TL;DR
- Amazon FSx for Windows File Server(7.2TB SSD、スループット32MB/s、Multi-AZ)のコストを見直した際、CloudWatchで7日間実測したらスループット使用率は最大でも**0.25%だった。誰でもここを削りたくなる数字だが、実際に32→8MB/sへ削減しても月額削減は7,920円(年間約9.5万円)**にとどまった
- 月額31万円の内訳を見ると、スループット関連費用は全体の**3.3%**しかない。派手な使用率と、実際に効く金額はまったく別物だった
- 月額の9割以上はストレージ種別とMulti-AZ構成に埋まっていた。ただし今回手をつけたのはストレージ種別(SSD→HDD)だけで、Multi-AZは維持したまま月額**12万4,020円(年換算約149万円)**を削減できた。Multi-AZにはさらに削減余地が残っている
- 技術的に最も削減額が大きい案(SSD Single-AZ、年約190万円)ではなく、HDD Multi-AZ(年約130万円)を採用した。理由は性能ではなく、HDD構成が既に社内承認済みで、承認を取り直すコストを避けたかったという実務上の判断
- 単価はAWS公式の料金表・料金計算ツールで必ず確認してほしい。本記事の単価は2025年8月時点で筆者が試算に用いた数字であり、時期やリージョン、契約条件で変わる
背景:月額31万円のファイルサーバ、まず何を疑ったか
社内で運用しているAmazon FSx for Windows File Serverが、月額換算で約31.8万円(年換算で約382万円)かかっていることが分かりました。構成は次の通りです。
- ファイルシステム: Amazon FSx for Windows File Server
- ストレージ: 7.2TB(SSD)
- スループット容量: 32MB/s
- デプロイメント: Multi-AZ
- リージョン: ap-northeast-1(東京)
コスト削減の検討を始めるとき、多くの人がまず疑うのは「スループット容量を張りすぎていないか」だと思います。自分もそうでした。FSxのコンソールでもCloudWatchでも、スループットの使用率はグラフとして一番見やすい指標ですし、「32MB/sも本当に必要なのか」という直感は理にかなっているように見えます。
そこでまず、実際の使用量をCloudWatchメトリクスで7日間追ってみることにしました。
実測:CloudWatchで7日分を取ったら、使用率0.25%だった
2025年7月26日〜8月2日の7日間、DataReadBytesとDataWriteBytesを日次で集計しました。
| 日付 | 読み取り | 書き込み |
|---|---|---|
| 07/26(土) | 0.035 GB | 0.016 GB |
| 07/27(日) | 0.084 GB | 0.014 GB |
| 07/28(月) | 3.84 GB | 0.23 GB |
| 07/29(火) | 4.10 GB | 0.56 GB |
| 07/30(水) | 6.31 GB | 0.62 GB |
| 07/31(木) | 2.14 GB | 0.85 GB |
| 08/01(金) | 1.50 GB | 1.07 GB |
| 08/02(土) | 0.002 GB | 0.0001 GB |
傾向としては次の2点がはっきり出ました。
- 平日(月〜金)に使用量が集中し、土日はほぼゼロに近い
- 読み取りが書き込みの4〜6倍程度あり、読み取り中心のワークロードである
スループット容量32MB/sの場合、1日あたりの理論最大転送量は次の計算になります。
32 MB/s × 86,400秒 = 2,764,800 MB ≒ 2,700 GB/日
これに対して実測の最大値は、最も使用量が多かった7/30で読み取り6.31GB+書き込み0.62GBの合計6.93GB。理論最大値2,700GBに対する使用率は次の通りです。
6.93 GB ÷ 2,700 GB ≒ 0.25%
スループット使用率、最大でも0.25%。 数字だけ見ると「9割9分以上が無駄」に見えます。ここで多くの人(自分を含む)は「じゃあ8MB/sまで削れる」と考えて、そこで満足してしまいがちです。
転回点:0.25%を直しても年間9.5万円にしかならなかった
32MB/sから8MB/sへの削減は、使用率のグラフだけ見ると劇的です。実際にどれだけ効くのか計算してみます。
- 削減幅: 32MB/s → 8MB/s(24MB/s分)
- 削減額: 24 MB/s × $2.20/MB/s = $52.8/月 ≒ 7,920円/月
- 年間換算: 7,920円 × 12 = 約95,040円/年
75%もの使用率削減が、金額にすると月7,920円、年間約9.5万円です。「思ったより小さい」と感じたので、月額31.8万円の内訳をもう一度、項目ごとに分解してみました(2025年8月時点、1USD=150円換算)。
| 項目 | 月額 | 全体に占める割合 |
|---|---|---|
| SSDストレージ(7,200GB) | 140,400円 | 44.1% |
| スループット(32MB/s) | 10,560円 | 3.3% |
| Multi-AZ追加分(ストレージ・スループットの複製) | 150,960円 | 47.5% |
| バックアップ(2,160GB) | 16,200円 | 5.1% |
| 合計 | 318,120円 | 100% |
答えが表に出ています。スループット単体は月額全体のわずか3.3%です。 ここをどれだけ最適化しても、母数が小さいので絶対額は増えません。0.25%という使用率の低さは事実でしたが、それは「削るべき緊急度」ではなく「もともと料金への影響が小さい項目だった」ことを意味していました。
一方で、ストレージ(44.1%)とMulti-AZ追加分(47.5%)を合わせると全体の91.6%を占めています。ここに手をつけない限り、コスト構造は実質変わりません。
では金はどこにあったのか:ストレージ種別とMulti-AZ
上の表からも分かる通り、コストの9割以上はストレージ種別とMulti-AZ構成に由来します。この2つは独立した軸ではなく、Multi-AZは「ストレージとスループットの費用をもう一組分」複製する仕組みなので、ストレージ単価そのものを下げる(SSD→HDD)か、複製自体をやめる(Multi-AZ→Single-AZ)かの二択、または両方の組み合わせが選択肢になります。
検討した3案と、なぜHDD Multi-AZを選んだか
削減余地のある3つの案を比較しました。
| 案 | 年額削減(検討初期の概算) | 性能維持 |
|---|---|---|
| SSD Single-AZ 移行 | 約190万円 | 95% |
| HDD Multi-AZ 移行 | 約130万円 | 70% |
| スループット最適化のみ | 約7万円 | 100% |
この表は検討初期に作った概算で、後述の内訳を積み直した結果、HDD Multi-AZは約130万円から約149万円へ、スループット最適化のみは約7万円から約9.5万円へそれぞれ上振れしました。3案の順位は変わらなかったため、意思決定はこの概算の段階で行っています。以降の本文では精査後の数字を使います。
数字だけ見ればSSD Single-AZ移行が最も削減額が大きく、性能維持率も95%と高いので「最適解」に見えます。しかし最終的に採用したのはHDD Multi-AZ移行でした。
理由は技術的な優劣ではありません。HDD構成は社内で既に承認が下りていたのに対し、Single-AZ化は可用性要件に関わるため、あらためて承認を取り直す必要があったからです。承認プロセスをやり直す社内調整コストが、SSD Single-AZとの削減額の差(年間約60万円)に見合わないと判断し、既に承認済みのHDD Multi-AZを選びました。技術的な最適解ではなく、実務上の意思決定であることは正直に書いておきます。何か問題が起きた場合は、HDD Multi-AZからSSD Single-AZへ切り替える選択肢は残してあります。
HDD移行後の月額内訳は次の通りです。
| 項目 | 移行前 | 移行後 | 削減額 |
|---|---|---|---|
| ストレージ(Multi-AZ込み) | 280,800円/月 | 172,800円/月 | 108,000円/月 |
| バックアップ | 16,200円/月 | 8,100円/月 | 8,100円/月 |
| スループット最適化(32→8MB/s) | ー | ー | 7,920円/月 |
| 合計削減 | ー | ー | 124,020円/月 |
年間換算では124,020円×12=約148.8万円/年の削減です。この内訳を見れば、スループット最適化分(7,920円)が全体の削減額のうち6.4%しか占めていないことも分かります。金額の主役は最後まで一貫してストレージとMulti-AZでした。
移行方式・一時コスト・性能トレードオフ
移行はオンライン方式を採用し、既存のFSxを稼働させたまま新環境へデータを移行します。
- 並行稼働期間: 3〜5日間(切り替え前の動作確認用)
- 業務停止時間: 切り替え時の10〜30分のみ
- 一時コスト: 並行稼働(3日間)約53,000円+最終バックアップ(7日保持)約12,600円=約65,600円
- 投資回収期間: 月124,020円の削減に対し、65,600円 ÷ 124,020円 ≒ 約0.5ヶ月
性能面のトレードオフは次の通りです。
| 指標 | 移行前(SSD) | 移行後(HDD) |
|---|---|---|
| レイテンシ | 1ms | 3〜5ms |
| IOPS | 21,600 | 7,200 |
| スループット | 32MB/s | 32MB/s(維持可能) |
| 可用性(Multi-AZ) | 維持 | 維持 |
レイテンシは3〜5倍、IOPSは1/3に低下しますが、スループットと可用性は維持されます。今回のワークロードは読み取り中心で、ピーク時でも日次6.93GB程度と絶対量が小さかったため、この低下は許容範囲と判断しました。IOPS要求が厳しいワークロードや、レイテンシに敏感なアプリケーションでは同じ判断にはならない可能性があります。
Q&A
Q. なぜ最初にスループットを疑ったのか。
A. CloudWatchのメトリクスの中でスループット使用率が一番見やすく、かつ0.25%という突出した数字が出たためです。目立つ数字ほど「削るべき対象」に見えてしまいますが、それが料金全体に占める割合を確認するまでは優先順位を判断できません。
Q. HDD移行でレイテンシが1ms→3-5msに悪化しても業務に影響しなかったのか。
A. 今回のワークロードは読み取り中心で、ピーク日でも読み取り6.31GB/書き込み1.07GB程度と絶対量が小さかったため、体感できるレベルの影響はありませんでした。IOPSやレイテンシの要求が厳しいワークロードであれば結論は変わります。
Q. 削減額が一番大きいSSD Single-AZ(年間約190万円)を選ばなかったのはなぜか。
A. 金額差(HDD Multi-AZとの差は年間約60万円)よりも、可用性要件を変更するための社内承認をあらためて取り直す調整コストの方が大きいと判断したためです。技術的最適解ではなく、承認プロセス上の現実的な選択でした。
Q. 記事中の単価($0.13/GBなど)をそのまま自分の見積もりに使っていいか。
A. いいえ。本記事の単価は2025年8月時点で筆者が試算に用いた数字です。リージョンや契約条件、時期によって変わるため、実際に検討する際はAWS公式の料金ページとAWS Pricing Calculatorで必ず確認してください。
得られた知見・まとめ
- 「使用率が低い」ことと「そこを削れば大きく節約できる」ことはイコールではない。まず、その項目が総額の何%を占めているかを先に確認すべきだった
- 今回のケースでは、スループットは総額のわずか3.3%だったため、75%削減しても年間約9.5万円にしかならなかった。対してストレージとMulti-AZは合計91.6%を占めており、実際の削減額124,020円のうち87%はストレージ種別の変更(SSD→HDD)だけで出ている。Multi-AZは今回まったく触っておらず、可用性要件を見直せる状況ならさらに削減余地が残っている
- コスト最適化の意思決定は、必ずしも技術的な最適解(削減額最大の案)が採用されるとは限らない。承認プロセスや社内調整のコストも、現実には削減額と同じ土俵で比較される
- 派手な削減率に飛びつく前に、月額の内訳表を作って各項目の構成比を出す。この一手間だけで、どこに時間を使うべきかの優先順位がまったく変わる