👀概要
パーソルホールディングス デジタル開発部 Technical Alliance室の三好です。
私たちの部では、チームをまたいだ技術的負債や課題をチケット化して解消する「りぞるぶ会」という活動を運営しています。
しかし、多くの課題が集まる中で「次にどれを優先すべきか」の判断を個人の感覚に依存させていたことが課題となっていました。
そこで本記事では、この優先順位付けを「共通の仕組み」にしていくまでの試行錯誤をご紹介します。
チームのバックログ整理や優先順位の決め方に悩んでいる方の参考になれば幸いです。
👨👩👧👦対象者(Who)
- 定量的な評価モデルの設計に興味がある方
- 組織横断の課題管理や、優先順位づけについて興味のある方
📌関連リンク
- 半年で21件解消した「技術的負債が減る横断組織の作り方」
- アイゼンハワーマトリクスとは?緊急度と重要度で優先順位を決める 4 つの領域とタスク管理のコツ
- ICEスコアリングモデルとは?優先順位付けの計算方法と使い方をフレームワークで解説
🗒️目次
- 背景
- 判断軸
- 3つの軸
- フィボナッチ数列と、言葉の物差し
- 優先度スコアの式
- 掛け算が Quick Win を沈める
- 数式は議論の出発点
- 実際に導入してみて
- 最後に
📝 内容
背景
この課題解消活動は、誰でも課題をチケットにできる仕組みとしてすでに動いていました。半年間で21件を解消するところまで育てられており、フロー自体もスクラムの会議体に沿った形で運用されており、仕組みとしてしっかりと形作られていました(詳細はこちらをご覧ください)。
もともとは有志による活動として始まったため、細かな運営は個人の感覚や阿吽の呼吸で回っていました。
判断軸や、それぞれの軸における軽重の付け方なども、メイン担当者の感覚頼りになってしまっていました。
優先順位の判断が個人の感覚に依存したままだと、組織として「なぜそれをやるのか」の納得感が生まれず、みんなのモチベーションや当事者意識が下がってしまいます。
その結果、組織の活動として昇華できず、継続的に力を発揮することが難しい状況でした。
この記事では、感覚頼りだったチケットの優先順位付けに 3軸評価を導入し組織的な仕組みへ移行した内容を紹介したいと思います。
判断軸
優先度を判断するときの軸と計算式を、共通ルールとして先に決めました。ただし、この式は正しい順位を自動で出すためのものではありません。意見が分かれたときに、「どの軸の見立てが違うのか」を話し合うための土台です。使い方は後ほど説明するとして、まずは3つの軸を紹介します。
3つの軸
| 軸 | 見るもの |
|---|---|
| インパクト | 解決されると、組織の価値、システムの安定、メンバーの負担軽減にどれだけつながるか |
| 手軽さ | どれだけ少ないリソース(時間・人数・調整コスト)で終わるか。難易度の裏返し |
| 緊急度 | 時間的な猶予。今すぐ向き合うべきか、後回しでよいか |
この3軸は、一般的なフレームワークであるアイゼンハワーマトリクスの「重要度・緊急度」と、プロダクトマネジメント等で使われるICEスコアリング(Impact, Confidence, Ease)を参考にしています。ただし、そのまま組み合わせたものではありません。ICEの Confidence は使わないなど、組織の技術課題を並べる用途に合わせて独自に調整しました。
💡 「手軽さ」の定義についての補足
ここで手軽さを「難易度が低い」ではなく「少ないリソースで終わる」としているのは、技術的に難しくなくても「調整が重い仕事」があるためです。たとえば、他部署の合意が必要なものは、たとえコードの変更が小さくても「手軽」とは言えません。
フィボナッチ数列と、言葉の物差し
評価値は 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21 です。
1〜10 の連続値だと、「これは 6 か 7 か……いや、どっちでもよくない?」という細かい差で時間が溶けます。その点、フィボナッチ数列のように数字が飛び飛びであれば、「次は 8 か、それとも思い切って 13 か」と、メリハリをつけてスパッと選び取ることができます。さらに、値の間隔が広がることで総合スコアが同点になりにくく、順位がきれいにバラけるというメリットもあります。
加えて数字だけだと、同じ「8」でも人によって中身が違います。各軸に言葉の物差しをセットで置きました。
インパクト
- 21:組織全体、または全システムの生産性が劇的に上がる
- 13:複数チームが恩恵を受ける。または、日常の強い苦痛や泥臭い手作業がゼロになる
- 8:特定の作業の課題や、頻発するストレスが解消される
- 5:一部の作業がそこそこ楽になる
- 3:限定的な効率化、または間接的な効果にとどまる
- 2:やらないよりはマシ
- 1:あってもなくても変わらない
手軽さ
- 21:1〜2時間、あるいは1日で終わる
- 13:2〜3日あれば1人で完結する
- 8:まとまった時間があれば、1〜2週間で終わる
- 5:少し事前調査が必要、または丸2週間ほどかかる
- 3:複数人の作業が必要、または1ヶ月程度かかる
- 2:関連チームとの複雑な調整が必要、または数ヶ月要する
- 1:影響範囲が広すぎる、または他部署との合意形成が必要
緊急度
- 21:今すぐやらないと、来月には運用が破綻する、または重大なリスクがある
- 13:直近(今月中など)には着手したい
- 8:今期中にはやっておきたい
- 5:年内くらいにはやっておきたい
- 3:余裕があるときにやればよい
- 2:状況が変われば、必要なくなるかもしれない
- 1:いつやってもいい
優先度スコアの式
インパクトと手軽さは足します。価値が高く、かつ手軽なものを、そのまま大きくするためです。緊急度は掛けます。猶予がないものほど、全体を引き上げるためです。
掛け算が Quick Win を沈める
この式の弱点は、緊急度が 1 や 2 のときに出ます。インパクトと手軽さが高くても、掛け算の結果が小さくなり、やればすぐ効果があるかつ高いものが下に沈みます。
たとえば、インパクト 13、手軽さ 13、緊急度 2 のチケットは、素のスコアが (13 + 13) × 2 = 52 です。中くらいの効果で、今月中に着手したいチケット(インパクト 5、手軽さ 8、緊急度 13)は (5 + 8) × 13 = 169 です。52 と 169 では、ドキュメント整備のような Quick Win は議論の土俵に上がりません。体感とずれます。
そのため例外ルールを1つだけ追加しました。
21 はフィボナッチ数列上の値で、13 と 8 の組み合わせがちょうど届く線です。両方そこそこ高いものだけを救済します。
+150 は、緊急度 8〜13 の普通のタスクと並ぶところまで底上げするための値です。上の例なら 52 + 150 = 202 になり、169 の「そこそこ緊急」を上回ります。一方、今すぐやらないと破綻する仕事(インパクト 21、手軽さ 3、緊急度 21)は (21 + 3) × 21 = 504 のままです。加点は Quick Win を検討順に戻すもので、本当に緊急な仕事を追い越しません。
| チケット | インパクト | 手軽さ | 緊急度 | 基本スコア | 加点 | 総合 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A: 障害頻出箇所の自動復旧(重くて超緊急) | 21 | 3 | 21 | 504 | 0 | 504 |
| B: 神ドキュメント作成(簡単・高効果、でも非緊急) | 13 | 13 | 2 | 52 | +150 | 202 |
| C: 本番環境のマイナーアプデ(中効果・そこそこ緊急) | 5 | 8 | 13 | 169 | 0 | 169 |
チケットB は 13 + 13 = 26 で条件を満たすので 202 点です。A が最優先のまま、B は C より上で比較できます。
数式は議論の出発点
このスコアだけで順位は確定しません。並べたあとに、人が順位を動かしてよい、という前提です。
使い方は次のとおりです。
- まず仮置きする:チケットを3軸それぞれの数字(フィボナッチ)で評価してみる
- 機械的に並べる:数式と加点ルールに従って、まずは自動でリストを並べる
- 微調整する:並びを見て「違和感があるな」という部分だけ、運営メンバー全員で議論して軸の数値を直す(あるいは順位を微調整する)
- 現場の意見を反映:現場が先にやってほしいものは、その理由を残して順位を動かす
ここで重要なのは、会話が変わるのは3の場面だということです。
「なんとなくこっちを先にしたい」という感情的な議論ではなく、「このチケットの手軽さを 8 と見ているけど、実際は他部署の調整が入るから 3 ではないか?」といったように、「意見の違いが、結論ではなく前提(軸の数値)に降りてくる」 ようになります。
また、あえて4(順位の例外的な入れ替え)を残しているのは、数式は現場の事情をすべて拾いきれないからです。
実際に導入してみて
実際にこの仕組みを導入してみたところ、感覚だけに頼っていた時と比べて、チケットの優先順位づけに悩む時間が減り、意思決定のスピードが明らかに早くなりました。
判断の軸や共通の物差しがあることで、運営内で話すときの「認識のズレ」も少なくなったと感じています。一方で、運営側だけで決め切るのではなく、現場のリアルな意見を適宜ヒアリングしてすり合わせることの重要性も改めて実感しました。運営と現場の視点を行き来しながら調整するプロセスこそが、うまく回すための大切なポイントだと感じています。
最後に
個人に依存した状態から脱却し、組織的な仕組みへ移行できたことは、大きな前進でした。
まだまだ多くの課題がある状態ではありますが、組織のカラーや独自の風土に合わせながら、メンバーのモチベーションを上手に引き出せるような運営の工夫やアプローチを模索し続けたいと思います。
この経験が、どこかの現場の小さなヒントになれば嬉しいです。

