はじめに

あなたはスマートポインタというものを知り、shared_ptrでクラスを管理することを試みます。また、今までthisで行っていたように、自身のshared_ptrを取得したいです。単純にshared_ptr(this)とするとエラーになってしまいます。インターネットで調べると、enable_shared_from_thisというものを継承させればいいということを知ります。しかしこれは罠です。調べると色々出てくるので割愛しますがenable_shared_from_thisには様々な問題があります。有識者に聞くと「enable_shared_from_thisなんて使わないよ？」と言われ、じゃあ僕の設計が間違っているのか…？となります。（ここまで実体験）

この問題にはわかりやすく画期的な解決策があり、しかもそれはかなり著名なC++設計法として知られています。

それはズバリshared_ptrをラップすることです。

解決策

いまこういう状況です。

class Player
{
public:
    void update(double dt)
    {
		/*
		いろんな処理
		*/

		//std::shared_ptr<Player> player = ... // update()内で自身の shared_ptr　がほしい。

		/*
		いろんな処理
		*/
	}
};

Playerのラッパークラスを作ります。

元のPlayerクラスを　➝　PlayerDetail
Playerのラッパークラスを　➝　Player
という風に命名します。

//元のPlayerクラス
class PlayerDetail
{
public:
    void update(double dt)
    {
		/*
		いろんな処理
		*/

		//std::shared_ptr<PlayerDetail> player = ... // update()内で自身の shared_ptr　がほしい。

		/*
		いろんな処理
		*/
	}

};

//元のPlayerクラスのラッパー
class Player
{
public:
	Player() 
		:player(std::make_shared<PlayerDetail>()) // コンストラクタでshared_ptrを作成。
	{
	}

	void update(double dt)
	{
		player->update(dt);//ラッパークラスでもupdate()を定義し、中でPlayerDetailのupdate()を呼びます
	}
private:
	std::shared_ptr<PlayerDetail> player;//shared_ptrをラップしている。
};

まだラッパークラスを作成しただけでなんの解決にもなっていません。
そこで、PlayerDetailのupdate()にshared_ptr<PlayerDetail>の引数を追加し、ラッパークラスでupdate()を呼び出す際に渡してあげます。

//元のPlayerクラス
class PlayerDetail
{
public:
	void update(const std::shared_ptr<PlayerDetail>& player, double dt)
	{
		/*
		いろんな処理
		*/

		// 自身の shared_ptr である player が使える！！！

		/*
		いろんな処理
		*/
	}

};

//元のPlayerクラスのラッパー
class Player
{
public:
	Player()
		:player(std::make_shared<PlayerDetail>())
	{
	}

	void update(double dt)
	{
		player->update(player, dt);//playerを渡してあげる
	}
private:
	std::shared_ptr<PlayerDetail> player;
};

なんということでしょう。問題が解決しました！

update()以外のメンバ関数でも使いたい場合は、その都度引数にstd::shared_ptr<PlayerDetail>を持たせ、ラッパークラスから渡してあげます。
メンバ関数を増やしたら、その都度ラッパークラスのメンバ関数も増やさないといけないのは少し手間ですが、そこは目をつぶりましょう。

ラッパークラスを作ると

std::vector<std::shared_ptr<Player>> players;

こうやって書いてたのが

std::vector<Player> players;

こうでよくなったりするなど、多くの場面でいちいちshared_ptrと書かなくて良くなり、型の見た目もスッキリするという効果もあります。

実は

このような実装は「pImplイディオム」として知られています。pImplイディオムについては他の記事を調べてください。何故かどの記事でも自身のshared_ptrを渡せることについて全く言及していませんが、それを抜きにしても様々なメリットがあるようです。

private:
-    std::shared_ptr<PlayerDetail> player;
+	std::shared_ptr<PlayerDetail> pImpl;

今回はplayerとして持たせていましたが、pImplと命名するとpImplイディオムであることが分かりやすくなり、他者からの可読性向上が見込めます。