同じ発明を複数の国に出願するとき、図面はつい「もうあるもの」として扱われがちです。実際に使い回せるのは図面の一層だけ——発明の開示内容です。用紙とレイアウト、図中の言語、電子出願のファイル形式は庁ごとの出力物で、提出のたびに作り直します。ここを混同すると、国内移行の直前に数週間の手戻りが発生します。
もっと高くつく失敗は、図の出来とは関係ありません。外注の納品物が特定の庁向けにレイアウト済みのPDFだけで、編集可能なベクター元データは業者側に残っているケースです。契約終了後は一本の線を直すにも再見積もり。手元にあるのは「出力」であってマスターではありません。
この記事では、何が使い回せるのか、マスターをどの基準で作るのか、庁ごとに何を個別チェックするのかを整理し、PatentFig AI の生成ワークベンチでそのまま使えるプロンプトを2つ載せます。

日本向けの提出版は、マスターから出力する一つのプロファイルにすぎません。
先に結論:使い回せるのは開示マスター、作り直すのは提出ファイル
| 層 | 中身 | 国境を越えるとき |
|---|---|---|
| 発明の構造 | 部品と部品の関係、何が何を保持するか | そのまま再利用。凍結する |
| 視図の構成 | 斜視図・断面図・分解図がそれぞれ何を説明するか | そのまま再利用 |
| 参照符号の対応表 | 刃のユニット=20、調節リング=34 という割り当て | 全図・全法域で不変 |
| ベクター元データ | 編集可能な線画マスター(SVGなど) | 唯一のマスター。提出版はすべてここから出力 |
| 用紙と余白 | 用紙サイズ、余白、レイアウト | 庁ごとに再出力 |
| 図中の言語 | 図の中に残る単語、フロー図の文字 | 庁ごとに作り直し |
| 電子出願の形式 | ファイル形式、提出パッケージ | 庁ごとの最新仕様で再生成 |
赤線は一つ。上の四層は開示内容で、ここを動かすと体裁の修正では済みません。他庁向けの整形のついでに元の図にない構造を描き足せば新規事項の話になります。構造を変えるなら先に弁理士へ。
よくある失敗
1. 特定の庁向け提出版PDFをマスター扱いする
米国が先行した案件で頻発します。米国式にレイアウト済みのPDFは、プロジェクト全体でいちばんローカライズされた成果物であって、資産の本体ではありません。
2. 図中に英語ラベルを残す
"burr unit" や "adjustment ring" のような図中の単語は、非英語圏に入るたびに翻訳と再レイアウトの費用になります。符号には言語がありません。同じ部品を指す数字は、どの国でも図に手を入れずに通用します。
3. 外注契約で元データの引き渡しを決めていない
契約時に「編集可能なベクターデータを納品物に含める」と書くのはほぼ無料です。終わってから頼むと見積もりから始まります。手元がPDFだけなら、持っているのは図面の写真であって図面ではありません。
4. 特許図面のチェックリストを意匠に流用する
意匠登録出願の図面は権利範囲そのものを特定する資料です。実線と破線の意味、視図の揃え方、省略の扱い、どれも特許図面とは別のルールで動きます。ファイルも検査も完全に分けます。
マスターの作り方:PCT Rule 11 を公約数にする
二つ目の法域が視野に入った時点で、マスターはWIPOのPCT Rule 11に合わせて作ります。各庁の方式要件の意図的な最大公約数です。
- A4用紙。上と左に2.5cm以上、右1.5cm、下1cmの余白
- 縮小複製に耐える黒の明瞭な線
- 同じ部品には全図で同じ符号。符号と明細書は双方向に対応
- 図中の文字は、理解に不可欠なものだけ
最後の一項が再利用コストを決めます。ラベルを符号に置き換え、意味を明細書側へ移しておけば、線画そのものは中国語圏でも英語圏でもそのまま入れます。この余白ガイドを引いた図面用紙テンプレート(A4と米国レター、SVG・PDF)はリソースページからダウンロードして、マスターの台紙にそのまま使えます。
マスターがない場合は再構築します。旧提出版PDFの各ページと製品のCADキャプチャを patentfig.ai/generate に読み込ませて編集可能な線画一式を作り直し、図中の英語ラベルの符号への置き換えはチャットで指示、納得できない図だけを個別に再生成。確定したらVectorizeでSVGを書き出し、それを唯一のマスターとして以後の提出版をすべてここから出力します。版ごとの差分はバージョン履歴で追えます。
庁ごとに個別チェックすること
日本(JPO):対応関係と、意匠の完全分離
日本出願の方式面で見られるのは、図番号が連続しているか、【図面の簡単な説明】と実際の図が一致しているか、引出線が他の線と区別できるか、図中の文字が小さすぎないか、といった点です。様式の起点はJPOの出願様式の案内です。実務で手が掛かるのはたいてい二か所に集約されます。
一つは図中の言語。日本語明細書と組むなら、図中の単語は符号に置き換えるか削るかのどちらかです。マスター段階で文字を最小化してあれば、この工程はほぼ消えます。
もう一つは図番号と明細書の突き合わせ。途中で図を追加・削除した案件では、番号の振り直しが明細書側に反映されていないことがよくあります。図から明細書へ、明細書から図へ、一往復ずつ確認します。
意匠は別の制度です。JPOが意匠登録出願の願書及び図面の記載の手引きを独立した文書として公開しているのは、それだけ別物だからです。同じ製品でも、意匠の図面一式は特許用と分けて作り、レビューも別に入れます。
中国(CNIPA):見た目が同じでも提出パッケージは別物
図中に文字を残すなら中国語。加えてCNIPAは電子出願文書のXML化を進めており、明細書附図も対象文書に含まれています。図面の見た目がPCT版と同一でも、提出パッケージは現行仕様で再生成が必要になり得ます。実務は現地代理人に任せるとして、こちらの仕事は編集可能なマスターを渡せる状態にしておくことです。

中国向けは図中の言語と電子出願形式の両方を現地代理人と確認します。
米国・韓国:数値は最新の公式文書で
米国は37 CFR 1.84とMPEP 608に沿って同じマスターから出力します。韓国は図番号・符号と韓国語明細書の対応、それに電子出願様式の確認です。各庁の余白や文字サイズの数値はここに並べません。それぞれの庁の最新の公式文書と現地代理人で確認してください。庁ごとの違いの索引には図面標準の対照ページが使えます。
プロンプト例
例1:旧PDFとCADキャプチャから編集可能なマスターを再構築する(発明の内容は自分の案件に差し替えてください)。
アップロードしたファイルは、携帯用コーヒーミルの旧提出版PDF(全10ページ)と製品のCAD画面キャプチャです。編集可能な特許線画のマスター一式を再構築してください。構成は4図:図1 全体の斜視図、図2 縦断面図、図3 分解図、図4 粉砕動作のフローチャート。条件:黒の実線と白背景のみ、陰影やグレー塗りは使わない。参照符号は元の割り当てを維持する(20=刃のユニット、34=調節リング、40=ホッパー、52=駆動軸)。同じ部品は全図で同じ符号にする。図中の英単語はすべて削除し、符号と引出線に置き換える。A4用紙に、上と左2.5cm以上・右1.5cm・下1cmの余白でレイアウトする。
例2:マスターから日本出願向けの提出版を出力する。
上のコーヒーミルのマスターから、日本の特許出願向け提出版を出力してください。条件:図中の文字は日本語のみとし、「図1」「図2」の図番号とフロー図の枠内に必要な最小限の語だけを残す。図番号は1から連続させ、【図面の簡単な説明】と突き合わせられるように図ごとの内容を一行ずつ添える。符号はマスターと完全に一致させ、構造の追加・削除はしない。提出用の高解像度ファイルと、マスター保管用のSVGを両方書き出す。
提出前チェックリスト
- 編集可能なベクター元データが手元にある(PDFだけではない)
- 符号の対応表が全図で一致し、明細書と双方向に突き合わせできる
- 図中の文字は「理解に不可欠」な最小限まで削ってある
- 提出先の言語への置き換えが済んでいる
- 余白はテンプレートを使っている。目測ではない
- 電子出願の形式は現地代理人が現行仕様で確認済み
- 意匠の図面は特許用と別ファイル・別レビューになっている
FAQ
一式の図面を、無修正のまま複数の庁に提出できますか?
できません。変えずに済むのは開示内容——構造・視図の構成・符号の対応表だけです。用紙、図中の言語、電子出願形式は庁ごとに作り直します。「無修正で行ける」と感じたら、特定の庁の提出版をマスターと取り違えています。
マスターはどの体系に合わせて作るべきですか?
PCT Rule 11です。各庁要件の意図的な公約数で、特に「図中の文字は最小限」の一項は国際出願で最も費用対効果が高い習慣です。例外は一つの庁にしか出さない案件で、その庁の様式で直接作れば済みます。
国ごとに図面一式を別々に管理してはいけませんか?
国別に元データを何セットも抱える方式は、三回目の修正あたりで破綻します。符号がずれ始め、どのファイルが承認済みの開示内容なのか誰にも分からなくなる。マスター一つ、庁別出力複数、出力ごとに現地検証——この形が総作業量でも監査性でも上です。
製図業者が元データを渡してくれない場合は?
交渉より再構築が早いことが多いです。旧PDFとCADキャプチャがあれば編集可能な一式を作り直せますし、符号の対応表はそのまま引き継げます。次の契約には元データ納品の条項を入れてください。
マスター作りはここから:patentfig.ai/generate