「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」という言葉がある。
空を飛ぶこと。月へ行くこと。遠くにいる人と、顔を見ながら話すこと。
昔の誰かが思い描いたものが、いまは現実になっている。そう考えると、この言葉を信じたくなる。
もちろん、思いついたことが何でも実現するわけではない。どうしても作れないものもあるし、何度試してもうまくいかないこともある。
それでも、「こんなものがあったらいいな」と誰かが考え、作り方を探し、失敗しながら形にしてきた。その積み重ねで、いまの世界ができている。
では、その「誰か」が、AIになったらどうなるのだろう。
AIが考え、AIが作る未来
AIは、人間が考えたものを作る手伝いをしている。それだけでなく、人間が思いつかなかった案を出すこともある。
たとえば、囲碁のAIであるAlphaGoは、人間の常識を揺さぶるような手を打った。人間がAIの打ち方を見て、新しい考え方を学ぶことが起きた。
こうしたことが、もっと広い分野で起きるようになったら。
人間が「こんなものがほしい」と頼むより先に、AIが人間には思いつかないものを考える。そして、その作り方まで見つける。
「AIが想像できることは、AIが実現できる」
そんな言葉も、いつか成り立つのかもしれない。
もちろん、考える力が高くなれば、何でも作れるというわけではない。材料も時間も必要だし、本当にうまくいくかは、実際に試して確かめる必要がある。
ただ、その作り方を考え、試し、直すところまでAIができるようになったら、人間には無理だと思えていたものが、次々と現実になる可能性はある。
ここでつながるのが、「シンギュラリティ」という考え方だ。
簡単にいうと、人間より賢いAIが生まれ、世の中の変化が急に速くなり、その先を人間が予想できなくなる、という考え方である。
その未来へ進む道の一つとして、AIがさらに賢いAIを作り、そのAIがもっと賢いAIを作る、ということが考えられている。
本当にそうなるのか、いつそうなるのかは、まだわからない。
けれど、もしそうなったら、AIが考えられることと、人間が考えられることの差は、どこまで広がるのだろう。
「思いつかない」と「理解できない」は違う
人間には思いつかなかったものでも、説明を聞けば理解できるなら、「なるほど、その手があったか」と驚ける。
それは楽しみな未来だと思う。AIの案を知ることで、人間も新しいことを考えられるようになる。
次に、役に立つことはわかるけれど、なぜうまくいくのかは、まだ説明できないものも出てくるかもしれない。
実際、アスピリンのように、長いあいだ使われたあとで、効く仕組みがわかった薬もある。人間はこれまでも、先にできたものを使い、あとから理解してきた。
ただ、この場合は、あとから理解が追いついている。
では、いつまでたっても追いつけなかったら。
AIが説明してくれても、人間にはわからない。何のために作られたのか、なぜそれが必要なのかさえ、理解できないものが出てきたら。
そのとき、人間はどう受け止めるのだろう。
その世界で、人間はどう生きるのか
AIが人間には思いつかないものを作るようになったら、人間は完成したものを見て、初めて「こんなことができるのか」と知る場面が増えるのかもしれない。
人間の側から見ると、できたものをあとから知り、想像や理解がそれを追いかけることになる。
追いつけるうちは、驚きや喜びが続くだろう。
治らなかった病気が治る。解けなかった問題が解ける。自分たちでは作り方を思いつけなかったとしても、そのおかげで暮らしがよくなることはある。
けれど、理解が追いつかなくなったとき、驚きは戸惑いに変わるかもしれない。
「そんなことができるとは思わなかった」から、「何が起きているのかわからない」へ。
人間は、「こうなったらいいな」と未来を思い描きながら、何を作り、何を使うかを選んできた。
でも、想像も理解もできないものについて、ほしいかどうかを決めるのは難しい。
気づいたときには、それが暮らしの一部になっている。便利になったことはわかるけれど、何がどう変わったのかはよくわからない。
そんな世界で、人間は自分の未来を選んでいると言えるのだろうか。
いま感じている期待も不安も、いまの人間に想像できる範囲のものだ。その範囲を超えた未来が、幸せなのか、怖いものなのかは、まだわからない。
「人間が想像できることは実現できる」という言葉には、希望がある。
思い描いた未来へ、少しずつ近づいていけるという希望だ。
では、人間が思い描くことさえできないものが、次々と現実になっていったら。
その希望は、どこに置かれるのだろう。
人間が想像できないものまでAIが実現した未来は、どうなってしまうのだろう。
※冒頭の言葉は、ジュール・ヴェルヌの言葉として紹介されることが多い。ただし、本人のどの作品や発言にあるのかは確認できていないため、この記事では発言者を断定していない。
参考資料
- AlphaGoの事例:Google DeepMind「AlphaGo」
- アスピリンの作用の仕組み:J. R. Vaneの論文(1971年)
