こんにちは、NECの生藤です。
信号処理を中心に道路監視システムの技術開発に携わっています。
ここでは光ファイバセンシングを活用して道路上の交通流をモニタリングする技術について説明します。
なお、ここで述べる内容は道路の中でも高速道路が対象で、実応用が主な話になります。
光ファイバセンシングの簡単な原理については12/2の光ファイバセンシングとアレイセンサで説明されているので、そちらも併せてご覧ください。
1. 交通流とは?
文字通り道路上を走行する車両の流れを交通流と言います。
渋滞現象などの分析によく利用される概念で、道路上の交通流を捉えることで渋滞のような異常を検知できます。
特に高速道路の場合、スムーズな交通が維持されているかを把握することは快適かつ効率的な道路運用のために重要で、様々なセンサを活用して交通流把握に努めています。
交通流そのものを表す物理量はありませんが、単位時間当たりの通過車両台数や、IC間の旅行時間、速度などから交通流を把握します。
交通流をモニタリングする代表的なセンサとしては、ループコイルやカメラが挙げられます。
これらのセンサは走行車両を捉える精度が高く、得られる情報量(車両の大きさ、重さ、走行車線など)が多いのが特徴で、極論ですが100m間隔で敷き詰めれば漏れなく全線の道路状況を把握できます。
しかし、実際は導入・運用コストが非常に高く、良くて数キロ間隔、主要道路でなければループコイルが十数キロ間隔でカメラは無し、というのが現状で、道路全線の交通流を把握するということはできません。
GPSを使って車両位置情報から交通流を把握する方法もありますが、利用できる車両が限られており、位置情報を吸い上げる集約装置がICごとに設置されているなどの理由で、肝心の渋滞などの異常を早期に検知することは困難です。
2. 光ファイバセンシングの活用
上述の従来センサの課題を綺麗に解決する方法として、光ファイバセンシングを用いたモニタリング手法が提案されています。
光ファイバセンシングとは光ファイバケーブルで振動や音、温度を計測するセンシング技術のことでラインセンシングの一種になります。
走行車両の振動を捉えることで高速道路全線の交通流をモニタリング可能で、
大きく以下の3つの利点があります。
- 既設の通信用光ファイバを利用するため、導入・運用コストが極めて低い
- 道路に沿って光ファイバが敷設されているため、漏れなく全線監視できる
- 長距離に渡る交通流をリアルタイムにモニタリングできる
見事に従来センサの課題を解決できていますね。
このセンシング技術の話をすると、「道路に光ファイバを敷くコストが大変そうですね。」とかよく言われますが、高速道路や主要国道は緊急電話などのために必ず光ファイバが束になって敷設されています。
なので、導入に必要なのは計測器のみで工事などは一切要りません。
さらに高速道路はIC・JCTを除いて分岐がないため、ラインセンシングとの相性が抜群に良いです。
このような理由から、光ファイバセンシングによる交通流モニタリングを提案しており、すでに国内の一部の高速道路で運用されています。
3. 交通流の可視化
次に光ファイバセンシングで計測した車両の走行振動をどのようにして交通流として出力するか説明します。
前述したように光ファイバセンシングは漏れなく全線を監視できるので、振動強度を時間と距離のグラフにマッピングすると図2のような走行軌跡を得ることができます。
この走行軌跡の傾きから速度を計算することができ、1kmや500mおきに平均速度を算出することで高速道路上に渋滞等が発生していないかを監視します。
また、車両の重量や走行車線によって振動強度は増減するので、上手く分析すればどんな車がどの車線を走行しているのかも把握できます。
(細かい分析方法等は割愛します。)
実際に計測した例は図3になります。
道路に沿って敷設されている光ファイバでセンシングすることで図3のように長距離を漏れなくモニタリングできるうえに、軌跡の傾きの変化から渋滞などの交通流の乱れが把握できます。
実際に図3の右図を見ると、どのあたりで交通が乱れているかよくわかると思います。
4. 走行軌跡の抽出
目で見れば図3の結果から大体の速度や渋滞箇所は読み取れますが、システムとして速度推定・渋滞検知を行う場合、図3のような可視化結果から走行軌跡を抽出し、傾きから速度を計算し、速度値から異常を検知しなければなりません。
特に走行軌跡の抽出は重要で、ここが上手く機能しないと速度計算も異常検知もできなくなります。
一般的に画像から線を抽出する手法としてはエッジ検出が用いられますが、光ファイバセンシングで計測、可視化した図から切れ目を補間しつつ、1台1台の走行軌跡を抽出するのはまず不可能です。
これは軌跡となる線が幅を持ち、その幅の太さが異なることが大きな原因です。
ちなみに線の幅は、振動の時空間方向への拡がり方に依存し定式化することが困難です。
そこで、我々はDeepLearningによる軌跡抽出を利用しています。
細かい学習条件などは割愛しますが、U-netをベースとして設計しており図4のような流れで軌跡を抽出します。
図4. 光ファイバセンシングを用いた交通流モニタリングにおける軌跡抽出
このようにして、光ファイバセンシングで計測した走行振動を分析し、交通流モニタリングに活用しています。
光ファイバセンシングの技術自体はNEC以外でも取り組んでいる企業はいますが、実用化までたどり着いたのはいまのところNECのみです。
5. おわりに
光ファイバセンシングの応用例として、道路の交通流モニタリングについて書かせてもらいました。
まだまだ課題のある伸びしろ満載のセンシング技術なので、どんどんアップグレードしていきたいと思います。
あと、ものが違うので省きましたが、少し前に開発したカメラによる道路監視システムとの融合にも挑戦したいですね。
全体的にざっくりとした説明のため、もっと細かく知りたいなどのご希望があればいつでもご連絡ください。
また、こんな活用ができそうなどのご提案、ご相談も大歓迎です。