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データ: 家計調査 世帯主年齢階級別 年次(総務省)/ 全国消費実態調査 2014年(総務省)
分析: Python(e-Stat API)でデータ取得・可視化、Claude(AI)と壁打ちしながら仮説を深掘り
シリーズ: 公開データで市場の通説を検証する


はじめに

「若者の酒離れ」「若者の車離れ」「若者の〇〇離れ」。

毎年、こういう記事が量産される。どれも「最近の若者は〇〇をしなくなった」という論調だ。

本当にそうなのか。家計調査のデータをPythonで取得し、AIと壁打ちしながら掘り下げてみた。

最初は「若者の酒離れを確認する」つもりだった。ところが数字を追うごとに、元々の問いとは全く違う景色が見えてきた。

結論から言うと、3つ検証した結果、3つともデータが違う主役を指していた


クイックサマリー

「〇〇離れ」の通説 データが示した違う主役
若者の酒離れ(▲0.15pp) 食料費の上昇(+3.31pp)が20倍大きかった
若者の車離れ 地域差(東京58% vs 山形97%)が38pp
若者の通信費増(スマホ依存) 2021年の政府による携帯料金値下げ政策

第1部:酒離れ

確かに減っている――が、▲0.15pp だけ

家計調査(二人以上世帯、世帯主年齢別)で34歳以下の酒類支出シェアを確認すると、たしかに減っていた。

  • 2015年:消費支出の 0.7%
  • 2025年:消費支出の 0.6%
  • 変化:▲0.15pp

「若者の酒離れ」は存在する。ただし変化量は0.15ポイント。

高齢者は若者の2.7倍飲む

年齢別に並べると、別の数字が目に入る。

世帯主年齢 酒類支出(月額) 消費支出シェア
34歳以下 1,665円 0.6%
40〜44歳 3,168円
50〜54歳 4,055円
65〜69歳 4,964円 1.6%

65〜69歳の酒類シェアは34歳以下の 2.7倍

「若者が飲まなくなった」より「高齢者がよく飲む」のほうが、データとしては強いシグナルだ。

fig2_alcohol_by_age.png
左:2025年の年齢別酒類支出月額。34歳以下1,665円に対し、65〜69歳は4,964円。右:2000年以降の推移。

ただし、「2.7倍」に飛びつく前に確認すべきことがある

「1.6% vs 0.6%」という数字を見る前に、家計調査の分類ルールを確認する必要がある。

家計調査における「酒」の計上場所

飲み方 計上先
家でビールを飲む 酒類
居酒屋でビールを飲む 外食

スーパーで買って家で飲む分だけが「酒類」に計上される。居酒屋や飲み会で飲む費用は「外食」の中に埋まる。

若者と高齢者でこの構造を当てはめると:

  • 34歳以下:外食 6.4% + 酒類 0.6%
  • 65〜69歳:外食 4.0% + 酒類 1.6%

外食の差(▲2.4pp)を考えると、「若者は酒を飲まない」というより「若者は酒類として計上されにくい形で飲んでいる可能性もある」という解釈が成り立つ。

酒類差の裏にある、もっと大きな差

では全カテゴリを並べると、何が最も違うのか。

fig7_age_comparison.png
左:34歳以下(赤)と65〜69歳(青)の支出構成シェア比較(2025年)。右:差分。酒類+1.0ppより住居▲5.8ppが圧倒的に大きい。

最大の差は住居費(▲5.8pp) だった。65〜69歳は住宅ローン完済・子の独立などで住居費が急減する。その分が食料・保健医療・教養娯楽・酒類に分散して比率を押し上げる。

差分が大きい項目 65〜69歳との差
住居 ▲5.8pp(若者の方が高い)
自動車等関係費 ▲2.9pp
外食 ▲2.4pp
教養娯楽 +2.3pp(高齢者の方が高い)
酒類 +1.0pp

「酒類差だけを切り出すと実態を見誤る」というのが、fig7が示す結論だ。このパターンはこの記事全体と一致する。酒離れの裏に食料費があったように、酒類差の裏には住居費と外食の構造があった。

データから直接言えること: 65〜69歳世帯の酒類シェアが高い背景には、①住居費消滅による分母の縮小、②外食での飲酒が外食費に計上されるという測定の非対称性が含まれる。「今の高齢者が飲む文化で育った世代だから」という世代効果の可能性もあるが、横断データだけでは Age・Period・Cohort(APC)の切り分けはできない。

酒離れより食料費が20倍大きく動いていた

では、若者の家計で本当に大きく動いたのは何か。

34歳以下の支出構成シェア変化(2015→2025)を全カテゴリで並べると、順位がはっきりする。

カテゴリ 変化
食料 +3.31pp
自動車等関係費 +1.69pp
保健医療 +1.49pp
通信 ▲2.53pp
酒類 ▲0.15pp

食料費の増加は酒類の減少の20倍以上。

正直、分析前は「若者は酒の代わりに何か別の娯楽に乗り換えたのではないか」と予想していた。しかし家計調査が示した最大の変化は娯楽でも推し活でもなく、食料だった。

fig5_budget_change_young.png
左:2015年と2025年の支出構成シェア比較。右:シェア変化量。食料+3.31ppが断然最大。酒類▲0.15ppは最小クラス。

データから直接言えること:

  • 酒類支出の減少は確かに存在するが、変化量は最小クラス
  • 最大の変化は食料費の上昇(物価上昇の反映)
  • 「若者の酒離れ」という言葉は、食料インフレという本当の変化を覆い隠している

第2部:車離れ

家計調査では「離れ」が見えない謎

次に車離れを確認しようとして、最初につまずいた。

家計調査で34歳以下の自動車等関係費を確認すると、減っていない。

34歳以下 自動車等関係費(月額)
2016年 16,329円
2020年 30,602円
2025年 34,230円

むしろ増えている。65〜69歳(28,577円)より多い。

「若者の車離れ」はどこへ行ったのか。

fig1_car_expenditure_by_age.png
34歳以下(赤)の自動車関連費は2015年以降上昇傾向。65〜69歳(青)と比較しても見劣りしない。

都道府県で分解すると、全く違う絵が出てきた

全国消費実態調査(2014年)で都道府県別の自動車保有率を確認すると、劇的な格差が現れた。

都道府県 自動車保有率
東京都 58.4%
神奈川県 75.7%
大阪府 69.0%
北海道 89.3%
長野県 97.0%
山形県 97.4%

最高(山形)と最低(東京)の差は 38.8ポイント

fig3_car_ownership_by_pref.png
都道府県別 二人以上世帯の自動車保有率(2014年)。三大都市圏の府県(赤)と地方(青)で明確に分かれる。

都市規模でも同じ傾向が出る。

fig4_car_ownership_by_urban.png
都市規模が大きくなるほど保有率が低い。大都市と町村の差は約30pp。

「車離れ」の違う主役

データから直接言えること:

  • 二人以上世帯の家計調査では、若者の車関連費は減っていない
  • 都道府県別に見ると、大都市(特に東京)と地方で38pp超の格差がある
  • 都市部では公共交通機関が整備されており、車を持たない選択が成立しやすい

「若者の車離れとして語られる現象の一部は、年齢差よりも地域差で説明できる可能性がある」というのが、データが示す範囲での解釈だ。


第3部:通信費

「増えた」はずが、実は激減

スマートフォンが普及し、動画・音楽配信が当たり前になった時代。「若者の通信費は増えた」というのが常識的なイメージだろう。

データを見ると、真逆の動きをしていた。

世帯主年齢 通信費シェア 2015年 通信費シェア 2025年 変化
34歳以下 6.0% 3.4% ▲2.53pp
65〜69歳 3.6% 3.7% +0.12pp
全年齢平均 4.4% 3.7% ▲0.73pp

34歳以下の通信費シェアは10年で▲2.53pp。「若者のデジタル支出が増えた」どころか、全年齢で最大の減少だ。

2021年、答えは価格にあった

グラフを見ると、2021年を境に全年齢で急落していることがわかる。

fig6_telecom_by_age.png
全年齢で2021年以降に急落。34歳以下(赤)の落下が最も急峻。

2021年は菅政権が携帯キャリアへの料金値下げを強く要請した年だ。楽天の参入と合わせて、月額料金は数千円単位で下落した。

データから直接言えること:

  • 通信費の激減は2021年を起点に全年齢で発生している
  • 若者の行動変化(デジタル離れ)ではなく、政策による価格変動が主因
  • 「若者のスマホ依存」という語りとは逆方向のデータ

結論

3つの「若者の〇〇離れ」を家計データで確かめた結果、それぞれ違う主役が見えてきた。

  • 酒離れの裏には食料インフレがあった(変化量は20倍差)
  • 車離れの裏には地域構造があった(東京と山形で38pp差)
  • 通信費の変化の裏には価格政策があった(2021年の一斉急落)

「若者の〇〇離れ」という言葉は、全国平均から作られる。

しかし全国平均は時に重要な差を隠してしまう。

酒離れの裏には食料インフレがあり、車離れの裏には地域差があり、通信費の変化の裏には価格政策があった。

データ分析とは、数字を見ることではない。

何が平均に埋もれているかを探すことなのだと思う。


今回見たのは「二人以上世帯」だった。都市に住む若年単身者を見ると、また違う景色が見えるかもしれない。それはまた別の問いとして、次回以降に持ち越したい。


分析環境・データ・再現

分析フロー

今回はPythonでe-Stat APIからデータを取得・可視化し、Claude(AI)との対話で仮説の検証と解釈を進めた。

最初の問いは「若者の酒離れを確認する」だったが、AIとの対話の中で「酒類以外で大きく動いた項目は?」という問いが生まれ、支出構成の全カテゴリを比較する分析設計になった。そこで食料費+3.31ppという当初の想定外の発見につながった。AIは計算よりも「何を調べるべきか」という問いの設計で役に立った。

データソース

データ 出典
家計調査 世帯主年齢階級別 年次 e-Stat 統計表ID: 0002070011(総務省)
全国消費実態調査 2014年 地域別耐久消費財 e-Stat 統計表ID: 0003108733(総務省)

注記

  • 世帯データの限界: 家計調査は世帯単位の集計であり、「34歳以下世帯」には夫婦・子育て世帯が含まれる。都市部の若年単身世帯(車を持たない・酒を飲まないイメージの多くがここ)は「単身世帯」として別集計されており、本分析には含まれない。「若者の行動変化」ではなく「若者世帯の支出構成」として解釈する必要がある
  • APC問題: 年齢別の支出差は「年齢効果」「世代(コーホート)効果」「ライフステージ効果」が混在しており、横断データだけでは切り分けられない
  • 年齢階級「34歳以下」は2015年以降の集計。2014年以前は別コード体系で系列の連続性に注意
  • 自動車保有率は2014年全国消費実態調査。2019年版では都道府県別の耐久消費財データが未整備のため2014年値を使用
  • 通信費の2021年急落の背景として菅政権の携帯料金値下げ要請・楽天参入が考えられるが、因果の確定は本分析の範囲外

実行コマンド

python analysis/qiita/consumption_myth_analysis.py

出力

種別 パス
図(全6枚) output/consumption_myth/fig1〜fig6.png
データキャッシュ data/fetched/consumption_myth/

シリーズ: 公開データで市場の通説を検証する

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