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「大阪は接骨院が多い」は本当か──残差分析で見えた“説明できない地域差”

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Last updated at Posted at 2026-06-30

シリーズ: 常識をデータでひっくり返す / 制度・地域行動編 【Part 1:観測編】
データ: e-Stat(衛生行政報告例・医療施設調査・国勢調査)+ 国土地理院 面積調
分析スタイル: Python(e-Stat API)自動取得 + AI(Claude)との壁打ち


はじめに:コンビニより多い接骨院、そして「大阪異常」

「接骨院、やたら多くない?」という感覚は正しい。全国の接骨院(柔道整復の施術所)は約5万施設で、コンビニ(約5.6万)に迫る水準だ。美容室にいたっては約27万で、コンビニの5倍ある。

そして、もっと面白いのがここだ。

接骨院(柔道整復 施術所・2020年) 施設数 人口
大阪府 6,982 8,838,000
東京都 6,161 14,048,000

人口が1.6倍の東京を、大阪が絶対数で上回る。 人口10万人あたりにすると大阪79.0・東京43.9で、その差は約1.8倍になる。

「大阪人だから多い」「関西の文化だ」──そう片づけたくなる。だがこのPart1では、その“文化論”を一度すべて捨てて、引けるノイズ(人口密度・高齢化・所得)を全部引いたとき、本当に「説明できない差」が残るのかだけを確かめる。


クイックサマリー(Part 1)

3行で読む:

  • 接骨院は全国約5万でコンビニ級。大阪は人口1.6倍の東京を絶対数で上回る
  • だが人口密度との相関はほぼゼロ。高齢化・所得を引いた残差で見ると、「説明できない県」1位は大阪ではなく和歌山(+2.9σ)
  • 「人が多いから多い」では説明できない。この地域差は人口ではなく“別の構造”に支配されているらしい──その正体はPart 2で

§1 罠:「人が多いほど店が多い」は、半分しか正しくない

素朴に考えると「人口が多い東京に店も多い」はずだ。そこで、横軸に人口密度(対数)、縦軸に人口10万人あたり店舗数をとった散布図を業種ごとに描いた。

📊 相関係数 r って何? ── 初めての方向け

r(相関係数) は2つの数値が同じ方向に動くかを −1〜+1 で表す指標。

r の値 意味
+1 に近い 一方が増えると他方も増える(正の関係)
0 に近い ほぼ無関係
−1 に近い 一方が増えると他方は減る(逆の関係)

目安は |r|>0.5 で「中程度以上」、|r|>0.7 で「かなり強い」。

業種 人口密度との相関 $r$ 向き
理容室 −0.75 地方ほど多い
美容室 −0.73 地方ほど多い
歯科医院 +0.52 都市ほど多い
鍼灸院 +0.35 ほぼ無関係〜弱い
接骨院 +0.32 ほぼ無関係〜弱い

fig1_scatter_4業種.png
図1: 人口密度(対数)と人口10万人あたり店舗数。 読者に見てほしいこと: 美容室・理容室は右下がり(地方ほど多い)、歯科は右上がり(都市ほど多い)。同じ「店舗数」でも向きが真逆。

fig2_overlay_美容vs歯科.png
図2: 美容室(右下がり)と歯科(右上がり)を1枚に重ねた図。 読者に見てほしいこと: 固定投資が小さい美容室は地方で乱立し、CT・滅菌設備など固定投資の大きい歯科は都市に集中する。

そして接骨院。相関はほぼゼロ($r=+0.32$)なのに、大阪だけが図の上に突き抜ける。人口最多の東京を、人口あたりでも絶対数でも上回る。

fig3_接骨院_絶対数.png
図3: 接骨院(柔道整復 施術所)の絶対数 上位10県。 読者に見てほしいこと: 大阪(赤)が東京(青)を絶対数で上回る。人口比ではなく総数での逆転は、明らかな異常値。

ここが罠だ。 「人口密度で説明できない」とわかった瞬間、多くの分析は「じゃあ文化だ」で終わる。だが、人口密度以外の客観要因(高齢化・所得)をまだ引いていない。“文化”と結論する前に、引けるノイズを全部引く。 それが次章だ。


§2 残差分析:「説明できない県ランキング」を作る

接骨院の利用は、人口密度だけでなく高齢化率(高齢者ほど整骨院に通う)や所得(自費か保険か)にも左右されるはずだ。そこで、この3つの客観要因で重回帰し、説明できる分を引いた残り(残差) を見る。

$$
\text{接骨院}_{10万人} = \beta_0 + \beta_1 \log(\text{人口密度}) + \beta_2 \text{高齢化率} + \beta_3 \text{県民所得} + \varepsilon
$$

📐 R² と「残差」って何?

R²(決定係数) は、モデルがデータの変動をどれだけ説明できたかを 0〜1 で表す。R²=0.17 なら「客観3要因で説明できるのは17%だけ」。

残差 は「実測値 − モデルの予測値」。残差がプラスに大きい=客観要因から期待される以上に多い=何か別の力が働いている、と読める。

本稿では残差を標準偏差で割った 標準化残差σ で県を比較する。|σ|≧2 はおおむね「統計的に異常な水準」。

結果、接骨院の $R^2$ はわずか 0.17地域差の8割は、人口密度・高齢化・所得では説明できなかった。 その「説明できない残り」をランキングにしたのが次の図だ。

fig9_残差ランキング_接骨院.png
図9: 残差(実測 − モデル予測)のランキング。 読者に見てほしいこと: 上位は和歌山・大阪・富山・京都・石川。1位は大阪ではなく和歌山(+32.7)。一方、東京はマイナス(−8.5)で「人口密度から期待されるより少ない」。

順位 残差 σ
1 和歌山 +32.7 +2.88σ
2 大阪 +27.4 +2.41σ
3 富山 +21.4 +1.88σ
4 京都 +19.7 +1.74σ
5 石川 +12.3 +1.08σ

fig10_実測vs予測_接骨院.png
図10: 横軸=モデル予測、縦軸=実測。点線(予測=実測)より上が「説明しきれない過剰」。 読者に見てほしいこと: 大阪・京都・奈良・和歌山が線の大きく上、東京は線の下。「人が多い=治療院が多い」では説明できない世界。

接骨院だけだと偶然かもしれない。だが鍼灸院・歯科でも同じ残差分析をすると、構造が見える。

fig11_残差ランキング_3業種.png
図11: 接骨院・鍼灸院・歯科の標準化残差(県順=接骨院の残差順)。 読者に見てほしいこと: 接骨院と鍼灸院は上位の顔ぶれ(関西+北陸)が一致するのに、歯科は東京がトップ。「外れる県」が業種で入れ替わる。

そして、ここで奇妙なことに気づく。接骨院・鍼灸の $R^2$ は0.17〜0.19と低いのに、歯科は0.39。 同じ「医療系」なのに、人口密度・高齢化・所得での説明力が倍も違う。


では、この「説明できない差」は何なのか?

ここまでで分かったのは、こういうことだ。

  • 大阪の接骨院の多さは、人口でも高齢化でも所得でも説明できない
  • 本当に異常なのは大阪以上に和歌山であり、外れるのは関西+北陸に偏る
  • そして「外れる県」は業種によって入れ替わり、業種ごとに $R^2$ がまるで違う

つまり──どうやらこの差は「人口」ではなく、別の構造に支配されているらしい。

その「別の構造」の正体を、8つの制度を横断して炙り出したのが続編だ。キーワードは 「制度の曖昧さ」。同じ全国一律のルールなのに、なぜ地域で使われ方が変わるのか。そこには、物質の硬度のように測れる“制度の性質”が隠れていた。


データソース(Part 1)

データ 出典(e-Stat 統計表ID/2020年)
理容・美容所数 衛生行政報告例 0004027011
接骨院・鍼灸院(施術所) 衛生行政報告例 0004026951
歯科診療所数 医療施設調査 0002013847
人口 人口推計 0003448232
高齢化率(年齢3区分) 国勢調査 0003448299
1人当たり県民所得 社会・人口統計体系 0000010103(2014年度)
都道府県面積 国土地理院 全国都道府県市区町村別面積調

※残差は共変動の分離であって因果の証明ではない。


シリーズ: 常識をデータでひっくり返す / 制度・地域行動編 【Part 2:構造編】

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