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【データベース製品紹介 (1/10)】ClickHouse - なぜ超高速なのか?その原理を深掘り

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はじめに

はじめまして!今回から「データベース製品紹介」と題して、世の中にある様々な面白いデータベースを10回にわたって紹介していくシリーズを始めたいと思います。記念すべき第1回は、圧倒的なクエリ速度で近年注目を集めているオープンソースのデータベース「ClickHouse」です。

この記事では、ClickHouseの表面的な使い方だけでなく、「なぜこれほどまでに高速なのか?」というアーキテクチャの秘密や、その心臓部であるMergeTreeエンジンファミリーの仕組みまでを深掘りしていきます。

対象読者

  • 大量のログデータやアクセス解析データの扱いに困っている方
  • リアルタイムでのデータ分析基盤に興味がある方
  • データベースの内部アーキテクチャやパフォーマンスチューニングに興味がある方
  • 「ClickHouse」をすでに少し触ったことがあり、さらに深く理解したい方

ClickHouseとは?

ClickHouseは、ロシアの検索エンジン最大手であるYandex社が開発した、オープンソースの列指向(カラムナ)データベース管理システムです。

一番の特徴は、とにかくクエリの実行速度が驚異的に速いことです。主にOLAP(Online Analytical Processing)と呼ばれる、集計や分析系のワークロードを得意としています。

なぜClickHouseはこれほど速いのか?

「列指向だから速い」とよく言われますが、理由はそれだけではありません。ClickHouseの速度は、緻密に設計されたアーキテクチャと、パフォーマンスへの執念とも言える実装の賜物です。

1. アーキテクチャ上の工夫

① 列指向ストアとデータ圧縮

行指向DB(MySQLなど)が [行1: (id1, name1, age1)], [行2: (id2, name2, age2)] のようにデータを保存するのに対し、列指向のClickHouseは [列id: (id1, id2, ...)], [列name: (name1, name2, ...)], [列age: (age1, age2, ...)] のように列ごとにデータをまとめて保存します。

  • I/Oの削減: 分析クエリでは特定の列しか使わないことが多いため(例: AVG(age))、必要な列のデータだけをディスクから読み込むことで、I/Oを劇的に削減します。
  • 高い圧縮率: 同じ型のデータが連続して並ぶため、データ圧縮の効率が非常に高くなります。LZ4やZSTDといった高速な圧縮アルゴリズムと組み合わせることで、ディスク使用量を抑えつつ、読み込み速度を向上させています。

② ベクトル化クエリ実行 (Vectorized Query Execution)

ClickHouseは、データを一行ずつ処理するのではなく、数百〜数千行をまとめた「ベクトル」または「チャンク」と呼ばれる単位で処理します。これはCPUを効率的に使うための重要な仕組みです。

CPUにはSIMD (Single Instruction, Multiple Data) という一つの命令で複数のデータを同時に処理できる命令セットがあります。ベクトル化実行により、このSIMD命令を最大限に活用し、ループや関数呼び出しのオーバーヘッドを削減して、CPUの演算能力を限界まで引き出します。

③ 疎なプライマリインデックス (Sparse Primary Index)

RDBのB-Treeインデックスが各行へのポインタを持つのに対し、ClickHouseのプライマリインデックスは「疎」に作られます。これは、全行ではなく、数千行(デフォルトでは8192行)ごとのデータブロック(グラニュール)の先頭に対してのみインデックスを張る方式です。

これによりインデックス自体が非常に小さく(数GBのテーブルでも数MB程度)、常にメモリ上に保持できます。クエリ実行時には、このインデックスを使って不要なデータブロックを丸ごと読み飛ばすことで、スキャン範囲を大幅に限定できるのです。

2. C++による徹底した実装とコード品質

ClickHouseは、パフォーマンスを最大限に引き出すために**C++**で記述されています。ガベージコレクションを持つJava(多くの分散データ処理系で採用)などとは異なり、メモリ管理やハードウェアリソースを直接的にコントロールできます。

特筆すべきは、その開発文化です。ClickHouseの開発チームは、パフォーマンスを何よりも優先します。
「たとえコードが複雑になろうとも、1%でもパフォーマンスが向上するなら、その実装を選択する」という思想がコードの隅々にまで反映されています。無駄な抽象化レイヤーを徹底的に排除し、アルゴリズムレベルからハードウェアの特性を意識した最適化が行われていることが、他の製品との決定的な違いを生んでいます。

MergeTreeエンジンファミリー:ClickHouseの心臓部

ClickHouseの性能を語る上で欠かせないのが、データをどのように格納し、管理するかを定義するテーブルエンジンです。中でも最も強力で広く使われているのが MergeTree エンジンとその派生ファミリーです。

MergeTree

最も基本的かつ標準的なエンジンです。データの追記(INSERT)を行うと、まず小さな「データパート」としてディスクに書き込まれます。そして、バックグラウンドでこれらの小さなパートが非同期にマージされ、より大きく効率的なパートへと統合されていきます。

CREATE TABLE 時に指定する PARTITION BYORDER BY が極めて重要です。

  • PARTITION BY: データをどの単位で物理的なディレクトリに分割するかを定義します(例: 月ごと)。これにより、不要なパーティションを読み飛ばす(Partition Pruning)ことが可能になります。
  • ORDER BY: パーティション内で、どの列をキーとして物理的にデータをソートするかを定義します。これが実質的なプライマリキーとなり、前述の疎なプライマリインデックスがこのキーに対して作成されます。このキーでの範囲スキャンは極めて高速です。
-- 例: 月ごとにパーティションを切り、イベント時刻とURLでソートするテーブル
CREATE TABLE access_logs (
    `timestamp` DateTime,
    `user_id` UInt32,
    `url` String
) ENGINE = MergeTree()
PARTITION BY toYYYYMM(timestamp) -- 月次パーティション
ORDER BY (timestamp, url);       -- ソートキー(プライマリキー)

CollapsingMergeTree

MergeTreeはデータの追記に最適化されていますが、行の状態が変化したり、古い行を削除したい場合があります。CollapsingMergeTreeは、そのようなシナリオに対応するためのエンジンです。

Sign という特別な列(Int8型で、値は 1-1)を用意します。

  • Sign = 1: 新しい状態の行(追加)

  • Sign = -1: キャンセル対象の行(削除)

バックグラウンドでマージ処理が走る際、同じソートキーを持つ行のペアで、Sign1-1のものが存在すれば、それらの行を「相殺(Collapse)」して消去します。

-- ユーザーのログイン状態を管理するテーブルの例
CREATE TABLE user_status (
    `user_id` UInt32,
    `status` String,
    `event_time` DateTime,
    `Sign` Int8  -- Sign列が必須
) ENGINE = CollapsingMergeTree(Sign) -- Sign列を指定
ORDER BY (user_id);

注意点: マージは非同期に行われるため、SELECTしたタイミングによっては相殺前の行(1-1の両方)が見えてしまう可能性があります。そのため、クエリ側で GROUP BY ... HAVING sum(Sign) > 0 のような工夫が必要になる、上級者向けのエンジンです。

その他のMergeTreeエンジン

他にも、特定のユースケースに特化したエンジンがあります。

  • ReplacingMergeTree: マージ時にソートキーが重複する行のうち、最新のバージョン(タイムスタンプなどで判断)の行だけを残します。単純な重複排除や、最新の状態だけを保持したい場合に便利です。

  • AggregatingMergeTree: マージ時にソートキーが同じ行を集約(Aggregate)します。例えば、sumcount などの集計関数を定義しておくことで、生データを保持しつつ、中間集計データを自動的に作成できます。リアルタイム集計ダッシュボードなどに強力です。

実際に触ってみよう (Dockerハンズオン)

理論はこれくらいにして、実際にDockerを使ってClickHouseを動かしてみましょう。5分もかからずに始められます。

1. 環境構築

まず、DockerでClickHouseの公式イメージを起動します。

docker run -d --name my-clickhouse-server \
    -p 8123:8123 \
    -p 9000:9000 \
    --ulimit nofile=262144:262144 \
    clickhouse/clickhouse-server
  • 8123ポート: HTTPインターフェース用
  • 9000ポート: ネイティブクライアント用

2. クライアントで接続

起動したコンテナに入り、ClickHouseのクライアントを立ち上げます。

docker exec -it my-clickhouse-server clickhouse-client

# 以下のようなプロンプトが表示されれば成功です
# ClickHouse client version ...
# Connecting to localhost:9000 as user default.
# Connected to ClickHouse server version ...

# :)

3. 基本的な操作

簡単なテーブルを作成し、データを投入して集計してみましょう。 今回は「Webサイトのアクセスログ」を想定したテーブルを作ります。

データベースとテーブルの作成

-- データベースの作成
CREATE DATABASE IF NOT EXISTS test_db;

-- 作成したデータベースに切り替え
USE test_db;

-- アクセスログテーブルの作成
CREATE TABLE access_logs (
    `timestamp` DateTime,
    `user_id` UInt32,
    `url` String,
    `response_time_ms` UInt16
) ENGINE = MergeTree()
PARTITION BY toYYYYMM(timestamp)
ORDER BY (timestamp, url);

ENGINE = MergeTree() がClickHouseの心臓部とも言えるテーブルエンジンです。今は「大量のデータを高速に扱うためのおまじない」くらいに考えておけばOKです。ORDER BY で指定したキーでデータが物理的にソートされるため、クエリのパフォーマンスに非常に重要です。

データの挿入

INSERT INTO access_logs VALUES
('2025-09-11 21:00:00', 101, '/index', 50),
('2025-09-11 21:00:05', 102, '/products/1', 120),
('2025-09-11 21:00:10', 101, '/cart', 80),
('2025-09-11 21:01:00', 103, '/index', 45),
('2025-09-11 21:01:15', 102, '/products/2', 150),
('2025-09-11 21:01:20', 101, '/checkout', 200);

集計クエリの実行

それでは、ClickHouseの真価を発揮する集計クエリを投げてみましょう。

「URLごとのアクセス回数と平均レスポンスタイム」 を計算してみます。

SELECT
    url,
    count() AS page_views,
    avg(response_time_ms) AS avg_response_time
FROM access_logs
GROUP BY url
ORDER BY page_views DESC;

実行すると、瞬時に結果が返ってくるはずです。

┌─url───────────┬─page_views─┬─avg_response_time─┐
│ /index        │          2 │              47.5 │
│ /products/1   │          1 │               120 │
│ /cart         │          1 │                80 │
│ /products/2   │          1 │               150 │
│ /checkout     │          1 │               200 │
└───────────────┴────────────┴───────────────────┘

今回はデータが数件しかありませんが、これが数億行、数十億行になっても、ClickHouseは驚くほどの速さで結果を返してくれます。

まとめ

今回は、超高速分析データベース「ClickHouse」を深掘りしました。

  • ClickHouseの速さの秘訣は、列指向、ベクトル化実行、疎なインデックスといったアーキテクチャと、C++による徹底的な低レイヤー最適化の組み合わせにある。

  • 心臓部であるMergeTreeエンジンは、データの物理的な格納方法を定義し、パフォーマンスの鍵を握る。

  • CollapsingMergeTreeReplacingMergeTree といった派生エンジンにより、単純な追記だけでなく、より複雑なデータ管理も可能になる。

ClickHouseは、ただ速いだけでなく、その速さを実現するための非常に洗練された仕組みを持っています。大量データ分析の課題に直面した際は、ぜひその内部アーキテクチャを思い出し、選択肢の一つとして検討してみてください。

次回予告

「データベース製品紹介」シリーズ、第2回はDorisをご紹介する予定です。お楽しみに!

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