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Physics Lab.Advent Calendar 2024

Day 8

生物物理班紹介

Last updated at Posted at 2024-12-07

挨拶

初めまして。Physics Lab. 2025の暫定的生物物理班班長です。理学部物理学科の3年生です。
生物物理の自主ゼミをしたいと2年生の頃から言っていたおかげか、2年ぶりに生物物理班が復活しました。今まで紹介があった班に比べてマイナーな班かも知れませんが、今まで知らなかった方に対しても、本記事を通して魅力を伝えられたら幸いです。
以下では、大きく分けて、
(1). 生物物理学とは
(2). Physics Lab.での活動
について述べます。

生物物理学とは

生物物理では、特定の理論を学ぶというよりも物理を使って生物に関わる現象をモデル化し新たな知見を得ることに主眼がおかれます。
それゆえ、
① 扱う対象/方法が共に多岐に渡る
② 物理だけではなく、対象についての生物化学的現象も知る必要がある
というような特徴があります。
それぞれの点について見ていきましょう。

① 扱う対象/方法が共に多岐に渡る
扱う対象はタンパク質分子、分子間の相互作用、細胞内の化学反応、細胞の構造、形態形成(遺伝子によってどのような表現形になるか)、微生物の集団的な振る舞いなど(そしてまだ対象とされていないものもうまくモデル化できれば対象になりうる) が考えられます。
使う物理(理論的背景)は多岐に渡り、挙動を見るためにシミュレーションを使うことも多いです。例を挙げると、剛体棒からなる鎖でタンパク質(アミノ酸がペプチド結合してできている) をモデル化して、実際のデータとの整合性を調べる研究や、ギブスエネルギーと電子授受の観点から熱水噴出孔微生物の生存を議論する研究があります。(もちろん、全く異なる数学・物理を使うこともあります。) より具体的な例としては、4日目に統計物理班紹介^1 、7日目に計算物理班紹介^2で取り上げられた2024年ノーベル物理学賞は学習・記憶という生命的事象を物理のモデルを使って記述しようとした営みであるので、生物物理にも分類されえます。1

② 物理だけではなく、対象についての生物化学的現象も知る必要がある
確かに物理以外の知識も必要ではあります。
しかし、例えば、生物についての知識を網羅していなければ生物物理を勉強できないというわけではありません。最低限、知りたいと思った事象さえ知っていればいいわけです。例えば、分子モーターを熱力学的に扱いたいならその分子モーターがどういう環境にあって、どういう機能を持っていて、どういうふうに動くのかをわかっていればとりあえず十分そうです。もし、特定の問題を考えたいのではなく、生物物理ってどういうことをするのだろう?と思って概説的な本を読むならば、生物化学的現象に関する知識は、多くの場合説明が与えられています。不足していても、気になった点をその都度調べれば分かる程度です。

生物物理学紹介 まとめ

生物に関する現象について興味を持っていたり、隠れた法則性があるのではないかと疑ってみたりした方にとっては、まさにこれ!というような分野です。
一方で生物にあまり触れてこなかった方からすれば、物理以外の事前知識を必要とし、取っ付き難くニッチな分野と思われるかもしれません。しかし、「従来の物理では扱われてこなかった対象について、既存の知見と組み合わせてモデル化し新たな知識を得る」という生物物理の枠組み自体は生物を超え、例えば経済や都市計画、社会科学のような対象にも応用しえます。2その点において、生物物理に触れてみるメリットは、元々生物に興味がなかった方にとってもあると思います。

Physics Lab.での活動

他の班と同様に現在は自主ゼミを行っています。
今、自主ゼミで扱われている本・扱われる予定の本について軽く紹介します。

  • 『生物物理学』鳥谷部 祥一
    構成として、まず反応速度論・非平衡統計力学+情報・ソフトマターなど網羅的な内容がまとめられていて、その後に生物への応用的な内容が載っています。全体的に物理以外のバックグラウンドの方にも読みやすいと思います。しかし、逆に言えば、背景の物理の解説が少なかったり、式が与えられるだけのこともあり、自主ゼミの中ではそこを掘り下げることもあります。本郷と駒場でそれぞれ自主ゼミを開講していて、特に駒場の方では様々な学科の人がいて議論も活発なようです。
  • 『非平衡統計力学 ―ゆらぎの熱力学から情報熱力学まで―』沙川 貴大
    1細胞レベルの系は非平衡統計力学で扱われることがしばしばあります。そこで非平衡統計力学に入門しようというモチベーションの下、入手しやすさ・評判の良さを考慮して沙川先生の本で非平衡統計力学を学んでいます。自主ゼミでは、現在、第3章のゆらぎの熱力学が終わりに差し掛かっており、参加者の興味次第ではより生物への応用に焦点を当てたゼミに移行する予定です。
  • 『細胞のメカニクス(第2版)』 David Boal (著),鈴木 宏明 (訳)
    あるいは原著の『Mechanics of the cell』
    今、B2の方が企画中でまさに12/8に顔合わせ予定の自主ゼミです。第II部「膜」を中心に扱うとのことです。膜の波打ち(Membrane undulations)の章で、曲がった空間の数学的取り扱いに触れられていて面白そうです。
    また、『細胞のメカニクス』で初歩的な内容に触れたら、
    『コロイドの物理学: 表面・界面・膜面の熱統計力学』S.A.サフラン (著), 好村 滋行 (訳)に移行する予定だそうです。

五月祭での活動は正直あまりまだ考えられていません。
しかし、個人の意見になりますが、生物物理班での普段の活動を通じて、私含む班員が興味を広げ深めることが大事だと思っています。その結果として、生物物理の魅力をお届けできるような展示を作り上げることができたらいいなと思っています。

最後に

今回は、他の記事に時間を割きすぎたり、そもそも私の力量不足もあって、あまり多くの範囲を扱えませんでしたが、もし生物物理に興味を持っていただけたら幸いです。
Physics Lab.の記事は今後も次々と投稿される予定です。是非お楽しみください。

  1. この解説を書くか悩みましたが他の方が言及してくださったので、この裏の記事の一つでは、代わりに「膜の等価回路モデル」を紹介しています。

  2. 実際、社会を物理を使って考える分野として、「社会物理学」があります。例えば、今夏話題になっていた贈与をモデル化した論文(プレスリリース:^3)の一著者である金子邦彦氏は生物物理学で表現型のゆらぎと進化について扱った方としても知られています。

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