2
1

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

あらゆるヘッドフォンに対応する空間オーディオの構築

Posted at

Gemini_Generated_Image_vxv08ovxv08ovxv0-3.png

目標

macOS用ビデオプレーヤー「Vidi」を開発していた際、私はある特定の問題を解決したいと考えていました。ほとんどの映画は5.1chや7.1chのサラウンドサウンドで収録されていますが、一般的なビデオプレーヤーでヘッドフォンを使用すると、それらはすべて単なるステレオにダウンミックス(統合)されてしまいます。その結果、本来あるはずの空間情報がすべて失われてしまっていました。

そこで私は、AirPodsに限らず、どんなヘッドフォンでも機能する「本物の空間オーディオ」を構築することを決意しました。

仕組み

空間オーディオは、HRTF(頭部伝達関数)に基づいたバイノーラル処理を使用しています。これは、異なる方向から来る音がどのように耳に届くか(到達するタイミング、周波数、音圧の違いなど)をシミュレートする技術です。

サラウンドサウンドの各チャンネルにこのHRTFを適用することで、ごく普通のステレオヘッドフォンであっても、3D空間内に音を定位させることが可能になります。センターチャンネルの音はまるで目の前から、リアチャンネルの音は背後から聞こえるようになるのです。

課題

最も困難だったのは、これを動画再生中にリアルタイムで処理することでした。

Dolby DigitalやDTSフォーマットから個々のチャンネルを抽出する

各チャンネルにバイノーラル処理を適用する

映像との同期ズレを防ぐため、レイテンシ(遅延)を10ms以下に抑える

4K 60fpsの動画再生時でも効率的に動作させる

試行錯誤に数ヶ月を要しましたが、AppleのCore AudioとAccelerateフレームワークを活用することで、これらを実現することができました。

成果

その違いは、聴けばすぐに分かります。

セリフがより鮮明に: センターチャンネルが適切に分離されるため、会話が聞き取りやすくなります。

臨場感のあるアクションシーン: 本来の方向感がリアルに再現されます。

どんなヘッドフォンでも対応: 20ドルの安価なイヤフォンでも、300ドルの高級ヘッドフォンと同じ空間処理が得られます。

専用ハードウェア不要: Appleの空間オーディオとは異なり、特定のデバイスを必要としません。独自のフォーマットも不要で、あらゆる5.1ch/7.1chコンテンツで機能します。

得られた教訓

まずは一点に集中する:
他にも多くのオーディオ機能を作ることはできましたが、まずは「空間オーディオ」から着手したことで、明確な差別化要因を生み出すことができました。

ネイティブフレームワークを活用する:
AppleのCore Audioは非常に強力です。独自に作り込むのではなく、このフレームワークの特性に合わせて実装したことで、開発がスムーズに進みました。

リアルタイム処理は難しい:
テスト環境で動作しても、負荷の高いコンテンツでは失敗することがあります。実際の4K動画を使用して、絶えずテストを行うことが重要です。

結果として、空間オーディオはVidiで最も賞賛される機能となりました。ヘッドフォンで「正しいサラウンドサウンド」を初めて体験したユーザーは、すぐにその価値を理解してくれます。

VidiはmacOS向けにリリースされており、空間オーディオやその他のプロ向け機能を搭載しています。

Vidiの空間オーディオを実際に体験してみませんか?Mac App Storeからダウンロードできます。
https://apps.apple.com/app/vidi-video-player/id6755982989

2
1
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
2
1

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?