一言でいうと
アプリの計測は、全部の機能・画面に意味を付けてから使う、のではなく、
聞かれた(計測したくなった)ものから順に意味が付いていく。
AIが答えを出せる時代、メタデータ管理は「事前の設計」から「事後の蒸留」に変わる。
前提:計測ツールには「事実」しかない
Pendoみたいなプロダクトアナリティクスを入れると、アプリ上のオブジェクトが自動でタグ付けされます:
- Feature:「新規作成ボタン」「共有ダイアログを開いた」…
- Page:「ダッシュボード」「ドキュメント編集画面」…
- Segment:「有料アカウント」「トライアル中」…
これは事実です。「このボタンが押された回数」は分かる。でも——
- 「アクティベーション率どう?」と聞かれても、計測ツールはうちの会社がアクティベーションをどう定義しているか知らない
- 「新規作成ボタン」と「共有ダイアログ」が両方揃って初めてアクティベーション、という関係が、どこにも書かれていない
つまり計測ツールには事実(オブジェクト)はあるが、意味(オブジェクト同士の業務的な関係)が無い。
従来のやり方:事前設計(そして死ぬ)
この「意味」を持たせようとすると、従来はこうでした:
- 指標体系を先に設計する(「アクティベーションとは何か」を決める会議)
- 全Featureに事前に「これは活性化指標」「これは定着指標」とタグ付け
- 使う日が来るのを待つ
結果:コストは莫大、定義はすぐ変わる(先週と今週で「アクティベーション」の中身が違う)、そして付けた分類の大半は一度も使われない。何に意味を付けるべきかを、需要が発生する前に推測しているからです。
考え方を3層に分ける
┌────────────────────────────────────┐
│ ③ 計算値の層(塗るだけ) │ ← 今週の利用量、KPIの現在値
├────────────────────────────────────┤
│ ② 意味の層(あとから育てる) │ ← 「アクティベーション」「定着」
├────────────────────────────────────┤
│ ① 事実の層(自動で同期) │ ← Feature/Page/Segment/利用ログ
└────────────────────────────────────┘
- ①事実:Pendoから同期したFeature/Page/Segmentと利用ログ。自動、コストほぼゼロ。
- ②意味:「アクティベーション」のような業務概念。計測ツールのどこにも書いていない。これが高くつく部分。
- ③計算値:意味の上に数字を塗る(この概念の今週の実績、など)。
ポイントは、高くつく②だけを後払いにすること。
②「意味の層」= タグではなく「コンセプト」
ここが一番の肝なので、少し丁寧に。②で貼るのはタグではありません。両者は根本的に違います。
-
タグは「オブジェクトに貼るラベル」。
共有ダイアログを開いた → Feature。1対1で、そのオブジェクト単体の属性しか言わない。 - コンセプトは「業務ゴールを中心にした、関連の束」。1つのまとまりに、こう持たせます:
コンセプト「アクティベーション」
├─ 定義 :サインアップ後14日以内に「ドキュメント作成」と「共有」を両方やったアカウントの割合
│ ← チームが合意した文章
├─ 測定対象:新規作成ボタン、共有ダイアログ、ウェルカムツアー ← Featureへの「関連」
├─ 原因 :オンボーディングフローの変更、流入チャネルの構成変化 ← なぜ動くか
├─ アクション:テンプレートを初回導線に組み込む ← 動いたら何をするか
└─ 検証済みクエリ:この概念を計算する再現可能なDSL ← 毎回ブレない計算方法
決定的な違いは、**タグはオブジェクトの属性、コンセプトはオブジェクトとゴール・オブジェクト同士の「関係」**だということ。だから計測ツールの「1カラム」には収まりません — グラフの「辺(エッジ)」なんです。具体的には:
- 1つのコンセプトが複数のFeatureにまたがる(アクティベーション = 作成 + 共有 + ツアー)
- 1つのFeatureが複数のコンセプトに属す(共有ダイアログは「アクティベーション」でもあり「コラボ定着」でもある)
- 属性じゃないから、オブジェクトを見ても意味は分からない。関係を張った人の頭の中と、日々の質問の中にしかない
そして、この「関係として持つ」ことがAIに効きます。「アクティベーション率は?」と聞いたとき、Feature名に"activation"の字が一切入っていない「共有ダイアログ」まで正しく含めて計算できるのは、字面ではなく関係で結んでいるから。タグ(=字面のラベル)では絶対に届かない部分です。
言い換えると——②で「後から価値づけする」とは、オブジェクトに札を貼ることではなく、ゴールを起点にオブジェクト同士の関係を1本ずつ張っていくこと。これが高くつく理由でもあり(関係は自動では分からない)、後払いにできる理由でもあります(聞かれて初めて、どの関係が要るか分かる)。
ストーリー:「アクティベーション」が生まれるまで
Day 1 — PdMがAIに聞く:「新機能のアクティベーションってどうなってる?新機能はXXXとZZZ。アクティベーションとは。。。」
AIが利用ログを見て答える:新規作成して共有まで進んだ人はこれくらい、詰まってるのはこの手前…。
ここで起きたことに注目。「アクティベーション」という概念と、それを測るFeature群の関連が、いま一度導出された。従来ならこの洞察はチャットの流れと一緒に消えます。
Day 2 — その導出を保存する。これが「後からの価値づけ」。上の「コンセプト」の箱がそのまま1つ保存されます。定義も、どのFeature IDで測るかも、原因仮説もアクションも込みで。
Day 30 — 「今週のアクティベーション率は?」
AIはコンセプトを1回引くだけ。検証済みの定義と正しいFeature IDで即答。毎回ゼロから「アクティベーションとは何か」を再解釈しないので、速くて安いし、何より定義がブレない(先週と今週で中身が変わらない)。
Day 90 — 使われていないマイナー機能には、まだ何の意味も付いていない。それでいい。誰も計測したがらなかった=意味付けのコストを払わずに済んだ、という正しい結果です。
なぜ「後から」が成立するのか(3つの理由)
-
質問が需要を教えてくれる
何に意味を付けるべきかは、聞かれた順に分かる。事前の指標設計会議は推測でしかない。 -
AIが導出コストを下げた
意味の候補(定義・該当Feature・原因仮説)はAIが数秒でドラフトできる。しかも過去の質問ログから「このチームは何を気にしているか」を読み取れるので、人間の仕事はレビューして採用するだけ。 -
固定化そのものに価値がある
AIは毎回答えを導出できるが、毎回導出するとブレる・遅い・高い。良い導出が出た瞬間に組織の合意としてキャッシュする操作 — それが「価値づけ」の正体。
ただし前提がひとつ:構造だけは先に
意味を後から貼るには、貼り先のIDが安定している必要があります(「共有ダイアログ」のFeature IDが来月も同じものを指す)。だからDay 1にやるのは①事実の層の自動同期だけ。これは安い。高い②は需要が来てから。
一般化:アプリでなくても同じ
| ①事実(自動同期) | ②意味(後から蒸留) | ③計算値 | |
|---|---|---|---|
| プロダクト分析 | Feature・Page・Segment | 「アクティベーション」「定着」 | 30日利用量・KPI |
| データ基盤 | テーブル・カラム | 「解約予備軍の定義」 | 鮮度・利用回数 |
| 社内ツール全般 | API・エンドポイント | 「主要導線」「異常系」 | 呼び出し回数・エラー率 |
やることは全部同じ:事実は同期、意味は質問から蒸留して後付け、数字は塗るだけ。
そして意味の層は構造化データなので、次にAIに聞くときそのままコンテキストとして渡せる。使うほど賢くなるループが回り始めます。