプロダクトは使えない」という声は、単なる断り文句である可能性もある

このようなバイアスを理解した上で、届いてくる顧客の声から、本当の顧客の課題を想像しようとしてみることが大事だ。一般的には、顧客の声が多ければ多いほど、想像の手助けになるだろう、また、存在するバイアスも分散していれば、想像するための視野は広くなるだろう。プラトンのイデア論や統計でいう母数と標本の話に近いことで、直接観測できないイデアや母数が何かをイメージすることが求められるのだ。(クラスとインスタンスだとちょっと直接的すぎるイメージですが、このあたり、ソフトウエアにおける例えなどあれば大歓迎です)

「OOの機能が欲しい」という声は、ぜひ想像力を拡げて受け止めたい声だ。できれば、そう思うのはなぜなのか、その背景を徹底的に掘り下げたい。実は把握するべき本質的な課題がどこかに潜んでいるかもしれない。

原理原則に立ち返る

観察や顧客の声が徹底的に役に立つ一方で、原理原則に一旦立ち返ることも非常に重要である。例えば、そもそもそのプロダクトはなぜ世の中に必要なのか。その課題が存在する理由は何なのか。そういった問いを投げかけることだ。

例えば、会計ソフトを例にとると、会計ソフトがなぜ必要かという根本的な問いを考えてみることだ。それはおそらく、事業存続のために必要であって、なぜ事業存続のために必要かといえば、1) 経営状況を把握し、よりよい意思決定をする 2) 法制上事業に求められる要件を満たす(例えば納税など)、というところになると思う。

こういった原理原則と、認識した顧客の課題を突き合わせてみることはとても重要だ。これがないと、もしかするとまったく的外れなソリューションを生み出してしまうかもしれない。

マジ価値開発の極意は研ぎ澄まされた情熱である

ここまでで挙げてきたポイントは、少しドライなものばかりだったのではないかなと思う。それには理由がある。マジ価値開発は、「目の前の課題を見ると解決してしまいたくなる人々」を前提としているからだ。課題発見や解決のためいろいろな情報に触れることで自然と情熱が湧いてきていて、むしろそれをドライに取捨選択して、ドライにブラッシュアップして考え抜いて、その過程を経た情熱をかたちにすることこそが、マジ価値開発である。

そして、マジ価値開発のプロセスにおいて処理されるべき情報は多い場合も多く、その際には関わる人全員が、このエッセンスを理解しつつ、強い信頼関係をもって分担していくことも求められる。そこに大きなゴールを達成するための面白みもある。

次回予告

次回は、freee のそば打ち名人こと、@inage782 がお届けします。