はじめに
「AI で資料を作る」と聞くと、Claude にスライドの下書きを書かせる、ChatGPT に章立てを相談する、といったあたりを思い浮かべる方が多いと思います。
そうしたなかで、自分でもいろいろなやり方を試してきましたが、いま手応えを感じているのは、目的が決まる前から AI と一緒に考え始める やり方です。本記事ではそれを「AI ネイティブな資料作成」と呼んで、自分の実践として共有します。
中心にあるのは1つだけです。
人の集中点を明確にする。
具体的には、人がやるべきことを「目的を磨く」と「最終判断」の2点に絞り、残りは AI に渡せるよう作業順序を組み直す。
見直しの最中も「この資料で何を起こそうとしているのか」を忘れない。そのための装置として、AI ネイティブな作り方は機能します。
これは資料作成という現場の話を借りて、AI 時代に人の役割がどう変わるかを書く記事でもあります。
「資料」にも種類がある
本題に入る前に、ひとつ前置きを。「資料」と一括りに言いますが、目的によって作り方が変わります。
私の整理では、ざっくり次のように分けられると考えています。
| 種類 | 目的 | 構成 |
|---|---|---|
| 判断資料 | 読み手に意思決定や行動を取らせる | 結論を先に出し、それを支える理由・データを並べる |
| 情報提供資料 | 読み手に正確に伝える・理解させる | 網羅性・整理重視。順序立てて漏れなく載せる |
判断資料は「結論→理由→具体例」の流れで読み手を動かすのが基本です。ピラミッドプリンシプルのような技法は、後者(判断資料)の世界の話で、「伝える」のゴール ①理解 ②行動 のうち「②行動につなげる資料」のための方法論です。
本記事は「読み手にアクションを取ってもらう判断資料」に絞って書きます。私自身が主にコンサル会社でキャリアを積んできて、ずっとこの種類の資料と格闘してきたからです。
3 つの作り方を並べてみる
判断資料の作り方を、人と AI の関わりで分けると、3 つの型があります。
- ① 伝統的: 人が全工程を担う
- ② AI 補助型: 各ステップで AI に案出しを頼み、人が選ぶ
- ③ AI ネイティブ: 目的が決まる前から AI と対話して、人は両端に集中する
工程は伝統的には「目的を決める → メッセージを決める → 構成を決める → 情報収集 → 論理を組み直す → 仕上げる」の流れですが、この 6 ステップに対する人と AI の関わり方が、3 つの型でこう変わります。
①は全工程に人が出てきます。②も各ステップに人が顔を出します。③では、入り口(目的を立てる)と出口(最終判断)に人の役割が集中します。中間工程は AI が回します。
これが本記事で言いたいことの全部です。人がやるべきことが、「目的を磨く」と「最終判断」の 2 点に絞り込まれている。以下、ここに至った経緯と、私が今やっているやり方を書きます。
② AI 補助型 — 自分も今でもケースによっては使う
②から触れます。私自身、これも今でもケースによっては使っています。
目的は自分が決め、各工程で AI に下書きや案出しを頼んで、選んで磨く形です。素材集めも下書きも一気に速くなる。頭の使い方を変えずに AI を取り込めるので、入りやすい。本記事では便宜上、これを「AI 補助型」と呼んでいます。
③ AI ネイティブ — 作戦も AI に渡す
③が、最近の私のメインのやり方です。② との一番大きな違いは、各工程の「作戦」を誰が立てるか だと最近思っています。
② AI 補助型では、各工程の作戦は人が立て、それに従って AI が動きます。「こういう構成で書く」「こういう素材を集める」「こういう観点でレビューする」は人が決めて、実行を AI に渡す。思考の主導権は人にあり、AI は実行担当です。
③ AI ネイティブでは、作戦そのものも AI に渡します。「目的って何だろう?」「構成は何案ありえる?」「何を集めるべき?」「どの観点で見直すべき?」を AI に投げて、出てきたものを人が叩いて磨く。思考の主導権は AI 側に置き、人は判断・選択・修正に回る形です。
一番分かりやすいのは入り口の話です。クライアントから話を聞いた直後、整理する前のもやもやを、そのまま AI にぶつけます。
「こういう状況にあって、こういう違和感を感じている。これを解消するためには相手とどういうコミュニケーションを取るのが適切だと思う?」
AI から「こういう論点を整理する場が必要では」「こういう判断を求める形がフィットしそう」と返ってくる。それを叩く。違うと思ったら違うと言う。合っていれば「もう少し具体的に」と返す。何往復かするうちに、何を目的とするのが適切なのか が見えてきます。「あ、これは現状報告じゃなくて、判断を求める資料だ」「いや、その前に問題の合意形成が必要だ」と、目的が立ち上がってくる。
同じ動きを、構成・素材集め・見直しでも繰り返します。「作戦は AI、人が叩く」がフロー全体を貫く構造になっていて、これが ② との本質的な違いです。
結果として人の役割は、入り口の「目的を磨く」と出口の「最終判断」の 2 点に集中する。中間の作戦立案も AI に渡している分、その時間が両端に戻る、という構造になっています。
私のやり方(5 ステップ)
具体的にどう作っているかを、5 ステップに分けて書きます。各ステップで「人がやる」「AI に渡す」を並べて見せます。
① 目的を言語化する
- 人がやる: 目的を磨く(一番時間をかける)
- AI に渡す: 対話相手として、言語化の補助
ここに一番時間をかけます。AI と対話しながら、
- 誰に向けて作るのか
- 何を判断・行動してほしいのか
- 読み終わった瞬間に何が起きてほしいのか
を言葉にしていきます。自分の頭の中だけで考えていると、同じ言葉を反芻して終わることが多い。AI に喋り続けると、相手の問い返しで自分の前提が言語化されていく感覚があります。
② 素材を集める
- 人がやる: 集まったものを見て、足りない観点・件数を返す
- AI に渡す: 「何をどう集めるか」の設計から並列実行まで
目的が立ったら、それを支える素材を集める段階です。データ・事例・引用・関連する文献。
ここは「何を集めるか」を考える部分も含めて AI に渡します。目的を共有したうえで「裏付けに必要な素材を洗い出して、並列で集めて」と頼むと、論点ごとに必要な情報を AI が分解して動いてくれる。
集まったものを見て「この観点が薄い」「件数が足りない」と返すと、また並列で動いてくれる。素材集めはこの往復で組み上がっていきます。
③ 構成を組む
- 人がやる: 案の中から選ぶ
- AI に渡す: 構成案を複数提示
集まった素材を渡して、構成案を AI に 複数 出してもらいます。1案じゃなく3〜5案。
「3案出して、それぞれメリット・デメリットも併記して」と頼むと、自分は「どれを選ぶか」だけに集中できます。選択する役割は人に残す、というのがポイントです。
④ 多役で見直しを回す
- 人がやる: なし(品質チェックは⑤にまとめる)
- AI に渡す: 複数の役を演じての見直し
構成が固まったら、AI に 複数の役 を演じさせて見直しを回します。
- 批評家視点: 論理の穴はどこか
- 編集者視点: 文章の流れ・冗長さ
- 読者視点: 想定読者が読んだら何でつまずくか
- 反対意見の代弁者: この主張に反論するとしたら
これも並列で動かせます。見直しに使う時間が大幅に減ります。
⑤ 最終判断
- 人がやる: ④で出てきた見直し指摘の取捨選択 + 最終 OK
- AI に渡す: なし
ここだけ人がやります。
④で AI が複数の役で見直しを回すと、たくさんの指摘が返ってきます。批評家からは論理の弱いところ、読者目線ではつまずきポイント、反対派からは想定される反論。それぞれに対して「これは反映する」「これは却下する」と判断していくのが、ここの中心の作業です。
採用する指摘はそのまま AI に「反映して」と渡せます。却下する指摘も、なぜ却下するかを一言だけ言語化しておくと、次の見直しで同じ筋を蒸し返さずに済みます。
最後に通しで「これでいいか」を判断して、出す。
5 ステップを通してみると、人の役割が、入り口の「目的を磨く」と出口の「最終判断」の 2 点に集中している のが見えると思います。冒頭の図と同じ構造です。
具体例
最近、社内向けに業務クラウドサービスの導入可否を経営層に判断してもらうリスク評価資料を作りました。実際の流れを書いてみます。
スタート地点は、ふわっとしたところからでした。「親会社からこういう導入計画が来ている。日本側として何か出さなきゃいけない気がする」というところで、自分のなかで何も整理できていない状態。
整理する前に、AI に投げます。
「こういう話が来ている。日本側として、これに対して何を出すべきだと思う?」
返ってくるのは「現状の整理が必要では」「リスクを並べる資料が要るかも」「導入する場合の条件提示でもいいかも」みたいな選択肢。それを叩く。「いや、これは経営層に止めてもらわないとマズい状況だから、判断資料だ」と返す。何往復かして、「経営層に導入見送り判断を求める」というゴール が立ち上がります。
ゴールが立ったら、次は攻め方です。
「法務観点でいくか、実務観点 (UI 互換性、運用負荷) でいくか、リスクを全部並べて判断を委ねるか。どこから攻めるのが効くと思う?」
これも何案か出してもらって叩く。「法務リスクが決定打、実務リスクは並列で出して現場感を残す」という構成が固まりました。ここまでの目的・攻め方の対話で1時間くらい使っています。
ここから先は AI 主体に動きます。素材は AI に並列で集めさせます (関連する判例、運営会社の所在、データ保管場所、過去事例……)。
加えて今回は、実際にそのソフトウェアを PC にインストールして AI に操作してもらいました。規約やレビュー記事だけでは見えない、UI の使い勝手や互換性、動作の癖のようなものを、AI に実機で拾い上げてもらう。スクリーンショットも一緒に残しておけば、そのまま資料に貼る素材にもなります。
そこから構成案を 3 つ出してもらって選ぶ。多役で見直しを回す (法務目線・経営層目線・反対派目線・過剰表現チェック)。
最後に自分が「これでいい」と判断する。全体で半日くらいで完成しました。
重要なのは、最初の対話の時間が、後の見直しで効いた ことです。「経営層に導入見送りの判断材料を構造的に出す」が目的だと最初に決まっているので、見直し中も軸がブレない。「この情報は判断に不要だから削ろう」「ここは決定打になる、強めよう」とすぐ判断できる。
逆に、目的の言語化を飛ばしてしまうと、AI は自信満々で網羅的な資料を作ってきますが、それは「事実を並べた情報資料」になりがちで、「経営層が判断できる資料」とは別物です。最初の対話に時間を投資した分が、後の数時間分の戻り作業を消してくれる感覚です。
つまづくポイント
このやり方をやってきて、繰り返しハマるポイントが3つあります。
- 目的が曖昧なまま走ると、AI が違う方向の網羅資料を作ってくる。これは ① うまくいくポイントの裏返しで、「目的を磨く」をサボった分だけ、後の戻り作業で何倍にも返ってきます
- 目的が途中で変わったときの逆伝播が漏れる。最初の軸を直したら、関連するメモ・台本・スライドタイトルすべてに反映させないと、後から噛み合わなくなる。AI に「全部直して」と渡せば多くは追従しますが、見落としが出るので最後は人が通しで確認する
- 最終判断のフェーズで、人が通しで検算する作業は残る。数値の整合性、ストーリーの一貫性、トーンの揃え方。AI が見直しを回した後でも、「全体として OK か」を見るのは人の役割として残ります
組織にどう効くか
ここまで個人の作業順序として書いてきましたが、この構造は組織のレベルで考えてみると、また別の意味を持ちます。
「人がやるべきことを目的を磨くことと最終判断の 2 点に集中させる」というのは、要するに 人の頭脳資源を、いちばん希少で代替できないところに集中させる ということです。
中間工程(素材集め、構成案出し、多役での見直し)は AI に渡せる。だとすると、
- 採用で見るべき能力は「目的を立てる力」と「判断する力」になる
- 評価制度も、中間工程の作業量ではなく、目的形成と最終判断の質で見るべきになる
- 組織のなかで AI に渡せる工程をどこに置くか、という設計判断が立ち上がる
特に効くと感じているのは、「目的形成」を任せられる人材の層の薄さ です。私が見てきた組織では、ミドル以上の時間が中間工程(資料の体裁を整える、関係者への確認を回す)に多く割かれていて、目的を磨く時間を確保しづらい場面がよくありました。AI に中間工程を渡せれば、その人たちの時間は本来の仕事 — 目的を立て、最終判断する — に戻ります。これが組織の判断スピードを変える本質だと、最近思っています。
ただし、ここには未解決の問題もあります。中間工程をこなしながら経験で「目的を立てる感覚」を獲得してきたジュニアにとって、その成長機会が消えるとどうなるか。目的を立てる人を、どう育てるか。10 年後に「目的を磨ける人」「最終判断できる人」が組織のなかで育っていく設計を、これから組み立てる必要があります。
現時点で試しているのは、AI と「目的を立てる対話」をジュニアにも経験させること、そして最終判断の前段に意図的に若手を入れて、判断の言語化を共有することです。これで育成パスが成り立つかは、これから検証していくところです。
おわりに
「AI で資料を作る」やり方はいくつもあります。下書きを書かせる、構成案を出させる、見直しを回させる。どれもよく使われていて、どれも効きます。
そのうえで、私が手応えを感じたのは、何を作るかが決まる前 から AI と一緒に考え始めるやり方でした。
結局のところ、言えるのは1つだけです。
人の集中点を明確にする。
具体的には、人がやるべきことを「目的を磨く」と「最終判断」の2点に絞り、残りは AI に渡せるよう作業順序を組み直す。
そのうえで、まだ自分の中で答えが出ていない問いが 1 つあります。目的を立てる人を、どう育てるか。中間工程の経験を通じてきた育成パスが変わるとき、次の世代をどう設計するか。同じ問いを抱えて設計を試している方と、考えを交換できたら嬉しいです。
