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ブラックホールを数式で眺めてみた その3(後半)シュワルツシルト解からブラックホールの驚くべき特徴を見つけよう!

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Last updated at Posted at 2025-12-22

この記事の構成について

「ブラックホールを数式で眺めてみた」の記事は、以下の3本で構成されています。
順番にご覧ください。

・ブラックホールを数式で眺めてみた その1(準備編)サクッと特殊相対性理論と一般相対性理論を概観しよう!

・ブラックホールを数式で眺めてみた その2(前半) ブラックホールの時空を表す数式の導出をイメージしよう!

・ブラックホールを数式で眺めてみた その3(後半)シュワルツシルト解からブラックホールの驚くべき特徴を見つけよう!

この記事では、シュワルツシルト解から得られる時空の構造を数式を使ってみていきます。
そうすることで、ブラックホールの様々な特徴を数式で眺めることができます。

記事の最後の方には、ブラックホールの最新の研究成果の一覧も記載しています。

では、楽しんで下さい!

1. シュワルツシルト半径の出現

シュワルツシルト解の式を眺めていると、時空の性質が大きく変化する場所があることに気付きます。

その一つが、中心からある一定の距離(半径)にある球面で、時間方向と空間方向の性質が入れ替わるように見える場所です。

この半径を「シュワルツシルト半径」といいます。
先ず、ここから始めましょう。

1.1 シュワルツシルト解の式の係数に注目する

前回の記事で導出した、シュワルツシルト解(線素)は下記でした。

ds^2 = -\left(1-\frac{2GM}{c^2 r}\right)c^2 dt^2
+ \frac{dr^2}{\,1-\frac{2GM}{c^2 r}\,}
+ r^2\left(d\theta^2 + \sin^2\theta\, d\phi^2\right)

ここで
$t$ :重力源から十分遠く離れた場所(無限遠)で静止している観測者が用いる時間(*座標時刻とも言います)
$r$ :(ブラックホール)**の中心からの距離
$M$ :(ブラックホール)**の中心の質量

*座標時刻とは、空間全体を記述するために、理論上決めた「共通の時間」の事で、この場合、重力の影響を無視できる場所に置いた理想的な時計が刻む時間です。
**この記事の現時点での段階では、この質量がブラックホールと分かっていないので、括弧付きの(ブラックホール)としています。

では、この式から何が見えてくるでしょうか。

先ず、この線素の右辺の第1項(時間成分)と第2項(半径方向成分)にある係数、$\left(1-\frac{2GM}{c^2 r}\right)$ に注目しながら進めて行きます。

1.2 シュワルツシルト半径

改めて、シュワルツシルト解の係数を眺めてみましょう。

\left(1-\frac{2GM}{c^2 r}\right)

係数の中に $1$ があるので、この係数が $0$ になる距離 $r$(中心からの半径)が存在することに気が付きます。

係数を 0 とすると、

1 - \frac{2GM}{c^{2} r} = 0

となり、これを r について解くと、

r_g = \frac{2GM}{c^{2}}

となります。
この半径 $r_g$ を シュワルツシルト半径 と呼びます。

尚、この半径で係数が $0$ になることが、時空そのものが壊れることを意味しているわけではありません。後で見ますが、これは、座標の取り方に関係しています。

さらに、この $r_g$ でシュワルツシルト解を書き直すと下記になります。

ds^2
=
-\left(1-\frac{r_g}{r}\right)c^2 dt^2
+\frac{1}{1-\frac{r_g}{r}}dr^2
+ r^2 d\theta^2
+ r^2 \sin^2\theta\, d\phi^2

この線素の意味するものは何でしょうか。

1.3 シュワルツシルト半径の物理的意味

(1)イベントホライズン(事象の地平面)
先ず最初に気付くのが、$r=r_g = \frac{2GM}{c^{2}}$ で ${dr^2}$ の係数 $\frac{1}{\ 1-\frac{r_g}{r}}$ が無限大となり距離成分が発散してしまいます。

なので、$r_g$ で距離成分が無限大になるように見えますが、ここで無限大になるのは、計量成分であり、距離そのものが無限に伸びるという「物理現象の破綻」ではなく、あくまで 座標の取り方によって起こる発散です。

別の座標(例:クラヴィエ座標、EF座標)では発散が消えるため、特異点の出現は座標の種類によることが分かります。この意味で、シュワルツシルト解における$r_g$での特異点は 座標特異点 と呼ばれます。

改めて、
距離成分の係数が発散する位置(シュワルツシルト半径)、

r_g = \frac{2GM}{c^{2}}

が作る面は、物理的には特別な「境界面」で、この面を イベントホライズン(事象の地平面) と呼びます。

(2)イベントホライズンより内側がブラックホール

イベントホライズンより内側の

r < \frac{2GM}{c^{2}}

の領域全体を ブラックホール と呼びます。

イベントホライズンより外側では、光や物質は外側へ向かって進むことができますが、内側では光でさえ外へ脱出することができません。
これは、事象の地平線を境に、計量の符号が変わり、半径方向が時間的な性質を持つようになり、未来への時間の進む方向が必然的に中心方向を向くためです。詳細は後ほど見ていきます。

このため、イベントホライズンの内側(ブラックホール内部)で起きた出来事はイベントホライズンの外側(外部宇宙)に影響を及ぼせないことになります。

ここまでのイメージを図にしました。(下図)

図解イベントホライズン.jpg

(3)シュワルツシルト半径を計算する
ここで、太陽と地球のシュワルツシルト半径を計算してみます。
これは、太陽や地球の質量でもブラックホールになり得ると仮定したとき、事象の地平線の半径がどの程度になるかを示すものです。

つまり、同じ質量を持つ物体が、どれほど小さな半径に収まれば、ブラックホールになるかの目安が分かります。

● 太陽を ${\odot}$ で表記します。

太陽の質量

M_{\odot} = 1.99 \times 10^{30}\ \text{kg}

を、シュワルツシルト半径の式

r_{\odot} = \frac{2GM_{\odot}}{c^{2}}

に代入して計算すると、太陽のシュワルツシルト半径は

r_{\odot} \approx 2.95\ \text{km}

となります。
ちなみに、太陽の半径は、696000 kmです。
(国立天文台の暦Wikiより)

● 地球を${\oplus}$ で表記します。

地球の質量は

M_{\oplus} = 5.97 \times 10^{24}\ \text{kg}

で、これをシュワルツシルト半径の式に代入すると

r_{\oplus} = \frac{2GM_{\oplus}}{c^{2}}

地球のシュワルツシルト半径は

r_{\oplus} \approx 8.87\ \text{mm}

となり、地球の場合、通常ではあり得ないほどの小さな領域に、地球の全質量を押し込めることになります。
地球の赤道半径は、6378.137 kmです。
(国立天文台の暦Wikiより)

2. 【参考】ブラックホールの中心は物理的な特異点

先程、シュワルツシルト半径 $r=r_g = \frac{2GM}{c^{2}}$ で ${dr^2}$ の係数 $\frac{1}{\ 1-\frac{r_g}{r}}$ が無限大となり、距離成分が発散することが分かりましたが、これは座標の取り方の問題でした。
ところが、ブラックホールの中心つまり$r=0$は非常に特殊な点になっています。
これは、座標の取り方の問題なのでしょうか。

そこで、ブラックホールの中心つまり$r=0$ で何が起こるかを、座標の取り方に依存しないクレッチマン不変量の式で検討します。(詳細は割愛します)

K \equiv R_{\mu\nu\rho\sigma} R^{\mu\nu\rho\sigma}
= \frac{48\,G^2 M^2}{c^4\, r^6}

ここで $K$ はクレッチマン不変量と呼ばれ、時空の曲率の大きさを「座標に依存しないで測る」量です。
この量は $r \to 0$ で発散するため物理量が定義できないので、$r=0$ が本質的な特異点であることが分かります。

つまり、$r=0$ で曲率が無限大となり、理論の適用範囲を超えます。(物理的特異点)。これは、一般相対論の限界を示す場所でもあり、これを解明するには量子論を加味した「量子重力理論」が必要とされています。
(量子重力理論は、一般的に、重力場に量子ゆらぎを取り込んだ理論を指します。)

3. 無限遠ではミンコフスキー時空になる

次に、ブラックホールの中心から十分に遠く離れた、重力の影響を無視できる領域を考えます。
十分に遠方であるとして

r \to ∞

として、シュワルツシルト解

ds^2
=
-\left(1-\frac{r_g}{r}\right)c^2 dt^2
+\frac{1}{1-\frac{r_g}{r}}dr^2
+ r^2 d\theta^2
+ r^2 \sin^2\theta\, d\phi^2

に代入すると、

ds^2 = -c^2 dt^2
+ {dr^2}
+ r^2\left(d\theta^2 + \sin^2\theta\, d\phi^2\right)

を得ます。これは、重力の効果が消えた平坦な時空を球座標で表した線素です。
この線素に対応する計量テンソルは

g_{\mu\nu}=
\begin{pmatrix}
-1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & r^2 & 0 \\
0 & 0 & 0 & r^2\sin^2{\theta}
\end{pmatrix}

であり、座標成分が $r,\theta$ に依存しているのは球座標を用いているためで、時空そのものは平坦(ミンコフスキー時空)です。

ちなみに球座標ではなく、デカルト座標での平坦な時空(ミンコフスキー時空)の計量テンソルは下記となります。

g_{\mu\nu}=
\begin{pmatrix}
-1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 1
\end{pmatrix}

以上の内容を再度、下図にまとめてみました。

図解無限遠ミンコフスキー時空.jpg

4. ブラックホールの主な特徴

4.1 イベントホライズンの内外で時空の役割が反転している

イベントホライズンの内側では「未来へ進む方向が中心方向になる」ので、ホライズンの内側から外へ向かう未来は存在しません。つまり、光も含めてあらゆる物質は一旦イベントホライズンの内側に入ったら、決して外側には進むことができないということになります。

光さえ外側に脱出できないため、ブラックホールは外から見ると漆黒の穴のように見えると考えられます。このような性質を端的に表した名称として、「ブラックホール」という呼び名が使われています。

もう少し詳しく言うと、イベントホライズンの境界付近では光円錐が大きく傾き、内側では時空図での距離$(r)$方向が時間的な性質を持つようになります。その結果、必然的に未来へ進む方向が中心方向を向くという、外側とは異なる因果構造が現れます。つまり、一旦イベントホライズンの入ると光も物体も外には出られなくなるわけです。

では、最初に時空の役割の反転、そして光円錐の傾きについて詳しく見ていきます。

先ず、時間と空間の役割が反転している様子を式で確認します。
ブラックホールの中心方向を考えるので、シュワルツシルト解の2つの角度 $\theta,\phi$ の成分は省いて、

ds^2
=
-\left(1-\frac{r_g}{r}\right)c^2 dt^2
+\frac{1}{1-\frac{r_g}{r}}dr^2

とします。

次に、時空をイベントホライズンの境界($r_g$)で分けて考えます。
すると、下図のように、計量テンソルの時間と空間の成分の「符号」が境界の内外で反転しているのが分かります。

$r>r_g$ がブラックホールの外側で、$r<r_g$ がブラックホールの内側です。

つまり、この境界で時間と空間の役割が逆転しているように見えます。

図解時空の逆転.jpg

次に、光円錐の傾きについて見ていきます。

4.2 イベントホライズンの内外で光円錐の傾きが変わる

光円錐については準備編でも出てきましたが、その特徴をもう少し詳しくみてから、傾きの様子を考えていきます。

最初に光円錐の見方ですが、下図の光円錐で、円錐を作る45度の直線が光の進む道になります。
この光の経路は

ds^2 = 0 =-c^2 dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2

で表されます。
この式を変形した式、

(ct)^2 -(x^2 + y^2 + z^2)=0

が下図の光円錐に書かれています。

次に、円錐の内側は光速以下で、時間をかければ到達可能な領域なので、「時間的(timelike)領域」と呼ばれています。図のように円錐が縦軸の時間の方向に広がっており、時間もこの方向に進みます。そして、この時間領域の部分は、線素で表すと、$ds^2<0$ となります。

円錐の外側は、光速以下では到達できない領域で、「空間的(spacelike)領域」と呼ばれます。
線素は、$ds^2>0$ です。

まとめると、
 $ds^2=0:$ 光の経路
 $ds^2<0:$ 光円錐の内側(時間的領域)
 $ds^2>0:$ 光円錐の外側(空間的領域)
となります。

光円錐jpg.jpg

これで準備ができたので、光円錐がイベントホライズンを境にして、どのように傾いていくのかを数式で調べてみます。

それでは、時空領域を
   イベントホライズンの外側:$r>r_g$
   イベントホライズンの内側:$r<r_g$
に分けて、それぞれについて計算していきましょう。

$r_g$ は、シュワルツシルト半径です。

先ず、イベントホライズンの外側の時空図の$ct$ 軸と$r$ 軸の時空の性質を線素(シュワルツシルト解)を使って調べます。(下に出てくる図も参照下さい)

$ct$ 軸方向では $r$ は変化せず一定なので、$dr=0$ となり、線素の$dr^2$ の項は消えて、下記となります。

$dr^2$ の項が消える前:

ds^2
=
-\left(1-\frac{r_g}{r}\right)c^2 dt^2
+\frac{1}{1-\frac{r_g}{r}}dr^2

$dr^2$ の項消えた後:

ds^2
=
-\left(1-\frac{r_g}{r}\right)c^2 dt^2

また、イベントホライズンの外側を考えているので、$r>r_g$ の条件を上の線素に反映すると、

ds^2
=
-\left(1-\frac{r_g}{r}\right)c^2 dt^2
 < 0

となり、これは、先程の
 $ds^2=0:$ 光の経路
 $ds^2<0:$ 光円錐の内側(時間的領域)
 $ds^2>0:$ 光円錐の外側(空間的領域)
において、
「$ds^2<0:$ 光円錐の内側(時間的領域)」になるので、$ct$ 軸方向は、「時間的」 となります。

$r$ 軸方向では、$t$ が一定なので、$dt=0$ となり、線素の$dt^2$ の項は消えて、下記となります。

$dt^2$ の項が消える前:

ds^2
=
-\left(1-\frac{r_g}{r}\right)c^2 dt^2
+\frac{1}{1-\frac{r_g}{r}}dr^2

$dt^2$ の項が消えた後:

ds^2
=\frac{1}{1-\frac{r_g}{r}}dr^2

また、イベントホライズンの外側を考えているので、$r>r_g$ の条件を上の線素に反映すると、

ds^2
=\frac{1}{1-\frac{r_g}{r}}dr^2 > 0

となり、
 $ds^2=0:$ 光の経路
 $ds^2<0:$ 光円錐の内側(時間的領域)
 $ds^2>0:$ 光円錐の外側(空間的領域)
において、
「$ds^2>0:$ 光円錐の外側(空間的領域)」であるので $r$ 軸方向は、「空間的」 となります。

同様に、イベントホライズンの内側について調べてみると、
ブラックホール内部では、
  $ct$ 軸方向は、「空間的」
   $r$ 軸方向は、「時間的」

であることが分かり、時間と空間の役割が反転することで光円錐の時間軸方向がブラックホールの中心方向に傾いていることを示しています。

これは、一旦イベントホライズンを通り抜けてブラックホール内部に進入すると、時間の流れる方向がブラックホールの中心となり、外側には進めないことを意味しています。

光も物質もブラックホール内部から外側には戻れません。従って、先ほども書きましたが、イベントホライズンの内側の光が外側に到達することはなく、ブラックホール本体は漆黒に見える事でしょう。実際は、イベントホライズン近傍での降着円盤や重力レンズの効果で明るく観測されます。

このように光も物質もイベントホライズンの内側から外側へ向かうことはできないので、外側に対しての因果的な影響は存在せず、結果的に因果関係は、外側から内側への一方向に制限されます。
つまり、外側の観測者は、ブラックホール内部で起こる事象、特にブラックホールの中心の物理的な特異点で何が発生しているのかが分からないということです。ある意味、物理的な特異点がイベントホライズンによって外界から隠されているとも言えます。

逆に、外側から内側への因果関係は存在します。例えば、外側からブラックホールの中心方向へ光や物質を送り込むと、イベントホライズンを通過して内部に到達するので、何らかの因果関係を与える事ができます。
(ただし、シュワルツシルト解で使われる座標系では、ブラックホールの影響のない十分離れた地点に静止した観測者から見ると、光や物質は重力による時間の遅れのため、事象の地平線付近で次第に進みが遅くなり、あたかもイベントホライズンで止まっているかのように見えます。これは後ほど説明があります。)

このように、シュワルツシルト半径が作る面は、物事の出来事つまり事象(イベント)の境界面でもあるわけです。その意味で、イベントホライズン(事象の水平面)と呼ばれます。

また、今回は式での説明は省きますが、イベントホライズンに近づくにつれて光円錐の形が大きく歪むことも興味深いところです。

上の説明を図にしたものが下図となります。

図解時空の逆転詳細.jpg

<参考>
光さえ脱出できないことを、あくまで直感的な理解として脱出速度の観点で見てみます。

ニュートン力学での脱出速度は次の式で表されます。

v_{\text{esc}} = \sqrt{\frac{2GM}{r}}

光速 c を代入して境界を求めます。

c = \sqrt{\frac{2GM}{r}}

これを $r$ について解くと、

r = \frac{2GM}{c^{2}}

これは先ほどのシュワルツシルト半径と同じです。

ただし、実際に光が脱出できなくなる理由は「速さが足りない」からではなく、シュワルツシルト半径の内側では、光の進む未来方向そのものがブラックホールの中心を向くという、時空構造の性質によるものです。

4.2 重力による時間の遅れ

シュワルツシルト解の右辺の第1項(時間成分)の$\left(1-\frac{2GM}{c^2 r}\right)$ に時間の遅れのヒントがありそうです。

ここで、ブラックホールの近くの時空に止まっている時計を考えてみます。
(実際には、この時計は、一定の半径で静止できないので、ブラックホールに吸い込まれないように支えられています。)

このとき、この時計の位置は変化しないので、距離や角度の変化も無く、

\begin{equation}
dr = d\theta = d\phi = 0
\end{equation}

となります。

この条件を線素に代入すると、$r$と$\theta$と$\phi$が消えて、

ds^2
=
-\left(1-\frac{2GM}{rc^2}\right)c^2 dt^2

が得られます。

そして、この静止している時計の刻む時間(固有時)を$\tau$とすると、この静止している時計にとっての線素$ds^2$の時間成分は、$-c^2 d\tau^2$となります。
つまり、静止している時計の線素は

ds^2 = -c^2 d\tau^2

となります。
なぜなら、そもそも線素は、その場所に置かれた時計が刻む時間の進みを表す量だからです。

この式と先ほどの結果を比べると、

-c^2 d\tau^2
=-\left(1-\frac{2GM}{rc^2}\right)c^2 dt^2

となり、整理すると

d\tau
=
\sqrt{1-\frac{2GM}{rc^2}} \, dt

が得られます。
ここで、$\tau$ は静止している時計の時間で、$t$ はブラックホールから十分遠くの場所にある時計の時間です。

この式から分かることは、遠くの場所にいる観測者の時計が $dt$だけ経過したとき、ブラックホールの近くにある時計の時間 $d\tau$ は、$dt$の

\sqrt{1-\frac{2GM}{rc^2}}

倍になる(遅れる)ということです。

例えば、ブラックホールから十分遠い場所では$r$が大きいので

\sqrt{1-\frac{2GM}{rc^2}} \approx 1

となり、時間の進み方はほぼ同じです。

しかし、ブラックホールに近づくにつれて、この$\sqrt{1-\frac{2GM}{rc^2}}$は $1$ より小さくなり、ブラックホールの近くにある時計の時間は次第に遅く進むようになります。

そして、シュワルツシルト半径

\begin{equation}
r_g = \frac{2GM}{c^2}
\end{equation}

に近づくと、

d\tau \to 0

となり、遠方の観測者から見ると、ブラックホールへ自由落下する時計は、重力による時間の遅れのため、次第に進みが遅くなって見えます。シュワルツシルト半径に近づくにつれて、その遅れは極端になり、発せられる光は強く赤方偏移します。その結果、遠方の観測者にとっては、時計は事象の地平線付近で次第に動きを止めたかのように見え、有限の座標時刻では地平線を越える様子を観測することはできません。

一方で、ブラックホールに向かって自由落下している時計自身にとっては、特別な異常は起こらず、固有時間は通常どおり進みます。落下者は有限の固有時間のうちに事象の地平線を通過し、その後もブラックホール内部へと落ち続け、最終的には中心の特異点に到達します。

ただし、ブラックホールの質量が十分に小さい場合には、強い潮汐力によって物体は進行方向に引き伸ばされ、いわゆる「スパゲッティ化」を受けます。これに対して、超巨大ブラックホールでは事象の地平線付近の潮汐力は比較的弱く、地平線通過時には顕著な破壊は起こらないと考えられています。

まとめると、重力が強いほど時間の進みは遅くなり、特にブラックホールの近くでは、遠方の観測者の時間と比べて、時計の進みが大きく遅れて見えます。これが重力による時間の遅れです。
下図は以上の説明のイメージです。

図解時間停止.jpg

4.3 無限遠からブラックホールに光を照射するとイベントホライズンで止まって見える

ブラックホールから十分遠方の観測者からブラックホールに光を照射すると、その観測者の座標時刻 $t$ で見る限り、光は事象の地平線に近づくにつれて次第に進みが遅くなり、あたかもイベントホライズンで速度がゼロになって止まってしまうように見えます。

つまり、いつまでたってもブラックホールに落ちないように見えるわけです。ただし、これは下記の数式にもあるように、あくまでも遠方の観測者からみた光の速度であり、光が物理的に減速しているわけではありません。

では、このことを式で確認します。

光の線素は $ds^2 = 0$ で表され、以下の様に変形していくと

-\left(1-\frac{r_g}{r}\right)c^2 dt^2
+\frac{dr^2}{1-\frac{r_g}{r}} = 0
\left(1-\frac{r_g}{r}\right)c^2 dt^2
=
\frac{dr^2}{1-\frac{r_g}{r}}
\frac{dr}{dt}
=
\pm c\left(1-\frac{r_g}{r}\right)

が得られます。
この最後の式は、遠方の観測者から見た光の速度であり、

r \to r_g \quad \Rightarrow \quad \frac{dr}{dt} \to 0

となるので、遠方の観測者の時間 $t$ で見ると、光は $𝑟=r_g$ に近づくにつれて速度が小さくなり、イベントホライズンで速度 0 となって、光は $r=r_g$ に有限時間では到達せず、そこで止まっているかのように見えます。

下図はそのイメージです。

図解運動停止.jpg

5. シュワルツシルト解とブラックホールの発見、そして最近の研究について

シュワルツシルト解が1916年に発表された当時は、最初からブラックホールという概念を直接主張するものではなく、あくまでも、「ある条件下」で「事象の地平面」を持つ「特異な時空構造」が現れるというものでした。
ブラックホールという概念は、後年の理解の積み重ねで形成されることになりました。

そして、ブラックホールは長らく間接的証拠によって支持されてきましたが、2019年、イベント・ホライズン・テレスコープによって、楕円銀河$M87$の中心にある超巨大ブラックホールのイベントホライズン近傍の影(ブラックホールシャドウ)を直接画像でとらえています。

image.png
M87の中心部にある巨大ブラックホールを直接撮像した画像
EHT Collaboration (Wikiより)

今後のブラックホールの観測は、「存在の確認」から「時空構造そのものの精密測定」へと進み、事象の地平線近傍や重力波の詳細な観測を通して、一般相対性理論の成立範囲と量子論的効果がどこで現れるかを、観測データによって直接検証する段階になると思われます。

ちなみに、「ブラックホール」という名称は、1967年にジョン・A・ホイーラーによって提唱・普及され、その後一般的な用語として定着しています。

<参考1>
かつてドイツのポツダム天体物理研究所の所長をしていたシュワルツシルトは、1915年11月25日に発表されたアインシュタインの一般相対性理論の論文を読んで、わずか4週間後に点質量の外側の重力場に関する論文を彼の戦場からアインシュタインに送っています。当時は、シュワルツシルトもアインシュタインも、事象の境界面や天体内部に特異点があるのは数学上の人工物だと思っていました。

<参考2>
ブラックホールには、外側から見て分かる特徴が3つあります。
それは「質量」「回転の速さ」「電気的な帯電」という特徴で、このことを「毛が三本しかない」と表現することがあります。

このうち、質量$M$だけを持ち、回転せず(角運動量 $𝐽=0$)、帯電もしていない(電荷 $𝑄=0$)ものが、最も基本的なブラックホールで、シュワルツシルト・ブラックホールと呼ばれます。
※角運動量は通常 $L$で表されますが、ブラックホールでは慣習的に $J$ が使われます。

上記の3つの要素で、まとめると下表となります。

性質 解の名称(年) 線素 特徴
質量のみ シュワルツシルト解 (1916)
(Schwarzschild solution)
下記参照 最も基本的なブラックホール
回転 カー解(1963)
(Kerr solution)
下記参照 時空が回転に引きずられる
電荷 ライスナー・ノルドシュトロム解(1916–1918)
(Reissner–Nordström solution)
下記参照 地平線が2つ現れる

シュワルツシルト解 (質量のみ) (Schwarzschild solution)

\begin{equation}
\begin{aligned}
ds^2 ={}&
-\left(1-\frac{2GM}{c^2 r}\right)c^2 dt^2 \\
&+ \left(1-\frac{2GM}{c^2 r}\right)^{-1} dr^2 \\
&+ r^2\left(d\theta^2+\sin^2\theta\,d\phi^2\right)
\end{aligned}
\end{equation}

カー解(回転)(Kerr solution)(Boyer-Lindquist 座標)
幾何単位系 G = c = 1


\begin{equation}
\begin{aligned}
ds^2 ={}&
-\left(1-\frac{2Mr}{\rho^2}\right) dt^2
-\frac{4Mar\sin^2\theta}{\rho^2}\, d\phi\,dt \\
&+ \frac{\rho^2}{\Delta}\, dr^2
+ \rho^2\, d\theta^2 \\
&+ \left(
r^2 + a^2
+ \frac{2Mr a^2 \sin^2\theta}{\rho^2}
\right)\sin^2\theta\, d\phi^2
\end{aligned}
\end{equation}
\begin{equation}
\rho^2 = r^2 + a^2 \cos^2\theta
\end{equation}
\begin{equation}
\Delta = r^2 + a^2 - 2Mr
\end{equation}

ライスナー・ノルドシュトロム解 (電荷)
(Reissner-Nordström solution)

\begin{equation}
ds^2
= -\left(1-\frac{2M}{r}+\frac{Q^2}{r^2}\right)dt^2
+ \left(1-\frac{2M}{r}+\frac{Q^2}{r^2}\right)^{-1}dr^2
+ r^2 d\Omega^2
\end{equation}

\begin{equation}
d\Omega^2
= d\theta^2 + \sin^2\theta\, d\phi^2
\end{equation}
\\[2em]

最後に、ブラックホールの最近の研究例についてご紹介します。

項目 研究成果のポイント なぜ重要? 参照
重力波でブラックホールの「音」を捉える ブラックホールが振動する準固有振動に奇妙なモードが見つかり、原因が理論的に解明された。これは重力波信号解析の精度向上に寄与。 重力波の「スペクトル化」によってブラックホールの性質をより正確に測れるようになった。 沖縄タイムス
標準的なブラックホール衝突の詳細解析 初期重力波観測から10年を迎え、過去の衝突イベントを最新手法で再解析。 より精密な合体過程の理解と一般相対性理論の検証につながる。 College of Arts and Science
隠れた超大質量ブラックホールの痕跡 GW190814 などの重力波イベント解析で、近くに「大型ブラックホール」がある可能性を示唆。 連星形成・ブラックホール成長の新たなヒント。 vietnam.vn
X線衛星 XRISM が観測した高速ガス流 超巨大ブラックホール周辺から超高速のガスが噴出していることを捉えた。 ブラックホールが周囲の星・ガスに与える影響の理解が進展。 立教大学
超巨大ブラックホール連星の直接撮影 数十億光年彼方で双子の超大質量ブラックホールの観測に成功。 ブラックホール同士の重力相互作用や連星進化モデルを検証可能に。 XenoSpectrum
ブラックホールが作り出す宇宙最大級のガス流 超大質量ブラックホールが史上最多速のウインド(ガス流)を放出しているのを観測。 ブラックホールフィードバック(銀河進化への影響)が実証的に明確化された。 Live Science
回転による時空引きずり(Frame Dragging)の観測 ブラックホールが星を吸い込む過程から、時空の引きずり効果を強い証拠で確認。 アインシュタイン理論の回転効果が観測で裏付けられた。 Space
銀河衝突がブラックホール活動を誘発 銀河同士の衝突で、中心ブラックホール活動(AGN)が活性化する証拠を確認。 ブラックホールと銀河進化の因果関係を実証的に示した。 Space

おわりに

以上、ブラックホールの基本的な性質を、主に数式を通して概観してきましたが、如何だったでしょうか。

本稿では、一般相対性理論における最も基本的な厳密解であるシュワルツシルト解をテーマにあげ、この解が示すブラックホールの基本的特徴、例えば、事象の地平線、特異点、時間の遅れなどを数式で眺めてきました。

また、線素(計量)という一つの数式から、時空の構造や物理的性質が読み取れることも見てきました。線素の持つ威力には驚かされます。

そして、ブラックホールについて更に理解を深めるとすれば、次の段階として、回転を持つブラックホール(カー解)や、電荷を持つブラックホール(ライスナー・ノルドシュトロム解)、さらにその両方を併せ持つブラックホール(カー・ニューマン解)になるでしょう。
これらは、より現実的な天体や一般相対性理論の構造を理解する上で重要な内容となっています。

さらには、量子効果を考慮したブラックホールの蒸発(ホーキング放射)や、理論的概念としてのホワイトホールなど、研究対象は尽きることがなく、大変興味深いものがあります。

なお、シュワルツシルト解で記述されるブラックホールは、角運動量および電荷を持たない、静的かつ球対称なブラックホールであり、「シュワルツシルト・ブラックホール(Schwarzschild black hole)」と呼ばれます。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

参考文献

1.石井俊全「一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する」ベル出版
2.杉山直 「相対性理論」講談社 
3.富岡竜太「あきらめない一般相対性理論」プレアデス出版
4.河辺哲次「相対性理論」裳華房
5.内山龍雄「相対性理論」岩波書店
6.砂川重信「相対性理論の考え方」岩波書店
7.深川峻太郎「アインシュタイン方程式を読んだら「宇宙」が見えた」講談社
8.小林晋平「ブラックホールと時空の方程式」森北出版
9.佐藤勝彦「世にも不思議で美しい「相対性理論」」実務教育出版
10.吉田伸夫「宇宙を統べる方程式」講談社
11.広瀬立成「相対性理論の一世紀」新潮社
12.田中貴浩「深化する一般相対性理論」丸善出版
13.齋田浩見「時空図による特殊相対性理論」森北出版
14.広江克彦「趣味で相対論」理工図書
15.スティーブ・ネイディス「時空のゆがみを解きほぐす数学」スバル舎
16.アインシュタイン「特殊および一般相対性理論について」白楊社
17.吉田伸夫「明解量子重力理論入門」講談社

その他、wikipedia等のサイト

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