「Excelは悪」論に、一度待ったをかけたい
「またExcelで管理してるの?」「いい加減脱Excelしようよ」
IT担当者・情シス界隈でよく聞くフレーズです。DX文脈の記事や書籍でも「Excel管理からの脱却」は定番のテーマとして語られます。
自分もデジタル戦略室として、この手の「脱Excel」提案を何度もしてきました。ただ最近、少し立ち止まって考えるようになりました。
本当に悪いのはExcelなのか?
この記事では、「Excel=悪」という通説に一度反論したうえで、「じゃあSaaSはいつ必要になるのか」という判断の境界線を整理します。
Excel自体は、まったく悪くない
まず前提を揃えます。Excelは最古のノーコードツールと言っていい存在です。
- プログラミング知識がなくても、関数・ピボットテーブル・マクロで相応の業務処理が組める
- 学習コストが低く、多くの人がすでに使い方を知っている
- 表計算という枠組みの汎用性が高く、あらゆる業務にフィットさせられる
これだけの機能を持つツールが「悪」であるはずがありません。実際、Excelが批判される場面のほとんどは、Excelの機能の問題ではなく、運用の問題です。
「Excelが悪い」のではなく、「個人端末保存」が悪い
典型的な"Excel地獄"を思い浮かべてみてください。
- 担当者のPCのデスクトップに
顧客管理_最新版_v3_山田修正後.xlsxが置かれている - 別の担当者が並行して別バージョンを更新していて、どちらが正か誰もわからない
- 担当者が退職・異動すると、ファイルの所在ごと業務知識が消える
- メールやチャットでファイルをやり取りするたびに、バージョンが分岐していく
これらの問題、よく見ると原因は共通しています。ファイルが個人の端末やローカルドライブにのみ保存されていること。つまりサイロ化の元凶は「Excelというソフトウェア」ではなく、「保存場所と共有方法の設計」です。
同じExcelファイルでも、保存場所を変えるだけで話は変わってきます。
では共有フォルダ(M365 / Google Workspace)で十分なのか?
ここで浮かぶ疑問があります。
「サイロ化が保存場所の問題なら、Microsoft 365やGoogle Workspaceの共有フォルダにExcelを置けば解決するのでは?わざわざSaaSを導入する必要はないのでは?」
これは半分正しく、半分は危険な考え方です。整理してみます。
共有フォルダで十分なケース
以下のような条件がそろっている場合、無理にSaaSへ移行する必要性は薄いです。
- 参照・更新する人数が少人数(目安として数名〜十数名)
- 権限管理がシンプル(「見る人」「編集する人」の2段階程度で足りる)
- 承認フローやステータス管理のような、業務プロセスの制御が不要
- 更新頻度がそこまで高くなく、同時編集によるコンフリクトが実害になっていない
- 外部システムとのデータ連携(API連携、自動通知など)が発生しない
M365のExcel OnlineやGoogleスプレッドシートは共同編集にも対応しているため、「複数人が同時に触ると壊れる」という古いExcel像自体、実はすでに過去のものになりつつあります。
SaaS導入を検討すべきケース
一方で、以下のいずれかに当てはまる場合は、共有フォルダ運用の限界が近いサインです。
| 兆候 | 何が起きているか |
|---|---|
| 「誰が・いつ・何を変更したか」が追えない | 監査ログ・変更履歴の欠如 |
| 承認プロセスが関係者への声かけベース | ワークフロー制御の不在 |
| 行・列単位、シート単位で権限を分けたい | 権限管理の粒度不足 |
| 他システムに自動でデータを流し込みたい | API連携・自動化ニーズ |
| 入力ミスが原因のトラブルが頻発している | 入力規則・バリデーションの限界 |
| 台帳の項目が増え続け、関数が壊れやすくなっている | スキーマ管理・保守性の限界 |
これらは「Excelの限界」というより、「表計算ソフトが本来担っていない責務」を無理に背負わせている状態です。ここまで来たら、SaaS導入や内製の業務システム化を検討する合理性が出てきます。
判断フレームワーク:3つの質問
現場で判断に迷ったときは、次の3つを自問すると整理しやすくなります。
-
「誰が触ったか」を後から追う必要があるか?
→ Yesなら、共有フォルダ単体では不十分。監査ログを持つ仕組みが要る。 -
入力や更新の際に、承認・チェックのプロセスを挟みたいか?
→ Yesなら、ワークフロー機能が必要。共有フォルダ+口頭確認では属人化する。 -
このデータは、他のシステムやサービスにも使われる「マスタ」になっているか?
→ Yesなら、Excelを正とせず、SaaS側(あるいは専用DB)を正とする設計に切り替えるべき。
3つとも「いいえ」であれば、無理にSaaSを導入せず、共有フォルダ運用のままで十分機能します。逆に1つでも「はい」があれば、それはExcelの限界ではなく、Excelに背負わせてはいけない責務を背負わせているサインです。
まとめ
- Excelは「最古のノーコードツール」であり、機能自体に罪はない
- 批判されるべきは「個人端末への保存」による属人化・サイロ化
- 共有フォルダに置くだけで解決するケースと、SaaS導入が必要になるケースには明確な境界線がある
- 境界線は「監査ログの要否」「承認フローの要否」「マスタデータとしての性質」の3点で見極められる
「脱Excel」を目的化するのではなく、今のExcel運用がどの責務を無理に背負っているかを見極めることが、本当に必要な一手を選ぶ近道です。