はじめに
「最近の若い人は、会社の飲み会に来たがらない」
職場で、一度は聞いたことがある言葉ではないでしょうか。
昔なら、新人歓迎会、送別会、暑気払い、忘年会、新年会。さらに部署の懇親会やプロジェクトの打ち上げまで、会社員生活には多くの飲み会がありました。
ところが、コロナ禍を境に状況は大きく変わりました。
在宅勤務が広がり、飲み会そのものが消えた職場もあります。復活した会社でも、「自由参加です」と念押しされることが増えました。
では、本当に会社の飲み会は終わりつつあるのでしょうか。
結論から言うと、会社の飲み会そのものが否定されたわけではありません。
変わったのは、飲み会の「存在」ではなく、その「前提」です。
かつての、
会社の飲み会なのだから参加して当然
というモデルから、
何のために参加するのか、その時間と費用に見合う価値があるのか
を一人ひとりが判断するモデルへ移行しています。
本稿では、2025年から2026年に公表された最新調査を中心に、会社の飲み会の現在地を整理します。
1. 会社の飲み会は、本当に減っているのか
まず、企業側のデータを見てみます。
東京商工リサーチが2025年10月に6,225社を対象として実施した調査によると、2025年末から2026年初に忘年会または新年会を実施すると回答した企業は57.8%でした。1
コロナ禍前の実施率は78.4%です。
つまり、コロナ禍による一時的な減少からは回復したものの、かつての水準には戻っていません。
| 時期 | 忘・新年会の実施率 |
|---|---|
| コロナ禍前 | 78.4% |
| 2020年 | 5.6% |
| 2023年 | 50%超 |
| 2025年末〜2026年初 | 57.8% |
さらに興味深いのは、コロナ禍前には実施していたものの、今回は実施しない企業の理由です。
最も多いのは「開催ニーズが高くない」で67.3%、次いで「参加に抵抗感を示す従業員が増えた」が41.3%、「費用削減」が21.7%でした。1
ここだけを見ると、
やはり会社の飲み会は嫌われている
と思うかもしれません。
しかし、個人側のデータを見ると、少し違った景色が見えてきます。
マイナビが2026年1月、全国の20〜50代の正社員21,798人を対象に行った調査では、「自分が新しい職場に入ったとき、歓迎会を開いてもらったら嬉しい」と回答した人は41.1%でした。2
「嬉しいとは思わない」は17.0%です。
さらに年代別では、20代の43.6%が「嬉しい」と回答し、全年代で最も高い結果となっています。
つまり、
若者だから会社の飲み会が嫌い
という仮説は、少なくともこのデータからは支持できません。
別のJob総研による2025年の調査でも、職場の忘年会に「参加したい」と回答した人は全体で60.1%、20代では71.0%と全年代で最高でした。3
ただし、この調査の有効回答数は421人で、JobQ Town登録者を対象としたインターネット調査です。マイナビの21,798人調査や、東京商工リサーチの6,225社調査とは母集団も質問も異なるため、数値の単純比較はできません。
それでも複数の調査を合わせて考えると、少なくとも、
「若者が飲み会を嫌うようになったから、会社の飲み会が消えた」
という説明では不十分です。
2. 嫌われたのは「飲み会」ではなく「悪い設計」ではないか
ここで仮説を一段深掘りします。
もしかすると、従業員が拒否しているのは飲み会そのものではなく、
時間、費用、上下関係、強制性を含めた「悪い飲み会の設計」
なのではないでしょうか。
Job総研の2025年調査では、忘年会に参加したい理由の第1位は「メンバーとの関係構築」で47.0%でした。3
一方、参加したくない理由は、
- プライベートを優先したい:56.5%
- 飲み会のノリについていけない:38.7%
- 上下関係が面倒・疲れる:38.1%
でした。
ここで重要なのは、参加したくない人も、必ずしも「職場の人間関係など不要だ」と言っているわけではないことです。
問題は、そのために、
- 業務終了後の自由時間を使う
- 数千円を自己負担する
- 上司に気を使う
- 飲酒を期待される
- 断りにくい
というコストを支払う必要があることです。
実際、マイナビの2026年調査では、他者を歓迎する側として歓迎会に参加した人の74.1%に自己負担があり、負担額は「4,000〜5,000円未満」が最多でした。2
さらに、新しい職場に慣れるために有効なものとして最も多かった回答は、「何気ない雑談」の62.4%です。4
20代では、
- 研修を行う:35.9%
- ランチなど終業時間内に行われる歓迎会:27.2%
- 交流イベントを行う:26.9%
が全体より高くなりました。
ここから見えてくるのは、若い世代がコミュニケーションを拒絶しているのではなく、
「勤務時間外に、自己負担で、酒を飲まなければ成立しないコミュニケーション」に疑問を持っている可能性
です。
これは合理的な問いでもあります。
業務上必要な関係構築なら、なぜ業務時間外なのでしょうか。
会社が必要と考えるなら、なぜ従業員が全額を負担するのでしょうか。
コミュニケーションが目的なら、なぜ酒が必要なのでしょうか。
こう考えると、会社の飲み会を存続させるには、「昔からそうだったから」ではなく、存在理由を再定義する必要があります。
3. 飲み会は「無礼講」ではなく、会社のリスク管理対象になった
会社の飲み会を語るうえで、ハラスメントの問題は避けられません。
マイナビが2026年に企業の中途採用担当者807人を対象として行った調査では、歓迎会や送別会などの懇親会について、78.4%が何らかのハラスメント対策を実施していると回答しています。4
つまり、今や会社の飲み会は単なるプライベートイベントではなく、企業にとって明確なリスク管理対象です。
厚生労働省の「あかるい職場応援団」では、企業のパワーハラスメント対策事例として、プライベートな飲み会への参加強要や飲酒の強要をパワーハラスメントとして扱う例を紹介しています。5
また、業務時間外に社外で開催された飲み会であっても、
- 職務との関連性
- 参加者の属性
- 参加が強制か任意か
などから実質的に職務の延長と判断されれば、そこで発生したセクシュアルハラスメントについて会社が責任を負う可能性があります。6
ここは非常に重要です。
「勤務時間外だから会社は関係ない」
とは限りません。
そして現代の管理職にとって怖いのは、本人に強制している意識がなくても、部下から見れば断れないケースです。
たとえば、
「もちろん自由参加だよ。まあ、みんな来るけどね」
「新人なのに来ないの?」
「理由は? 何か予定あるの?」
「こういう場に顔を出すのも仕事のうちだよ」
形式上は自由参加でも、これでは実質的な圧力になります。
飲み会そのものが悪いのではありません。
問題は、権限を持つ側と、断る側の非対称性です。
上司は「誘っただけ」と思っていても、部下は人事評価、昇進、配属、人間関係への影響を考えます。
この非対称性を無視して「嫌なら断ればいい」とするのは、現代のマネジメントとしては不十分です。
4. では、2026年型の会社飲み会はどう設計すべきか
会社の飲み会をなくす必要はないと考えます。
ただし、従来型の設計をそのまま続ける合理性は薄れています。
これからは、次のような再設計、考え方のアップデートが必要になるのではないでしょうか。
| 項目 | 従来型 | これからの設計 |
|---|---|---|
| 参加 | 原則参加の空気 | 明確な任意参加 |
| 欠席 | 理由を聞く | 理由を求めない |
| 費用 | 個人負担中心 | 会社補助を検討 |
| 時間 | 夜に長時間 | 90〜120分程度、昼開催も選択 |
| 酒 | 飲むことが前提 | 飲まない選択を標準化 |
| 目的 | 慣例だから開催 | 歓迎、慰労、関係構築などを明示 |
| 評価 | 顔を出す人が有利になり得る | 人事評価と完全に分離 |
特に重要なのは、飲み会を「職場コミュニケーションの基盤」にしないことです。
マイナビの調査では、新しい職場に慣れるために最も有効だとされたのは「何気ない雑談」でした。4
ITにたとえるなら、日常の挨拶、雑談、1on1、相談しやすい環境が「常時稼働する基盤」です。
飲み会は、その上で必要に応じて起動するオプション機能にすぎません。
基盤が壊れている職場で、月に一度飲み会を開いても、人間関係は修復できません。
普段は話しかけにくい。
ミスをすると怒鳴られる。
情報共有がない。
上司に意見を言えない。
しかし金曜日の夜だけ、
「今日は無礼講だから何でも言っていいぞ」
と言われても、無理があります。
むしろ健全な組織とは、酒がなくても本音を言える組織です。
そのうえで飲み会を開催すれば、飲み会は人間関係をゼロから構築する場ではなく、既にある関係を強化する場になります。
5. 再検証すると、「飲み会離れ」ではなく「強制参加離れ」なのではないか
ここまでのデータから、最初の仮説を再検証します。
仮説
若い世代が飲み会を嫌うようになったため、会社の飲み会が減った。
検証結果
この説明だけでは不十分です。
2026年のマイナビ調査では、自分の歓迎会を嬉しいと回答した割合は20代が43.6%で全年代最高でした。2
Job総研の2025年調査でも、忘年会への参加意欲は20代が71.0%で最も高くなっています。3
一方、企業側では、コロナ禍前に実施していた忘・新年会を実施しない理由として、「開催ニーズが高くない」「参加に抵抗感を示す従業員が増えた」「費用削減」が挙げられています。1
これらを総合すると、次の仮説の方が実態に近いのではないでしょうか。
人々は職場の交流そのものを拒絶しているのではない。
強制、長時間、自己負担、上下関係、飲酒前提という条件を受け入れなくなった。
つまり、会社の飲み会は消滅しているのではありません。
「デフォルト参加」から「オプトイン」へ変わったのです。
これは飲み会に限った話ではありません。
出社、残業、転勤、社内イベント、キャリア形成。
かつて「会社員なのだから当然」とされていたものが、一つずつ、
なぜ必要なのか
と問い直されています。
会社の飲み会は、その変化が最も分かりやすく表れている場所なのかもしれません。
おわりに
会社の飲み会は、なくなる必要はありません。
酒を飲みながら仕事以外の話をする。
普段接点のない人と話す。
新人を歓迎する。
プロジェクトの成功を祝う。
そこには、オンライン会議やチャットだけでは代替しにくい価値があります。
しかし、それは参加者が自ら選んで参加できるからこそ成立します。
「来ても来なくてもいい」
「酒を飲んでも飲まなくてもいい」
「途中で帰ってもいい」
「欠席理由を説明しなくてもいい」
そして、欠席したことで評価も人間関係も変わらない。
その状態を本当に作れるかが問われています。
会社の飲み会で問題なのは、酒ではありません。
酒を飲まなければ人間関係を作れない職場設計と、断れない関係性です。
逆に言えば、普段からコミュニケーションが取れ、誰もが安心して断れる組織なら、会社の飲み会は今でも十分に楽しいものになり得ます。
これから必要なのは「飲み会を残すか、なくすか」という二択ではありません。
参加したい人が参加し、参加しない人も何も失わない。
その設計に変えられるかどうかです。
参考
今回の肝は、「若者の飲み会離れ」というありがちな結論を、実際の調査データがむしろ否定している点です。特にマイナビの21,798人調査は母数が大きく、「20代が最も歓迎会を嬉しいと感じている」という結果は、記事のフックとしてかなり強いと思います。 (マイナビキャリアリサーチLab | 働くの明日を考える)
-
東京商工リサーチ「ことしの忘・新年会『実施』は57.8% コロナ禍後、初の減少」 — 2025年10月1日〜8日、企業6,225社を対象とした忘・新年会の実施状況および非実施理由の調査 ↩ ↩2 ↩3
-
マイナビキャリアリサーチLab「正社員2万人に聞いた 歓迎会に関する意識調査2026年」 — 2026年1月5日〜8日、全国の20〜50代正社員21,798人および企業の中途採用担当者807人を対象とした調査 ↩ ↩2 ↩3
-
Job総研「2025年 忘年会意識調査」 — 2025年10月29日〜11月4日、現在就業中のJobQ Town登録者421人を対象とした調査。母集団の性質と回答数には留意が必要 ↩ ↩2 ↩3
-
マイナビキャリアリサーチLab「新しい職場に慣れるために有効だと思うこと・企業のハラスメント対策」 — 雑談、ランチ形式の歓迎会、懇親会におけるハラスメント対策に関する調査結果 ↩ ↩2 ↩3
-
厚生労働省「あかるい職場応援団」企業理念と寄り添ったパワハラ対策 — 飲み会参加や飲酒の強要を含む企業のハラスメント判断基準の事例 ↩
-
厚生労働省関連サイト「業務時間外の飲み会でのセクハラについても、会社は責任を負う?」 — 業務時間外・社外の飲み会でも、職務関連性や参加の強制性などによって会社の責任が問題となり得ることを解説
::: ↩
