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東京の平均はウソだった。年収で分解したら"5つの都市"が入っていた

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~ 地域ではなく、年収で東京を切る ~


はじめに:「東京都区部」に平均は存在しない

港区の納税者1人あたり課税所得、約1,070万円
足立区、約355万円

同じ東京で、年収が3倍違う。
それでも統計は、これを「平均」と呼ぶ。

前段の分析で、東京都区部は「マッサージ1位なのに焼肉34位」「映画1位なのにスナック菓子42位」という奇妙な結果を出した。

あの「中途半端さ」は、港区と足立区を平均した結果だったのでは?

テレビでよく聞く「足立区と一緒にしないで」という言葉。
あれは感情論ではなかったのかもしれない。

76品目の消費データで、東京の「平均の中身」を分解してみた。

ただし、家計調査は区別データを公表していない。
サンプル設計上、23区個別の推計は不可能だ。

ここで詰む。

…はずだった。

だが家計調査には、もう1つの軸がある。
年間収入五分位階級
全国の世帯を年収で5等分したデータだ。

「区で切れないなら、年収で切ればいい。」

Q1(最低所得20%)と
Q5(最高所得20%)の
消費構造を、47都市のデータと突き合わせた。

結果、東京都区部の「平均」の中に、全く違う5つの都市が重なっていた。

※本記事の分析は、e-Stat APIから
(1)47都市×76品目の都市別データ、
(2)五分位×89品目の所得階層別データを自動取得するパイプライン
で再現可能。


Part 1: 教育に22倍、飲酒に7倍 ― 所得で消費は別世界になる

まず、Q1(低所得20%)とQ5(高所得20%)で消費額がどれだけ違うかを見る。

大分類の所得弾力性

大分類 Q1(低所得) Q5(高所得) 倍率
教育 16,952円 383,953円 22.65倍
外食 77,571円 331,306円 4.27倍
被服及び履物 54,653円 217,073円 3.97倍
教養娯楽 215,147円 570,859円 2.65倍
交通・通信 292,079円 730,954円 2.50倍
食料 845,373円 1,371,054円 1.62倍
酒類 37,266円 51,474円 1.38倍
光熱・水道 254,844円 296,561円 1.16倍

教育22.65倍。 Q1は年間1.7万円。Q5は38.4万円。

外食4.27倍。食料1.62倍。光熱・水道1.16倍。

金持ちになっても電気代は1.16倍にしかならないが、教育費は22倍になる。

これが「消費」の正体だ。
所得が上がると増える支出と、ほとんど変わらない支出がある。

品目別:衝撃のランキング

品目 Q1 Q5 倍率
スポーツ月謝 3,226円 23,372円 7.24倍
飲酒代(外飲み) 6,104円 42,912円 7.03倍
タクシー代 349円 2,340円 6.70倍
焼肉 2,669円 15,612円 5.85倍
洋食 4,776円 24,742円 5.18倍
外国パック旅行費 4,300円 21,534円 5.01倍
鉄道運賃 9,706円 47,388円 4.88倍
ウイスキー 1,900円 6,357円 3.35倍

飲酒代が7.03倍
Q1は年間6,104円(月500円)。
Q5は42,912円(月3,576円)。

低所得層は月1回も「飲みに行けない」。高所得層は週1回行ける。

そして「変わらないもの」

品目 Q1 Q5 倍率
27,113円 27,918円 1.03倍
みそ 2,321円 2,334円 1.01倍
しょう油 1,764円 1,800円 1.02倍
11,059円 12,681円 1.15倍
納豆 4,494円 5,072円 1.13倍

米、みそ、しょう油。日本の食卓の基盤は、所得で変わらない。

年収が3倍になっても、米の消費は3%しか増えない。


Part 2: 酒類 ― Q1は「ビールと清酒」、Q5は「ウイスキー」

前回、東京のウイスキー全国1位(構成比19.4%)を「体験消費」と解釈した。

五分位で分解すると、その解釈が深まる。

酒類構成比(五分位別 vs 都市別)

品目 Q1 Q3 Q5 大阪 富山 東京
ビール 39.9% 36.6% 33.8% 35.4% 35.7% 33.8%
発泡酒 22.9% 27.0% 19.8% 30.2% 25.5% 16.2%
清酒 19.5% 13.0% 14.8% 9.6% 17.2% 14.0%
ウイスキー 6.9% 6.8% 15.3% 5.6% 11.6% 19.4%
チューハイ 10.8% 16.5% 16.4% 19.2% 10.0% 16.7%

Q1:ビール39.9%+清酒19.5%。伝統的な「家飲み」の構造。

Q5:ウイスキー15.3%+ビール33.8%。ウイスキーが突然3倍になる。

そして東京都区部のウイスキー19.4%は、Q5(15.3%)よりさらに高い。

これは「東京都区部の平均」がQ5の高所得層にさらに引き上げられていることを意味する。
東京に住む高所得層は、全国Q5よりもさらにウイスキーを飲む。

前回の「東京のウイスキー全国1位」は、東京全体の文化ではなく、高所得層が作り出した数字だった。


Part 3: 外食 ― Q1は「すし」、Q5は「飲酒」

外食構成比(五分位別)

品目 Q1 Q3 Q5 Q5/Q1倍率
すし(外食) 25.0% 20.9% 14.9% 2.66倍
飲酒代 17.4% 17.4% 27.3% 7.03倍
洋食 13.6% 15.1% 15.8% 5.18倍
喫茶代 12.5% 12.0% 10.6% 3.79倍
焼肉 7.6% 9.9% 9.9% 5.85倍

Q1にとって外食の主役は「すし」。
外食の25%がすし。

数少ない外食機会を「ハレの食事」に集中させている。
年間8,774円(月730円=年4〜5回の回転寿司)。

Q5にとって外食の主役は「飲酒代」。
外食の27.3%が飲み。

年間42,912円(月3,576円=週1回の居酒屋〜バー)。

外食比率(外食÷食料全体)

五分位 外食比率
Q1 9.2%
Q2 12.8%
Q3 16.9%
Q4 19.8%
Q5 24.2%

Q1は食の9割が内食。Q5は食の4分の1が外食。

前回の「東京は外食の街」は、Q5の生活を見ていたに過ぎない。


Part 4: 代替品シフト率 ― 仮説が覆った

ここが今回の分析の最大の発見だ。

仮説はこうだった:

低所得層(Q1)は大阪型(安い代替品に流れる)
高所得層(Q5)は富山型(質を落とさない)

データは逆だった。

代替品シフト率(五分位別)

ペア Q1 Q2 Q3 Q4 Q5
ビール→発泡酒 36.5% 35.5% 42.4% 41.1% 36.9%
コーヒー→缶コーヒー 36.3% 37.3% 43.2% 46.5% 42.8%
日本酒→チューハイ 35.6% 37.3% 55.9% 57.2% 52.5%
3ペア平均 36.1% 36.7% 47.2% 48.3% 44.1%

Q1(低所得): 36.1%。Q5(高所得): 44.1%。

低所得層の方が代替シフト率が低い。

これは直感に反する。なぜか?

「代替しない」のではなく「消費しない」

Q1の酒類合計は37,266円。
Q5は51,474円。
差は1.38倍。

しかし中身を見ると、Q1はビールも清酒もチューハイも全部少ない
代替品に流れているのではなく、酒全体をあまり飲まない

大阪は「酒は飲むが安い方を選ぶ」。
Q1は「そもそも酒に使える金がない」。

大阪型 Q1(低所得)
酒を飲むか 飲む あまり飲まない
安い方を選ぶか 選ぶ 選択の余地がない
代替シフト率 53.3%(高い) 36.1%(低い)
理由 文化的合理性 構造的制約

代替品シフト率が低いのは「こだわり」ではない。
「選ぶ余裕がない」。

これが「平均の罠」の本質だ。
同じ「代替シフト率が低い」でも、富山とQ1では意味が全く違う。

比較まとめ

対象 代替シフト率 意味
大阪市 53.3% 飲むが安い方を選ぶ
Q3-Q4(中間層) 47-48% 大阪に最も近い
Q5(高所得) 44.1% 飲むが中途半端
東京都区部(平均) 42.2% Q3-Q5の合成
富山市 41.3% 飲むが質を落とさない
Q1(低所得) 36.1% 消費自体が少ない

Part 5: 低所得層は「長崎市民」、高所得層は「さいたま市民」

五分位別の消費パターンを、47都市のZ-scoreプロファイルとコサイン類似度で比較した。

低所得層(Q1: 下位20%)に最も似ている都市

順位 都市 類似度
1位 長崎市 0.582
2位 和歌山市 0.507
3位 松山市 0.460
4位 津市 0.445
5位 福井市 0.440

大阪市は圏外。
低所得層は大阪型ではなく**「地方都市型」**。

上位5都市の共通点:人口30-50万の地方中核都市
灯油・プロパンガスの消費が多く、外食が少なく、みかん・りんごの消費が高い。

東京に住んでいても、消費構造は"長崎市民"だった。

高所得層(Q5: 上位20%)に最も似ている都市

順位 都市 類似度
1位 さいたま市 0.688
2位 東京都区部 0.632
3位 富山市 0.506
4位 千葉市 0.496
5位 横浜市 0.405

高所得層は東京都区部自体に類似度0.632。
つまり**「東京の平均」は高所得層が作っている。**

そして3位に富山市(0.506)

高所得層は富山型(品質選別)に近い。
仮説の半分は正しかった。

**同じ「東京」に住んでいるのに、低所得層は長崎市民、高所得層はさいたま市民。
** 消費構造が完全に別の県だ。

東京の「平均」を構成する5つの都市

五分位 消費プロファイル 最も似た都市
Q1(低所得20%) 内食中心、外食少、灯油高 長崎市・和歌山市
Q2 Q1とQ3の中間 地方中堅都市
Q3(中間層) 代替シフト率が最も大阪に近い 全国平均型
Q4 外食・教育が急増 首都圏郊外型
Q5(高所得20%) 外食・教育・体験に全振り さいたま市・富山市

「東京都区部」は1つの都市ではない。
年収で切ると、長崎から富山まで入っている。


Part 6: 「所得で変わるもの」と「変わらないもの」

76品目を、所得弾力性で2つに分けた。

所得弾力的(Q5/Q1 ≥ 2倍): 28品目

金持ちになると消費が倍以上になるもの。

代表品目 倍率 カテゴリ
スポーツ月謝 7.24倍 教育・体験
飲酒代 7.03倍 外飲み・体験
焼肉 5.85倍 外食
洋食 5.18倍 外食
外国パック旅行費 5.01倍 旅行・体験
鉄道運賃 4.88倍 移動(=外出頻度)
ウイスキー 3.35倍 嗜好品
映画・演劇等入場料 3.66倍 体験

全部「外で体験するもの」。

所得非弾力的(Q5/Q1 ≤ 1.2倍): 20品目

年収が3倍になっても消費がほぼ変わらないもの。

代表品目 倍率 カテゴリ
1.03倍 主食
みそ 1.01倍 調味料
しょう油 1.02倍 調味料
1.15倍 基礎食材
納豆 1.13倍 伝統食品
信仰・祭祀費 0.95倍 地域文化
緑茶 0.72倍 伝統飲料
みかん 0.69倍 果物

米、みそ、しょう油、卵、納豆。

日本の食卓の基盤は、年収で動かない。

むしろ灯油(0.42倍)、プロパンガス(0.53倍)、みかん(0.69倍)、りんご(0.67倍)は低所得層の方が多い
地方在住で暖房費が高く、果物を食べる文化が残っている層だ。

2つの世界

所得弾力的な品目 = 外・体験・嗜好
所得非弾力的な品目 = 家・基礎・伝統

年収が変わっても「家の食卓」は変わらない。変わるのは「外で何をするか」。


Part 7(考察): 「東京の平均」は誰の暮らしか

前回の分析を五分位で再検証する

前回の記事で出した「東京の特徴」を、五分位で分解すると正体がわかる。

前回の発見 実態
マッサージ全国1位 Q5が3倍消費(2,615→7,685円)で引き上げ
映画・演劇1位 Q5が3.66倍。Q1は年3,523円(月1回未満)
ウイスキー1位 Q5が3.35倍。Q1は年1,900円(ほぼ飲まない)
飲酒代2位 Q5が7.03倍。月3,576円 vs 月509円
焼肉34位 Q5は15,612円(全国上位レベル)。Q1の2,669円が平均を引き下げ
米31位 Q1もQ5もほぼ同額(27,113 vs 27,918)。所得と無関係。

**「東京は焼肉34位」は嘘だ。
** 高所得層は焼肉にQ1の5.85倍使っている。Q1の低消費が平均を下げていただけ。

「東京は米31位」は本当だ。
これは所得に関係なく低い。
東京全体の構造的特徴。

「平均」が嘘をつく品目と、真実を語る品目

品目 Q5/Q1倍率 「平均」の意味
焼肉 5.85倍 平均は嘘。Q5は全国上位。
飲酒代 7.03倍 平均は嘘。Q5が支配。
映画 3.66倍 平均は嘘。Q5が引き上げ。
1.03倍 平均は真実。全層同じ。
みそ 1.01倍 平均は真実。全層同じ。
1.15倍 平均は真実。全層同じ。

所得弾力性が高い品目ほど、「平均」は嘘をつく。
所得弾力性が低い品目だけが、「平均」でも真実を語る。


結論: 東京は「1つの都市」ではない

5つの都市が重なった場所

東京都区部の「平均」の中には、全く違う消費構造を持つ5つの層が重なっている。

消費の特徴 似ている都市
Q1(低所得20%) 内食中心、外食は年数回のすし、酒は少ない 長崎市・和歌山市
Q2-Q3(中間層) 代替シフト率が最も高い、全国平均に近い 全国平均型
Q4-Q5(高所得40%) 外食・飲酒・教育・体験に集中投下 さいたま市・富山市

「3つの消費類型」の更新

前回までの分析で見つけた「大阪型・富山型・東京型」に、五分位の軸を加える。

大阪型 富山型 Q1型 Q5型
原理 安い方を選ぶ 本物を選ぶ 選ぶ余裕がない 体験に全振り
代替シフト率 53.3% 41.3% 36.1% 44.1%
外食比率 --- --- 9.2% 24.2%
酒の選び方 チューハイ・発泡酒 清酒・ウイスキー ビール・清酒(少量) ウイスキー
似ている都市 --- --- 長崎・和歌山 さいたま・富山

Q1の代替シフト率が低いのは「こだわり」ではない。
「消費自体が少ない」。

同じ指標が、所得層によって全く違う意味を持つ。
これが「平均の罠」の本質だ。


港区1,070万、足立区355万。

3倍の所得格差の中で、米とみそとしょう油だけが同じ量で消費されている。

飲酒代は7倍。教育費は22倍。

「東京都区部」という平均は、長崎から富山まで入った合成値だった。

Q1の暮らしは長崎市に似ている。
外食は年数回。酒は少ない。灯油代は高い。
Q5の暮らしは富山市に似ている。
質を選び、体験に金を使う。

同じ都市に住んでいるのに、消費構造は「別の県」だ。

そして「東京の平均」として統計に載る数字は、Q5が支配している。

マッサージ全国1位も、ウイスキー全国1位も、映画1位も。
あれは「東京」ではなく「東京の上位20%」の数字だった。

東京に住んでいるのではない。
同じ場所にある、別の都市に住んでいるだけだ。


再現方法

本記事の分析は、以下のデータとコードで再現できます。

データソース

  • 家計調査(総務省統計局)

    • 都市別: e-Stat テーブルID 0003348233(品目分類、四半期、47都市)
    • 五分位別: e-Stat テーブルID 0003348240(品目分類、年間収入五分位階級別、年次)
    • いずれも品目分類(2020年改定)、二人以上の世帯
  • 区別所得データ: 総務省「市町村税課税状況等の調」令和5年度

分析パイプライン

e-Stat API → 都市別76品目 + 五分位別89品目
    ↓
Z-score正規化 → コサイン類似度(Q1/Q5 vs 47都市)
    ↓
代替品シフト率 → 五分位別に算出
    ↓
所得弾力性 → Q5/Q1倍率で品目分類
# 五分位データの読み込み
TARGET_TABLE = "0003348240"  # 品目分類 × 年間収入五分位階級別

# Q5/Q1 所得弾力性
elasticity = qdf.loc[item, 'Q5'] / qdf.loc[item, 'Q1']

# Q1/Q5 と各都市のコサイン類似度
from scipy.spatial.distance import cosine
sim = 1 - cosine(q1_z[mask].values, city_z[mask].values)

シリーズリンク


「あなたの街」でやってみたい方へ

都市別分析は TARGET = "東京都区部" を変えるだけ。
五分位分析はテーブルID 0003348240 で誰でも再現できます。

「東京の平均」を鵜呑みにする前に、中身を分解してみてください。


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