はじめに
「平均を出してください」
仕事では、かなり自然に飛び交う言葉です。
しかし、この「平均」、実は扱いを間違えると、分析そのものを壊します。
本稿では、実際に現場で起きがちな「平均の平均」問題を題材に、
- なぜ問題なのか
- どこでロジックが崩れるのか
- どう直すべきか
- なぜ意思決定を歪めるのか
を整理します。
特に、コンサルティングやKPI分析、アンケート集計、セキュリティ評価、品質分析などでは非常に重要な観点です。
1. 「平均の平均」とは何か
まず、典型的なパターンを見てみます。
例えば、3件の調査対象があったとします。
| 対象 | 項目数 | 平均点 |
|---|---|---|
| A社 | 10項目 | 60点 |
| B社 | 5項目 | 80点 |
| C社 | 1項目 | 100点 |
ここで、ダメな集計をすると、
(60 + 80 + 100) ÷ 3 = 80点
としてしまいます。
これが「平均の平均」です。
一見、問題なさそうに見えます。
しかし、ここには大きな欠陥があります。
2. なぜ問題なのか
問題は、「母数(データ数)」が違うことです。
A社は10項目で評価されています。
C社は1項目だけです。
つまり、
- A社の60点 → 10個の評価結果
- C社の100点 → 1個だけの評価結果
なのに、同じ「1票」として扱われています。
これは統計的にはかなり危険です。
3. 正しい平均は「全体平均」
本来やるべきなのは、「全データ」を使った平均です。
つまり、
| 対象 | 項目数 | 平均点 | 合計点 |
|---|---|---|---|
| A社 | 10 | 60 | 600 |
| B社 | 5 | 80 | 400 |
| C社 | 1 | 100 | 100 |
合計すると、
総得点 = 600 + 400 + 100 = 1100
総項目数 = 10 + 5 + 1 = 16
したがって正しい平均は、
1100 ÷ 16 = 68.75点
です。
「平均の平均」の80点とは、大きく異なります。
4. 数学的には「重み」が崩れている
ここが本質です。
平均とは、本来、
合計 ÷ 件数
です。
しかし「平均の平均」は、
平均値同士を均等に扱う
という処理をしています。
つまり、
- 10件の評価
- 1件の評価
が同じ重みになります。
これは「重み付け」が崩壊している状態です。
統計では、この問題を避けるために「加重平均(Weighted Average)」を使います。
加重平均の基本式は以下です。
$$
\bar{x}=\frac{\sum_{i=1}^{n} w_i x_i}{\sum_{i=1}^{n} w_i}
$$
ここで、
- $x_i$ = 各平均値
- $w_i$ = 件数(重み)
です。
今回なら、
- A社 → 重み10
- B社 → 重み5
- C社 → 重み1
になります。
5. 本当に危険なのは「行動誘導」が壊れること
現場で怖いのは、単なる計算ミスではありません。
「評価制度」や「意思決定」が歪むことです。
例えば今回のような集計だと、
- 10項目を頑張る
- 1項目だけ高得点を取る
が、同じ価値になってしまいます。
すると、人はどう動くか。
当然、
「少ない項目だけ狙った方がコスパがいい」
という行動を取ります。
これはKPI設計でも非常に危険です。
6. KPI・コンサル・セキュリティ評価で起きやすい
この問題は、かなり広範囲で発生します。
| 分野 | 起きやすい例 |
|---|---|
| コンサル | 部門別平均をさらに平均 |
| セキュリティ | 拠点別スコアを単純平均 |
| CX分析 | 店舗満足度平均の平均 |
| 教育 | クラス平均の平均 |
| 医療 | 病院別統計の単純平均 |
特にコンサル資料では、
- 「見た目が綺麗」
- 「Excelで作りやすい」
- 「PowerPointに貼りやすい」
という理由で、平均の平均が紛れ込みやすいです。
しかし、意思決定層は「数字が正しい前提」で見ます。
そのため、集計ロジックの誤りは、そのまま経営判断を歪める可能性があります。
7. 「平均」は思ったより難しい
平均は、小学校から習う概念です。
そのため、
「平均くらい簡単でしょ」
と思われがちです。
しかし実務では、
- 母数
- 分布
- 重み
- 外れ値
- 欠損
- 比率
- サンプルサイズ
などを考慮する必要があります。
単純平均だけで済むケースの方が、むしろ少ないです。
おわりに
「平均の平均」は、Excelでも簡単に作れてしまいます。
だからこそ危険です。
特に実務では、
- 「その平均は何を平均したものか」
- 「母数は同じか」
- 「重みは適切か」
を確認する必要があります。
コンサル、データ分析、KPI設計では、
「計算できること」と「意味があること」は別
です。
数字が綺麗に見えるほど、集計ロジックを疑う。
これは、実務ではかなり重要な視点だと思います。
参考
-
総務省 統計局「なるほど統計学園」
統計の基本概念を整理した日本の公的資料 -
e-Stat 政府統計ポータルサイト
日本政府の統計データ基盤 -
Wikipedia: Weighted arithmetic mean
加重平均の定義と数式整理 -
OECD Glossary of Statistical Terms
統計用語の国際的定義集
