導入
本記事は数理科学2026年2月号「インフレーションから広がる物理の発展」のアウトプット記事です。学部4年生による魔翻訳を含みます。異論は認めます。
目的
インフレーション中のインフラトンの相互作用に関してのハミルトニアンを考え、ゆらぎの3次の項を考えることによって、インフレーション中のインフラトンの相互作用がどの程度の強度であったのかを推定することが目的である。
前提
宇宙の始まりとしてよく耳にするビックバン宇宙論であるが、ビックバンよりももっと前に$10^{-34}$秒程度で指数関数的に膨張するインフレーションが起こったという学説が現在の流行りになっている。このインフレーションを用いると宇宙がマクロ的に一様であること、宇宙内の密度差の起源を探る事ができる。
インフレーションの急激な膨張によってもともと隣接していた相互作用のある揺らぎが情報伝達が行われないほど遠距離に引きはがされる。しかし、引きはがされた後も相関性を保っており、それが現在の温度ゆらぎの非ガウス性の由来になっている。
証明
ハミルトニアンがインフラトンΦの3乗までで表せるとする。
H=h_0+h_1\phi+h_2\phi^2+h3\phi^3\tag{1}
インフラトン$\phi(t,\vec{x})$を非位置依存の背景場$\bar{\phi}(t)$と位置と時間の場のゆらぎ$\delta\phi(t,\vec{x})$に分解する。
\phi(t, x) = \bar{\phi}(t) +\delta\phi(t, \vec x)\tag{2}
ここでの場の揺らぎは曲率の揺らぎに比例するのでdΦ∝ζ、係数を省略し、これを上式に代入しすると、摂動によるハミルトニアン$\Delta H=h'1ζ+h'2ζ^2+h'3ζ^3$と表せる。もし相互作用がないのであれば、それぞれは独立な調和振動子となり、観測量もガウス分布になる。
しかし、宇宙の曲率のゆらぎ$\zeta$は非ガウス性$h'3 \ne 0$の可能性があると予測されている。これにより、インフラトンの相互作用を示すことができる。
h'1
背景場は作用ハミルトニアンの変分で決まる古典解であるので、運動方程式を満たす。したがって$h'1=\frac{dH}{d\zeta}=0$
h'3
h'3が十分に小さいことを直接示すことはできないので、揺らぎの3点相互作用$\langle \zeta_{k_1}\zeta_{k_2}\zeta_{k_3}\rangle$を用いることとする。この$k_1,k_2,k_3$は波数であり、$\zeta_k$は曲率揺らぎ$\zeta(x)$のフーリエ展開の係数である。
\zeta(x)=\int ζ_k \exp(ikx) dk\tag{3}
適当に3点を取ってきたものの積$\zeta_{k_1}\zeta_{k_2}\zeta_{k_3}$の期待値である。in-in形式よりこの3点相関関数とh'3は比例関係にあり、3点相関関数が小さければ、h'3も小さいことが分かる。また並進対称性より、この3つの波数$k_1k_2k_3$は三角条件を満たさなければならない。3点相関関数$\langle \zeta_{k_1}\zeta_{k_2}\zeta_{k_3}\rangle=(2\pi)^3B(k_1,k_2,k_3)\delta(k_1+k_2+k_3)$とできる。
この三角形はいろんな形を取ることができるが、ここではスローロール理論より、局所型のみ考える。局所型におけるビスペクトル$B(k_1,k_2,k_3)$は二点相関関数の係数Pを用いて、以下の式で表せる。
\langle \zeta_{k_1}\zeta_{k_2} \rangle=(2\pi)^3P(k_1)\delta(k_1+k_2)\tag{4}
B(k_1,k_2,k_3)=\frac{6}{5}f_{nl}(P(k_1)P(k_2)+P(k_2)P(k_3)+P(k_3)P(k_1))\tag{5}
ここにおける$f_{nl}$が十分に小さければ、h'3も小さいことが分かる。$f_{nl}$は観測から測定することができ、次節で触れる
観測
planck衛星による温度揺らぎの測定データが温度(2次元角度)として得られている。
これを球面調和関数Yで展開した係数の3点相互作用を考える。
\frac{\Delta T}{T}(\theta,\phi)= \sum_{l,m} a_{l,m}Y_l^m(\theta,\phi)
この係数から($l,m$)の組を3つ取ってきて掛け合わせた3点相関関数$\langle a_{l_1,m_1},a_{l_2,m_2},a_{l_3,m_3}\rangle$を計算し、局所テンプレートでフィッティングする。そうすると$f_{nl}$を測定することができ、その値は$-0.9\pm 5.1$となる。よって非ガウス性は現在の測定精度では確定的に言うことはできず、今後の精度追求が待たれる。
結論
今後の測定結果によってはハミルトニアンh'3が小さく、インフラトンの相互作用がスローロールパラメーター程度であることも示せるだろう。
付録
1.in-in形式とは
ハミルトニアンを相互作用項と非相互作用項に分離する。
H=H_0+H_{int} \tag{付録1.1}
上記の相互作用描像ハミルトニアン$H_I$を時間発展にするため、以下の定義を採用する。
H_I=\exp(iH_0t)H_{int} \exp(-iH_0t)\tag{付録1.2}
この相互作用描像のハミルトニアンのある状態を$|\phi(t)\rangle_I$とすると時間発展のシュレディンガー方程式を満たす。
-i\hbar\frac{\partial}{\partial t}|\phi(t)\rangle_I = (\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2} + V)|\phi(t)\rangle_I \tag{付録1.3}
この方程式の解をある時間での状態$|\phi(t_0)\rangle_I$からの時間発展$|\phi(t)\rangle_I$は積分の自己参照形式を用いて以下の様に表せる
|\phi(t)\rangle=|\phi(t_0)\rangle_I -i \int_{t_0}^t dt'H_I|\phi(t')\rangle \tag{付録1.4}
一次で近似し$|\phi(t)\rangle→|\phi(t_0)\rangle$とする
このときある状態$|\phi\rangle$における任意の物理量O(t)
\langle \phi(t)|O|\phi(t)\rangle =(\langle \phi(t_0)|+i \int dt'\langle \phi(t_0)|H_I)O(|\phi(t_0)\rangle-i \int dt' H_I|\phi(t_0)\rangle)
=\langle\phi(t_0)|O|\phi(t_0)\rangle- i \int \langle \phi(t_0)|[H_I,O]|0\rangle dt' \tag{付録1.5}
今回考えたいのはゆらぎ$\zeta^3$であるため、$\langle \phi(t_0)|\zeta^3|\phi(t_0)\rangle =0$になる
よって
\langle \zeta^3 \rangle = -i \int dt' \langle \phi(t_0)|[H_I,ζ^3(t')]|\phi(t_0)\rangle \tag{付録1.6}
ゆらぎにおける相互作用ハミルトニアンは$H_I=h'3\zeta^3$であるので、上式に代入すると
\langle \zeta^3\rangle= -h'3 i \int dt'\langle\phi(t_0)|[ζ^3(t),ζ^3(t')]|\phi(t_0)\rangle \tag{付録1.7}
よって$\langle\zeta^3\rangle \propto h'3$
2.三角条件とは
ある点における物理量O(x)のN点相互作用を考える
O(x)をフーリエ展開する
O(x) = \int O_k \exp(-ikx)dk\tag{付録2.1}
ここからN点($O_{k_1},O_{k_2},O_{k_3},\cdots,O_{k_N}$)を取り、N点相互作用$\langle O_{k_1}O_{k_2}O_{k_3}\cdots O_{k_N}\rangle$を作れる
また$O(x)$が並進対称性があるとし、$O(x) = \exp(ika)O(x)$を考える。
N点相互作用に関して考えると
\langle O_{k_1}O_{k_2}\cdots O_{k_N} \rangle = \exp(ik_1a)\exp(ik_2a)\cdots\exp(ik_Na)\langle O_{k_1}O_{k_2}\cdots O_{k_N} \rangle \tag{付録2.2}
=\exp(i(k_1+k_2+k_3+\cdots+k_N)a)\langle O_{k_1}O_{k_2}\cdots O_{k_N} \rangle
これが任意のaに対して成り立つためには$k_1+k_2+k_3+\cdots+k_N = 0$にならなければならない。
このN個のベクトルが閉じているということはN角形を生成できる。
特にN=3のときを三角条件という。