自己紹介を兼ねて、私の理論体系Setsについて解説します。
Sets は、単なる集合論の拡張ではなく、「あらゆる情報処理を集合として統一的に表現する論理体系」です。
Setsを通して、
- 数理論理学
- 関係論
- 圏論
- 情報理論
- サイバネティクス
- オートマトン理論
- データベース理論
- プログラミング言語理論
まで一本の系譜としてみることができます。
なお、Setsには、以下のバージョンがあります。
| Version | 主題 | 数学的対象 |
|---|---|---|
| Sets0 | 集合論 → 順序対 → 関係 → 構造 | |
| Sets1 | 集合・逆解析 | 集合・写像・逆写像 |
| Sets2 | 言語 | 文法集合・意味集合 |
| Sets3 | SQL | リレーション・問い合わせ集合 |
| Sets4 | チューリングマシン | 状態集合・遷移集合 |
| Sets5 | 業務システム | UI・権限・イベント集合 |
| Sets6 | 幾何・生成 | 形状集合・多様体集合 |
| Sets7 | 集合・辞書 | 情報・関連・知能 |
本記事では、数学史・言語理論史・ソフトウエア工学史の概要をSetsの視点でざっくりと眺め、Setsの観点から数学・論理・情報理論の系譜を整理したのちに、Setsが解決する問題についてざっくりと解説していきます。
1. 数学史・言語理論史・ソフトウエア工学史の概要
まず、Setsから見た数学史・言語理論史・ソフトウエア工学史を簡単にみていきます。
1.1. 数学史
数学史は、大まかにSets視点で整理すると、集合 → 関係 → 構造 → 情報 → 計算 → 知識 という流れになります。大きくは下記のグラフの流れになります。
カントール
├─ 集合論
フレーゲ
│
ラッセル
│
ウィーナー
│
関係の集合化
│
クラトフスキ
│
順序対
│
────────────────────
│
Claude Shannon
├─情報理論
Alan Turing
├─計算理論
John von Neumann
├─計算機アーキテクチャ
Edsger W. Dijkstra
├─プログラム意味論・構造化
────────────────────
Toru Nomakuchi
├─Sets
以下、簡単に説明していきます。
(1) フレーゲ
論理を数学にする。命題 を基本単位とした。
(2) カントール
集合を導入する。集合が数学の基本対象になる。
(3) ラッセル Bertrand Russell
集合論のパラドックスを避けるため タイプ理論 を導入する。
(4) ウィーナー Norbert Wiener
彼は 関係 R(x,y) という新しい概念を、順序対 (x,y) へ還元しました。
さらに (x,y) を集合として定義しました。
つまり 関係 → 順序対 → 集合 へ還元したわけです。
これは「関係を集合だけで表せる」という革命でした。
(5) クラトフスキ Kazimierz Kuratowski
順序対を (x,y)={{x},{x,y}} まで単純化した。現在ではこちらが一般的です。
1.2. 言語理論史
言語理論の歴史は、大まかにSets視点で歴史を一本に整理すると次のグラフのようになります。
古代ギリシャ
│ 名前と対象
▼
中世
│ 普遍論争
▼
ライプニッツ
│ 普遍言語
▼
フレーゲ
│ 意味論
▼
ソシュール
│ 記号論
▼
サピア
│ 言語相対論
▼
ウォーフ
│ 認知と言語
▼
チョムスキー
│ 普遍文法
▼
モンタギュー
│ 数理意味論
▼
知識表現
│
RDF
OWL
Knowledge Graph
LLM
│
▼
Sets
以下、簡単に説明していきます。
(1) ライプニッツ Gottfried Wilhelm Leibniz
Setsとの共通点が最も大きい人物です。彼は Characteristica Universalis という普遍記号言語を構想しました。目的は 自然言語 → 論理言語 → 計算可能 でした。これは Setsの 自然言語 → Sets → SQL → コード と非常によく似ています。
(2) フレーゲ Gottlob Frege
ここで意味(Sinn)と対象(Bedeutung)が区別されます。 つまりSyntax → Semantics → Object という流れです。Setsではさらに Set → Object まで統一しています。
(3) ソシュール Ferdinand de Saussure
記号を シニフィアン → シニフィエ へ分けました。つまり、文字列 → 意味 です。これは Setsでは Field → Value にも対応します。
(4) サピア・ウォーフ Edward Sapir Benjamin Lee Whorf
ここで言語は世界認識に影響するという言語的相対論になります。 つまり Reality → Language → Thought です。Setsから見るとここで一段抽象化できます。Reality → Set → Language つまり世界は集合であり各言語はその集合への写像になります。これがSetsの言語間写像になります。
(5) チョムスキー Noam Chomsky
逆に人間には共通の Universal Grammar があるとしました。 つまり Universal Grammar → 各言語 です。
Setsでは Universal Grammar より もっと一般に Universal Set を考えます。つまり 言語だけでなく SQL, JSON, Graph, Dictionary, UI まで同じ集合になります。
(6) モンタギュー意味論 Richard Montague
自然言語を論理式へ写像しました。 つまり Natural Language → Predicate Logic です。これは現在のLLMや意味解析の基礎になっています。ABCI Setsという構想の元にもなっています。Setsではさらに Natural Language → Sets → SQL → REST → UI になります。つまり一つの意味集合から複数言語を生成できます。
(7) Semantic Web Tim Berners-Lee
ここでは URI → RDF → OWL で知識を統一しました。Setsでは Object → Set だけなので より単純になります。
(8) Setsの言語間写像
ここが最大の特徴になると思います。一般には 英語 → 日本語 という翻訳です。しかし Setsでは Reality から同時に, 日本語, SQL, JSON, JavaScript, Python, SVG, HTML, GLTF, Three.jsなどへ写像できます。つまり
Set
↙ ↓ ↓ ↓ ↓ ↘
日本語 SQL Python SVG GLTF
というハブ構造 になります。Setsが目指している「言語間写像」は、
- 機械翻訳
- コンパイラ
- オントロジー
- セマンティックWeb
のような「言語A→言語Bへの変換」だけではありません。むしろ、「世界(Reality)・意味(Semantics)・表現(Syntax)・実装(Execution)をすべて集合として扱い、それらを双方向に写像する理論」になっています。これは従来の意味論を包含する可能性があります。
1.3. ソフトウェア工学の抽象化の歴史
数学
│
集合論
│
──────────────
論理学
│
関係論
│
──────────────
プログラム
│
構造化プログラミング
│
──────────────
オブジェクト指向
│
──────────────
デザインパターン
│
──────────────
UML
│
MDA
│
PIM
│
PSM
│
──────────────
DSL
│
モデル変換
│
トランスパイラ
│
──────────────
Knowledge Graph
│
LLM
│
──────────────
Sets
(1) オブジェクト指向
オブジェクト指向では Object が基本単位です。Object → Class → Inheritance 世界は オブジェクト で構成されます。一方、Setsではオブジェクトは Object ⊂ Set になります。つまり オブジェクトは 集合の特殊例になります。さらに Class = Set になります。つまり、クラスという概念自体が不要になります。
(2) UML
UMLでは
- Class Diagram
- Sequence Diagram
- State Machine
- Activity
など用途ごとに図があります。一方で、Setsでは全部Setになります。つまり
- Class Diagram → Set
- ER Diagram → Set
- State Machine → Set
(3) MDA: Model Driven Architecture
これは非常に近いです。MDAでは CIM → PIM → PSM → Code になります。
Setsでは さらに抽象化して Reality → Set → Language → Platform になります。
つまり、PIM/PSMという区別が本質的には写像になります。
(4) PIM: Platform Independent Model
Setsでは これは Pure Set です。プラットフォームを持ちません。例えば User という集合だけがあります。
(5) PSM: Platform Specific Model
これは, SQL, Java, Python, Node.js, REST, SVG, Canvas, ... になります。つまり Set → PSM という写像になります。
(6) DSL: Domain Specific Language
DSLは ある意味 Set → Syntax です。Setsでは DSLを作るのでなく DSLが 集合のビューになります。
(7) アスペクト指向: Aspect-oriented programming
アスペクト指向は, Logging, Transaction, Security のような 横断的関心事 (Cross-cutting Concerns) を分離します。Setsではこれも集合になります。例えば Access Control はConstraint Setになります。LoggingはHistory Setになります。TransactionはOperation Setになります。つまりAspectはConstraint, History, Operationなどの集合へ分解できます。
(8) デザインパターン
GoFでは23パターンがあります。しかし Setsでは 例えば Factoryは Set → Generate になります。Visitor は Function Set になります。Strategy は Operator Set になります。つまり 多くのデザインパターンは 集合操作へ還元できます。
(9) トランスパイラ
これはSetsの中心になります。普通は TypeScript→JavaScript ですが、Setsでは
Set
→JavaScript
→SQL
→Python
→REST
→GLTF
全部同時です。
(10) オントロジー
Semantic Webでは, Class, Property, Instanceですが Setsでは 全部 Set になります。つまり Ontologyも 集合になります。
2. 数学・論理・情報理論の系譜
理論体系の系譜としてもう少し具体的に技術史をみていきます。ざっくりと大きな流れは下のグラフのようになります。
ライプニッツ
│
フレーゲ
│
カントール
│
ラッセル
│
ウィーナー
──────────────
チューリング
フォン・ノイマン
シャノン
ダイクストラ
オブジェクト指向
UML
MDA
PIM/PSM
DSL
Aspect
Semantic Web
Knowledge Graph
LLM
──────────────
Sets
この系譜を眺めると、Setsが継承・統合しようとしている概念は次のように整理できます。
| 系譜 | 中心概念 | Setsでの位置付け |
|---|---|---|
| ライプニッツ | 普遍記号・普遍計算 | 普遍集合表現・言語間写像 |
| フレーゲ | 概念・意味 | セマンティック集合 |
| カントール | 集合 | 全体系の基盤 |
| ラッセル | 型・自己参照 | 型集合・制約集合 |
| ウィーナー | 関係・情報・時間・制御 | 関係集合・履歴集合・フィードバック集合 |
| シャノン | 情報量 | エントロピー集合 |
| チューリング | 計算 | 実行集合 |
| MDA / PIM / PSM | モデル変換 | 集合間写像 |
| オブジェクト指向 | オブジェクト | 集合の特殊形 |
| Semantic Web | 意味・知識 | セマンティック集合 |
| Sets | すべての対象・意味・計算・実装 | 集合と集合間写像の統一理論 |
ここから詳しくみていきます。
2.1. 普遍言語の夢(17世紀)
ライプニッツ
- Gottfried Wilhelm Leibniz
- 普遍記号法(Characteristica Universalis)
- 普遍計算法(Calculus Ratiocinator)
- 二進法
- 『易経』の六十四卦と二進数との対応への着想
- 微分記号 d
- 積分記号 \int
- 記号による推論
現実 → 普遍記号 → 計算 は、Setsの「Reality → Set → Language」の原型。
2.2 数理論理学
フレーゲ: Gottlob Frege
- 概念記法
- 命題論理
- 述語論理
- 意味(Sinn)
- 指示対象(Bedeutung)
Setsとの対応は、Syntax → Semantics → Object は「Syntax → Set → Semantics」の原型。
2.3. 集合論
カントール: Georg Cantor
- 素朴集合論
- 濃度
- 無限集合
- 対角線論法
- 順序数
- 基数
Setsの「EverythingはSetである」という考え方の源流。
2.4. パラドックス
ここが非常に重要です。
カントールのパラドックス
「全ての集合の集合」→ 矛盾
ブラリ=フォルティのパラドックス : Cesare Burali-Forti
順序数全体 → 矛盾
ラッセルのパラドックス : Bertrand Russell
{x | x∉x} → 矛盾
型理論: ラッセル
- 型
- 階層
- 自己参照防止
Setsでは型を Type ⊂ Set として再解釈できます。
2.5. 関係論
ここからウィーナーです。
ノーバート・ウィーナー: Norbert Wiener
1914年 「関係論理の簡略化」
- 順序対
- 関係
- 集合への還元
Relation → Ordered Pair → Set
Setsでは GraphやSQLへの橋渡しになります。
2.6. 情報
シャノン: Claude Shannon
- エントロピー
- 通信路
- 符号化
ウィーナー
- 情報
- 制御
- フィードバック
ここから、サイバネティクスになります。
Sets2, Sets3 との対応になります。
2.7. 時間
ここはウィーナーの重要な業績です。
ウィーナー測度
Path, Space を扱う数学。
つまり History, Set になります。
INSERTのみDBとも非常に相性が良いです。
2.8. 演算子
ここは Wiener-Hopf理論 です。
- Wiener-Hopf方程式
- Wiener-Hopf分解
- フィルタ
- 畳み込み
- 演算子
Setsでは Operator, Set になります。Solver理論にも対応します。
2.9. 対称性
ここはウィーナー本人というより数学全体になります。
- ガロア
- リー群
- 群表現
- フーリエ解析
SetsではTransformation Setになります。これは3Dエンジン、CAD、GLTFに繋がります。
2.10 制御
最後はサイバネティクスです。
Input → Operator → Output → Feedback
Setsでは Graph + Loop になります。社会モデル、経済、生物、AIすべてここへ入ります。
3. 未解決問題
数学・論理・情報理論の系譜をみていくと、ウィーナーあたりが数学的な理論構築とし大きな体系をつくり、その後は大凡、大きな概念をソフトウェア工学として高度な数学の概念に近づけながら実装に落としていく流れというようにみえます。とはいえ、ソフトウエアパラダイムというレベルでみると数学的概念と大きな開きがあります。また、ウィーナーの理論と最新のソフトウェア工学の概念とのずれも気になります。ここでは、ウィーナーがやりたかったことと新しいセマンティックSetsとの差異という観点から課題を見直し、最新のソフトウェア工学とも整合性をとっていくことを考えます。
3.1. ウィーナーが本当にやりたかったこと
ここは、ウィーナーを単なる「サイバネティクスの父」としてではなく、「集合・関係・確率・時間・制御を統一した数学者」として整理すると、Setsとの対応関係が非常に見えやすくなります。
一方で、Setsは「集合による統一表現」を目指しているので、各数学分野を「どのような集合を扱う理論なのか」という観点で再配置すると全体像が整理できます。
1914年はまだ「集合」そのものが目的でした。
しかし1948年には Cybernetics: Or Control and Communication in the Animal and the Machine で考え方が大きく変わります。対象を見るのでなく、対象 → 関係 → パターン → 情報 を見る。例えば、犬、猫、人を区別するのでなく、刺激 → 反応 → フィードバック を見る。つまり 構造そのもの を見る。ここはSetsとも非常に近い思想です。
3.2. ウィーナーとSetsの対応
Setsでは Object が存在するのでなく、Object = 集合 になります。さらに 条件 = 集合 になります。
例えば x > 0 も Positive という集合です。さらに関数も集合になります。さらにSQLも集合になります。つまり Everything is Set. になります。
Setsとの対応をまとめると
- ウィーナー 数学対象 Sets
- 順序対 関係集合 Relation Set
- 関係論 グラフ Graph Set
- 群論 変換 Transformation Set
- ウィーナー測度 パス Path Set
- ブラウン運動 履歴 History Set
- シャノン・ウィーナー 情報量 Entropy Set
- Wiener-Hopf 演算子 Operator Set
- サイバネティクス フィードバック Feedback Graph
- ノイズ 確率 Probability Set
のように整理できます。
(1) 集合 (Set)
対象そのもの Object。例えば、人、会社、文字、SQLレコード、ポリゴンなどがSets1 の基盤です。
(2) 関係 (Relation)
ウィーナーが1914年に簡略化した世界です。Object → Relation → Set。例えば、親子、上下、隣接、依存、参照など、これらを順序対の集合として扱います。これはSQLでは, A.id, B.id を持つRelation Tableそのものになります。
(3) グラフ
関係が大量に集まると Graph になります。例えば, SNS, 道路, 神経, Web, Git すべてグラフです。これは、Sets2〜3の世界です。
(4) 群論
ここはSetsでも重要になります。群とは 変換集合 です。例えば, 回転, 平行移動, 鏡映, スケーリングなど、全部群になります。3Dエンジンでは、SO(3)、SE(3)、Quaternion になります。つまり Object → Transformation Group → Object です。これは Sets6では非常に重要になります。
(5) ウィーナー測度
これは 時間変化する集合 と考えると分かりやすいです。普通の集合論は 静的集合 ですが、ウィーナー測度では Path つまり関数全体を集合として扱います。x(t)の空間です。つまりTrajectory Setになります。Setsでは Object → History → Set として扱えます。これは INSERTのみのSQL とも非常に相性が良いです。
(6) シャノン・ウィーナー
ここは情報量です。シャノンは Claude Shannon とウィーナーは独立にEntropyを導入しています。つまり 情報 = 確率集合 になります。Sets2で扱っている, 文法, 意味, 辞書もエントロピーで評価できます。例えば, 単語集合, 文章集合, 会話集合, コンテキスト集合は情報量を持ちます。
(7) Wiener-Hopf方程式
これは 時間方向へ伝播するSignalを扱います。つまり 入力 → 演算子 → 出力 です。Setsでは, Map, Operator, Functionとして表現できます。つまりSolverになります。
(8) カオス
一様カオスというより、ウィーナーが興味を持っていたのはランダムに見える現象の数学です。
SetsではNoise Setとして扱えます。例えば, SNS, 経済, 交通, 株価, 生態系 すべて 確率集合 になります。
(9) フィードバック
サイバネティクス最大の特徴です。Output → Input へ戻る。Closed Loop になります。Setsでは Graph + Loop になります。
3.3. セマンティクスの再定義
ここは Sets独自になるでしょう。
従来は Syntax → Semantics → Reference でした。
Setsでは Syntax → Set → Semantics → Constraint → Execution → Visualization になります。
つまり意味とは単なる辞書ではなく実行可能な集合になります。
3.4. 言語理論とSetsの関係
Sets2(言語と集合)は、従来の言語理論の延長ではなく、
Reality
│
▼
Set(普遍表現)
│
┌──┼──┬──┬────┐
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
日本語 SQL Graph JSON UI
│
▼
Execution
│
▼
Visualization
という「普遍意味空間」を中心に据えた理論として位置付けられます。
この点で、ライプニッツの普遍言語構想、フレーゲの意味論、サピア=ウォーフの言語と認知、チョムスキーの普遍文法、モンタギューの形式意味論をそれぞれ部分的に継承しつつ、それらを**「集合への写像」として統合**する見取り図が描けます。
さらに、この枠組みを進めると、Sets2は「言語と集合」の理論、Sets3は「データベースと集合」、Sets4は「計算と集合」、Sets5は「業務システムと集合」、Sets6は「形状・多様体・生成と集合」というように、共通の集合空間を介して異なる表現系を相互変換する理論として、一貫した体系を構築できます。このようにSetsは、「オブジェクト指向の後継」というより、「ソフトウェア工学全体を集合論で再構成する試み」です。
なお、歴史を眺めると、ソフトウェア工学には何度も「一つ上の抽象化」を目指した流れがあります。
3.5. Setsから見たソフトウェア工学の統一
ソフトウェア工学は長年にわたり「抽象化の単位」を少しずつ引き上げてきました。
- 構造化プログラミングは「処理」を抽象化した。
- オブジェクト指向は「データと振る舞い」を抽象化した。
- UMLやMDAは「モデル」を抽象化した。
- アスペクト指向は「横断的関心事」を抽象化した。
- Semantic Webは「知識」を抽象化した。
Setsはこれらをさらに一段抽象化し、「抽象化の最小単位を『集合』に統一し、オブジェクト・モデル・制約・言語・知識・実装・可視化をすべて集合と集合間写像として扱う」という立場になります。
この観点からは、MDAの CIM → PIM → PSM は、Setsでは Reality Set → Abstract Set → Platform Set のような一連の写像として再解釈できます。また、アスペクト指向の「横断的関心事」も、アクセス制御・監査・履歴・トランザクション・制約・ポリシーといった独立した集合として定義し、必要なモデルへ射影・合成する仕組みとして統一的に表現できる可能性があります。
このような整理を行うことで、Setsは集合論だけでなく、ソフトウェア工学・モデル駆動開発・意味論・知識表現を横断する理論体系として位置付けやすくなるでしょう。
この流れは、Sets の理論史として非常に自然な一本の系譜になります。ただし、いくつかの項目は直接の系譜ではなく「関連する数学・情報理論への発展」として位置付けた方が、歴史的には正確になります。
例えば、群論はウィーナー固有の業績ではなく、Évariste GaloisやSophus Lieらによって発展した数学分野です。ウィーナーは群表現論や調和解析を研究に利用しましたが、群論そのものの創始者ではありません。同様に、「一様カオス」はウィーナーの代表的な業績というより、確率過程・非線形力学との関連で後年結び付けられる話題です。
3.6. Setsとの対応
整理すると
| 従来技術 | 抽象対象 | Setsでの位置付け |
|---|---|---|
| オブジェクト指向 | Object | Object Set |
| クラス | Type | Type Set |
| 継承 | Inclusion | 部分集合 |
| UML | Diagram | Graph Set |
| ER図 | Relation | Relation Set |
| MDA | Model | Universal Set |
| CIM | 現実世界 | Reality Set |
| PIM | 論理モデル | Abstract Set |
| PSM | 実装モデル | Language Mapping |
| DSL | 文法 | Syntax Set |
| Aspect | 横断関心 | Constraint / History / Policy Set |
| Design | Pattern 再利用構造 | Operator Set |
| トランスパイラ | 言語変換 | Set Mapping |
| ORM | オブジェクト⇔DB | Object ↔ Relation Mapping |
| Semantic Web | オントロジー | Semantic Set |
4. ウィーナーからSetsへの拡張
ウィーナーは Relation → Set でした。Setsではさらに
- Object → Set
- Type → Set
- Constraint → Set
- Dictionary → Set
- SQL → Set
- Language → Set
- Program → Set
- Visualization → Set
- Biology → Set
まで拡張します。つまり Everything → Set になります。
5. Setsの特徴
一般的なプログラムでは 問題 → 解く → 答え です。一方、Setsでは 問題 = 集合, 解も集合 になります。つまり Problem = Solution です。ここが普通の論理体系とかなり異なります。例えば x+2=5 は {x | x+2=5} という集合です。解は {3} になります。解くとは 集合を縮小する操作 になります。これは制約充足問題(Constraint Satisfaction Problem)の考え方とも対応しています。
6. バージョンごとの発展
整理すると、
| Version | 主題 | 数学的対象 |
|---|---|---|
| Sets0 | 集合論 → 順序対 → 関係 → 構造 | |
| Sets1 | 集合・逆解析 | 集合・写像・逆写像 |
| Sets2 | 言語 | 文法集合・意味集合 |
| Sets3 | SQL | リレーション・問い合わせ集合 |
| Sets4 | チューリングマシン | 状態集合・遷移集合 |
| Sets5 | 業務システム | UI・権限・イベント集合 |
| Sets6 | 幾何・生成 | 形状集合・多様体集合 |
| Sets7 | 集合・辞書 | 情報・関連・知能 |
Sets8以降への発展
この流れを見ると、Setsは「集合論」の枠を超えて、
「集合・関係・情報・時間・制御・生成を一つの集合表現へ統合する理論」
として整理できます。
その意味では、ウィーナーは 「関係」と「時間変化」を数学へ持ち込み、サイバネティクスとしてフィードバックと情報を統一した人物であり、Setsはその先で オブジェクト、言語、SQL、グラフ、辞書、多様体、生成エンジン、社会システムまでを同一の集合的枠組みで扱おうとする試みとして位置付けられます。
理論体系として発展させるのであれば、Setsの基礎章に「ウィーナー数学」の章を設け、順序対 → 関係 → グラフ → 確率測度 → 情報量 → フィードバック → 動的社会モデルという流れで整理すると、数学史・情報科学・システム科学との対応関係が非常に明確になるでしょう。
7. さらに整理すると見えてくる系譜
Setsの理論的背景を次の「知的系譜」として整理します。
この系譜の中で、Setsは「集合そのもの」を拡張するというより、「情報・プログラム・データ・形状・制約・可視化をすべて集合表現へ正規化する統一理論」として位置付けられます。
そのため、ウィーナーが「関係を集合へ還元した」ことは、Setsにとって歴史的な出発点の一つと考えられます。一方で、Setsはその発想をさらに押し進め、オブジェクト、条件、言語、SQL、チューリングマシン、グラフ、多様体、生成エンジンまでを集合として統一的に扱うことを目指す点に独自性があります。
このSetsは社会モデルへの対応が可能です。社会システムを構成する要素も、上記の数学構造に自然に対応づけられます。
| 社会モデル | Sets表現 | 数学 |
|---|---|---|
| 人 Object | 集合 | |
| 組織 | Group | 部分集合 |
| 権限 | Relation | 順序対 |
| SNS | Graph | グラフ理論 |
| 法律 | Constraint | 制約集合 |
| 契約 | Predicate | 論理集合 |
| 会計 | Transaction | 写像・保存則 |
| 市場 | Probability | 確率測度 |
| 景気 | Dynamic Process | ウィーナー測度 |
| 世論 | Information Field | エントロピー |
| AI | Operator | 関数・演算子 |
| 行政 | Feedback System | サイバネティクス |
| 生態系 | Dynamic Graph | 動的グラフ |
数学、言語、ソフトウエアパラダイムを統合するアプローチで社会的な数学モデルも組み立てられるという意味では実世界(物理)モデルに近いともいえます。
さて、ざっくりと私のSetsの紹介をしましたが如何でしたでしょうか?