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日本は貧しくなったのか?家計データで検証したら"全く違う結論"になった

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Last updated at Posted at 2026-03-20

はじめに:みんな感じてるアレ

「手取り、減ってない?」
「社会保険料、えぐくない?」
「物価高すぎ。もう無理」

——たしかに、その通りだと思う。

でももし、その "苦しさの原因"を間違えていたとしたら?

対策も、怒りの向け先も、全部ズレていることになる。

この記事では、総務省「家計調査」の実データ15年分をPythonで解析して、日本人の家計に本当は何が起きているのかを丸裸にする。

先に結論を言ってしまう。

犯人は、多くの人が思っているものとは違った。
そして「貧しくなった」という診断そのものが、間違っていた。

使ったデータ

データソース 期間 取得方法
家計調査(二人以上世帯) 2010年〜2025年 e-Stat API
家計調査(勤労者世帯) 2010年〜2025年 e-Stat API

分析コードはPython。e-Stat APIからのデータ取得〜集計まで全自動化済み(コードは末尾に掲載)。


第1章:まず「五公五民」を検証する

最初に、最も声が大きい容疑者を取り調べる。
「税金と社会保険料が高すぎる」説だ。

家計調査の勤労者世帯データで、実収入から何が引かれているかを確認する。

実収入と手取りの推移

実収入 非消費支出(税+社保) 手取り(可処分所得) 負担率
2010 520,692円 90,725円 429,967円 17.4%
2014 519,761円 96,221円 423,541円 18.5%
2018 558,718円 103,593円 455,125円 18.5%
2020 609,535円 110,896円 498,639円 18.2%
2024 636,155円 113,586円 522,569円 17.9%
2025 653,901円 121,493円 532,408円 18.6%

……あれ?

負担率、ほとんど変わっていない。

15年間で**+1.2ポイント**。

体感は「五公五民」。
しかしデータで見ると、日本は一貫して**「二公八民」**だった。

内訳を見ても

直接税 税率 社会保険料 社保率
2010 40,116円 7.7% 50,540円 9.7%
2014 41,462円 8.0% 54,694円 10.5%
2020 46,155円 7.6% 64,672円 10.6%
2025 51,982円 7.9% 69,432円 10.6%

確かに社会保険料のは月19,000円増えている(+37%)。でも収入も増えているので、負担はほぼ横ばい。

ファクト①:「五公五民」は家計データでは確認できない。負担率は15年間ほぼ18%台。

もちろん、社会保険料の**"絶対額"**は確実に増えている。
だから「負担が重くなった」という感覚自体は間違っていない。

ただし、それが "主犯ではなかった" というだけだ。

じゃあ、犯人は誰なのか。


第2章:消えた月26,000円

次に、何に金を使っているかを見る。
ここからは全世帯(二人以上)のデータ。

名目 vs 実質

名目消費支出 実質消費支出
2014 291,194円 298,939円
2020 277,926円 277,972円
2025 314,000円 280,528円

使う金額は増えた。
でも買えるものは減った。

実質ベースで月18,000円減。
年間にして約22万円分の生活が消えた

何に消えたのか?——支出項目別の変化

支出項目 2014年 2025年 変化額 変化率
食料 69,926円 89,754円 +19,828円 +28.4%
交通・通信 41,912円 45,562円 +3,650円 +8.7%
保健医療 12,838円 15,785円 +2,946円 +22.9%
家具・家事用品 10,633円 12,869円 +2,236円 +21.0%
教養娯楽 28,942円 30,796円 +1,854円 +6.4%
教育 10,936円 11,936円 +1,000円 +9.1%
光熱・水道 23,799円 24,545円 +746円 +3.1%
住居 17,919円 18,665円 +746円 +4.2%
被服・履物 11,983円 9,702円 -2,282円 -19.0%
その他 62,305円 54,387円 -7,919円 -12.7%

表を見た瞬間、わかると思う。

食料費が圧倒的すぎる。

月額+19,828円。
年間で約24万円
支出増加分の約7割が食料費だけで占められている。

ファクト②:家計を圧迫している最大の犯人は「食料費の高騰」。月2万円近く増えた。

そして、その食費を捻出するために削られたのが:

  • 被服・履物:-2,282円(-19.0%)——服を買わなくなった
  • その他の消費支出:-7,919円(-12.7%)——交際費・仕送りを削減

食べるために、着るものと人付き合いを削っている。


第3章:エンゲル係数30%——「昭和の水準」に逆戻り

ここで、経済学の古典的指標を持ち出す。

エンゲル係数 = 食料費 ÷ 消費支出 × 100
高いほど「生活にゆとりがない」とされる。19世紀に発見された、最もシンプルな豊かさの指標。

エンゲル係数
2014 24.1%
2016 25.8%
2020 27.5%
2022 26.6%
2024 28.3%
2025 28.6%
2025年12月 30.7%

2025年12月、ついに30%を突破した。 1980年代以来の水準だ。

分解するとさらに鮮明になる。

食料費(推計) 食料以外
2014 71,995円 226,945円
2025 80,161円 200,367円
変化 +8,166円(+11.3%) -26,578円(-11.7%)

ファクト③:食料以外の支出が月26,578円消えた。食費に押し出された。


第4章:ここまでのまとめ——犯人は誰だったのか

容疑者 判定 根拠
税金(直接税) △ 微増 率ではほぼ横ばい(7.7%→7.9%)
社会保険料 △ 微増 月+19,000円だが、率は10%台で安定
食料費の高騰 ◎ 主犯 月+19,828円(+28.4%)。増加の7割
被服・交際費の削減 ○ 被害者 食費捻出のために削られた

「五公五民で苦しい」は、感覚としてはわかる。
だがデータは別の物語を語っている。

国に持っていかれる割合は15年間ほぼ同じ。
苦しさの本質は、食料品の価格が28%上がったこと。

——ここまでが、ミクロの答えだ。

でも、ここで終わると「普通の記事」で終わる。

もう一段、掘る。


第5章:もっと大きな問いに答える

ここまでの分析で「犯人は食料費だ」とわかった。
でも、本当の問いはそこじゃない

SNSで飛び交う「日本は貧しくなった」という言葉の裏には、もっと深い不安がある。

「この国は、もう上がらないんじゃないか」

これに答えるには、家計の内訳だけでは足りない。
もう少し引いて、構造を見る必要がある。

3つの時代を整理する

データを俯瞰すると、2010年以降の日本の家計は3つのフェーズを経ている。

Phase 1:デフレの停滞(2010〜2019年)

  • 実収入:520,692円 → 586,149円(微増)
  • 負担率:ほぼ横ばい
  • 物価:安定
  • 「貧しくなった」のではなく「豊かにならなかった」

この10年間、日本の家計は悪くもならなかった。
ただし、良くもならなかった。
世界が成長する中で、日本だけが「動かなかった」。

Phase 2:COVIDの構造転換(2020〜2021年)

  • 実収入がジャンプ(給付金・共働き増)
  • 消費は強制的に縮小(外出制限)
  • エンゲル係数が27%台に跳ね上がる
  • 「食べる」以外の消費が強制的に消えた

Phase 3:インフレの直撃(2022〜2025年)

  • 食料価格が急騰
  • 名目収入は増加(実収入+26%)、だが実質消費は戻らず
  • エンゲル係数が28% → 30%超へ
  • 「食べるだけで精一杯」の構造が固定化

ここで気づくこと

Phase 1の10年間、日本人は「貧しくなっていない」。
データ上、生活水準はほぼ維持されている。

問題は、「維持しかできなかった」ことだ。

その間、韓国の平均賃金は日本を追い抜き、OECD平均との差は広がった。
日本人の生活水準は下がっていない。
でも、世界から見たら「取り残された」

そしてPhase 3で物価が上がった瞬間、「維持していた」はずの生活が一気に壊れた。

貯金がなかったのだ。
成長という名の貯金が。


第6章:「貧しくなった」は誤診だった

ここまでのデータを総合すると、こうなる。

日本人は「貧しくなった」のではない。

もっと正確に言うと、こうだ。

生活水準は15年間ほぼ維持されていた。
税負担も大きくは変わっていない。
しかし、その間に「成長」がなかった。
だから、インフレという一撃で簡単に崩れた。

「貧しくなった」のではなく、**「成長しなかった代償を、いま食卓で払っている」**のだ。

——しかもそれは、税金の請求書ではなく、スーパーのレシートとして届いている。

食料費+28%の衝撃は、15年間の停滞が一気に表面化したものにすぎない。


おわりに

この記事で使ったデータはすべて総務省「家計調査」の公開統計だ。
誰でも検証できる。

「感覚」で語られがちなテーマだからこそ、データで見る価値がある。

そしてデータが示した答えは、単純な「犯人探し」では終わらなかった。

私たちは「貧しくなった」のではない。

かつて「世界第2位の経済大国」と呼ばれた、あの異常な時代の残像を基準にしてしまっているだけかもしれない。

あるいは——

本来もっと豊かになれたはずの未来を、取りこぼしているのか。

答えは一つではない。

ただ、確かなことが一つある。

エンゲル係数30%の日本で、「豊かさとは何か」という問いは、もはや経済学者だけのものではなくなった。

それは、今夜スーパーで買い物をするあなた自身の問いだ。


分析環境

Python 3.x / pandas / requests
データソース: e-Stat API(総務省統計局「家計調査」)

データ取得コード(抜粋)

import requests
import pandas as pd
import json

API_KEY = "your_api_key"
API_BASE = "https://api.e-stat.go.jp/rest/3.0/app/json"

def fetch_household_data(cat01, cat02="03", area="00000"):
    """家計調査データを取得(二人以上世帯 or 勤労者世帯)"""
    params = {
        "appId": API_KEY,
        "statsDataId": "0002070001",  # 家計調査 用途分類
        "cdCat01": cat01,
        "cdCat02": cat02,  # 03=二人以上世帯, 04=勤労者世帯
        "cdArea": area,
        "metaGetFlg": "N",
        "limit": 100000,
    }
    resp = requests.get(f"{API_BASE}/getStatsData", params=params)
    values = resp.json()["GET_STATS_DATA"]["STATISTICAL_DATA"]["DATA_INF"]["VALUE"]

    rows = []
    for v in values:
        time_code = v.get("@time", "")
        year, month = int(time_code[:4]), int(time_code[6:8])
        val = v.get("$", "")
        if val not in ("-", "", ""):
            rows.append({"date": f"{year}-{month:02d}-01", "value": float(val)})
    return pd.DataFrame(rows)

# 食料費
df_food = fetch_household_data("060")

# 勤労者世帯の実収入
df_income = fetch_household_data("019", cat02="04")

# 非消費支出(税金+社会保険料)
df_burden = fetch_household_data("193", cat02="04")

# 直接税 / 社会保険料(内訳)
df_tax = fetch_household_data("194", cat02="04")
df_social = fetch_household_data("198", cat02="04")

主要カテゴリコード一覧

cat01 項目 cat02
019 実収入 04(勤労者世帯)
193 非消費支出(税+社保) 04
194 直接税 04
198 社会保険料 04
059 消費支出 03(二人以上世帯)
060 食料 03
102 住居 03
107 光熱・水道 03
122 被服及び履物 03
145 交通・通信 03
152 教育 03
156 教養娯楽 03
186 情報通信関係費 03
263 エンゲル係数 03

データ分析方法の解説記事です


この記事が参考になったら、ストックしていただけると嬉しいです。
データ分析で「常識」を検証するシリーズ、他にも書いています。

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