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通信分野におけるtop conferenceのreview (と見せかけたなにか)

Last updated at Posted at 2019-12-13

記事をご覧いただいている皆様,こんにちは.ドコモで無線通信技術の研究をしている濱です.
今ハワイにいます,その理由はまさにこの記事と直接的に関わりのある部分なのですが,後ほど説明しますね.
今回のadvent calendarでは2本の記事を書かせていただいており,今回は1本目になります.
クリスマス・イブには,無線通信が確立統計の学問と深い関わりがあるよって記事が出ます(出る予定です,まだ書いてないです,やばいです)ので,ぜひそちらも御覧ください.

概要

本記事では,通信分野におけるガチガチのpaper reviewをする予定でした
予定は未定ということで,最終的に以下「国際会議に参加してきたよ〜」というゆるい記事に落ち着いております,大人の事情(時間足りねえ!!)ですごめんなさい.

さて冒頭で触れたとおり,私は今ハワイに来ています.ちょっと早めの冬休みを満喫しているわけではなく(わけでもありますが一旦触れないでおきます),GLOBECOMという国際会議に参加しています.
今回の記事はindustryというよりacademicに偏っている記事になっておりますが,その理由は注釈をごらんください.1

いわゆるAIが流行りだしてから,top conferenceという単語がよく聞かれるようになった気がします.
通信分野では他分野と同様にjournal paperが最も重要とされていますが2,同じとまではいかなくともtop conferenceに採択され発表することは大きな意味のあることです.

無線通信におけるtop conferenceは2つ代表的なものがあります.
ICC(International Conference on Communications)とGLOBECOM(Global Communications Conference)です.

実際に今みなさんが使っている4G/LTEで用いられている誤り訂正符号のturbo符号は,1994年のICCで発表されたものであり,これら国際会議での成果も十分に認められるところであります.

それから,情報理論寄りの話になるとISIT(International Symposium on Information Theory)とかも有名です.

さて前置きはここまでにして,本記事の構成を下記に示します.

  1. 無線通信分野における研究の目的
    おそらくqiitaにはCS専攻の方が多く,この分野の研究っていったい何を目的としているのか,ご存じない方が多いと思います.まずはじめに簡単に説明します.

  2. GLOBECOM2019のreview
    メインパートになるはずだったGLOBECOMの報告をさらっとやります.

ではいきましょー.

無線通信分野における研究の目的

さて,まずは基本的な無線通信の知識をご紹介いたします.
この分野は有名な研究者Shannonによって大きな体系が構築されました.
その際に通信の容量(通信速度だと思っていただいて構いません)は理論的にupper bound(要するに達成できる理論的な最大値)が示されています.

C = B \log_2 \left( 1+\text{SNR} \right)

おいおい,いきなり式かよ!と思われた皆さん,大丈夫です,大したこと言ってません.
要するに,通信速度の限界は$B$と$\text{SNR}$という2つの値で理論的に決まってしまうということ,ただそれだけです.

ではこの$B$と$\text{SNR}$が何を言っているか,それが重要ですよね.
そしてこれこそが研究者の目的,そのものに直結するため非常な大事なパラメータです.
この2つのパラメータは,次の意味を持ちます.

・$B$ → 周波数帯域幅
・$\text{SNR}$ → 信号対雑音電力比

おいおい,なんのこっちゃと,そう思ったあなた,下記で言い換えましょう.

・$B$ → 無線通信システムが使う電波の周波数の幅
・$\text{SNR}$ → 無線通信システムが使う電力

まだわかりにくいですか?
では,次の一言だけ覚えて帰ってください.

「無線通信の通信速度は,たくさんの周波数と大きい電力を使うほど速くなる」

このことは理論的に明らかになっているので,簡単に通信速度を上げたければこれに従えばいいのです.
なのですごく幅広い周波数の電波を,すごく大きな電力で送信すれば,当たり前に通信速度は増加します.


ここで一点注意が必要です.
周波数が大きいor上がるほど通信容量が大きくなると表現されるのをしばしば見かけますが,これは厳密には誤りです.

周波数そのものはどこだろうと変わりません,重要なのは周波数の帯域幅です.
なので中心周波数1GHzで100MHzの帯域幅を使おうが,中心周波数100GHzで100MHzの帯域幅を使おうが,通信容量は変わりません.

高い周波数のほうが容量が大きいと言われるのは,単純に低い周波数がすでに多くのシステムで使われており,
周波数を高くしないと帯域幅を確保することができないからです.3


ほら,無線通信って簡単な気がしてきませんか?

もう少し詳しく考えてみると,先程の式から$B$すなわち周波数を広げるほうが,$\text{SNR}$電力を大きくするよりも
効果的なのがわかります.
通信速度$C$は$B$に対して比例しますが,$\text{SNR}$に対しては対数に従って増加するためです.

昨今話題になっている5Gではなぜ速度が劇的に増加するのか,
それはこの周波数帯域幅$B$を,高い周波数を用いることでこれまでの4Gに比べ非常に大きくするからです.

ちなみに$\text{SNR}$を大きくするために送信電力を上げるという手ももちろんありますが,
人体への影響等を考慮し十分に安全な範囲内で運用することが求められますから,現実的ではありません.
それにエコじゃないので.

さて,ここまで話してきてみなさん疑問に思いませんか?
研究者がやることってなに?と.
だって$B$や$\text{SNR}$を大きくすれば自然と通信速度速くなるでしょ.それだけじゃん.

そうじゃないんです.
あくまでもさっきの式は理論上は達成可能な最大となる値を示しているだけで,実際にどういうシステムでどういう方式を使うと近づけることができるのかは全くの別問題です.
これが無線通信分野の研究者に託されたミッションなのです,

GLOBECOM2019

GLOBECOMはIEEEのComsoc(Communication Society)が運営している会議で,多くの参加者が様々な内容の発表を行っています.
1つ1つの論文紹介はまだpublishされていないので控えることにしますが,今年は下記内容の発表が多く見られ,5Gへの期待が高いことも見て取れました.

Massive MIMO

massive MIMOは5Gのkey technologyの一つですが,ここ数年非常に多くの発表が行われており,年々増加傾向にあります.
今年も例にもれずmassive MIMOだけで複数のセッションが開催され,それ以外にも多くの発表で検討されていました.

その中でも特に,
・channel estimation for FDD
・low complexity beamforming
・spatial modulation (index modulation)
等に関する発表が多かったように感じます.

Physical Layer Security

従来セキュリティは情報源を暗号化することによって担保していますが,物理層でこれを実現する研究が最近増えてきています.
物理的な伝搬channelはそのユーザ特有であるということがモチベーションとなっていますが,個人的にはだったら普通に暗号化すれば良くない?という気持ちを禁じえません.

Machine Learning for wireless communications

機械学習の適用も最近の流行りです.特に,先述のmassive MIMOでは計算量が問題となるケースが有ることから,機械学習による簡易で答えを吐き出す信号処理が検討されているようです.
一方で次回の記事でも触れますが,ある程度理論的に構築されている世界ですので,最適な解が既に与えられているケースが多く,抜本的なシステムの改善は難しそうだなというのが個人的な見解です.

おわりに

読み返してみると相当の長さの記事になってしまい,
日頃の私のおしゃべりグセがよく現れているなと感じるところです.

ではこれから日本に帰ります.
次はクリスマスイブにお会いしましょう.


  1. 私はドコモで働きながら博士課程で大学に通っており,今回のGLOBECOMは大学側での発表なので,会社は1週間年休を取得して参加しています.会社の制度で通う場合には業務扱いで参加が可能ですが,私は自費で大学に通っているため,会社はプライベートの休暇,大学は海外出張の扱いになるわけです.したがって今回は,academicの立場から記事を書いております. 

  2. 通信分野のjournalは,IEEEのCommunication SocietyとSignal Processing Societyが出しているものを触れておけば良いと思います.手っ取り早く技術的なpaperをsurveyするなら,IEEE Transactions on Communications / Wireless Communications / Signal Processing,あたりがおすすめです. 

  3. 電波の性質として,周波数が低いほど音,高いほど光に近づきます.そのため高い周波数を使うことにより,電波が届きにくくなると言った課題があることから,これまでは使い勝手の良い周波数を使ってきました. 

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