はじめに
「空飛ぶクルマ」という言葉は、どうしても未来都市のイメージを連れてきます。
ただ、技術者目線でいま見るべき本丸はそこではありません。
国土交通省などが整理する「空飛ぶクルマ」は、電動化、自動化、垂直離着陸といった航空技術で実現される次世代の空の移動手段です。1
ここでいう「空飛ぶクルマ」は、機体そのものとしてはeVTOL、運用や移動システムまで含めた文脈ではAAM(Advanced Air Mobility)と重なる領域です。つまり、実態はSFの車というより、航空機システムとその運航基盤として捉えるほうが近いです。
そして2026年時点で進んでいるのも、絵空事ではなく、
- 認証される飛行制御
- 周辺を見続けるセンシング
- 遠隔操縦や監視を支える操作系
- 便、空域、地上処理をまとめる運航管理
の整備が現実のものとなっています。
この記事では、都市開発の話はあえて外し、機体を動かす側の技術スタックに絞って整理していきましょう。
1. 2026年時点で何が進んでいるのか
まず、最近の動きを事実ベースで押さえます。
1-1. 型式証明プロセスが前に進んでいる
SkyDriveは2026年3月、型式証明プロセスの中核である全般計画書について、国土交通省航空局と合意したと公表しました。これは、機体全体として安全要求への適合をどう示すか、その進め方を当局とすり合わせた段階です。2
ここで重要なのは、単に「飛んだ」ではなく、どう安全を証明するかが前に進んでいることです。
1-2. 東京で“実運用を想定した”飛行実証が進んでいる
SkyDriveは東京都、三菱地所、兼松と連携し、東京ビッグサイトでデモフライトと運用実証を行いました。ここでは飛行だけでなく、顔認証チェックイン、搭乗導線、運航オペレーション、空域監視、Vertiport Automation Systemによる地上管理まで含めて検証されています。34
つまり、いま進んでいるのは「機体を見せるイベント」ではなく、飛行と地上オペレーションを一体で回す練習です。
1-3. 政府側も、遠隔操縦や自動化を視野に入れた議論を進めている
国の官民協議会やConOpsでは、空飛ぶクルマを単発の実証で終わらせず、将来的な遠隔操縦や自律制御も含めた運用概念として段階的に整理しています。56
ここから読めるのは、「まず有人で飛ばし、その後に遠隔操縦や自動化を段階導入していく」という方向感です。
2. どの技術が本丸なのか
このテーマを技術スタックとして見ると、軸は大きく五つで十分です。
- AI
- センシング
- 制御系
- 操作系 / HMI
- 運航管理
2-1. AI
ここで誤解しやすいのは、「AIが全部飛ばす」という見方です。
現実には、最初に重要になるのは支援AI、監視AI、最適化AIです。
NASAのAssistive DAA研究も、see-and-avoidを完全に置き換えるというより、人の見落としを補強し、高密度空域での安全性と効率を上げる方向で整理されています。7
つまりAIの本丸は、いきなり完全自律飛行ではなく、
- 周辺状況の把握補助
- アラートや支援表示
- 異常兆候の早期検出
- 運航の最適化
のような、人とシステムの間に入る機能です。
2-2. センシング
「飛ぶ」だけなら、姿勢や位置だけでも話が始まりそうに見えます。
でも実運用では、それでは足りません。
必要なのは、少なくとも次の認識です。
- 他機や周辺飛行体
- 障害物
- 気象
- 離着陸場周辺の状態
- 地上設備の状態
東京ビッグサイトでの実証でも、空域監視システムに運航情報を取り込み、周辺飛行体の状況監視や運航情報の可視化が行われています。4
要するに、センシングは「機体の目」だけでなく、運航全体の目でなければなりません。
2-3. 制御系
制御系でいちばん大事なのは、賢さより先に証明可能性と冗長性です。
SkyDriveのSD-05は、12基のモーター/ローターを持つ3人乗りの電動機です。8
この手の機体では、単に飛べるかより、
- 単点故障時にどう振る舞うか
- 姿勢、推進、電池、熱の異常時にどう分岐するか
- 帰投、継続、即時着陸の条件をどう定めるか
が重要になります。
つまり制御系は、「賢いアルゴリズム」よりも、試験できる制御、説明できる制御が本丸です。
2-4. 操作系 / HMI
将来のAAMを考えると、HMIは操縦席のUIだけでは終わりません。
むしろ今後は、
- 機上操縦者
- 遠隔操縦者
- 運航監視者
- 地上オペレーター
が同じシステムに関わる前提で考える必要があります。
するとHMIの論点は、
- 誰が何を見ているのか
- 警告が多すぎないか
- 引継ぎが短手数でできるか
- 権限分離が明確か
に変わります。
2-5. 運航管理
ここは特に見落とされがちです。
東京実証で使われたVertiport Automation Systemは、空き状況管理、周辺空域監視、地上設備のデジタル管理、顔認証チェックインを含む顧客処理、運航オペレーションの可視化まで担っています。4
これは、単なる「離着陸場予約システム」ではありません。
実態に近いのは、
- 航空
- 鉄道の運行管理
- SaaS型の業務基盤
- 監視システム
が混ざった統合運航ソフトウェアです。
3. なぜ都市開発より、こっちが本丸なのか
理由は単純です。
実装のボトルネックが、街並みの構想よりも、
- 安全に飛ばせるか
- 安全を証明できるか
- 高頻度運航を回せるか
- 異常時に止めて説明できるか
にあるからです。
未来都市の絵は派手ですが、商用運航に近いところで本当に差がつくのは、
- 制御の信頼性
- センサーの補完関係
- 人を支援するAI
- 運航管理ソフト
- 地上処理との接続
です。
「空飛ぶクルマ」を未来の移動手段として眺めるだけでは、技術の本質を外します。
今の争点は、飛行体そのものよりも、認証される制御、支援AI、検知、運航管理、地上処理をどう一体化するかです。
まとめ
空飛ぶクルマの話は、都市開発や未来構想として語られがちです。
ただ、技術者がいま注目すべきなのはそこではありません。
本丸は、
- AI
- センシング
- 制御系
- 操作系 / HMI
- 運航管理
の統合です。
とくに重要なのは、「AIが全部飛ばすか」ではなく、安全を証明できる制御と、運航を回せるソフトウェアをどう作るかです。
ここが見えると、「空飛ぶクルマ」はロマンの話ではなく、航空機開発と高信頼ソフトウェアの話として見えてきます。
参考
-
内閣府|「空飛ぶクルマ」の実現に向けた環境整備について https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r06kou_haku/zenbun/genkyo/topics/topic_15.html ↩
-
SkyDrive|SkyDrive、型式証明プロセスの中核「全般計画書」について国土交通省と合意 https://skydrive.co.jp/archives/69365 ↩
-
SkyDrive|SkyDrive、東京都、三菱地所、兼松と連携し、東京ビッグサイトにて「空飛ぶクルマ」のデモフライトを実施 https://skydrive.co.jp/archives/68724 ↩
-
SkyDrive|東京都「空飛ぶクルマを活用したサービスのビジネスモデル構築に関するプロジェクト」 国内初の空飛ぶクルマの実運用を想定した飛行実証を実施 https://skydrive.co.jp/archives/69096 ↩ ↩2 ↩3
-
経済産業省|空の移動革命に向けた官民協議会 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/index.html ↩
-
国土交通省|空の移動革命に向けた官民協議会 https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk2_000007.html ↩
-
NASA Technical Reports Server|Assistive Detect and Avoid Technology in Urban Air Mobility Environments https://ntrs.nasa.gov/citations/20240011022 ↩
-
SkyDrive|FLYING CAR https://en.skydrive2020.com/en/flyingcar ↩
