はじめに
2025年、データエンジニアリングの世界は大きな転換点を迎えています。Modern Data Stack (MDS)は、もはや単なる流行語ではなく、企業がデータを収集・変換・分析するための基盤的なアーキテクチャとして確立されました。本記事では、2025年におけるMDSの最新動向と、今年注目を集めた出来事について解説します。
Modern Data Stackとは
Modern Data Stack (MDS)は、クラウドネイティブなツールとテクノロジーを統合し、データの収集、取り込み、保存、クリーニング、変換、分析、ガバナンスを可能にするモジュラー型のアーキテクチャです。
従来のレガシーデータスタック(LDS)がオンプレミスの硬直的なインフラに依存していたのに対し、MDSは以下の特徴を持ちます。
- クラウドネイティブ設計: スケーラビリティと柔軟性を実現
- モジュラー構造: ベストオブブリードなツールを組み合わせ可能
- リアルタイム処理: 即座にインサイトを得られる
- セルフサービス分析: 技術者以外でもデータにアクセス可能
- AI/ML統合: AIアプリケーションの基盤として機能
MDSの主要コンポーネント
1. データ取り込み (Ingestion)
多様なデータソースからデータを抽出し、中央のデータウェアハウスへロードします。
代表的なツール: Fivetran、Airbyte、Stitch
2025年のトレンド: ELT(Extract, Load, Transform)方式が主流となり、データをまず保存してから変換するアプローチが標準化されました。
2. データストレージ (Storage)
クラウドベースのデータウェアハウスやデータレイクで、構造化・非構造化データを一元管理します。
代表的なツール: Snowflake、Google BigQuery、Amazon Redshift、Databricks
2025年のトレンド: オープンテーブルフォーマット(Apache Iceberg等)の実装が加速し、複数のプラットフォームでデータを柔軟に扱えるようになりました。
3. データ変換 (Transformation)
生データを分析可能な形式に変換・クリーニングします。
代表的なツール: dbt、Dataform
2025年のトレンド: dbtのPythonモデルとPolarsの組み合わせにより、SQLとPythonのハイブリッド変換が一般化しました。
4. BI・分析 (Business Intelligence & Analytics)
ダッシュボードやレポートを作成し、データを可視化します。
代表的なツール: Looker、Tableau、Power BI、Metabase
2025年のトレンド: AI生成ナラティブと説明可能性機能により、「なぜそのトレンドが起きているのか」まで理解できるようになりました。
5. データオブザーバビリティ (Observability)
データの品質、可用性、信頼性を継続的に監視します。
代表的なツール: Monte Carlo、Great Expectations、Soda、Metaplane
2025年のトレンド: データオブザーバビリティは必須要件となり、すべての本番パイプラインに組み込まれるようになりました。
6. データガバナンス (Governance)
データカタログ、リネージ、アクセス制御を管理します。
代表的なツール: Alation、Collibra、Atlan
2025年のトレンド: データコントラクト(Data Contracts)が台頭し、データプロデューサーとコンシューマー間でスキーマとSLAを明確化する動きが加速しました。
2025年のMDSを取り巻く主要な出来事
1. DuckDBの急成長 - 50.7%の年間成長率
2025年、DuckDBは開発者の関心において50.7%という驚異的な年間成長率を記録しました。DuckDBは、ローカル分析、データアプリケーション開発、パイプラインテストに最適な組み込み型分析データベースとして注目されています。
主なハイライト:
- DuckDB 1.4.0 LTSがリリースされ、データベース暗号化とMERGE文のサポートが追加
- Sparkに比べて100倍のパフォーマンス向上を実証するベンチマーク結果が発表
- DuckDBチームとMotherDuckが共同で、uiエクステンションの一部としてローカルUIをリリース
- pg_duckdb 1.0が正式リリースされ、PostgreSQL内でベクトル化された分析を直接実行可能に
2. DuckLake - 新しいレイクハウスフォーマットの登場
DuckDBはDuckLakeを発表し、すべてのメタデータを標準SQLデータベースに移すことでレイクハウスを簡素化する新しいアプローチを提案しました。これは、ファイルベースのシステムよりも信頼性が高く、高速で管理しやすいソリューションとして注目されています。
3. AI統合の深化
2025年のMDSでは、AI機能がスタックのあらゆるレイヤーに組み込まれました。
具体例:
- パイプライン生成の自動化
- 異常検知の高度化
- 経営層向けサマリーの自動生成
- 2025年では、多くのプラットフォームがAI生成ナラティブと説明可能性機能を提供し、ユーザーがデータを見るだけでなく、トレンドの背後にある「理由」も理解できるようになりました
4. データプロダクトの台頭
データプロダクトが企業分析とAI対応の中核単位になりつつあります。チームはデータセットをSLAに紐づけ、セマンティックレイヤーを復活させ、オブザーバビリティをパイプラインに組み込んでいます。
5. コスト最適化への注力
フルクラウドベースのMDSのスケーリングとコスト管理は、2025年においてデータチームにとって依然として大きな課題です。多くのクラウドツールベンダーが従量課金モデルに移行したため、インフラコストが制御不能に陥るリスクが高まっています。
対策:
- あるチームはDuckDBをスマートキャッシングレイヤーとして使用し、SnowflakeのBI支出を79%削減することに成功しました
- ユーティリティコンピュートの台頭により、特定のワークロード専用の最適化されたエンジンが普及
6. オープンテーブルフォーマットの実装加速
Apache Icebergの本番環境での使用は現在まだ少ないものの、dbt Labs、Fivetranなどのベンダー、データクラウド、ハイパースケーラーすべてが実装を容易にする機能を構築しているため、2025年は急速に普及し始めています。
7. メトリクスレイヤーの標準化
メトリクスレイヤーの実装により、より多くのユーザータイプがデータにアクセスしやすくなることが期待されています。dbtのメトリクス定義サポートにより、ビジネスロジックをテスト済みのバージョン管理されたコードに追加でき、すべてのレポーティングスタックで統一されたメトリクスセットを作成できます。
8. マーケティング領域でのMDS活用拡大
Snowflakeは「Modern Marketing Data Stack 2025」レポートを発表し、AI・プライバシー・データグラビティによって再定義された世界で、マーケティング担当者がどのように成功しているかを分析しました。AcxiomやBrazeなどの企業がリーダーとして認識されています。
2025年のMDS - 何が「イン」で何が「アウト」か
✅ イン (トレンド)
- データコントラクト: スキーマとSLAを明確化し、下流のデータ品質問題を防止
- DuckDB & MotherDuck: クラウド価格なしでウェアハウス並みのパフォーマンス
- データオブザーバビリティ: 本番環境での必須要件
- ハイブリッド変換: dbt PythonモデルとPolarsによるSQL/Pythonの融合
- リアルタイム処理: ストリーミングとバッチの境界が曖昧に
❌ アウト (衰退)
- レガシーETLプラットフォーム: 硬直的なアーキテクチャと高額なライセンス費用
- 単一ベンダー依存: モジュラー型の「ベストオブブリード」アプローチへ移行
- バッチ処理中心の設計: リアルタイム要件への対応不足
- ドキュメント不足: 信頼構築のために必須となった
MDSの課題と今後の展望
現在の課題
- コスト管理の複雑化: 従量課金モデルによるコスト予測の難しさ
- ツールの複雑化: 30以上のロゴがアーキテクチャ図に並ぶ状況
- 統合プラットフォームへの移行: すでに企業の半数以上が複数のデータプラットフォームを使用しており、単一の管理画面が必要
2026年以降の展望
- AI-First アーキテクチャ: MDSは企業のAIイニシアチブにとって不可欠なバックボーンとなっています
- データメッシュアーキテクチャ: 分散化への移行
- エンドツーエンドプラットフォーム: 統合とワークフロー重視の傾向
- リアルタイム機能の標準化: すべてのレイヤーでリアルタイム処理が当たり前に
まとめ
2025年のModern Data Stackは、単なるツールの集合体から、ビジネスアジリティを支えるエコシステムへと進化しました。DuckDBの急成長、AI統合の深化、データプロダクトの台頭など、多くの重要な変化が起きています。
データエンジニアに求められるのは、もはやパイプラインを構築するだけでなく、信頼性、オブザーバビリティ、ガバナンス、スケーラビリティを兼ね備えたシステムを設計することです。
2026年以降も、MDSは進化を続け、よりシンプルで強力な、そして誰もがデータから価値を引き出せるエコシステムへと成長していくでしょう。データギークにとって、これほどエキサイティングな時代はありません。