シリーズ:「季節を決めているのは誰か」スピンオフ / 1次産業編
データ: e-Stat(作物統計・食料需給表・漁業生産統計・センサス累年)+ 気象庁 全国気温偏差 + 桜開花日
分析スタイル: Python(e-Stat API)自動取得 + AI(Claude)との壁打ちで仮説を深掘り
関連: 2021年、気象庁は季節の観測を縮小した──その前に集めたデータが語ること
はじめに:毎年の「酷暑」ニュースを、データで追う
ここ数年、毎夏「記録的猛暑」という見出しが並ぶ。スーパーの米値が上がった2023年、漁獲量のニュース、農家の高齢化──体感とニュースが重なって、「温暖化で食料が危ないのでは?」と思った人は少なくないはずだ。
私もそう思い、e-Stat(政府統計の総合窓口)を開いた。
すると、確かに数字は落ちていた。
| 指標 | 昔 → 今 |
|---|---|
| 米の国内生産 | 1960年代 約1,300万トン → 2010年代 約850万トン(▲35%) |
| 海面漁業 漁獲量 | 1980年代 約1,075万トン → 2010年代 約377万トン(▲65%) |
| 全国気温偏差 | 1960年代 -0.78℃ → 2020年代 +0.98℃ |
「やっぱり暑くなって減ってる?」──ここで、多くの分析は終わる。
私の分析も、ここで一度、完全に間違った方向に進んだ。
分析の途中で出てきた謎は、AIを壁打ち相手にしながら一つずつ解きほぐしていった。その過程で見えてきたのが、この記事の構造だ。
クイックサマリー(結論ネタバレ)
3行で読む:
- 米も魚も長期的に激減しているが、最大の原因は温暖化より担い手の減少だった
- 面積や就業者数で補正すると、農業も漁業も意外と健闘していた
- ただし猛暑や冷害の年には、気候ショックがはっきり現れる
📊 数字で読む(詳細版)
- 主犯は担い手の消滅: 漁業就業者数と気温偏差の相関 $r=-0.73$ は、漁獲量 $r=-0.52$ より強い
- 全国計CPUEの横ばいはイワシが相殺した錯視: CPUE全体($r=+0.161$、非有意)でもイワシを除くと $r=+0.308$(p=0.021)と有意に変化──海の中身が入れ替わっていた
- 気候は異常年にだけ牙を剥く: 技術トレンドを除去した残差に、1993年冷害・暖候年の下振れが浮上
米は 1,300万→850万トン(▲35%)、漁獲は 1,075万→377万トン(▲65%) の激減だが、「温暖化で全滅」でも「技術で万事OK」でもない。総量 → 1人あたり生産 → トレンド除去 → イベント年 → 魚種別補正 の5層で解体する。
データ更新の注記
本稿の API 自動取得の途切れ: 米収量(作物統計)2017年産まで、漁獲量 2015年まで、漁業就業者累年 2021年まで、基幹的農業従事者 2017年まで。2023年漁業センサス就業者 12.1万人、2025年農林業センサス従事者 約103.6万人(平均67.7歳)は省庁公表値で補完。2023年酷暑の定量評価は単年表マージ後の続編で扱う。
§1 罠:気温と総量の相関は、マイナスだった
まず素朴に、気温偏差と生産量の相関係数 $r$ を計算した。
| 指標 | $r$(気温偏差との相関) |
|---|---|
| 米国内生産 | -0.60 |
| 米収穫量 | -0.41 |
| 海面漁業 漁獲量 | -0.52 |
「暑くなるほど減る」──一見、温暖化説が裏付けられたように見える。
📊 r(相関係数)とp値って何? ── 初めての方向け
r(相関係数) は「2つの数値がどれだけ同じ方向に動くか」を −1〜+1 で表す指標。
| r の値 | 直感的な意味 |
|---|---|
| +1.0 に近い | 一方が増えると他方も増える(強い正の関係) |
| 0 に近い | ほぼ無関係 |
| −1.0 に近い | 一方が増えると他方は減る(強い逆の関係) |
目安: |r| > 0.5 で「中程度以上」、|r| > 0.7 で「かなり強い」。
p値 は「この相関が偶然起きた確率」。
- p < 0.05(5%未満) → **「統計的に有意」**=偶然ではないと判断
- p ≥ 0.05 → 「非有意」=偶然の可能性が排除できない
この記事では断りがない限り、p < 0.05 を「有意」と呼ぶ。r と p はセットで読むのが正しく、「r が大きくても p が大きければ偶然かもしれない」という点が落とし穴になる。
これが罠だ。
相関は因果ではない。そして長期データでは、別の巨大な力が同じ方向に、同じタイムラインで動いている。
この記事では、3段階の罠を順に解体する。罠①:担い手の消滅が気温との擬似相関を作る。罠②:単収とCPUEが「面積減・人減」ノイズの下に隠れている。罠③:技術進歩トレンドが気候シグナルを覆い隠す。
§2 主犯登場:「交絡因子のラスボス」は、現場から消える人だった
🔀 「交絡因子」って何? ── 統計の「影の主犯」
交絡因子(confounding factor) とは、本当の原因でも結果でもないのに、原因と結果の両方に影響を与える「第三の変数」のこと。
有名な例:「アイスが売れる日は溺死者が多い」
→ アイスが溺死を引き起こすわけではない
→ 「夏(気温)」 という交絡因子が、アイスの売上と水泳の機会の両方を同時に増やしているだけ
この記事での交絡因子のラスボスは 「日本の産業構造の変化(高齢化・過疎化)」。
温暖化と農林水産業の担い手の減少は、どちらも「時間とともに進む」という軸で同期しているため、「気温が上がると生産量が減る」という見せかけの相関が生まれる。本当は気温が原因ではなく、人が消えているだけ。
e-Stat のセンサス累年表から、担い手の人数を引いてみた。
| 指標 | 昔 → 今(e-Stat 累年) |
|---|---|
| 漁業就業者数 | 69.9万人(1961)→ 12.9万人(2021) |
| 基幹的農業従事者 | 503万人(1976)→ 151万人(2017) |
| 米の作付面積 | 220万ha → 147万ha(1980s→2010s) |
2025年農林業センサス(2025年12月公表)では、基幹的農業従事者は 約103.6万人、平均年齢 67.7歳。e-Stat API の累年表は 2017年で途切れており、本稿の自動パイプラインはそこまで。2023年漁業センサス(2024年公表)の就業者 12.1万人 も、累年 API は 2021年まで のため、§2以降のグラフと脚注で公表値を補完している。
そして、主犯の入れ替えを引き起こす数字がある。
| 指標 | $r$ |
|---|---|
| 気温偏差 vs 漁業就業者数 | -0.73 |
| 気温偏差 vs 基幹的農業従事者 | -0.68 |
| 気温偏差 vs 米作付面積 | -0.58 |
| 気温偏差 vs 漁獲総量 | -0.52 |
就業者数との相関の方が、漁獲量より強い。この「就業者数」こそが、交絡因子のラスボスだった。
「暑くなったから減った」のではない。「日本が豊かになり、過疎化と高齢化が進むタイムライン」と「地球が温暖化するタイムライン」が、時間を介してガッチリ握手していた──擬似相関の正体は、ここにあった。

図5: 左=農業、右=漁業。二つの折れ線が逆行している。 読者に見てほしいこと: 総量減の主役は気温曲線ではなく、担い手の減少線である──この直感を持ったうえで §3 以降へ進んでほしい。
§3 第二の罠:単収とCPUEを見ると、話が変わる
総量だけ見ると絶望的だ。だが分析設計を変えると、別のレイヤーが見えてくる。
農業:「単収」で面積減のノイズを相殺する
$$
\text{単収(kg/10a)} = \frac{\text{収穫量}}{\text{作付面積}} \times 100
$$
人が減ると田んぼが荒れ、作付面積が減る。しかし 残った農地で、1反あたりどれだけ取れたか に変換すれば、「担い手不足」と「天候」の影響をかなりの程度分離できる。
| 指標 | $r$ |
|---|---|
| 米収穫量(総量) | -0.41 |
| 米10a当たり収量 | +0.38 |
総量と符号が逆転する。面積減を除けば、長期では単収は横ばい〜微増方向だ。

図1: 上=収穫量、中=作付面積、下=10a当たり収量(橙線=気温偏差)。 読者に見てほしいこと: 総量は右下がりだが単収は500kg前後で安定──「減った=暑いから」では説明できない、と気づく瞬間。
漁業:CPUEで「魚がいない」のか「人がいない」のかを切る
水産分析でよく使われる CPUE(Catch Per Unit Effort:努力量あたり漁獲量) の簡易版として、
$$
\text{CPUE} = \frac{\text{総漁獲量(トン)}}{\text{漁業就業者数(人)}}
$$
を計算した。簡単に言えば**「漁師1人が1年間に何トン獲れるか」**。就業者が減っても、この値が横ばいなら「海から魚が消えたのではなく、船が出なくなっただけ」と読める。
| 指標 | $r$ | p値 |
|---|---|---|
| 総漁獲量 | -0.52 | — |
| CPUE(トン/就業者) | +0.161 | 0.236(非有意) |
| CPUE(イワシ除き) | +0.308 | 0.021(★ 有意) |
1人あたりの漁獲量は、横ばい〜微増。「日本の海から魚が消えた」という単純な環境悲観論には、データはそのままでは乗らない。

図2: 全国計と主要魚種(イカ・サケ・イワシ等)の漁獲推移。 読者に見てほしいこと: 1980年代ピーク後の全面減と、魚種ごとのブレの違い──資源管理・回遊・担い手が混ざった「総量の顔」。
船が出なければ、海に魚がいても漁獲量はゼロだ。就業者定義の変更、資源管理(獲りすぎない規制)、探知機・養殖技術の進化──CPUE に残るノイズは脚注に正直に書くべきだが、「honest な非有意」こそが、この記事の信頼性になる。
ただし、その「非有意」には続きがある。e-Stat の魚種別データでイワシ類を取り除くと、CPUE は r=+0.308(p=0.021)と有意に跳ね上がる。 この「イワシが全体CPUEを底上げしていた」構造の正体は §8 で解体する。

図6: 上=総漁獲量(万トン)、下=CPUE(トン/就業者)。 読者に見てほしいこと: 総量は半減以下でも、1人あたり漁獲は横ばい──「海が空になった」一本足では読めない、という honest な結果。
§4 第三の罠:技術進歩が、気候シグナルを隠している
ここまで来て、まだ足りない。
農家・漁師は黙って暑さに負けているわけではない。品種改良、大型機械、センサー、農薬・肥料、探知機、養殖──テクノロジーは単収とCPUEを長期的に押し上げる。
1985〜2011年の米単収をプロットすると、全体として緩やかな右肩上がりがある。これが「技術の足跡」だ(※本図の単収系列は API 累年 2017年産まで。2023年は後述のデータ更新で追加予定)。
そこで デトレンド(トレンド除去) をかける。
- 5年移動平均で「平年並みの実力値(ベースライン)」を引く
- 実測値 − ベースライン = 残差(異常年のダメージ or 好年)
- 残差だけを、気温偏差と並べる
結果、1993年(冷害・イネアオムシ) が突出した大暴落として浮上する。暖候年(temp_anomaly ≥ 0.5℃)も、残差がマイナス方向に偏る年がある。

図4: 線形トレンドからの単収残差(赤=暖候年)。 読者に見てほしいこと: 長期トレンドを引いたあと、猛暑側の年だけが下に偏るかどうか──イベント分析の入口。

図7: 上=実測単収と線形トレンド、中=5年MA残差(赤ラベル=暖候年)、下=気温偏差。 読者に見てほしいこと: 1993年の谷と、暖候年の下振れだけがトレンドから突き出る──「平年は技術、異常年は気候」という二層構造。
平年は技術トレンドが支配的で気候の出番がない。異常年だけ、気候ショックが全変数をなぎ倒して牙を剥く──非線形な現象が、ここに写る。
§5 5層分解:この記事の分析設計
整理すると、こういう4層の階段で主犯に迫る。
第1層 総量 → 「減った」事実。でも主犯は不明
第2層 単収 / CPUE → 担い手・面積のノイズを削る
第3層 デトレンド残差 → 技術進歩の右肩を剥ぐ
第4層 イベント年 → 1993冷害、猛暑年だけが突き抜ける
第5層 魚種補正CPUE → イワシ相殺を除去して真の漁業シグナルを解放
| 層 | 農業で見る指標 | 漁業で見る指標 |
|---|---|---|
| 1 | 収穫量(トン) | 漁獲量(トン) |
| 2 | 10a当たり収量 | CPUE(トン/人) |
| 3 | 移動平均残差 | (就業者トレンド除去) |
| 4 | 1993, 暖候年 | 資源管理ショック年 |
| 5 | — | 魚種補正CPUE($r=+0.308$, p=0.021) |
「複雑すぎて1本の相関係数では答えが出ない」 という沼そのものを、問いの分解で昇華させる──これが今回のデータサイエンスの芯だ。
§6 重回帰の結果(技術補足)
本節は統計モデルの詳細です。読み飛ばしても §7 以降の流れは問題ありません。
重回帰:$R^2 = 0.21$ の「絶妙な弱さ」をどう読むか(クリックで展開)
📐 R²(決定係数)って何? ── モデルの「説明力」の指標
R²(アールじじょう、決定係数) は「このモデルがデータの動きをどれだけ説明できているか」を 0〜1 で表す指標。
| R² | 直感的な意味 |
|---|---|
| 1.0 | データを完全に説明できている |
| 0.5 | データの変動の半分を説明できている |
| 0.0 | まったく説明できていない |
社会科学では R² = 0.3 でも「まあまあ」、0.5 以上で「良好」とされることが多い。
R² が低い = モデルが間違い、ではなく、「説明しきれない要因が他にある」 というシグナルでもある。
単収を目的変数に、説明変数として気温偏差・作付面積・年(技術進歩の代理変数)を入れた重回帰を試した。
$$
\text{単収} \sim \text{気温偏差} + \text{作付面積(標準化)} + \text{年(標準化)}
$$
| 結果 | 値 |
|---|---|
| $n$ | 27 |
| $R^2$ | 0.21 |
| 気温偏差の偏回帰係数 | +18.0 kg/10a per ℃ |
| 年(技術代理)の係数 | +12.9(標準化) |
$R^2$ が低いのは、モデルが間違っているからではない。平年は年次トレンド(技術)が支配的すぎて気候の説明力が出ない。異常年だけイベントとして残差に漏れる──§4の非線形性と整合する。
偏回帰係数 +18 kg/10a/℃ を「暑いほど米が増える」と読むべきではない。線形モデルが捉えきれない異常年の影響、未観測の交絡(価格・品種・病害)が係数に混ざっている。「因果が証明された」ではなく、「共変動の分離を試みた」 までが、この分析の射程だ。
§7 未統合の伏兵:政策・価格・品種を取り込むロードマップ
§2〜§4で扱えたのは 担い手・技術・気候イベント まで。残る伏兵──経済・政策・品種──は本稿では未統合だが、放置すると重回帰の係数が再び歪む。続編・拡張分析の優先順位を、データソース付きで示す。
| 優先 | 伏兵 | e-Stat / 外部データ | 取り込む指標 | 分析手法(案) |
|---|---|---|---|---|
| ★★★ | 前年米価・作付意向 | 米の相対取引価格、作物統計 | 前年産価格ラグ、作付面積の年次変化 | 単収 ~ 気温 + 価格ラグ + 面積 |
| ★★★ | 減反・転作・補助 | 食料需給表、政策年ダミー | 麦・大豆作付のシフト、制度変更年 | イベントダミー + 作付構成比 |
| ★★☆ | 品種シフト | 品種別作付面積 | 耐熱品種(新之助等)シェア | 品種シェア ~ 年 + 気温(人類の反撃) |
| ✅ | 漁業 魚種別CPUE | 海面漁業生産統計 0003238633(e-Stat) |
イワシ補正CPUE | 本稿で実施完了(§8 参照) |
| ★☆☆ | 輸入代替 | 貿易統計、家計調査 | 国産/輸入比率 | 国産生産の説明力低下を分離 |
定量の目標(続編): 重回帰の $R^2$ を 0.21 から 0.4前後 まで押し上げ、気温偏回帰係数の符号・大きさが「価格・政策を入れた後も残るか」を検証する。残れば「構造・技術を除いても説明される気候成分」、消えれば「イベント年特化分析に設計を切り替える」。
「量」の長期因果は泥沼にハマる。異常値(アノマリー)に特化するアプローチ──特定の酷暑年だけ、標準偏差2σ外れの暴落があるか──は、政策変数が未整備でも先に進められる。
§8 限界と次の一手:因果推定・データ更新
因果の壁と、試す価値のある設計
本分析で示せるのは 共変動の分離 まで。厳密な因果には、次のような設計が現実的だ。
差分の差分(DID)の具体案
💡 DID とは: 「影響を受けたグループ」と「受けなかったグループ」それぞれの変化量の差を取ることで、もともとの傾向の違いを打ち消し、ショックの純粋な影響だけを取り出す手法。「猛暑年に露地農家は単収が落ちたが、ハウス農家は落ちなかった → その差が気候ショックの効果」という論理。
- 露地 vs ハウス栽培: 同一都道府県内で、気象ショック(猛暑年)前後の単収差を、ハウス(気候コントロール)と露地で比較。e-Stat 作物統計の都道府県×年産で実装可能。
- 制度変更前後: 減反緩和・転作促進など、政策年を $t_0$ にとった作付面積・単収の before/after。全国トレンドを差し引けば「政策ショック」の下限推定になる。
操作変数(IV)の具体案
💡 IV(操作変数)とは: 「気温が農業に影響する」という関係を直接測りたいが、気温は農家の行動(作付け・品種選択)と絡み合って因果が判別しにくい。そこで「気温とほぼ同じ動きをするが、農業判断には直接影響しない外部変数」を代わりに使い、純粋な因果効果だけを取り出す手法(2段階最小二乗法)。
- 産地の外生気象: 同じ年でも、積雪量・台風経路・オホーツク海 SST など、当該農地の作付判断と独立に近い変数を、局地気温の IV にする(2段階最小二乗)。
- 限界: 日本全国スケールでは IV の排他性を主張しにくい。都道府県パネルに落とすと説得力が上がる。
イベント研究(本稿に最も近い延長)
- 2023年・1993年を $t=0$ に、前後3年の単収残差・米価・在庫を並べる。累年 API が途切れている年は 単年表を手でマージ する(下記)。
データ更新の整理(本文中の約束)
| 系列 | API 累年の終端 | 省庁公表の最新 | 本稿の扱い |
|---|---|---|---|
| 米 収量・単収 | 2017年産 | 2023年産単年表あり | fig1・7 は2017まで。2023はサマリーで言及 |
| 海面漁獲量 | 2015年 | 年報で更新中 | fig2・6 は2015まで |
| 漁業就業者 | 2021年 | 2023年センサス 12.1万人 | fig5 右。脚注で2023補完 |
| 基幹的農業従事者 | 2017年 | 2025年センサス 103.6万人 | fig5 左。脚注で2025補完 |
| 全国気温偏差 | 2025年 | 気象庁更新 | 全図で使用 |
# 累年表が途切れたあと、単年表から national 行だけ抜くイメージ
params = {
"appId": APP_ID,
"statsDataId": "0003325095", # 例: 平成25-29年産ブロック
"cdArea": "N0001", # 全国
"cdCat01": "003", # 収穫量
}
rows = fetch_stats_data(**params)
# 2018〜2023年産は別 statsDataId を getStatsList で都度探索して縦結合
CPUE・品種の脚注
就業者数ベースの CPUE は簡易版だ。漁船総トン数、出港日数を入れると精度が上がる。就業者定義は漁業センサス改定で系列ブレあり(2023年調査方法の脚注要確認)。
品種別作付面積(コシヒカリ→耐熱品種)を §7 ロードマップの ★★☆ として続編で扱う。「気候 vs 人類の知恵」のパラメータ調整 は、そこで初めて定量できる。
魚種交代(レジームシフト):全国計CPUEが横ばいだった謎が解けた
今回の簡易CPUE(全国計 ÷ 漁業就業者数)が横ばいだった理由を、e-Stat の魚種別漁獲量データ(1961〜2015年)で直接検証した。
$$
\text{CPUE(イワシ除き)} = \frac{\text{総漁獲量} - \text{イワシ類}}{\text{漁業就業者数}}
$$
| 指標 | $r$ | p値 |
|---|---|---|
| CPUE 全体 | +0.161 | 0.236(非有意) |
| CPUE(イワシ除き) | +0.308 | 0.021(★ 有意) |
| CPUE(イワシのみ) | -0.038 | 0.782(非有意) |
| イワシシェア(%) | -0.021 | 0.878(非有意) |
全国計CPUEが横ばいだった理由が、ここで確定する。 イワシを除くと相関係数が2倍近く跳ね上がり、有意水準を超える。
注目すべきはイワシシェア自体も気温と無相関(r=-0.021)である点だ。イワシの増減は温暖化直接ではなく、海洋の長期サイクル(レジームシフト)が主動力であることを示唆している。
| 魚種グループ | 動き(1961〜2015) | CPUEへの影響 |
|---|---|---|
| サケ・スルメイカ | データ期間内で右肩下がり | マイナス寄与 |
| マイワシ | 1980年代ピーク(450万トン超)→1990年代大崩壊→2010年代回復 | 相殺バッファー |
この歴史的な振れ幅が、全国計CPUEに「横ばいに見せる錯視」を生んでいた。マイワシは巻き網漁で大型船が一網打尽にするため、就業者1人あたりのトン数を大きく引き上げるバイアスがある。「海が空じゃない」は正しい。ただし正確には、「海の主役が入れ替わっていたため、CPUEは横ばいのまま維持された」 だ。

図8: Panel1=CPUE全体とイワシ除きの乖離(緑の帯=イワシの上乗せ分)、Panel2=魚種構成シェアの変化、Panel3=主要3魚種の絶対量推移。 読者に見てほしいこと: Panel1の緑帯の大きさがレジームシフトの痕跡──全国計CPUEを「底上げ」していたイワシの規模感。
§9 桜と並べると:生物季節は、1次産業より素直に答える
同じリポジトリで扱った 桜開花日(1961〜2025年、87地点)と並べると、面白い対比が出る。
| 指標 | $r$(気温偏差) |
|---|---|
| 桜開花日(早い=負) | -0.52 |
| 米10a当たり収量 | +0.38 |
| 米収穫量(総量) | -0.41 |
桜は「春の温度」に比較的素直に反応する。米の総量は「人と面積」に引っ張られる。同じ「温暖化」でも、指標の設計次第で符号が逆転する。

図3: 気温・米単収・桜前倒しを標準化偏差で重ねた三角測量。 読者に見てほしいこと: 生物季節(桜)は気温に素直、米総量は逆符号──同じ「温暖化」でも指標設計で結論が変わる。
おわりに:答えより、問いの分解
「地球温暖化で日本の食料危機!」というニュースを見て e-Stat を開いたら、確かに米も魚も激減していた。
しかし、気温と単純相関をとったらマイナス。罠だった。
因数分解すると、真の主犯は 猛烈な勢いで現場から消えていく生産者 だった。
だが、話をここで終わらせない。
単収は技術で右肩を上げ、CPUEは横ばい──だがその「横ばい」はイワシが相殺した錯視だった。イワシを除いたCPUEは有意(r=+0.308, p=0.021)で、海の中身は静かに入れ替わっていた。デトレンドした先に、1993年の冷害 と 暖候年の残差 が姿を現す。
気候変動のダメージに対して、人類はスマート農業と品種改良で抗い続けている。この「気候 vs 人類の知恵」の戦いは、まだ始まったばかりだ。
データ分析はムズい。だからこそ、
総量 → 単収/CPUE → デトレンド残差 → イベント年 → 魚種補正CPUE
という5層の分解設計に、ストーリーが宿る。
数字をこねくり回すのではなく、現場の歪みと統計がシンクロした瞬間に、データは「証拠」に変わる。
今回、「CPUEが横ばいなのはなぜか」という謎はAIとの壁打ちで「レジームシフト」という切り口が浮かび上がり、e-Statのデータで検証できた。データを持つだけでは見えない──問いを立てる相手がいると、分析は一段深くなる。
分析環境・データ・再現
データソース
| データ | 出典(e-Stat 統計表ID 等) |
|---|---|
| 米 作付・収量 | 作物統計 0003318296 他、累年ブロック複数 |
| 米 国内生産 | 食料需給表 0003417196
|
| 海面漁業 漁獲量 | 漁業・養殖業生産統計 0003238633
|
| 漁業就業者数 | 漁業センサス累年 0002064948
|
| 基幹的農業従事者 | 販売農家統計 0003237742
|
| 気温偏差 | 気象庁(プロジェクト内 CSV) |
| 桜開花日 | 気象庁 生物季節観測 |
データ鮮度(再掲)
| 系列 | API 終端 | 公表最新 |
|---|---|---|
| 米収量・単収 | 2017年産 | 2023年産(単年表) |
| 漁獲量 | 2015年 | 年報随時 |
| 漁業就業者 | 2021年 | 2023年センサス 12.1万人 |
| 基幹的農業従事者 | 2017年 | 2025年センサス 103.6万人 |
実行コマンド
python analysis/agriculture/fetch_agri_fishery_estat.py
python analysis/agriculture/climate_agri_analysis.py
python analysis/agriculture/confounders_analysis.py
python analysis/agriculture/regime_shift_cpue.py
相関係数の計算(コアスニペット)
from scipy import stats
import pandas as pd
panel = pd.read_csv("results/agriculture/confounders_panel.csv")
sub = panel[["temp_anomaly", "total", "fishery_workers"]].dropna()
r_catch, p_catch = stats.pearsonr(sub["temp_anomaly"], sub["total"])
r_workers, p_workers = stats.pearsonr(sub["temp_anomaly"], sub["fishery_workers"])
print(f"漁獲量 r={r_catch:.3f}, 就業者 r={r_workers:.3f}")
# → 漁獲量 r=-0.524, 就業者 r=-0.726
出力一覧
| 種別 | パス |
|---|---|
| データ | data/agriculture/*.csv |
| 結果 | results/agriculture/confounders_summary.md |
| 図 |
output/agriculture/fig1〜fig8.png |
| 魚種補正CPUE結果 | results/agriculture/regime_shift_cpue.csv |
参考文献・脚注
- 総務省統計局 e-Stat: https://www.e-stat.go.jp/
- 2025年農林業センサス 基幹的農業従事者 約103.6万人、平均年齢 67.7歳(農林水産省公表値。API累年表未収録のため脚注補完)
- 2023年漁業センサス 漁業就業者 12.1万人(過去最少。同上)
- CPUE 就業者定義: 海面漁業センサス「漁業就業者数_計」。調査年・定義改定による系列ブレに注意
シリーズ: 季節を決めているのは誰か(スピンオフ)
関連: 桜開花日と気温の三角測量
次回(予定): 2023年産単年表マージ / FRA資源評価データとのマージ(魚種別バイオマス推定値)/ §7ロードマップ(価格・品種)/ DID・IV の試行