意匠出願では、権利範囲は図面に表された意匠そのもので決まります。正面図と側面図が微妙に違う高さの製品を描いていれば、出願された意匠が特定できないという扱いになり得ます。拒絶理由や補正のやり取りが一往復すれば、それだけで一か月以上かかります。
視図間の矛盾の多くは、同じ原因から生まれます。元素材が斜め45度の製品写真やレンダリング1枚しかない、というケースです。斜めの画像ではすべての辺が遠近法で縮んで写っており、正投影の図を起こすには縮んだ分を推定で「戻す」しかありません。正面図で一回、側面図でもう一回、別々に推定すれば、二つの値が一致することはまずないのです。
この記事では、参考画像から多視図を生成するときにズレやすい5項目を一覧表に整理し、それぞれの見つけ方と直し方、そして PatentFig AI にそのまま貼れるプロンプト例を紹介します。

意匠の多視図セットでは、二つの図が共有する寸法が完全に一致していることが提出の前提です。
早見表:ズレやすい5項目
| 問題 | 見つけ方 | 直し方 |
|---|---|---|
| 比率のドリフト | 全図を同縮尺で横一列に並べ、水平ガイド線を引く | 基準にする図を1枚決め、他の図をそれに合わせて作り直す |
| 特徴の位置ズレ | スイッチ等の特徴から基準辺までの距離を図ごとに測って比較 | 特徴の位置を指定し、ズレた図だけ再生成する |
| 見えない面の創作 | 背面図・底面図を実物や追加写真と突き合わせる | 角度違いの写真を参考画像に追加。確認できない面は図の省略を検討 |
| 実線・破線の意味 | 破線が「権利範囲の外」を意味していないか一本ずつ確認 | 部分意匠の描き分けに従って引き直す |
| 陰影の流儀 | 提出先の作図基準と照合する | 出願先ごとに線の方針を分けて仕上げる |
以下、順に説明します。
1. 比率のドリフト
正面図の幅と平面図の幅、正面図の高さと側面図の高さは、正投影の定義上ぴったり一致するはずです。ところが1枚の斜め画像から各図を別々に起こすと、遠近の「戻し」を図ごとに推定することになり、共有寸法が別の値に着地します。高さのズレは目で気づけますが、幅のズレは測らないと気づけません。
2. 特徴の位置ズレ
スイッチ、ヒンジ、コード引き出し口といった特徴は複数の図に登場し、図ごとに参考画像を「解釈し直す」ため、解釈の数だけ位置のバリエーションが生まれます。台座のスイッチが正面図では前端から10ミリ、側面図では13ミリ、という食い違いが典型です。いちばん崩れやすいのは部品の合わせ目で、写真ではパーティングラインが光の加減で消えがちなため、描き手は走り方を推測するしかなく、推測した合わせ目は隣の図の角で出会いません。
3. 見えない面の創作
写真1枚に写るのは最大三面。残りの面は描いた時点で推測が混ざります。実物の背面にはコードの引き出し口や定格表示のラベル領域があるのに、図面ではのっぺりした無地の面——このズレは登録後に自分の首を絞めます。対処は素材を増やすこと。照明の悪いスマートフォン写真でも、推測よりずっと信頼できます。角度違いが三、四枚そろえば、画像同士が互いの死角を補い合います。どうしても確認できない面が残る場合は、無理に描かず、図の省略が認められる条件を含めて出願方針を見直します。判断基準は特許庁の意匠関係ガイドラインの原文で確認してください。
4. 実線・破線の意味(JPO)
日本の部分意匠では、意匠登録を受けようとする部分を実線で、その他の部分を破線で描き分けるのが基本です。破線はなんとなく引く線ではなく、権利範囲の外側を宣言する線。機械製図の癖で隠れた稜線を破線で描き込むと、その部分は権利を求めないという意味に変わってしまいます。作図の詳細は特許庁の意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手引きに作図例つきで示されています。
5. 陰影の流儀
立体感を表す陰影の付け方にも、日本には日本の作法があり、上記の手引きに作図例が載っています。米国出願用のシェーディングの癖をそのまま持ち込んだり、逆に日本式の淡白な線図を他国にそのまま出したりする「コピペ運用」が事故のもとです。同じ製品でも、出願先ごとに線の方針を分けて仕上げます。

実線・破線・陰影はいずれも意味を持つ線です。出願先をまたいで流用する前に一本ずつ確認します。
提出前チェック:同じ高さに並べて水平線を三本
- 全図を同じ縮尺にそろえる。
- 同じ基準線の上に横一列に並べる。
- 水平ガイド線を三本、列全体を貫くように引く。一本目は製品の上端、二本目は底面、三本目はいちばん目立つ特徴(デスクライトならスイッチの中心)。
- ガイド線を一枚ずつ追う。ある図では特徴を通り、隣の図では素通りする箇所が、直す場所。
- 最後に幅をペアで測る。正面図と平面図、側面図と底面図。定義上一致するはずのこのペアが、実務ではいちばんよく食い違います。
手作業で十分ほどの仕事です。提出前には PatentFig の Figure Checker で視図間の整合と線の品質を機械的に洗い、指摘された箇所だけ目で確認すると抜けが減ります。
プロンプト例
六面図を生成するときは、一貫性の要求をプロンプトに直接書き込みます。
アップロードしたデスクライトの製品写真をもとに、意匠出願用の六面図(正面図・背面図・左側面図・右側面図・平面図・底面図)と斜視図1枚を生成してください。要件:1)全図同一縮尺とし、高さ・幅・奥行きを全図で厳密に一致させる。2)台座のスイッチ、アームのヒンジ、コード引き出し口の位置を、各図で基準辺からの距離が揃うように配置する。3)部品の合わせ目は隣接する図の角で連続させる。4)製品全体について意匠登録を受けるため、輪郭はすべて実線で描き、破線は使わない。5)陰影は特許庁の手引きの流儀に合わせ、過剰な描き込みをしない。
一枚だけズレているときは、セット全体を作り直さず、チャットでその図だけ直します。
左側面図だけ修正してください。スイッチの中心を下へ移動し、上端からの距離を正面図と一致させます。合わせ目は正面図と接する角でつながるようにしてください。他の図は変更しないでください。
用語の対照
実線・破線・陰影・ハッチングといった線種の用語は、英語・中国語・韓国語でそれぞれ呼び方が違い、外国出願のやり取りでは線の意味の前にまず訳語で食い違いが起きます。PatentFig の図面用語の対照表で先に言葉を揃えておくと往復が減ります。
FAQ
図面は必ず六面図一式が必要ですか?
かつては六面図一式が当然とされていましたが、現在は意匠を十分に表現できるだけの図があればよい、という運用です。ただし「十分に表現できる」の判断を誤れば拒絶理由になるため、最新の運用は特許庁の一次資料で確認してください。
背面の写真がないときはどうすればいいですか?
まず撮ることです。実物や試作品を回しながらスマートフォンで数枚撮るだけで、推測とは信頼性が桁違いです。どうしても確認できない面は、創作で埋めず、図の省略が認められる条件に沿って扱いを決めます。
破線を間違えるとどうなりますか?
部分意匠では破線は権利範囲の外側を示します。隠れた稜線や内部構造をうっかり破線で描くと、権利範囲の表明そのものが変わってしまい、補正では済まない争いの種になり得ます。
米国用の図面をそのまま日本に出せますか?
線の方針が違います。あちらで期待される陰影がこちらでは過剰な描き込みになり、破線の意味も出願先ごとに確認が必要です。出願先ごとに一式ずつ仕上げるのが安全です。
写真1枚から多視図セットを作り始めるならこちらから:patentfig.ai/ja/generate
制度や手引きに関する記述は、特許庁が公表している現行の一次資料をご確認ください。