未出願の発明資料は、一度間違ったAIツールに入ると取り返しがつきません。学習データに取り込まれたり、知らない誰かに閲覧されたりした後で、削除ボタンを押しても元には戻らない。それなのに多くのツールの規約は「お客様のコンテンツをサービスの改善に利用することがあります」の一文だけ。「改善」に学習データへの取り込みが含まれるのかどうかは、どこにも書いてありません。
必要なのは、アップロードの前に必ず通す固定のチェックリストです。本記事では8項目を一覧表にまとめ、各項目について「合格の答えがどう書かれているか」まで具体的に示します。合格例の参照先は PatentFig AI のトラストページ(patentfig.ai/ja/trust)。他社の規約を読むときの物差しとして、同じ構造で照合できます。

AIツールの選定は機能比較の前に規約の照合から。未出願資料では順序を逆にできません。
クイックアンサー:8項目の一覧表
| # | 確認項目 | どこで確認するか | 合格の答えの形 |
|---|---|---|---|
| 1 | 学習条項 | 利用規約・プライバシーポリシーで「学習」「トレーニング」「改善」を検索 | 三段の否定:自社モデルで学習しない、外部AIプロバイダにも学習させない、学習・評価目的の人的閲覧もしない |
| 2 | 保持と削除 | プライバシーポリシーの保持期間の節 | 具体的な日数:削除期限、バックアップの入替周期、法令上の保持例外の範囲 |
| 3 | 暗号化 | セキュリティ/トラストページ | 通信時(TLS)だけでなく保存時の暗号化を明記 |
| 4 | 社内アクセス | セキュリティ/トラストページ | 最小権限、管理者アカウントの多要素認証、操作ログ |
| 5 | サブプロセッサ | サブプロセッサ一覧・DPA別紙 | 推論モデル、クラウドストレージ、決済の各社を名指しで開示 |
| 6 | 権利帰属 | 規約の「ユーザーコンテンツ」の節 | アップロードと生成物は利用者のもの、事業者のライセンスはサービス提供に必要な範囲だけ |
| 7 | 契約書類 | 営業・法務窓口 | DPA、越境移転があればSCC、相互NDA、「学習不使用」の契約条文化に対応 |
| 8 | 初期設定 | 製品の設定画面 | 学習利用のスイッチが既定でオフ、または自分で全部オフにできる |
8項目すべてに合格して、はじめて使い勝手の話になります。
項目1:学習条項——ここで大半のツールが落ちる
規約内を「学習」「トレーニング」「改善」で検索します。よくある答えは「提出されたコンテンツをサービスの改善に利用することがあります」。この文は、あなたの断面図がモデルに入ることも入らないことも許す、事業者側に解釈権のある文です。
合格の答えは扉を三つとも閉めます。参照例として、PatentFig のトラストページには、プロンプト・アップロード・生成結果・プロジェクトのメタデータを自社モデルの学習に使わない、第三者のAIプロバイダにも学習を許可しない、学習・ベンチマーク目的での人的閲覧もしない、と三段とも明文化されています。この構造で他社の規約を照合してください。一段しか否定していない規約は、残りの二段が開いたままです。
学習について何も書いていない規約は「使われる前提」で読みます。書いていないことを好意的に補う義理はありません。
項目2:保持期間は数字だけを信じる
削除ボタンを押すとファイルは一覧から消えますが、サーバーからもバックアップからも消えたとは限りません。一覧・本番ストレージ・バックアップは、別々の時間軸で動く三つの出来事です。
だから保持条項では形容詞ではなく数字を探します。合格例の粒度は、同じトラストページの書き方が参考になります:退会後30日以内に削除、バックアップは90日周期でローテーションして消去、課金や監査の記録だけは法令の求めに応じて別扱い。他社の数字が同じである必要はありませんが、保持を考え抜いた事業者の答えには必ず日数と例外の範囲が書いてあります。「いつでも削除できます」の一文だけなら、未記載と同じ扱いで構いません。
項目3〜5:暗号化・社内アクセス・サブプロセッサ
**暗号化。**通信時のTLSは今どき標準装備で、差はつきません。見るべきは保存時の暗号化が明記されているかどうかです。
**社内アクセス。**閲覧権限は業務上必要な範囲に絞られているか。管理者アカウントに多要素認証は必須か。操作ログは残るか。束ねると質問は一つです。先方の社員が興味本位であなたの未出願図面を開こうとしたとき、何が止めてくれるのか。
**サブプロセッサ。**推論モデルはどこの会社か、ファイルはどのクラウドに置かれるのか、決済はどこを通るのか。供給網を名指しで開示できる事業者は、それだけで一定の透明性があります。

一枚の未出願図面も、アップロードから生成までに推論・保存・決済の各インフラを通ります。その全経路がチェック対象です。
項目6〜7:権利帰属と、契約書類の段
権利帰属は読み飛ばされやすい節です。確認は二点。アップロードしたものと生成物は誰のものか。事業者が取得するライセンスはどこまで広いか。「永続的・全世界的・再許諾可能」なライセンスを求める個人向けツールもあり、SNS投稿なら問題なくても、出願前の図面では受け入れられない条項です。合格ラインは、サービス提供に必要な範囲に絞られた狭いライセンスです。
契約書類は主に法人・特許事務所向けの段です。データ処理契約(DPA)を締結できるか。越境移転があるなら標準契約条項(SCC)に対応できるか。相互NDAは可能か。「学習に使わない」という約束を、変更され得るウェブページではなく契約書の条文として再確認できるか。個人利用でも、ここに応じられる事業者かどうかは、ファイルを雑に扱われないかどうかのよい目安になります。
アップロードは「公知」になるのか
この判断をブログ記事(本記事を含みます)でしてはいけません。一般論としては、守秘条項のある非公開のサービスに閉じた形で送信する行為と、掲示板に投稿する行為は性質が違い、前者が直ちに公知になるとは通常考えられていません。ただ、この「通常」が曲者です。そのツールの規約がどうなっているか、人間のレビューや学習データへの取り込みがあり得るか、そして各法域が「公然」をどう解釈するかに依存します。日本の新規性まわりの一次情報は特許庁の公表資料であり、PCT経由で外国に出るなら WIPOのPCT制度の下で各国の判断が重なります。
実務的な手順は一つ。使おうとしているツールの規約を持って弁理士に確認することです。規約が曖昧なツールほど、確認の優先度が上がります。
項目8:無料ツール・個人向けツールの初期設定
個人向けチャットの既定値は、ビジネスモデル上、学習に有利な側に倒れがちです。履歴は既定で保存、モデル改善への利用は既定で有効、オプトアウトは設定の奥。無料プランほど顕著です。料金を払っていない場合、データが対価の一部だからです。
未出願資料の行き先は三つに限ります。
- 書面で学習不使用を明言している業務用ツール
- データ利用の設定を全部自分でオフにしてから使うツール
- 要部を伏せた抽象図に描き直してから渡す(サニタイズ)
三択で、四つ目はありません。8項目を通過した後にようやくワークフローの話です。手描きスケッチの線画化を回し、提出前に余白と符号を PatentFig の Figure Checker で点検する——ツールの使い勝手は、この流れ全体でいちばん心配のいらない部分です。
FAQ
無料プランと有料プランの規約は同じですか?
同じとは限りません。同じ会社でも個人向けと法人向けがまったく別のデータ条項で動いていることがあり、法人版の学習不使用の約束は無料版には及びません。実際に使うプランの規約を個別に確認してください。
法人・事務所の調達では何の書類を求めればいいですか?
四点です。データ処理契約(DPA)、越境移転がある場合の標準契約条項(SCC)、相互NDA、「学習不使用」の契約条文化。加えてサブプロセッサ一覧も求めておきます。
規約に学習の記載が一切ない場合は?
「使われる」前提で扱います。沈黙も一つのポリシーで、利用者に不利な側のポリシーです。ツールを替えるか、サニタイズの経路を取るかの二択です。
要部を伏せてからアップロードするのは有効ですか?
有効で、規約が不合格のときの唯一の逃げ道です。核心の構造・寸法・嵌合関係を削り、一般的な形状だけ残します。ただし解決できるのは「漏れたときの被害」であって「規約の問題」ではありません。機微が残るなら項目1〜7の確認はそのまま必要です。
他社ツールの答え合わせには、このページを物差しとしてどうぞ:PatentFig AI のトラスト&セキュリティ。
※本記事は法的助言ではありません。新規性・公知性の判断は弁理士にご相談ください。