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OTDRと障害切り分け(前編) powered by claude

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Last updated at Posted at 2026-09-22

はじめに

このシリーズでは、光伝送技術をプロバイダーで「マスター」と呼べる水準まで体系的に積み上げることをめざしています。これまで扱ってきたのは、ROADM/WSSのアーキテクチャ、非線形効果、コヒーレント変調と、一貫して設計・原理の領域でした。

本記事から扱う対象が変わります。測定・運用・障害対応です。設計上は問題なく成立する光リンクでも、現場では融着接続の劣化、ファイバの曲げ、断線といったトラブルが起きます。それを見つけて切り分けるための中心的な測定器が OTDR(Optical Time Domain Reflectometer、光時間領域反射計) です。

分量があるので前後編に分けます。

  • 前編(本記事):OTDR単体の原理と、波形の読み方・撮り方
  • 後編:OLTS(光源+パワーメータ)との役割分担、活線測定、他測定器との使い分け、コヒーレントDSPとの連携

前編を通せば、OTDRトレースを渡されたときに何が起きているかを読み解き、見たいものを見るための設定を組めるようになります。


1. OTDRの原理

1-1. OTDRが見ている2つの物理現象

OTDRは、ファイバの一端から光パルスを打ち込み、戻ってくる光を時間軸で観測します。この戻り光には、性質のまったく異なる2種類が混ざっています。

現象 発生原因 トレース上の見え方 得られる情報
レイリー散乱(後方散乱) ファイバ内部の微小な密度・組成のゆらぎによる連続的な散乱。その一部が逆方向へ戻る なだらかな右下がりの直線(傾き=損失) 区間損失・距離
フレネル反射 屈折率の不連続点(コネクタ端面、破断面、未融着の空隙)での反射 鋭いピーク(スパイク) 反射点の位置・反射量

レイリー散乱はファイバ全体からうっすら戻ってくる光、フレネル反射は特定の点で強く跳ね返る光です。OTDRは両方を1本のトレースに同時に描き出します。

フレネル反射の反射率は、垂直入射・2媒質の界面で次式になります。

R = \left(\frac{n_1 - n_2}{n_1 + n_2}\right)^2

石英ガラス($n_1 \approx 1.47$)と空気($n_2 \approx 1.0$)の界面なら $R \approx 0.04$(約 −14 dB)。劈開(へきかい)した未接続端面や大きな空隙(くうげき)のある接続点での目安で、コネクタの研磨品質や屈折率整合剤の有無で実際の値は動きます。

1-2. 距離をどう測るか

事象までの距離は、光の往復時間から逆算します。

d = \frac{c \times t}{2 \times n_g}
  • $d$:事象までの距離
  • $c$:真空中の光速
  • $t$:パルス送出から反射・散乱光の受信までの往復時間
  • $n_g$:ファイバの群屈折率
  • 分母の $2$:光が往復するため

引っかかりやすいのは2点です。ひとつは、使うのが位相屈折率ではなく群屈折率 $n_g$ であること。パルス(波束)の伝搬速度を決めるのは群速度だからです。もうひとつは分母の $2$。測っているのは往路と復路を足した時間なので、距離に直すには半分にします。

$n_g$ は製品ごとの値で、代表例の Corning SMF-28 Ultra(G.652.D 準拠)では 1310nm で 1.4676、1550nm で 1.4682 です。実機では「IOR(Index Of Refraction)設定」としてユーザが入力する値で、これを誤ると距離表示全体が比例してずれます。断線位置を数十cm単位で追う場面では、IOR設定がそのまま精度を左右します。

1-3. ダイナミックレンジ

ダイナミックレンジは、どこまで遠く・どこまで損失の大きい区間まで見えるかを表す指標です。厄介なのは、この指標に定義の流儀が複数あり、カタログ値をそのまま比較すると判断を誤る可能性がある点です。

定義方式 基準 特徴
IEC 方式(98%ノイズレベル) 全ノイズ点の少なくとも98%が収まる範囲の上限を基準 Telcordia方式より小さい値。実用に近い
Telcordia / Bellcore 方式(SNR=1) 注入レベルと、ノイズ+後方散乱の合算SNRが1になるレベルとの差 業界で最も広くカタログ表記される値
RMS 方式 近端後方散乱の外挿点とRMSノイズレベルの差 98%方式よりおよそ 1.56 dB 大きい(ガウス性ノイズの場合)

つまりカタログ値は、そのまま使える測定限界ではありません。ノイズ基準の取り方に加え、測定条件(パルス幅・平均化時間・ファイバ種別)で値が大きく変わります。Telcordia の定義は SNR=1・3分平均・1km(10µs)パルス・G.652ファイバを基準条件としており1、IEC 方式(98%ノイズレベル)は Telcordia 値より小さく、これがそのまま実用範囲の目安に近い、という記載があります2。Telcordia公称値から 6 dB ほど引いた値が実用に近い目安といえます。

カタログのダイナミックレンジを見るときは、測定条件が併記されているかを必ず確認してください。

1-4. パルス幅と分解能のトレードオフ

パルスの空間的な長さは、距離の式と同じ形になります。

\Delta d \approx \frac{c \times \tau}{2 \times n_g}

$\tau$ がパルス幅(時間)です。太くすると空間長 $\Delta d$ が伸び、近接した2つの事象がひとつのパルスの中に同居してしまって分離できなくなります。これが分解能の低下です。他方、太いパルスは投入エネルギーが大きく後方散乱が強まるので、S/Nが上がって遠くまで届きます。ひとつのパルス幅で「遠く」と「細かく」を両立する方法はありません。EXFO の資料でも、長いパルス幅は受信信号を増幅して S/N を改善する一方、事象間隔より長いパルス幅を使うと事象検出が不正確になり、減衰性不感帯も増える、と記載があります3。

image.png

そのため実務では2回撮りが基本になります。近端の細部は短いパルス、リンク全長は長いパルス、と分けて撮ります(第4章)。

1-5. 不感帯(デッドゾーン)

強いフレネル反射が起きると、OTDRの受光素子が一瞬飽和し、回復するまでは背後の信号を読めません。この読めない区間が不感帯(デッドゾーン)です。2種類あります。

種類 定義 実務上の影響
反射性不感帯(Event Dead Zone) ある反射の発生から、後続の別の反射イベントを検出できるようになるまでの距離 直後にある別の反射点(コネクタ等)を見落とす
減衰性不感帯(Attenuation Dead Zone) 反射の発生から、後方散乱レベルが安定して損失測定が可能になるまでの距離。反射性より長い 直後の融着接続などの損失を正確に測れない

不感帯は通常最小パルス幅で規定されます。反射性不感帯と減衰性不感帯の区別、および損失校正時に減衰性不感帯の外側に測定区間を置くという考え方は、OTDR校正規格 IEC 61746-1 でも扱われています4。同じパルス幅でも、安価な機種ほど長くなりがちです。リンク先端のコネクタ損失を測りたいのに不感帯に埋もれて測れない、という場面は頻出で、対策の発射ファイバは第4章で扱います。


2. OTDR波形の読み方

原理を押さえたら、実際のトレースから何を読むかです。対象は傾き・段差・ピークの3つに尽きます。

2-1. 傾き → 区間損失 [dB/km]

後方散乱トレースの右下がり直線の傾きが、そのままファイバの区間損失(減衰係数)です。

\alpha\,[\text{dB/km}] = \frac{P_1 - P_2\,[\text{dB}]}{d_2 - d_1\,[\text{km}]}

較正上の注意がひとつ。後方散乱光は往復して戻るため、生データでは傾きが本来の2倍に見えることがあります。多くの機種は内部で補正して片方向の損失を表示しますが、仕様は機種によって異なります。

損失設計編で扱った値と突き合わせておきます。

波長 G.652.D 規格上限5 実務設計値/実測典型 位置づけ
1310 nm 0.4 dB/km(1310〜1625nm の包括上限) 約 0.33 dB/km 規格値と実務値は別物
1550 nm 0.3 dB/km 約 0.18〜0.22 dB/km(実務設計値) 規格値と実務値は別物

ここは規格値の読み方に注意が要ります。ITU-T G.652.D は、減衰係数の上限を「1310nm から 1625nm までの帯域で 0.4 dB/km 以下、かつ 1550nm では 0.3 dB/km 以下」と定めています5。よく「G.652 は 0.4 dB/km」と一括りにされますが、0.4 は帯域全体の包括上限であって、1550nm 固有の上限は 0.3 dB/km です。実務設計で使う 0.18〜0.22 dB/km は、この規格上限よりさらに低い、現代ファイバの実力値です。傾きがこの実測典型から急に増える箇所は、ケーブル品質の不良や環境ストレスを疑う対象になります。

2-2. 段差 → 接続損失 [dB]

下向きの段差(ステップ)の高さが、その点での接続損失です。見え方は事象の種類で違います。

事象 トレース上の見え方 反射 損失の目安
融着接続 段差のみ(下向き) ほぼ無し 0.02〜0.1 dB
コネクタ(UPC) 段差+上向きピーク 有り 0.2〜0.5 dB
コネクタ(APC) 段差+小さいピーク 少 ―
曲げ 段差のみ(下向き) 無し 波長依存(後述)

融着とコネクタを分けるのはフレネル反射の有無です。融着は屈折率が連続なので反射がほとんど出ず、段差だけが残ります。コネクタは端面間の微小な空隙で反射が生じ、段差にピークを伴います。

image.png

2-3. ピーク → 反射の定量(反射率とORL)

ピークの大きさは2つの指標で表されます。混同しやすいので分けて押さえます。

指標 定義 符号 対象範囲
反射率(Reflectance) 単一界面での反射光/入射光の比 常に負の dB 値 その1点
ORL(光帰還損失) 系全体で光源に戻る光の総和 常に正の dB 値 リンク全体または区間

両方ともdB単位ですが、反射率は常に負、ORLは常に正。この符号を取り違えないことです。ORLは次式で表されます。

\text{ORL} = 10 \log_{10}\left(\frac{P_{in}}{P_{reflected}}\right)\,[\text{dB}]

値の目安として、良好なシングルモードコネクタは反射率 −50 dB 以下、良好な融着接続はさらに低く、多くのフィールドテスタでは測れないほど小さくなります。未接続端面のフレネル反射は約 −14 dB(≒4%)です。

ここはコヒーレント変調編とつながります。反射光が送信レーザに戻るとBERを劣化させるため、要求されるORLはシステムで変わります。FTTH で 26 dB 以上、DWDM で 45 dB 以上が目安で、高多値・WDM系ほど反射に厳しいのは、反射光が送信レーザに戻ると線幅の拡大や雑音の増加を招き、高多値の信号ほどその影響を受けやすいためです。

2-4. 双方向測定と「ゲイナー」── 片方向測定の落とし穴

片方向OTDRで融着接続を測ると、トレースが上向きに段差を示し、損失が負、見かけ上は「利得」になることがあります。これをゲイナー(gainer)と呼びます。

当然、ファイバが光を増幅しているわけではありません。ゲイナーは測定手法が生む影響です。仕組みとしては、OTDRが測定しているのは戻ってくる後方散乱光の強度で、その後方散乱係数はファイバごとに違います(MFD・ドーパント・開口数で決まる)。融着点の先のファイバが手前より後方散乱係数が高いと、同じ入力でも戻る光が増え、トレースが上向きに段差を示します。OTDRはこれを損失が負、つまり利得と解釈してしまう、という筋道です。

真の損失を得るには双方向測定を使います。同じ融着点を両方向から測ると、片方向でゲイナーに見えた事象は逆方向では過大な損失に見えます。この2つを平均すれば、方向依存の誤差が相殺され、真の損失が残ります。

L_{true} = \frac{L_{A \to B} + L_{B \to A}}{2}

image.png

真の融着損失は物理的にひとつしかないのに、片方向の測定値には方向依存の誤差が乗っている。だから両方向から測る必要があります。この理屈が、ITU-T G.650.3(敷設後リンクの試験法)が減衰測定に LSPM または OTDR を用い、OTDR で融着損失・ファイバ均一性・リンク長を評価すると定めている背景にもなっています6。


3. イベントの種類と切り分け

第2章がひとつの事象を正しく読む話だったのに対し、この章は紛らわしい事象を見分ける話です。ゴーストは実在しない事象、曲げは融着と見分けにくい事象で、どちらも誤判定が切り分けを狂わせます。

3-1. 全イベントの分類マップ

まず全イベントを「反射の有無」×「実在/非実在」で整理します。

イベント 反射 段差 損失 波長依存 実在
融着接続 無 下向き 有 ほぼ無し 実在
コネクタ 有 下向き 有 小 実在
マクロベンド 無 下向き 有 大(長波長で増) 実在
マイクロベンド 無 下向き 有 大(長波長で増) 実在
ゲイナー 無 上向き 負(見かけ) ― 実在(測定誤差)
破断 有 終端へ 全損 ― 実在
ゴースト 有 ほぼ無 無 ― 非実在

この分類を判断フローにすると次のようになります。以降の各節は、このフローの分岐に対応します。

image.png

3-2. ゴーストの識別

ゴーストは物理的に存在しない事象です。高反射点(不良コネクタや開放端など)で光が往復反射し、OTDRが2周目・3周目の反射を別の事象と誤認して表示します。

距離 $D$ に高反射点があると、ゴーストは $2D, 3D, \ldots$ と $D$ の整数倍に現れます。パルスがOTDRポートと反射点の間を往復する回数に対応するためです。

d_{ghost} = n \times D \quad (n = 2, 3, 4, \ldots)

image.png

ゴーストを見分ける手がかりは4つです。

  • 損失がない:反射ピークはあるのに段差(損失)を伴わない。実在の界面がないので光が実際には減衰しない
  • 等間隔:元の反射点距離 $D$ の整数倍に出る
  • ファイバ端の先に出る:物理ファイバ長を超えた位置に現れることがある
  • ファイバを足すと位置が動く:疑わしい点の後にファイバを追加すると位置が変わる(実在イベントは物理位置が固定)

現場で最も効くのは「反射があるのに損失がない」と「等間隔」の組み合わせです。実在の反射イベント(コネクタ)は必ず何らかの損失を伴うので、反射ピークがあって損失ゼロなら、まずゴーストを疑います。対策は高反射点の反射率を下げること(コネクタ清掃、APC化)です。

3-3. マクロ/マイクロベンド vs 融着

マクロベンド・マイクロベンド・融着接続は、いずれも反射を伴わない下向き段差として現れ、一見すると区別がつきません。分ける鍵は波長依存性です。

曲げが長波長で損失を増す理由はこうです。波長が長いとモードフィールド径(MFD)が大きくなり、光がコア中心から緩く広がって分布します。緩く広がった光は曲げ部でコアの外へ漏れやすく、放射損失になります。結果として、長波長ほど曲げ損失が大きくなります。

一方、融着接続の損失は軸ずれやMFD不整合が主因で、波長依存はほぼありません。この差が識別に使えます。

image.png

同一の事象を1310nmと1550nm(あるいは差の出やすい1550nmと1625nm)で測り、損失差を見ます。

マクロベンドとマイクロベンドは、物理スケールと原因で分かれます。

項目 マクロベンド マイクロベンド
空間スケール mm〜cm オーダーの曲げ半径 μm オーダーの微小変形
原因 きつい配線・結束・過度な巻き 側圧・被覆収縮・敷設ストレス
トレース上 局所的な段差になりやすい 分布的な損失増(区間の傾き増)になりうる

規格からも、曲げが長波長で問題になることは裏付けられます。ITU-T G.652.D は、マクロベンド損失を「半径 30mm・100ターン・1625nm で最大 0.1 dB」と規定しており7、規定波長として(1310nm や 1550nm ではなく)最長の 1625nm を採っています。これは、曲げ損失が長波長で顕在化するという本節の因果と整合します。

3-4. 破断の判別

破断(ファイバ切断)は、正常なファイバ端と区別する必要があります。

事象 反射 位置 判別のポイント
正常なファイバ端 有(大) 設計上のリンク長と一致 想定位置に現れる
破断 有または無 リンク長より手前の予期しない位置 想定外位置+それ以降トレース消失

破断は、想定リンク長より手前でトレースがノイズフロアに落ちるのが特徴です。ただし、清浄な劈開破断は反射を伴う一方、汚れた/斜めの破断面は反射が小さいこともあり、反射の有無だけでは断定できません。決め手になるのは位置情報、つまり想定リンク長との比較です。


4. 測定パラメータの選定

第1〜3章はトレースをどう読むかでした。この章は、そもそも良いトレースをどうとるかです。ここの設定を誤ると、これまでの測定結果が利用できなくなる可能性があります。

4-1. パルス幅:距離 vs 分解能

第1章のとおり、パルス幅は到達距離・分解能・不感帯を同時に動かします。

  • 太くする → 到達距離↑・S/N↑/分解能↓・不感帯↑
  • 細くする → 分解能↑・不感帯↓/到達距離↓・S/N↓

ひとつのパルス幅で全区間をカバーするのは無理なので、短パルス(近端の精密診断)と長パルス(全長の把握)の2回撮りが基本です。

4-2. 波長:損失検出 vs 曲げ検出

第3章の波長依存性が、そのまま波長選定に繋がります。

波長 主用途 特徴
1310 nm 融着/接続損失の基準測定 曲げに鈍感。損失そのものを見やすい
1550 nm 長距離到達・曲げ検出 減衰が最小(到達距離最大)で曲げにも感度
1625 nm 活線監視・曲げ強調 曲げに最も敏感・運用中測定に使える

1310nm 単独では曲げを見逃し、1625nm 単独では曲げと損失が混ざります。複数波長で撮って差分を見ることで、第3章の融着/曲げ識別ができます。なお 1625/1650nm を運用中ファイバの監視波長として伝送波長と分離できるのは ITU-T L.418の規定によるもので、活線測定の詳細は後編で扱います。

4-3. 平均化時間:精度 vs 速度

平均化は、複数パルスの測定を重ねてランダムノイズを均す処理です。

\text{S/N改善}\,[\text{dB}] = 5 \log_{10} N

S/N改善は平均化回数 $N$ の平方根に比例します($\sqrt{N}$ 則)。EXFO の資料も、ノイズ低減は平均化回数の平方根に比例する、と明記しています3。信号はコヒーレントに加算されて $N$ 倍、ランダムノイズは非コヒーレントに加算されて $\sqrt{N}$ 倍になるため、比が $\sqrt{N}$ 倍改善する、という統計の基本則です。

image.png

この逓減が、平均化時間をどこまで延ばすかの判断材料になります。$\sqrt{N}$ 則である以上、S/Nを2倍にするには測定時間が4倍必要なことになります。短距離でクリーンなトレースなら数秒〜十数秒、長距離で遠端が弱ければ1〜3分、が目安です。

4-4. レンジ(測定距離)設定

レンジは、トレースの横軸をどこまで表示するかの設定です。実ファイバ長より少し長めに設定します。短すぎるとファイバ端が画面外に出て全長が見えず、長すぎると分解能が粗くなり測定時間も伸びます。レンジはパルス幅と連動する機種が多く、長レンジを選ぶと自動的に長パルスが選ばれることがあります。

4-5. 発射ファイバ/受信ファイバ

パラメータではありませんが、測定品質を左右する内容です。第1章で見たとおり、OTDR直近は自身の反射による不感帯になり、リンク先端の最初のコネクタが測れません。ここに発射ファイバを挟むと、不感帯をそのファイバ内で除去でき、被測定リンクの先端から正確に測れます。同じくリンク終端の先に受信ファイバを付ければ、終端コネクタの損失も測れます。

まとめ:測定シナリオ別チェックリスト

前提条件が揃っているかを確認する意味で、状況別の設定を一覧にします。

項目 短距離(〜2km・構内) 長距離(〜120km・幹線)
パルス幅 短(数ns〜数十ns) 長+短の2回撮り
波長 1310nm 主・1550nm 補 1550nm 主・1625nm(曲げ/活線)
平均化 数秒〜十数秒 1〜3分
レンジ 実長より長く 実長より長く
発射/受信ファイバ 推奨 推奨

参考として、EXFO の資料には、仕様 35 dB(実用約 30 dB)のOTDRで、ファイバ 0.20 dB/km・2kmごと融着 0.1 dB という条件下で約 120 km まで確度をもって測定できる、という試算例があります9。前提を明示した一例で、実際の到達はリンク条件で変わります。ダイナミックレンジは公称の 5〜8 dB 上を選ぶのが目安、ともされています9。


前編のまとめと後編予告

前編で扱ったのは、OTDR単体の原理と操作でした。

  • 原理:後方散乱(傾き=損失)とフレネル反射(ピーク=反射点)。距離は往復時間から群屈折率で逆算する
  • 読み方:傾き=区間損失、段差=接続損失、ピーク=反射率/ORL。ゲイナーは測定アーティファクト(虚像)で、双方向平均で真値を得る
  • 切り分け:反射の有無と波長依存で、融着/コネクタ/曲げ/破断/ゴーストを判別する
  • 撮り方:パルス幅・波長・平均化・レンジ・発射ファイバを、見たいものに合わせて選ぶ

後編では、OTDRを他の測定器・DSPと組み合わせる実務ワークフローに入ります。要点は3つです。

  • 損失の合否判定はOTDRではなく **OLTS(光源+パワーメータ)**の担当で、OTDR単独ではリンク認証できない
  • 活線(運用中)測定には、波長分離だけでは片づかない 自発ラマン散乱ノイズという制約がある(過去記事で扱った非線形効果が測定側で再登場する)
  • コヒーレント時代にはDSPが分散・PMD・OSNRをモニタするが、OTDRとDSPは代替関係ではなく相補関係にある

参考文献

本文中の各主張には脚注番号(例:5)を付し、検証できる一次情報源に対応させました。番号をたどると、その主張の裏付けを直接確認できます。

日本語の情報

規格

技術資料


  1. EXFO Glossary「Optical Time-Domain Reflectometer (OTDR)」。ダイナミックレンジ仕様は最長パルス幅・3分平均・SNR=1(RMSノイズ基準)で与えられるのが通例、と記載:https://www.exfo.com/en/resources/glossary/optical-time-domain-reflectometer-otdr/ ↩

  2. Light Brigade「OTDR Dynamic Ranges」。IEC 方式は Telcordia 値より約6.6dB小さく、OTDRの実用範囲の目安になる、と解説:https://www.lightbrigade.com/post/otdr-dynamic-ranges ↩

  3. EXFO Application Note 076「OTDR Measurement Parameter Optimization」。長いパルス幅は S/N を改善するが事象間隔より長いと事象検出が不正確になり減衰性不感帯も増えること、ノイズ低減は平均化回数の平方根に比例することを記載:https://www.exfo.com/contentassets/8b68a70337254540b48447bee7b63492/exfo_anote076_otdr-measurement-parameter-optimization_en.pdf ↩ ↩2

  4. IEC 61746-1:2009「Calibration of optical time-domain reflectometers (OTDR) – Part 1: OTDR for single mode fibres」。距離・損失・反射率の校正手順を規定し、損失校正時に測定区間を減衰性不感帯の外側に置く考え方を含む。公式ページ:https://webstore.iec.ch/en/publication/5748 ↩

  5. ITU-T G.652(08/2024)減衰係数の規格上限。表内で「1310〜1625nm で最大 0.4 dB/km、1550nm で最大 0.3 dB/km」と規定。概要:https://www.itu.int/epublications/publication/itu-t-g-652-2024-08-characteristics-of-a-single-mode-optical-fibre-and-cable ↩ ↩2 ↩3

  6. ITU-T G.650.3(08/2017)敷設後リンクの試験法。減衰測定に LSPM または OTDR を用い、OTDR は接続損失・ファイバ均一性・リンク長も評価すると規定。概要:https://www.itu.int/dms_pubrec/itu-t/rec/g/T-REC-G.650.3-201708-I!!SUM-HTM-E.htm ↩

  7. ITU-T G.652.D のマクロベンド損失規格:半径30mm・100ターン・1625nm で最大 0.1 dB。規定波長に最長の1625nmが採られている点が、曲げ損失の長波長依存と整合する。出典:ITU-T G.652(上記概要ページ、および Table 内 G.652.D attributes) ↩

  8. ITU-T L.41(2000年5月)「Maintenance wavelength on fibres carrying signals」。1310/1550nm で運用中のファイバに対する保守波長の割り当てを規定。2016年2月に内容を変えずL.301へ改番。要約ページ:https://www.itu.int/rec/T-REC-L.41-200005-I ↩

  9. EXFO Application Note 142「OTDR Selection」。仕様35dB(実用約30dB)のOTDRで 0.20 dB/km・2kmごと融着0.1dB の条件下で約120kmまで測定可能とする試算例、およびダイナミックレンジは公称の5〜8dB上を選ぶ目安:https://www.exfo.com/contentassets/7529986731fd4ce69ef4852cdc4855a2/exfo_anote142_otdr-selection_en.pdf ↩ ↩2

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